岐阜市の人気施設内に誕生した、岐阜の魅力をつなぐ拠点

風光明媚で歴史文化が息づく魅力的な街、岐阜県岐阜市。筆者も幾度となく訪れている大好きな街だ。

岐阜市は、東海エリアの「住みたい街ランキング」の上位に常にランクインするほど、住みやすさには定評がある。岐阜駅から名古屋駅まで電車で直通20分という好アクセスと適度な距離感、何より山や川などの豊かな自然に恵まれた住環境が魅力だろう。昨今の働き方の変化により、岐阜市への移住を考えている人も少なくない。

2021年にはメディアコスモス南側に「岐阜市役所新庁舎」が移転。さらに賑わいを見せるようになった。広場にはキッチンカーが最大10店舗出店するそうだ2021年にはメディアコスモス南側に「岐阜市役所新庁舎」が移転。さらに賑わいを見せるようになった。広場にはキッチンカーが最大10店舗出店するそうだ

そんな岐阜市内に約7年前、複合文化施設「みんなの森 ぎふメディアコスモス」(以下、メディアコスモス)が誕生した。

同施設には、市立中央図書館のほか、市民活動交流センター、多文化交流プラザ、展示ギャラリーなどが設置され、岐阜市内で最も人が集まる公共施設だ。コロナ前は年間100万人を超える人が訪れ、コロナ禍の今は少し減少しているが、現在も市内外から多くの人が訪れる人気スポットである。

そんなメディアコスモス1階に、2022年3月「シビックプライドプレイス」がオープン。

シビックプライドプレイスとはいったい何なのか。どんな目的で誕生したのか。岐阜市役所 市民協働推進部 ぎふメディアコスモス事業課を訪ね、同課企画係の見廣篤彦さんにお話を伺った。

「シビックプライドプレイス」誕生の経緯

最近「シビックプライド」という言葉をよく耳にするようになった。

シビックプライドとは「都市に対する市民の誇り」と定義される概念であり、地域をよりよい場所にするために自分自身が関わっているという当事者意識や自負心を育み行動することを指し、日本語の「郷土愛」とも少し違ったニュアンスを持つ。

メディアコスモスでは、「これまで長年にわたって積み重ねてきた歴史的な風土性や文化、先人たちの過去の記憶に敬意を払いながら、市民ひとりひとりがこれからも岐阜の地で楽しく豊かに暮らし続けていくための原動力となる、人々の誇り・思い・心意気のこと」と考えているそうだ。

メディアコスモスの正面エントランスを入るとすぐにある「シビックプライドプレイス」。繭(コクーン)のような2つのドーム状のブースが特徴的だ。ドームには金華山が描かれ、ドームを貫く流線形のカウンターは清流・長良川を表しているそうメディアコスモスの正面エントランスを入るとすぐにある「シビックプライドプレイス」。繭(コクーン)のような2つのドーム状のブースが特徴的だ。ドームには金華山が描かれ、ドームを貫く流線形のカウンターは清流・長良川を表しているそう

シビックプライドプレイスが誕生した経緯を、見廣さんに聞いた。

「メディアコスモスオープン当初から、市立図書館では『おとなの夜学』という講座を開催しています。知らなかった岐阜を知る、大人が集まるまなびの場。受講生の皆さんは”こんなに魅力的なものがたくさんあるんだ”と気づき、”岐阜市のよさをもっと知りたい”と感じてくださっているようです」

おとなの夜学は今年で7年目。既に40回を超える講座が行われている。20代から60代まで、幅広い年齢層の方が受講しているそうだ。

「このメディアコスモスという建物ができて、夜学の受講生をはじめ、市民の皆さんに岐阜市の魅力を知ってもらうきっかけになっていると思いますが、せっかくある魅力をまだ十分に伝えられていないと感じていました。もっと多くの人に知ってほしい。どうすれば効果的に伝えられるのか。それならば、たくさんの人が集まるこのメディアコスモスに”情報の窓”のようなものがつくれないかと、約2年前から『シビックプライドプレイス』の構想を練り始めました」

その後、シビックプライドプレイスの整備業務は、複数の事業者より企画を提案してもらうプロポーザル方式にて公募。

「岐阜市が掲げるシビックプライドプレイスの趣旨として、過去を知ったうえで現在を知り、そして未来につなげる。その一連の流れがシビックプライドの向上につながるのではないかという考えの下、企画内容の選定を行いました」と見廣さん。

岐阜の歴史・人・文化の魅力を集め、過去・現在・未来をつなぐ拠点「シビックプライドプレイス」はこうして誕生した。

「まち歩きステーション」でしか見つけられないスポットに出会えるかも

ここからはシビックプライドプレイスの内容を紹介しよう。エリア内には「まち歩きステーション」「ぎふ歴史ギャラリー」「岐阜な人カード」の大きく分けて3つの特徴的なコンテンツがある。

ほかにはない自分だけのMAPが完成! お店などのURLも記載されているので、公式ホームページの情報を確認することも可能ほかにはない自分だけのMAPが完成! お店などのURLも記載されているので、公式ホームページの情報を確認することも可能

「まち歩きステーション」では、一般的な観光案内ではない側面、例えば岐阜市に住んでいる人がおすすめしたい場所や、岐阜市に住んでいる人しか行かないような場所が紹介されている。小さな観光やニッチなまち歩きが楽しめるヒントがちりばめられているのだ。

自分でタッチパネルを操作するのだが、あえて“この場所のここに行きたい”というエリア検索ができないようになっている。ズラリと並んだ写真アイコンを感覚で選ぶのだ。好きなスポットをタップすると一覧となってストックされ、最後にはPDFのデータとして地図を持ち帰ることができるという。感覚で選んだからこそ、そこでしか知り得ない新たな出会いがある。

岐阜の過去を知り未来につなぐ「ぎふ歴史ギャラリー」

「思い出の1枚」からは今とは違う景色が見られる一方で、今と変わらぬ風景が垣間見える写真もある。大人にとっては懐かしい、子どもたちにとっては新しい写真の数々だ「思い出の1枚」からは今とは違う景色が見られる一方で、今と変わらぬ風景が垣間見える写真もある。大人にとっては懐かしい、子どもたちにとっては新しい写真の数々だ

「ぎふ歴史ギャラリー」には、古い地図や写真が登録されている。画面の地図上に立ったピンを押すと、江戸・明治・大正・昭和・平成といったさまざまな時代のその場所に由来する写真や資料が大画面で見られるのだ。現在の見慣れた景色も、時代が変わるとまったく違った場所に感じることもある。比較して気づくこともあるだろう。

さらに面白いのが、市民の思い出の写真を合わせて見られることだ。昨年、市民から「思い出の1枚」を募集し、思い出を添えて提供してもらった。現在50枚を超える写真がシステムに登録されているそうだ。

市役所や図書館に残る記録写真(資料写真)もいいが、家族写真ならではの自然な笑顔や、今とは違う建物や衣装などを見るのも楽しい。きっと話も盛り上がるだろう。

「思い出の1枚」からは今とは違う景色が見られる一方で、今と変わらぬ風景が垣間見える写真もある。大人にとっては懐かしい、子どもたちにとっては新しい写真の数々だ通常、時代の違う写真や資料は、写真集や文献などを何冊も用意しなければならないが、ぎふ歴史ギャラリーでは画面上で見比べることができる

ホットでユニークな活動をする人を紹介する「岐阜な人カード」

岐阜市内を拠点にホットでユニークな活動をする個性豊かな人たちを紹介する「岐阜な人カード」。現在活躍している人だけでなく、織田信長やギフチョウの発見者である昆虫研究家・名和靖氏など過去の偉人も紹介されており、どちらも同じように並んでいるのが面白い。

岐阜な人カードは、テイクフリーのしおり型のカード。過去の偉人と現在の岐阜な人を合わせて36名(2022年4月現在)で、今後も増える予定。カードに選ばれることは非常に名誉なことだと筆者は感じる。それくらいユニークな取り組みをしたいものだ岐阜な人カードは、テイクフリーのしおり型のカード。過去の偉人と現在の岐阜な人を合わせて36名(2022年4月現在)で、今後も増える予定。カードに選ばれることは非常に名誉なことだと筆者は感じる。それくらいユニークな取り組みをしたいものだ

現在活躍している「岐阜な人カード」には、顔写真と名前のみが記載され(過去の偉人カードには解説あり)、カードに表示されているQRコードを読み取るとシビックプライドプレイスのウェブサイト内「珍ちんな人(ちんちんなじん)」に飛ぶ仕組みだ。

「珍ちんな人」では、取り組んでいる活動紹介のほか、それぞれが思うシビックプライドについて語るなど、読み応えのある内容となっている。

ぜひプレイスとウェブを合わせて楽しんでほしい。ちなみに“ちんちんな”とは岐阜の方言で“あつあつ”という意味。また“人(ひと)”を、岐阜の人は「じん」と言う。

市民と一緒につくる、永遠に”未完成”な場所

シビックプライドプレイスは先述のとおり、市民の思い出の写真が見られたり、岐阜を盛り上げている珍ちんな人が紹介されたり、どのコンテンツにも市民のぬくもりや人間味、いい意味での手作り感が感じられる。画面やウェブサイトに記載されている内容にも愛があるのだ。

「記事は市の職員が書いたもの以外に、市民ライターさんに書いていただいたものもあります。実は昨年初めて、市民ライターを養成する『メディコス編集講座』を開きました。講座は座学だけでなくフィールドワークも行います。その修了生が、それぞれに市内のスポットを取材し記事にしているんです」と見廣さん。皆さん楽しみながら独自の目線で岐阜の魅力を伝えているそうだ。

続けてこう話す。「メディアコスモスを所管する市民協働推進部は、市民と一緒に何かを作り上げるのが基本の部署です。シビックプライドプレイスはオープンが完成ではなく、市民と一緒に集めて作り、そして一緒に思いを馳せる。永遠に未完成な場所なんです」

「どこコレ?@メディコス」と題したパネルには、付箋がペタペタと貼られている「どこコレ?@メディコス」と題したパネルには、付箋がペタペタと貼られている

市民が自分の目線で参加し発信するからこそ、よりシビックプライドを感じることができるのだろう。

「現在シビックプライドプレイスの一角で行っている『どこコレ?』は、パネルの真ん中に岐阜市内のとある場所の古い写真が貼られています。“どこコレ?”というタイトルから『ここは○○』と場所を書く人もいますが、“どこ”にこだわるのではなく、写真を見た感想やそこでの思い出に派生。今度は書かれている付箋に対してコメントが貼られていく。前回自分が書いた付箋に対して返信がきているケースもあり、付箋を介したコミュニケーションも生まれています。私たちが想像した以上に盛り上がっているんです」と見廣さんはうれしそうだ。

シビックプライドプレイスの未来

まだオープンして間もないシビックプライドプレイスだが、見廣さんに今後のシビックプライドプレイスのあり方や展望を聞いた。

「世代を超えた交流の場になってほしいと思っています。古い写真を高齢の方が見て懐かしむだけでなく、その横にいる子や孫、あるいは見知らぬ人に『おじいちゃんたちが子どもの頃はこうだったんだよ』という会話が生まれるといいですね。そうすることで子どもたちは自分事になると思うんです。単純に昔の写真を見るのではなく、知っている人が思い出を添えて語ってくれたら、そこから生まれる興味もまったく違うものになるでしょう。そんな語らいを生むきっかけの場所になってほしいと願っています」

さらに「メディコス編集講座の受講生をはじめ、市民の皆さんがもっと自発的に何かできるようになってほしい」と見廣さんは話す。

「そのためにも、われわれは市民が参加できる仕組みづくりをしていかなければなりません。メディアコスモスやシビックプライドプレイスを通じて何か始めようと思ってもらった際には、サポートできる体制をしっかり整えていきたいですね」

2階市立図書館の一角には「シビックプライドライブラリー」が以前からあった。岐阜を知り、楽しく豊かに過ごすためのヒントになる本が集められている。こちらも必見だ2階市立図書館の一角には「シビックプライドライブラリー」が以前からあった。岐阜を知り、楽しく豊かに過ごすためのヒントになる本が集められている。こちらも必見だ

シビックプライドプレイスでは、岐阜の人しか知らない岐阜、岐阜の人でも知らない岐阜に出会える。情報誌や検索では得られない情報、そして何より“岐阜愛”が詰まっていた。

市民がシビックプライドを育む拠点として、またニッチな情報を知りたい観光客への新たなアプローチとして、新名所「シビックプライドプレイス」は始まったばかり。永遠の未完成・シビックプライドプレイスが、今後どのように進化していくのかとても楽しみだ。

こんな施設が各地にできると、日本人の自分の街へのアイデンティティは高まるだろう。市民のみならず、すべての人にとって“自分のシビックプライド”について考えるきっかけになる場所ではないだろうか。ぜひ一度訪れてみてほしい。



≪取材協力≫
シビックプライドプレイス
みんなの森 ぎふメディアコスモス

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