危険な盛り土は全国に多数存在している
2021年7月に静岡県熱海市で発生した土砂災害を鮮明に覚えている人は多いだろう。同市伊豆山地区において発生した土石流の被災範囲は、延長約1km、最大幅約120mにわたり、死者27名、行方不明者1名、全壊した住宅53棟という多大な人的・物的被害をもたらした。
その後の調べで、この土砂の大半が人為的につくられた盛り土だったことがニュース等で大きく取り上げられた。盛り土とは、斜面や低地に土を盛って平らな敷地に造成することだ。これを受けて政府は各都道府県に全国約3万6,000ヶ所の盛り土の総点検を行うことを要請。都道府県は2021年11月末までに、約8割に当たる2万8,152カ所で目視などによる点検を終えた。
その結果、657ヶ所で必要な災害防止措置を確認できない、743ヶ所で許可・届け出などの手続きを経ていない、660ヶ所で法令手続きの内容と現地の状況が異なっている、137ヶ所で廃棄物の投棄などを確認、といったことが判明した。
要するに危険な盛り土は全国に多数存在しているのだ。
全国知事会からも全国統一の基準・規制を設ける要望が
ここで問題となったのが、現行の制度だ。
従来、盛り土に関する規制は、それぞれの土地の利用目的ごとに、異なる法律によって定められていた。たとえば盛り土を行う許可は、宅地ならば500m2超で必要になるが、森林ならば1ヘクタール(1万m2)超で必要になる。このような法律の事情から、盛り土等の規制が十分とはいえないエリアが存在している。
そこで、全国知事会からも全国統一の基準・規制を設ける要望があり、2022年3月1日に「宅地造成等規制法の一部を改正する法律案(通称・盛土規制法)」が閣議決定された。
同法は、宅地や森林といった土地の用途にかかわらず、危険な盛り土に全国一律の規制をかけるものだ。
土地所有者等だけでなく原因行為者に対しても是正措置等を命令
法案の概要は以下のようになる。
1. 隙間のない規制
・ 都道府県知事等が、宅地や森林など土地の用途にかかわらず、盛り土等により人や家などに被害を及ぼしうる区域を規制区域として指定できる。
・ 宅地や森林などの造成だけでなく、土石の一時的な積み重ねについても許可の対象とする。
2. 盛り土等の安全性の確保
・ 盛り土等を行うエリアの地形・地質などに応じて、災害防止のために必要な許可基準を設定する。
・ 許可基準に沿って安全対策が行われているかどうかを確認するため以下を実施する。
①施工状況の定期報告
②施工中の中間検査
③工事完了時の完了検査
3. 責任の所在の明確化
・ 盛り土等が行われた土地について、土地所有者などが安全な状態に維持する責務を有することを明確化。
・ 災害防止のため必要なときは土地所有者等だけでなく、盛り土を行った施工者や過去の土地所有者など原因行為者に対しても是正措置等を命令できる。
4. 実効性のある罰則の措置
・ 罰則が抑止力として十分機能するように無許可行為や命令違反等に対する罰則について、条例による罰則の上限(懲役2年以下、罰金100万円以下)より高い水準に強化。
地震などの被害を受けやすい盛土造成地。見分け方とは?
1995年の阪神・淡路大震災、2004年の新潟県中越地震などで谷を埋めた造成住宅地が被災したことなどを契機に、2006年に改正された宅地造成等規制法。
今回の熱海市の例のような、違法な盛り土は言語道断だが、規制に則っていたとしても、盛り土は地震などの際に被害を受けやすい地形だ。
国土交通省が、2020年3月までに全国の自治体に大規模盛土造成地マップを公表するよう取組みを進め、大規模盛土造成地のあるすべての自治体がマップを公表している。
今住んでいる地域や住もうとしている地域が大規模盛土造成地なのか、自治体のホームページなどで確認してみるといいだろう。
また、マップに記載されていない小規模な盛り土でも、現在の地図と古い地図の等高線を比較し、谷が埋められている場所を推測することができる。これは上記マップの作成にあたってのスクリーニングでも用いられた手法だ。
法律に則って造成された盛り土であっても、地震の際など比較的被害を受けやすいというのに、違法な盛り土はもってのほかである。
今回の法改正のきっかけとなった熱海市のケースは、市への届け出の1.5倍の量の建設残土を搬入して盛り土としたものだった。高さも静岡県条例の基準「原則15m以内」を大幅に超える50mだったと判明している。このような事態を二度と放置しないよう、「宅地造成等規制法の一部を改正する法律案(通称・盛土規制法)」が十分運用されることに期待したい。
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