三条通に行く前に烏丸通周辺の建物もチェック

新風館中庭。せせらぎがあり、雨に濡れた風情も、夜景も、もちろん晴天の日も、つまりいつでも美しい新風館中庭。せせらぎがあり、雨に濡れた風情も、夜景も、もちろん晴天の日も、つまりいつでも美しい

スタートは京都市営地下鉄烏丸線の烏丸御池駅にしよう。三条通に行く前にひとつ、見ておきたいのが1926年に京都中央電話局として竣工、京都市の登録有形文化財第一号に指定された既存棟と新築棟からなる複合施設・新風館。2020年6月に開業、建物、歴史についてはすでに記事で紹介しているので、そちらをご覧いただきたい。地下2階で地下鉄と繋がっているのでアクセスは楽々である。

新風館を眺めたら北側にある姉小路通の亀末廣の古色蒼然たる建物も味わっておきたい。1804年創業の和菓子店で、「京のよすが」という干菓子が名物だが、生菓子も絶品。隈研吾氏の今を感じさせる建築の隣にこうした古い建物があるという妙が京都ならではだろう。

三条通は建物を1軒挟んで新風館の南側。烏丸通と三条通の角にある、みずほ銀行京都中央支店を目標にすれば迷わなくて済む。この建物も赤い煉瓦造りで一見古く見えるが、2003年に復元竣工されたもの。

新風館中庭。せせらぎがあり、雨に濡れた風情も、夜景も、もちろん晴天の日も、つまりいつでも美しい老舗だが、店頭ではごく普通に和菓子が販売されている。最近はオンラインでも売られている
みずほ銀行京都中央支店。復元された辰野建築みずほ銀行京都中央支店。復元された辰野建築

烏丸通沿いにもう1軒、見ておきたい建物がある。それが1916年竣工した辰野片岡建築事務所による旧北國銀行京都支店。同事務所は辰野金吾が女婿の片岡安と関西に開いたもので、この界隈には辰野金吾作品が多数集まっているのである。現在は「DEAN & DELUCA京都」となっており、天井の高い開放的な店内では飲食も可能だ。三条通からは少し歩くがぜひ訪れてみたい。

ちなみに三条通から「DEAN & DELUCA京都」のある蛸薬師通の角までの間に六角通があり、通りを少し入ったところにいけばな発祥の地といわれる六角堂がある。烏丸通から六角堂方向を向くと、烏丸通に立っている建物のガラス張りの窓の向こうに瓦屋根の本堂が見え、新旧がきれいに交わる絵のような風景が見られる。写真好きならついカメラを向けたくなるはずだ。

新風館中庭。せせらぎがあり、雨に濡れた風情も、夜景も、もちろん晴天の日も、つまりいつでも美しい旧北國銀行京都支店の建物の内部を改装、「DEAN & DELUCA京都」の店舗として現役で使われている。金庫室も残されているとか

辰野金吾の銀行建築が多数集中

文椿ビル。これが木造とは! である文椿ビル。これが木造とは! である

さて、ようやく三条通である。みずほ銀行の角を西へ。少し行ったところの右手にあるのが登録有形文化財になっている文椿ビルヂング。1920年に染織業を営む西村貿易会社の社屋として建てられ、現在は飲食店などが入っている。煉瓦やタイル、石柱に銅葺きの屋根と、どうみても洋館だが、実は木造。外観に騙されてはいけない。ちなみに内装はだいぶ手が入っているようで、あまり古い印象はないが、エントランスやトイレなどのタイルが可愛かった。

古い建物ではないが、向かいには2020年にオープンした京友禅の老舗・千總の本店があり、この建物の外装の凝っていること。個人的にはドアノブの美しさにノックアウトされてしまった。まさに細部に神宿るである。デザインは建築家・田根剛氏によるもので、建物内にはギャラリーもあるので、関心のある向きはぜひ。

文椿ビル。これが木造とは! である京友禅の老舗・千總本社のドアノブ。センスの良さを感じる
こうした建造物があったため、道路の拡幅ができず、それが理由で四条通がメインストリートとなっていったという。だが、その結果、まちの財産として幾多の建物が残ったわけで、何がプラスになるかは分からないものであるこうした建造物があったため、道路の拡幅ができず、それが理由で四条通がメインストリートとなっていったという。だが、その結果、まちの財産として幾多の建物が残ったわけで、何がプラスになるかは分からないものである

烏丸通を渡り、今度は三条通を東へ。東洞院通との角にあるのが日本でもっとも古い郵便局のひとつ、旧京都郵便電信局、現在の中京郵便局だ。1902年に建てられており、一度は取り壊しの話もあったものの、反対運動によって保存が決定。外壁だけを残して内部を新築するという「ファサード保存」という手法で1978年に改修された。歴史的建造物の保存によく使われるようになったファサード保存だが、最初の実施例がここ。建物自体としても、保存の歴史としても価値があるわけだ。

中京郵便局と同じブロックに建っているのが1906年に建てられた旧日本銀行京都支店。現在は京都文化博物館の分館となっており、内部の見学も可能(無料)。設計は前掲の現みずほ銀行京都中央支店、旧北國銀行京都支店と同じ辰野金吾。赤い煉瓦に白い花崗岩をアクセントに使った「辰野式」と呼ばれる意匠が共通している。

文椿ビル。これが木造とは! である京都文化博物館分館。実に堂々とした建物だ。無料で入れるのでぜひ、じっくり見学していただきたい

一般の人でも借りられる、泊まれる建築も

今からは作れないだろう手の込んだ細工も多く、美しい今からは作れないだろう手の込んだ細工も多く、美しい

京都⽂化博物館分館の内部をご紹介しよう。三条通から入ると正面にカウンターがあり、その奥はかつての執務室。現在は約250m2のホールとして演奏会や各種展示などに使われており、予定が入っていない時は一般の人も借りることができる。天井の高い空間で飴色に輝く手すりその他は実にクラシカル。歴史を感じる。奥にある京都文化博物館本館とは中庭を挟んで繋がっており、中庭にはかつての金庫室を利用したカフェもある。

三条通にはこの先にももう1棟、登録有形文化財に指定された辰野片岡建築事務所による建築物がある。1914年竣工の旧日本生命京都支店で、煉瓦造の2階建て。当時のまま現存するのは柳馬場通に面した1スパン分で、1983年に当該部分を残して取り壊され、事務所ビルが増築された。

今からは作れないだろう手の込んだ細工も多く、美しい入り口から現在はホールとして使われている箇所を見る。教会のようにも見える
通り沿いに1スパンのみ残された建物が登録有形文化財となっており、ホテルは背後にある通り沿いに1スパンのみ残された建物が登録有形文化財となっており、ホテルは背後にある

さらにその後、リノベーションを経て2019年には「TSUGU 京都三条 -THE SHARE HOTELS-」としてオープン。ホテル内4階にある宿泊者専用の共用部からは既存建物の尖塔部分が望めるのだとか。このホテルについては記事で紹介しているので詳細はそちらをご覧いただきたい。

ちなみに関西には三条通界隈以外にもいくつもの辰野作品が残されている。日本銀行の京都支店は博物館分館になったが、大阪支店(1903年)は現在も使われており、辰野初の駅舎である大阪府堺市の浜寺公園駅(1907年、登録有形文化財)、奈良県奈良市の奈良ホテル(1909年)、大阪市中央公会堂(中之島公会堂、1918年、重要文化財)、大阪府河内長野市の南天苑本館(1913年、登録有形文化財)はいずれも現役。兵庫県神戸市の現みなと元町駅となっている第一銀行神戸支店(1908年)は外壁保存である。近くまで行った際にはぜひ、足を延ばして眺めてみていただきたい。

今からは作れないだろう手の込んだ細工も多く、美しい奈良ホテル内部。階段の手すりに擬宝珠があるように、ところどころに和の意匠がある

希少な煉瓦造りの店舗建築、家邊徳時計店

全体としてルネサンス風、ところどころに幾何学的な意匠があしらわれている全体としてルネサンス風、ところどころに幾何学的な意匠があしらわれている

さらに東に向かうと、次に現れるのが1916年頃に建てられた旧不動貯金銀行京都支店。木骨煉瓦造地上3階建てで、地下もある。登録有形文化財になっており、現在はSACRAというファッション、雑貨店にバーその他飲食店が入った複合施設として使われている。非常に堂々とした豊かな装飾に彩られた建物で、辰野建築とは違う趣が楽しめる。

さらに進むと右側に見えてくるのが茶色い煉瓦に彩られた家邊徳時計店(やべとくとけいてん)。1890年に建てられた煉瓦造の2階建てで、この地域のランドマークのひとつ。1階外壁の三連アーチや隅に配された花崗岩、柱上部のデザインなど細部にさまざまな飾りがあり、眺めていると時間が経つのを忘れる。

建築当時は3階建てで時計塔が載っていたそうだが、戦後、老朽化のため、3階以上の部分が撤去された。店舗の奥には木造2階建ての居住棟があり、店舗、住居ともに登録有形文化財になっている。住居は京都の住宅らしい和風建築というが、こちらは非公開。

全体としてルネサンス風、ところどころに幾何学的な意匠があしらわれている家邊徳時計店。この周辺には古民家などを利用した店舗が集中している
途中の踊り場から二股に分かれている階段。手すりや床、腰板もきちんと手入れされてきたことが分かる途中の踊り場から二股に分かれている階段。手すりや床、腰板もきちんと手入れされてきたことが分かる

店舗部分には現在はブティックが入っており、外で写真を撮っていたら「中もどうぞ」と見学させていただくことに。入ると右側に一段上がった金庫室があり、その前に2階への階段。当時のままの階段なので傾斜は急だが、手すりなど手入れが行き届いており、材も素晴らしい。

家邊徳時計店は日本最古の時計貴金属商で、創業は1871年。明治の20年代という比較的早い時期に建てられた煉瓦造の店舗建築は現存例が極めて少なく、非常に貴重なのだとか。このまま建物を生かす形で使われ続けて欲しいものだ。

全体としてルネサンス風、ところどころに幾何学的な意匠があしらわれている1階店内。右側に金庫室があり、そこも展示スペースとして使われている 

三条通を変えた1928ビル

ここまで見てきた建物よりは若いが、それでも築90年以上ここまで見てきた建物よりは若いが、それでも築90年以上

家邊徳時計店辺りまでくると寺町通も近く、町家を活用した店舗や、人が増えて賑やかな雰囲気になってくる。その一角に建つのが1928ビル(登録有形文化財)。これまで見てきたビルに比べると少し新しく、昭和生まれの建物である。名前の通り、1928(昭和3)年竣工でもともとは毎日新聞京都支局だった。

設計は関西建築界の父とも称される武田五一。日本にアール・ヌーボーやセセッションなど新しいデザインを紹介したのみならず、法隆寺、平等院などの修復などにも多く関わっていた人である。

1998年に新聞社移転後、新しい所有者の手によって文化拠点としてリノベーションが行われ、1928ビルと改称。現在はギャラリー、劇場、カフェなどが入る複合施設として使われているが、なんといってもこの建物の魅力を伝えるのは地下にあるcafe INDEPENDANTS(アンデパンダン)。

ここまで見てきた建物よりは若いが、それでも築90年以上これまでの建物とは違う意味で目を惹く1928ビル
カフェの入口に掲げられた、カフェ誕生の経緯カフェの入口に掲げられた、カフェ誕生の経緯

鮮やかなタイルの貼られた階段を下りて行った先にあるのは薄暗い、でもパワーを感じる空間。長年放置され、廃墟になっていた場所をアーティストたちが当初の姿に戻し、さらにそこに新しいデザインを付け加えて完成させたもの。一時、進駐軍に占領されていた時に描かれた壁画が部分的に残っていたり、新聞社で使われていた机などが利用されていたりと、歴史の重層性を感じる場でもあり、メニューもワールドワイド。ライブなども行われている。

また、三条通にとってはこの建物の再生が通りの存在が世に発見されるきっかけにもなったと思う。1928ビル以前の三条通は今と違い、古い建物は活用されないままに埃をかぶっており、私は今でもその当時の家邊徳時計店の曇った窓ガラスを思い出せる。だが、1928ビルができたことで古い建物の魅力に目を向ける人が増え、現在ではかなりの建物が使われるようになっている。

ここまで見てきた建物よりは若いが、それでも築90年以上日本ではないような空間。京都も近年は変化してきているが、ここはずっと変わっていない

趣ある町家も複数残されている

ここまで近代の建築を見てきたが、三条通にはそれ以外の建築も点在している。
通常非公開だが、京都市の「京都を彩る建物や庭園」に選ばれ、「伝統的様式木造商家」の指定を受けている旅館・日昇別荘は建物、庭園ともに素晴らしいものと聞く。桃山時代以降、当時の豪商が住み続けてきた土地で、現在本館として使われている建物は残された墨書から江戸時代中期の1788年の築と分かっている。とすると、京都を焼野原にした幕末の蛤御門の変、鳥羽伏見の戦いに残った貴重な建物というわけである。

庭園には室町幕府6代目将軍・足利義教の時代の1436年に作られた石灯籠や鎌倉時代の宝篋印塔があることから、室町時代からあるものとも。コロナ禍で2021年5月以降、ランチ営業をしていたが、9月以降は不定期の営業となる。建物、庭が見たいなら泊まるか、ランチのタイミングを狙うかだろう。

看板がそのままなので、今でも歯医者と思っている人がいるようだが、現在はギャラリーとして使われている建物、庭に蔵も古いものが残っているそうで、宿泊する機会があったら見学してみたいもの
足袋の分銅屋。この一角には他にもこうした建物が残る足袋の分銅屋。この一角には他にもこうした建物が残る

それ以外にも足袋の分銅屋、漆器の西村吉象堂などが街角に掲出された三条通の歴史的建造物案内に記載されており、これを参考に歩いてみるのも手。堺町通を北に向かうと1994年まで酒造メーカー「キンシ正宗」の販売所として使われていた築約100年の町家を改装したホテル「nol(ノル) Kyoto sanjo」も。こちらも記事で紹介されている。それ以外にも古い建物が上手にリノベーションされている例もあるので、左右きょろきょろしながら歩いてみると発見があるかもしれない。

また、三条通と交差する寺町通にも1873年創業のすき焼の老舗「三嶋亭」や1918年創業のバー「サンボア」(神戸で創業、同名のバーは全国にあり、そのうち京都では寺町が最古)など、古い建物があり、歩いて疲れたらこのあたりで一休みも良い。

亀末廣
http://www.kyomeibutuhyakumikai.jp/shop/kamesuehiro.html

「DEAN & DELUCA京都」
https://www.deandeluca.co.jp/ddshop/5002

京都文化博物館分館ホール
https://www.bunpaku.or.jp/exhi_gallery_hall/exhi_hall/

カフェ アンデパンダン
http://www.cafe-independants.com/

京都市「京都を彩る建物や庭園」
https://kyoto-irodoru.com/nakagyo/nisshobesso.html

西村吉象堂
https://kisshodo.jp/

看板がそのままなので、今でも歯医者と思っている人がいるようだが、現在はギャラリーとして使われている街角の歴史的建造物を紹介する掲示。2005年のものだが、大半は残されている

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