最北の北海道・宗谷地方
「日本のてっぺん」と呼ばれる、北海道・宗谷地方。最果ての雰囲気をまとう宗谷岬や、JR山手線の内側より広いサロベツ原野、日本最北の離島である利尻島・礼文島といった観光地が知られている。ここを世界水準の観光地にするためのヒントを探る国土交通省のセミナーが2021年11月、開かれた。
宗谷地方では交通アクセスなど地理的ハンディを抱え、観光需要は夏に偏り、来訪者数が減少傾向にあるといった課題がある中、近くDMO(観光地域づくり法人)の登録を目指している。国の審議会委員を務める有識者がコロナ禍で鮮明になったトレンドや展望を解説し、この地域で観光や交流に携わる事業者3人と、意見を交わした。セミナーの様子をレポートする。
地域主導でターゲット設定・提案
基調講演したのは、北海道出身の東京女子大学現代教養学部の矢ケ崎紀子教授。国土審議会北海道開発分科会特別委員や、関係人口を増やすための観光庁「第2のふるさとづくりプロジェクト」座長を務めている。
矢ケ崎さんは、ウィズ・ポストコロナ時代の観光について、マスツーリズムから個人主体の旅行が増えるとして、「地域がターゲットをより明確化し、流通構造を決める流れになる」と指摘。観光が好影響を及ぼすよう、地域の主導がいっそう大切になると強調した。
また旅行者の健康・アウトドア志向や、SDGs・サステナビリティ重視が進むため、「どんな豊かな気持ちを持って帰るかという『経験価値』や、オーバーツーリズム(観光公害)とは違った世の中の役に立つ観光を、地域がターゲットに提案する必要がある」と訴えた。
コアなファンをどうつくるか。自然や雪、スノーアクティビティがカギ
矢ケ崎さんは、世界の人々の旅行意欲はコロナ下でも衰えておらず、2021年5月に発表された調査(株式会社日本政策投資銀行、公益財団法人日本交通公社)では、アジア・欧米豪の居住者が選ぶ「次に海外旅行したい先」として日本が首位にあがっており、北海道は日本の中で3位にあるとのデータを紹介。自然や雪、スノーアクティビティといった資源を磨くことを提案した。
ターゲットについては、観光旅行にとどまらず繰り返し訪れる「コアなファン」を生むために、対象を具体的にイメージする大切さを説明。「1回来て終わり、というような『消費』する観光客でなく、安売りしなくて良い、地域を尊敬してくれる人が大切」と呼びかけた。
一方、セミナーを主催した国交省北海道局は、天塩川など川を生かした「かわたびほっかいどう」プロジェクトや、インフラツーリズムの推進といった事業を説明。サイクルバスの運行やコンビニ「セイコーマート」との連携をはじめとする、国際水準のサイクルツーリズム環境を整えるための施策も紹介した。
課題はシーズンの偏重。来訪者の情報収集とプロモーションの確度向上を
セミナーでは矢ケ崎さんの基調講演に続き、宗谷地域の3人が事例を発表した。
「わっかない観光活性化促進協議会」で「きた・北海道DMO」設立の準備にあたる中井達也さんは、宿泊を伴った長時間滞在を実現し、観光消費額を増やすかじ取り役をDMOが担うと説明。北海道全体の来訪者数は2002年以降、コロナ前の2019年まで安定して推移した一方で、北宗谷(1市3町=稚内市、礼文町、利尻町、利尻富士町)では減少を続けているとして、「下げ止まらず、地域経済への影響は大きい」と危機感をあらわにした。
中井さんは「経験と勘に頼り、来訪者の属性や消費額などの基礎データを収集せず、漠然とプロモーションしていた。地域というチームでお迎えする意識がなかった」と振り返った。
利尻島でペンション経営や自然ガイドを手がける「まるぜん観光」の渡辺敏哉さんは、「シーズンが6~8月と短く、あまりにも夏季集中という課題がある。いかに夏以外を盛り上げるか」と指摘した。これを受けて矢ケ崎さんは、日本を代表する観光地の京都でも、「10年以上かけて需要を平準化させてきた」と伝え、全国的な課題だと示した。
プロ目線の自然アクティビティも人気
まるぜん観光の渡辺さんは、冬の需要喚起策としてバックカントリースキーのガイド業を始めたことを紹介。欧米のコアなスキーファンの人気を集め、コロナ前の2019年には650人を案内。夏山よりも人気となった。今ではバードウォッチングや釣りなど、新しいアクティビティ開発にも力を入れているという。
矢ケ崎さんは、「例えば釣りは、旅行(の資源)としては開発しきれておらず、新たなマーケットがありそう。プロのネイチャーガイドが見るものに注目すると、資源はまだまだある」と話した。
魅力的な「人」も資源
稚内市の南、豊富町にあるコミュニティカフェ兼シェアハウス「餅cafe&stayわが家」を運営する堂脇さとみさんは、アトピー性皮膚炎に長く悩まされて旭川市から移住し、開業した経験を伝えた。豊富町には、医療費控除が受けられる健康増進施設として道内で唯一、厚生労働省から認定されている豊富温泉があり、全国から湯治客が訪れる。
「わが家」は湯治客や地元の人らが自然に集まる場所として知られ、堂脇さんは「『ただいま!』と戻ってくるお客さんが多く、実家のような場所になっていきたい。人も観光資源の1つなので、もっと発信していきたい」と話した。矢ケ崎さんは「観光とは、人が動いて、域外の方と交流すること。『わが家』は、関係人口づくりの大事な窓口。繰り返し訪れる人は、素敵な人を求めて来ています」と同調した。
インバウンド需要回復を前に、DMO設立へ。今できることは?
セミナーでは今後の世界的な観光の需要回復を見据え、講じる策について意見を交わした。
矢ケ崎さんは、新型コロナウイルスに限らず、旅行市場には常にリスクがつきまとうことからも、コアなファンの存在が重要との見方を示し、「旅人の人生を豊かにする資源を活用し、(地域が描いた)ターゲットやリピーターを確保することが大切」と強調。コロナ下でも、すでに世界中で競争が激化しているとして「2022年前半くらいまでに地域内での連携を強化し、外からの目線を忘れず、顧客目線で地域のまとめ役になるDMOなどを中心に、観光戦略を練り直す必要がある」と促した。
神奈川県からUターンした渡辺さんは「バックカントリーのツアーを始めたとき、『冬の利尻島に人が来るわけないべや』とみんなに馬鹿にされた。新しいことを始めるのは難しいが、宗谷に来ないとできない『目的』をつくらないと厳しい。そこにヒントがある」と訴えた。堂脇さんは移住経験を踏まえ、「ウェルカムな空気感がもっとあれば」と提言。大阪府出身の中井さんは、「一級品の素材が北宗谷にはたくさん埋もれている。素材を磨いて発信し、客と地域の事業者をつなぐのはDMOの仕事。素材を一緒に目星つけてターゲットを絞って、地域の事業者と売り込みできれば」と話した。
矢ケ崎さんは、「宗谷よりもっと不便な小笠原諸島にも多くの人が訪れおり、その人たちには明確な目的がある。目的が宗谷に複数あることで、年間を通して来続けてくれ、「よく来たねー』とお迎えする雰囲気があると、旅行者は『いい人たちが多いね』となる。そういう循環が、宗谷でつくれる可能性が強い」と締めくくった。










