2020年4月、改正意匠法施行

住宅街を歩くと「こんな家に住みたい」と夢を膨らます人もいるだろう。住宅の外観をみていると、「同じような家だな」と思うこともあるのではないだろうか。その住宅同士が同じメーカーや工務店のものなら納得なのだが、一般的な普及されている住宅デザインではなく、特色のある家で設計会社が違うにもかかわらず、同じようなデザインに出合うことがある。

私たちの住まい方・暮らし方志向が多様化する中、各社の努力もあり、住宅はデザインの面からも進化を続けている。
理想の家をつくるために建築家に頼むなど、家づくりにこだわる人もいるだろう。住宅商品もメーカー・工務店各社が機能面だけでなく住宅のデザイン面でも自社内で開発に力を入れている。

物のデザインには意匠権があり、無断でコピーしてしまうと権利を侵すことになるのは周知のとおりだ。だが、過去意匠法の保護対象は「物品」に限られており、実は建築物にはこの意匠権が適用されていなかった。そんな中、2020年 改正意匠法が施行され、保護対象が拡充された。今まで保護対象ではなかった「画像」「建築物」「内装」のデザインについても、意匠権登録ができるようになったのだ。

今回、建築訴訟で住宅の意匠権が一部認められ、住宅デザインの権利を守った事例がある。事例となった判決例について、住宅フランチャイズを全国に展開している株式会社アールシーコアで知的財産権を担当する勝間 康裕氏に話を聞いてきた。

2020年の改正意匠法の保護対象の拡充範囲。特許庁「イノベーション・ブランド構築に資する 意匠法改正」資料より2020年の改正意匠法の保護対象の拡充範囲。特許庁「イノベーション・ブランド構築に資する 意匠法改正」資料より

ハッシュタグ「#ニャンダーデバイス」。インスタグラムから発覚した「ワンダーデバイス」模倣疑惑

アールシーコアは「BESS(ベス)」ブランドで、全国にフランチャイズを展開している住宅メーカー。同社の住宅商品は「WONDER DEVICE」(※以下、ワンダーデバイス)「COUNTRY LOG」「倭様 程々の家」など特色のあるデザインが多い。特徴のあるデザインを中心に多くのファンを持ち、「このデザインの家に住みたい」という顧客が多い会社だ。

その中、今回問題になったのが同社商品のワンダーデバイスのモデル「FRANK(フランク)」だった。2018年7月、その住宅デザインの模倣疑惑は、SNS上でハッシュタグ「#ニャンダーデバイス」とつけられた模倣を指摘する投稿がきっかけだった。その投稿を知った同社のユーザーからの問い合わせメールで発覚した。ワンダーデバイスを購入したユーザーが「加盟店でもなさそうなので、デザインの盗用かと思われますが、問題ありませんか?ワンダーデバイスの住人としては、デザインに思い入れもあるだけに、気になってしまいます」と同社宛にメールをしたのだ。

「私どもの住宅商品を気に入って購入してくださったお客様からでした。見るとほとんど同じデザインの住宅の画像が“これは模倣ではないか”という指摘とともに、複数インスタグラムにアップされていました」と勝間氏。

調べてみると同社のフランチャイズ加盟店ではない会社が、鳥取県内でほぼ同じデザインの住宅を分譲していた。すぐに同社は、販売している住宅会社に即時是正を求めて内容証明郵便で警告文を送ったが、明確な反応はなかったという。
「この分譲住宅は3棟が建築されており、すでに2棟は売却済みとなっていました。ネットで“模倣”との指摘がある中、自社のお客様を守ることもそうなのですが、2棟の購入者に加えて知らずに3棟目を購入してしまう住宅購入者への消費者被害を防ぐためにも訴訟に踏み切りました」

左がBESSのワンダーデバイス「FRANK」。右が今回訴訟となった住宅会社が分譲販売した住宅左がBESSのワンダーデバイス「FRANK」。右が今回訴訟となった住宅会社が分譲販売した住宅

ハードルが高かった住宅デザインの意匠権訴訟

株式会社アールシーコアで知的財産権を担当する勝間 康裕氏株式会社アールシーコアで知的財産権を担当する勝間 康裕氏

ところで、2020年の改正意匠法までこのような住宅デザインの意匠権問題はなかったかというと、そうではない。
大手住宅メーカーの設計住宅にもそういった模倣被害はあったという。

「調べてみるとこういった住宅の権利範囲はそもそも曖昧で、今まで建築訴訟で著作権法違反(※意匠権が適用されていないため)被害を認定した例がほとんどないことが分かりました。一部、店舗デザインの類似でコメダコーヒーさんの店舗とそっくりな喫茶店が不正競争防止法の観点から営業使用禁止の仮処分命令を受け、和解した例がありました。しかし、住宅や建築物については今まで大手住宅メーカーさんも訴えをおこすものの、“建築の著作権”侵害について認められたケースがないという状況でした」と勝間氏は話す。

住宅建築は芸術性を有するものとはいえないため、あきらかな模倣であるケースであっても、今までは著作権の侵害にはあたらない、という判断がされていたようだ。

「私どももそうですが、各社住宅にかかわる企業は機能性だけでなく住宅のデザインにも工夫を凝らし、良い商品を作り出していこうという思いで取組んでいます。時間も費用も掛かるこの住宅商品の開発・設計を、模倣という安易な方法で知らないユーザーに売ってしまうことには、業界全体のコンプライアンス観点からも憂う気持ちもありました」

“困難な戦いになるかもしれない……”、そう思いながらも、勝間氏は住宅各社にも話を聞くとともに根気よく法律を調べ、この問題に向き合ったという。

ワンダーデバイスの事例は、部分意匠権の侵害が認められた初の裁判例に

2018年8月、アールシーコアは被告住宅会社を相手取り、意匠権に基づく仮差押えと販売差し止め、損害賠償を求めて、東京地方裁判所に提訴した。被告の住宅会社は当初裁判で全面的に争ったが、ワンダーデバイスの部分意匠権が認められる方向で進み、裁判中に模倣部分の改修・撤去を余儀なくされている。

2020年11月、東京地裁は意匠権侵害を認める判決を下し、アールシーコア、被告会社ともに控訴はせず判決は確定。
この判決は、住宅建築の意匠権(部分意匠)が認められた初の事例となる。

「認められた損害賠償については模倣部分の改修・撤去を前提に“被告の侵害行為の利益へ及ぶところの損害は10%程度”ということになりました。訴訟を起こしてからの2年間という時間や、もろもろの費用・お客様への想いなどを考えるともちろん全面的に納得のいくものか、というとそうではないです。しかし、今まで認められることのなかった住宅デザインの権利が一部でも認められたことで、この裁判は意義のあったことだった、と感じています。この勝訴事例が、住宅デザインの模倣の歯止めになれば、と思っています」と勝間氏は言う。

アールシーコアが保有する意匠権(意匠登録第 1571668 号)と被告商品とは、住宅
商品として物品の用途及び機能が同一の関係にあり、物品の形状等についても類似の関係にあるとして、その販売等の行為は意匠権侵害に当たると判断されたアールシーコアが保有する意匠権(意匠登録第 1571668 号)と被告商品とは、住宅 商品として物品の用途及び機能が同一の関係にあり、物品の形状等についても類似の関係にあるとして、その販売等の行為は意匠権侵害に当たると判断された

買う側も気を付けたい「住宅の意匠権」

アールシーコアの意匠権が認められた部分は、ワンダーデバイス「FRANK(フランク)」の外観、建物正面の縦横に二重にはしる柱とベランダの部分の梁の「部分意匠」である。

被告側の住宅会社はこのデザインの住宅分譲を3棟建てていたが、未販売の1棟は二重の柱と梁の模倣部分の柱を撤去し、2棟はすでに販売済みであったため住宅購入者の理解を得て、同様に柱を撤去し梁のみに変更することになったという。
住宅購入者からすると「模倣住宅を買ってしまったために、後日外観のデザインを変更されてしまった」ということになる。完成されたデザインを少しでも変更すれば、多少なりとも住宅の印象は変わってしまうだろう。

ワンダーデバイスの意匠権が認められるまで、訴訟はおよそ2年かかったワンダーデバイスの意匠権が認められるまで、訴訟はおよそ2年かかった

この事例を考えると、住宅購入者である私たちも気をつけなけらばならないことが多い。
住宅デザインを雑誌やネットで見つけて安易に「これと同じデザインで家を建ててほしい」とオーダーしてしまうことはないだろうか。権利関係をしっかり調べた上で、本当にそのデザインの住宅が欲しいのであれば、権利をもつ住宅会社に頼むことがのぞまれる。

今回は分譲住宅であり、それも知らなかったという住宅購入者もいるだろう。どちらにしても権利者を侵害する行為に知らずに加担してしまうことのないように、また自身のせっかく手に入れた住宅がコピーということがないように十分に気を付けたい。

2020年4月に施行された改正意匠法は1年が経過したが、新制度に変更されてからの建築物の登録出願件数は大手住宅メーカーを中心にゆうに100件を超えているという。
欧米では既に建築物・内装ともに認められ保護されている権利、私たちの国でも今後、しっかり根付くことを期待する。

■取材協力:アールシーコア https://www.rccore.co.jp/