中長期の自然災害リスクに関する分析結果とは

国内では2018年7月に西日本豪雨災害が発生し、2019年の秋には15号と19号による台風被害が発生し、甚大な被害が続いている。

国土交通省では、「総力戦で挑む防災・ 減災プロジェクト~いのちとくらしをまもる防災減災~」をスローガンとして掲げており、2020年12月3日に中長期の自然災害リスクに関する分析結果(https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/content/001373119.pdf)を公表した。

中長期の自然災害リスクに関する分析結果とは、地理空間情報を用いて洪水や土砂災害、地震、津波の4 種の自然災害が発生するリスクが高いエリアの人口の推移を分析した結果である。2015年の人口と2050年の予測人口を比較し、それぞれの自然災害のリスクが高いエリアにどの程度の人口が居住しているのかがわかるようになっている。

分析結果によれば、2015年におけるそれぞれの自然災害リスクが高いエリアに居住している人口の割合は以下のようになっている。

【2015年におけるリスクエリア内の人口の割合】
洪水 29.1%
土砂災害 4.7%
地震 55.2%
津波 5.9%

人口の割合が最も高い自然災害は地震である。
地震リスクは南海トラフ地震や首都直下地震によって太平洋側に甚大な被害を及ぼすことが予想されている。日本の人口も太平洋側に集中しているため、結果的に日本の人口の過半が地震災害リスクの高いエリアに居住している結果となっている。

一方で、2050年における各自然災害の高いエリアに居住している人口の割合は以下のように予測されている。

【2050年におけるリスクエリア内の人口の割合の予測】
洪水 30.5%
土砂災害 3.7%
地震 58.9%
津波 5.9%

傾向としては2015年と大きくは変わらないが、首都圏への人口集中が続くことから、地震リスクの高いエリアの人口割合が2015年よりも高まることが予想されている。

国土交通省 国土政策局 「都道府県別の災害リスクエリアに居住する人口について」より<br>日本全国における災害リスクエリアに居住する人口国土交通省 国土政策局 「都道府県別の災害リスクエリアに居住する人口について」より
日本全国における災害リスクエリアに居住する人口

中長期の自然災害リスクに関する分析の目的

国土交通省では、自然災害リスクマップを公表した理由として、「自治体による活用」と「企業による活用」、「住民による活用」の3つを挙げている。

それぞれの想定されている活用法を示すと以下の通りである。

【地方自治体による活用】
複数の災害リスクを重ねあわせた上で都道府県別の地図で整理しているため、自治体職員が広域的かつ総合的な視点で防災施策の企画・立案を行う際の参考資料となる。例えば、地方自治体が保有している重要施設の位置情報等をリスクエリアマップで確認し、災害時における重要施設の機能確保に関する検討を行うことが可能となる。

地方自治体による活用では、適切な土地利用計画を立案するための参考資料に用いられることが想定されている。

【企業による活用】
企業の生産・販売拠点等の複数の災害リスクを都道府県単位で把握し、リスクを踏まえた生産・販売拠点の防災対策や流通経路も踏まえた災害リスクへの対応等に取り組むための材料としての活用が考えられる。

企業による活用では、主にBCP(「Business Continuity Plan」の略)対策に役立てることが期待されている。

【住民による活用】
自らが居住する都道府県の災害リスクを総合的に知ることによって、災害リスクについて自ら調べ、災害時の具体的な行動についてさらに考えるきっかけとなることや、中長期的な視点でより災害リスクの低い土地利用を地域などで話しあう際の参考資料としての活用などが考えられる。

住民による活用では、災害リスクについて自らの気付きを与えることが期待されていることがうかがえる。

自分が住んでいる都道府県でどのような災害リスクがあるのかを知り、水害、土砂崩れなどそれぞれのハザードマップも活用、災害へ備えるなどさまざまな活用が考えられる自分が住んでいる都道府県でどのような災害リスクがあるのかを知り、水害、土砂崩れなどそれぞれのハザードマップも活用、災害へ備えるなどさまざまな活用が考えられる

不動産取引における重要事項説明の内容との違い

不動産に関連する話題としては、2020年8月28日より不動産取引時における重要事項説明において「ハザードマップにおける取引対象物件の所在地」の説明が義務化された。重要事項説明とは、不動産の売買や賃貸の契約の前に宅地建物取引士によって買主や借主に対して物件に関する重要な事項について書面を交付して行う説明のことである。

重要事項説明は過去にも様々な内容が説明義務の項目に加わってきたが、今般、宅地建物取引業法施行規則の一部改正によって水害ハザードマップにおける対象物件の所在地が説明項目に加わった。重要事項説明において水害ハザードマップの説明が加わった理由としては、昨今の大規模水災害によって甚大な被害が頻発していることが背景となっている。

宅地建物取引業者を管轄している官庁も同じ国土交通省であり、重要事項説明の追加も「総力戦で挑む防災・ 減災プロジェクト」の取組みの一環といえる。

自然災害リスクマップと需要事項説明の内容では、対象としている範囲が異なる点がポイントである。
それぞれの対象としている災害を示すと以下のようになる。

【対象としている災害】
自然災害リスクマップ:洪水、土砂災害、地震、津波
重要事項説明の内容:洪水、雨水出水、高潮

自然災害リスクマップは、洪水に加えて土砂災害や地震、津波までの広範囲の自然災害を対象としているのに対し、重要事項説明の内容は主に水害のみに絞って情報を提供している。重要事項説明が水害にフォーカスしている理由としては、水害は地震とは異なり「予測できる災害」と考えられていることが挙げられる。

地震は全国どこでも起こりうるため予測しにくいが、水害は過去の発生履歴や地形によって発生する場所が高い精度で予測しうる災害である。

買主や借主に与える情報としては、現実味のある水害情報の方が重要性は高いといえるため、重要事項説明では特に水害に絞って説明がなされるようになっている。ただし、重要事項説明では予測しやすい水害リスクについて知ることはできるが、地震や土砂災害のような広範囲な災害リスクまでは知りえない。

そのため、災害リスクを幅広く把握したいという場合には、自然災害リスクマップの活用が有効となってくる。

不動産の売買や賃貸の契約の前に行われる重要事項説明では、洪水、雨水出水、高潮が説明の対象となっている。自然災害リスクマップや自治体のハザードマップなども調べて自分の住むエリアの災害リスクを知っておきたい不動産の売買や賃貸の契約の前に行われる重要事項説明では、洪水、雨水出水、高潮が説明の対象となっている。自然災害リスクマップや自治体のハザードマップなども調べて自分の住むエリアの災害リスクを知っておきたい

災害リスクエリアに人口の多い県と少ない県

自然災害リスクマップは、都道府県単位で人口の推移予測がわかることが特徴となっている。2050年に災害リスクエリアに多くの人口が居住していると予測される上位3位の都道府県は以下の通りである。

【災害リスクエリアに住む人口の割合が高い県】
1位:静岡99.9%
2位:高知99.8%
3位:千葉98.9%

静岡や高知は南海トラフ地震の影響が広範囲に及ぶと予測されているため、居住人口の割合が高くなっている。一方で、2050年に災害リスクエリアに人口が居住している割合が少ないと予測される上位3位の都道府県は以下の通りである。

【災害リスクエリアに住む人口の割合が低い県】
1位:長崎19.0%
2位:岩手22.2%
3位:福岡24.1%

福岡は人口が多いにもかかわらず、災害リスクエリアに住んでいる人が少ないことから、自然災害に強い県といえるのかもしれない。

国土交通省 国土政策局 「都道府県別の災害リスクエリアに居住する人口について」より<br>静岡県における災害リスクエリアに居住する人口国土交通省 国土政策局 「都道府県別の災害リスクエリアに居住する人口について」より
静岡県における災害リスクエリアに居住する人口

資料の見方と注意点

自然災害リスクマップは、洪水と土砂災害、地震、津波の4つの自然災害を一覧化しているが、数値としては地震リスクがかなり大きな影響を与えている。そのため、全体の数値だけで判断すると自然災害リスクを見誤る可能性もあることを注意したい。

例えば、リスクエリア内の人口割合が最も高い静岡県と最も低い長崎県の内訳を以下に示す。

【静岡県の2050年におけるリスクエリア内人口の予測】
洪水 33.3%
土砂災害 4.8%
地震 99.9%
津波 6.2%

【長崎県の2050年におけるリスクエリア内人口の予測】
洪水 2.9%
土砂災害 14.8%
地震 0.0%
津波 1.7%

静岡県は多くの人が地震リスクエリア内に住んでいるが、土砂災害に関しては長崎県より住んでいる人の割合が少ない。よって、土砂災害に関しては長崎県よりも静岡県の方が安全とも解釈できる。

このように災害は都道府県の場所や地形によって起こりやすい災害と起こりにくい災害があるため、分析結果を活用するにあたっては、自分たちの都道府県がどの災害に弱いのか詳細に見て対策していく必要がある。

全体の数値だけが独り歩きしてしまうと誤認してしまう可能性があるため、各県の特徴を捉えて個別の災害対策に役立てていくことが適切な資料の見方だろう。

国土交通省 国土政策局 「都道府県別の災害リスクエリアに居住する人口について」より<br>長崎県における災害リスクエリアに居住する人口国土交通省 国土政策局 「都道府県別の災害リスクエリアに居住する人口について」より
長崎県における災害リスクエリアに居住する人口

2021年 01月26日 11時05分