地域経済の活性化を目指す、日本最大級の商業リゾート施設
三重県のほぼ中央に位置する多気町に一大商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」が誕生。グランドオープンは2021年7月20日だが、同年4月29日に第一期、続いて6月5日に第二期と、三段階に分けて開業。飲食店、マルシェ(産直市場)、温浴施設、宿泊施設など約70店舗が集結する。
敷地面積は東京ドーム24個分とされる約119ヘクタール。ここを起点にして目指すのは地方創生だ。
風光明媚な多気町は、伊勢志摩など全国から人が訪れる観光地に近いものの日帰り利用が多く、また若い世代の都市圏への流出といった地方都市ゆえの悩みを抱えていた。
それらをビジネスで“解決”するため、同施設を立ちあげたのは、三重県菰野町で複合温泉施設を手がける株式会社アクアイグニス、そしてイオンタウン株式会社、ファーストブラザーズ株式会社、ロート製薬株式会社の4社からなる合同会社。それぞれの社のノウハウに加え、三重県と多気町、地元大学と、産学官が連携。地域の食材を販売し、観光客を呼び、地元での雇用を生むなど、地域経済の活性化を図る。
伝統と革新=日本の伝統的な食や文化と最先端テクノロジーが融合
VISONがテーマに掲げるのは「すべては、いのちを喜ばせるために」。アクアイグニスの社長と本施設を運営するヴィソン多気株式会社の社長を兼務する立花哲也さんに話を伺う機会を得た。
「VISONでは、例えば食ですと漬物や醤油、味噌といった昔ながらのものを扱うお店に出店してもらったり、古くからこの土地で育っている薬草を生かした湯、また建物には木をたくさん使ったりと、極力自然のものを多く集めています。敷地内には自動販売機も置いていないんです。体を整えられる、そういう場所にしたいなと思ったんです」
そんななかで、SDGsの取組みを進める。立花さんの言葉にもあった、木材を使った建物は、伊勢神宮の式年遷宮をモデルに20年に一度、一部の建て替えを計画しており、地域の産業である林業を継続的に支える。施設内のマルシェで売れ残った食材をレストランで再利用して食品ロスの削減を目指す。ほか、県内で余っている生地を買い取ってオリジナルエコバックなどに活用といったことも。
人間の“いのち”だけでなく、地球の“いのち”にも優しいのだろう。その一方で、施設内での自動運転、自立式ドローンの活用、遠隔医療クリニック、キャッシュレス決済などの導入を予定。それらのサービスを一つのIDで監理する「One-ID」の採用も進めるという、最先端のテクノロジーを取り入れる。これにより、施設のある多気町のほか、大台町、明和町、度会町、大紀町、紀北町の周辺6つのまちと連携して、政府のスーパーシティ構想に応募した。
もともとは立花さんのもとに多気町の町長から事業誘致の話があってスタートしたVISON。その名前は、“美しい村”という意味が込められている。取材でお伺いしたのは第二期オープンにあたってのプレス内覧会の日で、まだ工事中の箇所もあったが、まさにひとつの“まち”が誕生したようだった。立花さんはここが「理想のまち」となるよう目指していきたいという。
「日本の良い食や文化と合わせてテクノロジーも使った便利さがあるというのが理想のまち。地域の農産物や海産物の売買で経済がうるおい、雇用も生まれる。まわりのまちとも連携して、地域の人にも喜ばれる、地方創生のモデルになれたら」と話す。
木と楽しく触れ合える体験施設「kiond」
さて、さまざまな魅力があるVISONだが、ここからは地域の森を生かして木育をテーマにした施設「kiond(きおんど)」にしぼってご紹介したい。ここは平屋建ての建物にワークショップの部屋と、子どもが遊べるプレイグラウンド、カフェがあり、建物のすぐ後ろに広がる森でアクティビティを開催する。
kiondを運営する、三重県鈴鹿市に本社を構える株式会社カーゾックの栗林由幸社長にお話を聞いた。同社は1971年に創業し、デパートの屋上遊園地に始まり、いまは全国のショッピングセンター内にある子ども向け遊戯施設を手がけている。
「VISONは三重県の発展を目指す三重故郷創生プロジェクトなので、三重県に本社のある会社と一緒にやっていきたいというお話で、2016年にお誘いいただきました。そのときはいまよりもう少し小さい規模で、遊び場とワークショップができるような場所を趣向して、なにか考えてくれないかと。
2013年ごろに社の中期計画としてたてた、野外活動とサマーキャンプの事業を10年後の実施を目指してちょうど準備しているときでしたので、そこと接点があるのではないかとお受けしました。その後、2017年にVISONの計画が練り上がり、五感を使った遊びと、いのちを喜ばす遊びということを大テーマにすることが決まりました。そのテーマをもとに、話し合いをして、多気町とその近隣は木材の産業が盛んな地域ということから木育をテーマに掲げていこうと決まりました」
そこで、木育の普及を進める隣県の岐阜県に教えを乞い、「民間施設ならではのやれることをしたほうがいい」「立地として、すぐ後ろにある森を生かしていったらどうか」というアドバイスをもらったという。
「民間ならではというと、私たちがこれまでの事業でやってきたように、娯楽性、エンターテインメント性を加味することで興味を持ってもらえるのではないかと。例えば野山のフィールドを歩くとき、この木がどういう素材になるんだとか、どういう虫が来るんだよとか、そういったことを交えてずっと楽しく興味を持って参加できる、エンターテイナーに近いようなインタープリターの方たちがいると普及していくのではと思いました」と栗林さん。
そこを原点に、民設民営ならではの木育施設を目指し、「遊び以上、学び未満」というコンセプトを打ち出した。「木に触れてもらうポータルとして機能するようになっていきたい」と栗林さんは語る。
大人をターゲットにしたワークショップ
「遊び以上、学び未満」のなかで、「木と楽しい体験を」。そんな思いのもとに、人と木をつなぐ手段としてワークショップを開催。kiondが少し珍しいのはメインターゲット層を、30~60代の女性にしていることだ。
「民間の施設ですから、収益は必要で、平日、平月の売り上げを確保しなければならない宿命があります。平日にVISONを訪れているお客様は、30~60代の女性が比較的多いんです。そしてもう一つの理由は、メインターゲット層のみなさんの趣向がクラフトやプレミア消費といった方向に動いてきていること。けれども気軽に習えるところがあまりないんですよね。例えばカルチャーセンターに通うとなると、全3回、全6回と規定があります。われわれのワークショップは1回だけでもいいですし、もっと深くやってみたいとなれば2回、3回目のステップを踏んでもらえればいいという内容です。ターゲット層の方たちにとって、ポータルサイトのような役割が果たせればと思っています。」と栗林さん。
ワークショップは平日と土日で異なるプログラムを用意。土日は、「プロに学び、本当の体験をすること」がコンセプトのプレミアムプログラムで、著名な木工作家、林業家、アウトドアインストラクターなどが講師となる。一方、平日はレギュラープログラムとして、研修で技術を学んだkiondのスタッフが講師となり、気軽に参加できるものに。これは室内のワークショップだけでなく、森を活用したアクティビティも同様となる。
そのアクティビティを行う森は、地元の林業家によって管理。散策道や広場などをつくり、その後も定期的にメンテナンスをしてもらうことで、地域の仕事を守ることにもなる。プロの講師陣も三重県を中心に、奈良県や岐阜県から招き、地域の活性化を図る。
また、森でのアクティビティについて栗林さんは「今年よりは来年の方がより充実した内容になるのではと思っています。整備もどんどん進みますし、プログラムにも磨きがかけられます。昆虫が育ったり、鳥が巣箱に営巣するようになるとか、2年目、3年目にもっと楽しくなるんじゃないかなと想像している」と期待を寄せている。
体験プログラムは定員制のものもあるため基本はウェブサイトから予約することになっているが、当日ふらっと出かけてもできるプログラムも用意されている。
構造材の木をデザインとして生かした建物
VISONの建物は木を多用しているが、kiondももちろんそうだ。床材などには尾鷲ヒノキを、構造材には強度がある国産杉のハイブリッド材を使用。子どもたち用のプレイグラウンドに置かれた遊具や玩具も国産杉や尾鷲ヒノキがふんだんに使われ、木の香りと温もりに包まれた空間となっている。
ひと工夫しているのが、屋根を支える構造材をあえて見せたデザインにしていることだ。「外観や遊具だけでなく、室内でも木を感じてもらいたいと考えていたところ、設計会社さんから構造材のハイブリッド材を見せることで、どのように屋根を支えているんだと知ってもらうのはどうかと提案がありました。建物そのものは鉄を使わず、大きな建物をすべて木で支えているというのがここの売りでもあります。このデザインでそれを感じていただけると思います」(栗林さん)。
入口すぐにあるカフェスペースでは、その構造材に本を置き、ライブラリーカフェとして楽しめるようになっている。
今後、ますます充実した内容に
VISONのグランドオープンでは、宿泊施設も誕生する。栗林さんの会社はサマーキャンプの実施を目指していたが、それもここで実現しそうな予定があるという。
「宿泊施設のなかでも旅籠ヴィソンというところを担当する住友林業さんとコラボするお話が出ています。今夏はオープン直後で忙しいと思いますので、来年本格的に稼働できるのではないかと。また、宿泊者向けのワークショップをパッケージで組みたいというお話もあります」
プログラムも森もこれからの成長とともにどんどん楽しくなっていきそうだ。
取材協力:VISON https://vison.jp/
kiond https://kiond.com/
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