岐阜県の移住促進サイト「ふふふぎふ」

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コロナ禍において、暮らし方を見つめ直した人は多いのではないだろうか。人口過密な首都圏から移住しようと考える人も増えたように思う。地方自治体も、これまでの移住促進の取組みにいっそう力を入れているようだ。
そんな中、筆者の住む愛知県の隣、岐阜県の移住促進サイトが目に留まった。その名も「ふふふぎふ」。ネーミングに興味を惹かれてのぞいてみた。

「想像すると思わず『ふふふ』っと笑みがこぼれる、そんな暮らしをしてみませんか」と書かれたトップページ。なるほど、それで「ふふふぎふ」ね、とうなずきつつ、コンテンツを見ていくことに。

サイト内には人気YouTuberの体験レポートや、岐阜県に移住を決めた人たちの動画が20本以上アップされている。「365岐阜と。ふふふぎふ」で紹介されている移住実践者の動画の中にはドローンを使って撮影されたものもあり、かなり作りこまれた印象。各々の生活がリアルに映し出されていて、ドキュメンタリー番組のように楽しんでしまった。

実はこのサイトは岐阜県が運営する公式の移住・定住ポータルサイト。自治体が作っているとは思えないほどポップで、動画を多用している点に今の時代らしさを感じた。

サイトのリニューアルでPVは倍増!


岐阜県の清流の国推進部地域振興課課長・若山典(つかさ)さんと、移住定住係長・堀川奈美さんに聞いたところ、動画はCMクリエイター等が参加して制作されたものだそう。
「ひと昔前は、退職後に田舎暮らしをしようと考える団塊の世代の人たちを対象に、移住促進の取組みを行っていました。時代の移り変わりとともに若い世代が移住を考えるようになったことで、打ち出し方も変える必要があると考え、2021年2月にサイトのリニューアルを行いました」と若山さん。

対象者が変わってきた理由としては、やはり2020年後半からのコロナ禍の影響が大きいようだ。
「リモートワークを推奨する企業が多くなったことも後押しとなり、地方への移住を考えていた人の気持ちが一層現実味を帯びてきたのだと思います」と若山さんは分析する。

サイトがリニューアルされた翌月2021年3月には40,000PV(ページビュー)を超え、リニューアル前の月平均20,000PVに比べ、倍増。注目度は高まっている。

通称「日本のおへそ」。清流の国・岐阜

世界遺産に登録されている白川郷の「合掌造り集落」は飛騨地域に位置する世界遺産に登録されている白川郷の「合掌造り集落」は飛騨地域に位置する

ところで、みなさんは岐阜県にどんな印象をお持ちだろうか。
世界遺産に登録されている白川郷、日本三名泉に数えられる下呂温泉、城下町の趣を残す人気観光スポット飛騨高山、夏の風物詩長良川の鵜飼などは、全国的に有名なので知っているという人も多いと思う。

日本のほぼ中央に位置する岐阜県は通称「日本のおへそ」ともいわれている。約1万621km2の面積は全国第7位の広さを誇る。北部の飛騨地域は御嶽山、乗鞍岳など、標高3,000mを超える山々が連なり、南部の美濃地方には木曽川、長良川、揖斐川の木曽三川が流れることから、清流の国ともいわれている。

世界遺産に登録されている白川郷の「合掌造り集落」は飛騨地域に位置する一級河川・長良川が南北に流れる岐阜県。長良川は、1300年以上の歴史を誇る鵜飼や、夏の風物詩「全国選抜長良川中日花火大会」でも有名だ

県内は大きく分けて、岐阜地域、西濃地域、中濃地域、東濃地域、飛騨地域の5つの地域に分かれる。それぞれに特色があり、移住するとなるとその目的によって候補地は違ってきそうだ。
例えば岐阜地域は、アパレル産業や航空産業が盛んな地域、名古屋へのアクセスはJRで約20分と利便性が高いエリアだ。西濃地域は県内一のIT産業地域といわれている。中濃地域は美濃和紙や刃物などの伝統技術が息づくエリア。東濃地域は美濃焼の産地であり、東濃檜などの林業が盛んなエリアだ。そして城下町の風情を残す飛騨高山に代表される、歴史的な魅力がつまった飛騨地域と、各地域に特色がある。

「岐阜県とひとくちにいってもエリアは広い。移住者がどのエリアで何をしたいのかによって、移住先選定のアドバイスを行っています」と若山さんは言う。

愛知県からの移住者のうち69%が20代~30代


東京、大阪、名古屋に移住相談窓口を設けているが、相談に訪れる人の数は2021年の12月末の段階で、前年の同時期よりも13%増えた。
移住実践者、希望者ともに一番多いのは愛知県在住者。2020年の調査によると、愛知県から岐阜県に移住した人は942人に上る。そのうちの69%が20代~30代と若い世代となっている。近いということと岐阜県に地縁がある人が多いという理由が挙げられ、IターンやUターンの移住者も多いそうだ。

若い世代がなぜ岐阜県を選ぶのか。
堀川さんは
「岐阜県はまだ手付かずの部分があるんだと思います。『岐阜にはまだ可能性がある』とおっしゃる方もいました。都会だと当たり前のことでもここでは新鮮で、新しいことに挑戦して受け入れてもらえる環境があると感じている人が多いのではないでしょうか」と話す。
例えば、西濃地域は古くから薬草で有名なエリア。そこで採れる薬草を元に、クラフトコーラ作りを始めた若者がいるという。「クラフトコーラ」や「クラフトビール」は、都会ではすでになじみのあるものでも、岐阜県ではまだ浸透しておらず、作り手も販売店も競合が少ない。アイデアと切り口次第では新しいことにチャレンジできる余白が、岐阜にはまだまだ広がっているのだ。

世界遺産に登録されている白川郷の「合掌造り集落」は飛騨地域に位置する名古屋エリアの通勤に便利な岐阜エリアも人気が高い

高速道路もJRも走っている “ほどよい田舎” 感

「岐阜県の魅力は自然が豊かな点。しかも自然が身近にあるというだけでなく、大都市愛知県と隣接していることや意外と交通網が整っている点もアピールポイントです。名古屋へのアクセスも良く、適度に便利で適度な田舎暮らしができる “ほどよい田舎”という点が一番の魅力だと思っています」と若山さん。
南北には高速道路が走り、JR東海道本線や高山本線も走っていて、アクセス網が整っていることは確かに魅力だ。さらにリニア中央新幹線の開業も予定されており、東濃地域の中津川市に駅が設置されれば、東京までわずか34分(※)で移動ができる。

※ノンストップの場合。岐阜県試算

新幹線なら東京へは約2時間、大阪は約1時間。名古屋へはJRまたは名古屋鉄道で約20分というアクセスの良さを誇る新幹線なら東京へは約2時間、大阪は約1時間。名古屋へはJRまたは名古屋鉄道で約20分というアクセスの良さを誇る
新しい働き方と暮らし方を体験できる施設と、地域の人たちとの交流体験などを組み合わせたモデルプランを作成。「ふふふぎふ」内の「リモートライフスタイルin岐阜」で紹介している新しい働き方と暮らし方を体験できる施設と、地域の人たちとの交流体験などを組み合わせたモデルプランを作成。「ふふふぎふ」内の「リモートライフスタイルin岐阜」で紹介している

また、家賃や土地の値段が安いという点も、愛知県からの流入が増えている理由だという。

「例えば名古屋で家を建てるより、ちょっと離れた岐阜のほうがコストを下げられますよね。自然に囲まれた場所で子育てをしたいと考えるご家族には、理想的な環境が手に入るのではないでしょうか」(若山さん)
ちなみに、岐阜県民の持ち家率は74.3%で全国5位。1人当たりの居住スペースは約15.8畳と全国9位の広さとなっている。

地縁のない場所に移住するとなると心配事も多い、子育て環境や地域独特の慣習や風習になじめるかといった相談も多いという。そういう人たちのために、県内の市町村によってはお試し移住ができる場所も用意されている。
さらに、リモートワーク可能な施設もサイト内で紹介されている。
たとえば、うだつの上がる町並みで知られる美濃市が掲げるのは「まちごとシェアオフィス制度」。古民家をリノベーションしたワークスペース「WASHITA MINO」を拠点に、まちの中にある提携店舗すべてを仕事場として利用することができる。店によっては、制度利用者向けのサービスを用意しているところもあるという。用途や気分に合わせ、好きな場所で好きな時に働ける自由度の高いリモートワークを実現することができる。
VRを駆使した施設紹介もあり、web上で視察、事前に雰囲気を知ることができるのもおもしろい。

新幹線なら東京へは約2時間、大阪は約1時間。名古屋へはJRまたは名古屋鉄道で約20分というアクセスの良さを誇るリモートワーク可能な施設をVRで見ることもできる。仕事メインとなるので、自分にとって落ち着けるテイストかどうか、事前にチェックできるのはありがたい

親切な人、美しい自然。暮らしを作る大変さも新鮮

庭の大きな木に作られたブランコで遊ぶお子さんの姿がとても印象的な紹介動画。自然に囲まれた環境での子育ては心にもゆとりが持てそうだ庭の大きな木に作られたブランコで遊ぶお子さんの姿がとても印象的な紹介動画。自然に囲まれた環境での子育ては心にもゆとりが持てそうだ

ここで、サイト内の移住実践者の動画の中から、何人かの方のコメントをピックアップしてみようと思う。

12年前に東京から大垣市に移住した雨宮さんご夫婦は、市内で地元の食材を使ったカフェを開業している。
「自然の豊かさと人の良さが素晴らしくてとても居心地がいいです」とコメントする雨宮さん。移住を検討し始めた12年前は、移住サポートなどのシステムがまだ十分でなく、その存在を知らなかったという雨宮さん。
「不動産屋さんに行って地図をもらって、自分たちで物件を探していたところ、ここの人たちがとても親切でいろいろと場所を案内してくれたり、すごく受け入れてくれる印象が強かったんです。それがとてもうれしくて、ここへ移住しようと決めた決定打でした」と語る。

庭の大きな木に作られたブランコで遊ぶお子さんの姿がとても印象的な紹介動画。自然に囲まれた環境での子育ては心にもゆとりが持てそうだ2頭の犬を連れて家族で川遊び。妻の明日香さんは、自然の中でヨガをしたり歌を歌ったりしていると話していた
「恵那市ふるさと活性化協力隊」として岐阜県に移住してきた佐藤さん一家「恵那市ふるさと活性化協力隊」として岐阜県に移住してきた佐藤さん一家

神奈川県から恵那市へ移住した佐藤さん一家。6歳と1歳のお子さんを育てながら岐阜県での暮らしを満喫している。農業などを手掛けていた佐藤さんは、水のおいしさに驚いたという。
「裏の山から水を引いてきてるんです。その水がまたとってもおいしくて、それで炊いたお米がこんないにおいしいんだって一番うれしかったことだし、驚きでしたね」
「恵那市ふるさと活性化協力隊」として恵那市に移住した佐藤さん。家賃補助や車のリースなど行政の手厚いサポート以外に、地域住民が佐藤さん一家の住む家を探してくれるなど、地元の温かさを感じたという。
また、田舎暮らしの大変さも新鮮だったよう。
「雨が降って雨漏りがしたら自分で直さなきゃいけないとか、いろんなところで自分の手で暮らしをつくっていかなきゃいけないっていうのが、とても暮らしにはエネルギーがいるんだなってことに気づかされて、それが逆に自分の成長にもなっているのかな」と語っていた。

庭の大きな木に作られたブランコで遊ぶお子さんの姿がとても印象的な紹介動画。自然に囲まれた環境での子育ては心にもゆとりが持てそうだ同年代の移住仲間との交流もあるそうで、家族ぐるみの付き合いが続いているとのこと。今では友人と、岐阜県の魅力を伝えるYouTubeも始めたという

“地讃地笑(ちさんちしょう)”を掲げる個性的なカレー店も

岐阜県の移住促進イベントなどにも積極的に参加し、今では地域のキーパーソンとなっている中村さん一家岐阜県の移住促進イベントなどにも積極的に参加し、今では地域のキーパーソンとなっている中村さん一家

下呂市で築200年の古民家を改築して暮らす中村さんは、山口県生まれ兵庫県育ち。4年前にこの場所に移住した。きっかけは、地域おこし協力隊の料理人募集に応募したことだそう。
協力隊の任期終了後にオープンさせたカレー店「咖喱奔放(かれーほんぽう)」は、今や地域の有名店。遠方からも連日予約が入る人気店となっている。
中村さんが掲げるのは“地讃地笑(ちさんちしょう)”。「地域を讃え、地域で笑おう」という中村さんが考え出した造語だ。岐阜県の移住PRの活動にも参加する中村さん。「ここ(店)が1つの拠点、発信地になっていけばいいのかなって思っています」と笑う姿が印象的だった。

岐阜県の移住促進イベントなどにも積極的に参加し、今では地域のキーパーソンとなっている中村さん一家約200年前に建てられた古民家を改築し、カレー店に。「下呂温泉のついで」に立ち寄るのではなく、ここをメインに足を運ぶ人も増えてきているようだ

県や市町村の移住支援や補助金も充実している。
移住支援金制度は、県外からの移住者で定住意思のある人が対象。東京圏からの移住の場合は、単身60万円、2人以上の世帯100万円、その他の地域からの場合は30~50万円程度の支援が受けられる(市町村によって異なる)。
もちろん支援を受けるにあたっては、さまざまな要件を満たす必要があるが、手厚い支援があるのも移住者が増える後ろ盾になっているだろう。

工夫を凝らした移住セミナーで岐阜県に親近感を

2021年11月に開催されたオンラインセミナー。美濃手すき和紙職人の千田さんのトークやワークショップを行った2021年11月に開催されたオンラインセミナー。美濃手すき和紙職人の千田さんのトークやワークショップを行った

岐阜県では、このような移住実践者たちをゲストスピーカーに迎えた移住定住セミナーを開催している。
2021年のセミナーでは、岐阜県美濃市の伝統工芸である美濃和紙のクラフト体験を参加者とともに体験。前もって参加者には手作りキットを送付し、当日画面越しにワークショップを行ったという。
「美濃和紙の職人さんに先生として登壇してもらい、和紙作りの苦労話を聞きながら、みんなでランプシェードを作りました。移住してカフェを開業した方が登壇するセミナーでは、その方が焙煎したコーヒーを事前に参加者にお送りして、セミナーの合間に飲んで話をするという回もありました。一緒に何かを作ったり、アイテムを共有したりすることで、オンラインであっても一体感が生まれ、非常に好評でした」と若山さんは振り返る。

セミナー参加者の多くは20代~40代の若い世代。若山さんは、「より岐阜を身近に感じてもらえる試みとして、今後も工夫を凝らした移住セミナーを開催していきたい」と話していた。

2021年11月に開催されたオンラインセミナー。美濃手すき和紙職人の千田さんのトークやワークショップを行ったオンラインセミナーで作った美濃和紙のランプシェード。伝統文化に触れることで、地域を身近に感じられると好評だったそう

「自然の中に暮らしがある」のが岐阜県の魅力

オンラインで取材に応じてくださった岐阜県・清流の国推進部地域振興課課長の若山典(つかさ)さん(右)と、移住定住係長の堀川奈美さん(左)オンラインで取材に応じてくださった岐阜県・清流の国推進部地域振興課課長の若山典(つかさ)さん(右)と、移住定住係長の堀川奈美さん(左)

今回取材に対応してくださった若山さんと堀川さんは、お二人とも生粋の岐阜県人。岐阜県のいいところを改めて聞いてみると

「実は今までよくわかっていなかったんですよね。長良川でじゃぶじゃぶ遊ぶことも普通、川に架かる忠節橋からの風景も、水道の水を飲むことも、岐阜で育った私にとってはごく普通のこと。でも都心から来た人たちにはとても特別なことに思えるんだなと、逆に教えてもらいました」と堀川さん。
さらに、
「岐阜県の魅力について、とある移住者さんに聞いてみたところ、『自然の中に暮らしがあるところ』と答えてくださったんです。あぁ、なるほどな、と思いました」と続ける。
豊かな自然がそこにあるだけではなく、人々の暮らしが自然の中に当たり前に溶け込んでいるということは、都会で暮らしてきた人には印象的に映ったに違いない。

今回紹介した「ふふふぎふ」は、Webデザインの専門誌「Webデザイン良質見本帳 第2版」(SBクリエイティブ: 2022年1月8日発行)でも紹介されるなど、その見やすさが評価されている。

文字より動画で情報を得ることが増えた今。若い移住者が増えているのは、こうした時代に合わせたサイト作りをしているからだと感じる。移住を検討している人は、一度のぞいてみてはいかがだろう。

取材協力・写真提供
https://www.gifu-iju.com/

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