広がる屋上緑化の面積

屋上緑化がなされている建物が増えている。
国土交通省によると、2020年に行われた屋上緑化は約19.9ha、壁面緑化は約5.8haとしている。約19.9haという面積は、東京五輪の開・閉会式が開催された国立競技場の建築面積の約3倍に相当する面積となっている。国土交通省は、2000年から21年間にわたり屋上緑化の面積の統計を公表しており、2020年までの屋上緑化の累計面積は約557haに達している。

国土交通省 全国屋上・壁面緑化施工実績調査より<br> 屋上緑化 施工面積国土交通省 全国屋上・壁面緑化施工実績調査より
屋上緑化 施工面積

屋上緑化が行われている物件は都市部に多い。国土交通省の公表資料によると、2020年までにおける累計の都道府県別の屋上緑化の面積は東京都が最も広く全体の39.5%も占めている。
https://www.mlit.go.jp/report/press/toshi10_hh_000383.html

第2位が神奈川県の9.4%、第3位が大阪府の7.8%が続く。屋上緑化が行われている建物は、東京都が圧倒的に多く、全体の4割弱の面積に達している状況だ。

建物の用途別にみると、屋上緑化が多くなされている順に「住宅/共同住宅」(20.0%)、「教育文化施設」(13.3%)、「商業施設」(12.9%)となっている。一般の人が目にしやすい「教育文化施設」や「商業施設」よりも、「住宅/共同住宅」の方が屋上緑化されている面積が大きいことが特徴だ。

屋上緑化の増加の背景

比較的、東京都や大阪府等の大都市の都府県で屋上庭園をみることができる比較的、東京都や大阪府等の大都市の都府県で屋上庭園をみることができる

屋上緑化が増加する背景としては、「都市におけるヒートアイランド現象の緩和」や「美しく潤いのある都市空間の形成」、「都市の低炭素化」等を目的として全国的な取組みが行われていることが挙げられる。

ただ、実際に屋上緑化が増えている直接的な要因は、各自治体が定めている屋上緑化の義務化や誘導政策があるためである。屋上緑化を直接的に義務化する制度としては、例えば東京都の緑化計画制度が挙げられる。敷地面積が1,000平米以上の土地で新築や増改築をする場合、一定基準以上の緑化が義務付けられている。京都府や大阪府にも類似の条例があるが、概ね屋上の2割以上を緑化しなければならないと定めているものが多い。

屋上緑化が直接義務化されている地域では、一定規模以上の物件は屋上緑化をしなければいけないことになる。
一方で、屋上緑化を間接的に誘導化する制度としては、主に「敷地の緑化面積に算入を認める制度」と「容積率の割り増しを認める制度」の2つがある。

敷地の緑化面積に算入を認める制度とは、屋上緑化の面積を本来敷地にしなければならない緑地面積に加えてくれるという制度である。「敷地の何%を緑化しなさい」という条例があったとして、一部を屋上に緑化しても敷地の緑化面積に加えることができると定めているものが多い。敷地の緑化部分を屋上でまかなうことができれば、空いた敷地を例えば駐車場に利用することができる。都市部では狭い敷地を緑地以外にも有効に使いたいため、屋上緑化を敷地緑化の一部に認める制度を設ければ、屋上緑化が増える誘導策となる。

また、屋上緑化の誘導策には、容積率の割り増しを認める制度もある。容積率とは、敷地面積に対する建物の延床面積の割合を指す。新宿区や大阪市では、総合設計制度において屋上緑化を行うと容積率が割り増しされる制度がある。

総合設計制度とは、一定割合以上の空地を有する建物について、容積率等の制限が緩和される制度である。総合設計制度は、タワーマンション等の建築で用いられることが多い。「住宅/共同住宅」で屋上緑化面積が多いのは、総合設計制度を使ってタワーマンションを建てる際、屋上緑化によってさらに容積率を増やしている物件が多いためと推測される。

このような屋上緑化の義務化や誘導政策は、東京都や大阪府等の大都市の都府県に多く定められている。そのため、屋上緑化が行われている物件も、必然的に東京都や大阪府に多く見られるのだ。

比較的、東京都や大阪府等の大都市の都府県で屋上庭園をみることができるなんばパークス空中庭園。屋上庭園は都市におけるヒートアイランド現象の緩和などの効果が期待されている

屋上緑化のメリット

屋上緑化のメリットには、以下のようなものが挙げられる。

(1)ヒートアイランドの抑制

屋上緑化には、「都市におけるヒートアイランド現象の緩和」や「美しく潤いのある都市空間の形成」、「都市の低炭素化」といった大きな目的がある。人工的に自然環境を創出することで、都市の環境負荷低減に貢献できるという点がメリットとなる。

(2)屋上の断熱性の向上による省エネ効果

屋上緑化を行うと、緑化部分の断熱性が高まる効果がある。
国土交通省の公開資料によると、気温が36.5℃の真夏で計測した結果、屋上緑化をしていない屋上タイル表面部分の温度は51.7℃まで上昇している。
https://www.mlit.go.jp/crd/park/shisaku/gi_kaihatsu/okujyo/heat.html

一方で、屋上緑化をしている植栽基盤下面の温度は28.7℃となっている。屋上緑化をしている部分の表面温度を見れば断熱性が高まる効果があることがわかる。また、同資料では省エネ効果も試算している。30平米のモデルルームを想定した場合、エネルギーを約4%(モデルルーム1室あたり7Mcal/日)削減できるとしており、電気代が1日あたり約42円低減できるとのことである。

(3)安らぎを与える心理的効果の向上

屋上緑地を造ることにより、住民や従業員等に与える安らぎ感を向上させる効果がある。図書館等の教育施設には屋上にビオトープ(生物生息空間)が設けられているケースもあるが、このような施設は環境教育の場の創出にもなる。

オフィスビルであれば、昼食が取れる形にすると従業員等の厚生施設にもなる。また、夏場はビアガーデン等に活用すれば、施設の収益力向上に寄与することもできる。

国土交通省資料より<br> 緑の断熱作用による真夏屋上の温度の違い国土交通省資料より
緑の断熱作用による真夏屋上の温度の違い

屋上緑化のデメリット

屋上緑化のデメリットには、以下のようなものが挙げられる。

(1)初期投資が増える

屋上緑化をするには、初期投資が増える点がデメリットとなる。屋上緑化を行うには、土壌や保水レンガ等の見切り材、給排水設備、植栽等が必要となる。人口の池や川を作る場合は、庭園の造成工事も発生する。

また、商業施設やオフィスビルの場合、屋上には空調の室外機を設置することが多い。室外機を設置する場合には、屋上緑化部分と室外機スペースを区分する必要があり、室外機等を見えなくするための目隠しルーバー等も必要となる。

屋上緑化には初期投資を補助する助成制度もあるが、補助金の金額は決して十分とはいえない。例えば、東京都港区における「港区屋上等緑化助成」では、屋上緑化の助成金の上限額は30万円となっている。

(2)樹種に制限がある

屋上緑化は、樹種に制限がある点もデメリットだ。屋上は水分補給の条件が厳しいため乾燥に強い植物が適している。また、土壌を厚くすることが難しいため、根を浅く張る植物であることも求められる。

屋上緑化にはセダムといった多肉性の植物がよく利用されるが、好きな植物を自由に植えられるとは限らない。

(3)維持費が増える

屋上緑化は維持費が増える点もデメリットとなる。日常的には散水の他、定期的な清掃を要する。また、屋上防水の大規模修繕を行うには、防水層の上にある屋上緑化をすべて撤去しなければならない。
通常の屋上防水の修繕だけでなく、緑化部分の撤去と再構築も必要となるため、修繕費が割高となってしまう。

オフィスビルの屋上緑化オフィスビルの屋上緑化

屋上緑化の具体例

屋上緑化は、マンションの駐車場の屋上や、オフィスビル、複合商業施設、一戸建て住宅等のさまざまなところで行われている。

屋上緑化では落ち葉の清掃の手間がかかる落葉樹は導入されにくいが、東京の明治神宮の近くにある「東急プラザ表参道原宿」では、落葉樹が植わっている事例がある。

比較的低層の建物であるため、歩行者からも見える位置に緑化がされており、街路樹と連続性のある緑化を構成している。

緑化されている屋上にはカフェも併設されており、落葉樹があることで季節感を味わえる空間となっている。

東急プラザ表参道原宿東急プラザ表参道原宿
東急プラザ表参道原宿東急プラザ表参道原宿 おもはらの森

屋上緑化の今後の課題

屋上緑化の今後の課題としては、自然な普及はなかなか難しいという点である。今時点の屋上緑化は、義務化や誘導政策によって広まっており、普及を下支えする制度がないと広まらないといった実態がある。日本においても制度が充実した一部の都府県のみでしか普及しておらず、地方の取組み事例は少ない。

また、省エネ住宅には、太陽光パネルやLED照明、高効率空調等の代替技術があり、必ずしも屋上緑化が優先的に選ばれる状況にはない。

屋上緑化は設備的な省エネ対策に比べると、定量的な効果が見えにくいため、普及には今後も行政の支えが必要となっていくだろう。

JR新宿駅屋上庭園JR新宿駅屋上庭園

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