iDeCo(イデコ)の運用開始までのステップ
当コラム「iDeCo Vol.2」では、iDeCoの手順を理解し、運用開始までの準備を整えることを目標にしたい。すでに、「iDeCo Vol.1」にてiDeCoが私的年金の制度であること、税制メリットがあるゆえに拠出額に上限が設けられていること、その限度額は個々が加入する年金制度によって異なること、などとともに、iDeCoの改正内容についてもおおむねご理解いただいているとの前提で話を進めさせていただく。
(参考)iDeCo 個人型確定拠出年金の基礎知識。何がメリット?誰にメリット?iDeCo Vol.1
https://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_01131/
●iDeCoのステップ
iDeCoの申し込みから運用開始までの手順は大きく3ステップだ。
①加入の申し込み ②運用商品の選択 ③掛金の拠出
実にシンプルである。だが、なかには面倒なものも慎重に選択したいものもある。①加入の申し込みにも、②商品選択にも、情報収集と比較検討が欠かせない。3ステップを肉付けすると下記のとおりとなる。
【運用開始までのステップ】
情報収集・比較検討⇒金融機関の選択⇒運営管理機関(金融機関)へ資料請求⇒申込書の送付⇒iDeCo専用口座の開設⇒拠出額の決定⇒運用商品の選択⇒拠出(運用)開始
第1ステップの「①加入の申し込み」では、金融機関を決定してiDeCoの専用口座を開設するのだが、iDeCo口座は1つしか開設できないため、自分に最適な金融機関を選ぶことが、大変重要となる。
iDeCo(イデコ)の運営管理機関(運管)とは
iDeCoは、自分で決めた掛金額を積み立てながら運用していく仕組みだが、iDeCoの専用口座は、「運営管理機関」へ申し込み、開設する。ここまでが第1ステップとなる。
「運営管理機関(以下、運管)」とは、厚生労働大臣、および金融庁長官または財務(支)局長の登録を受けた、確定拠出年金の運営管理業務を実施する機関のことで、運用関連業務を行う「運用関連運営管理機関」と記録関連業務を行う「記録関連運営管理機関」がある。2021年2月2日現在、 運営管理機関登録業者は220社ある。
運管の業態は、都市銀行、地方銀行、信託銀行、信用金庫、労働金庫、証券会社、保険会社、投信会社などさまざま。200超の金融機関がiDeCoに対応しているが、その対象商品や手数料は金融機関によって異なっていて、1機関を選ぶのは少々面倒そうだ。「手数料が安いからと口座開設したが、投資したい商品の取り扱いがなかった(少なかった)」ということは避けたい。運管選びの段階で、商品選びが始まっていることを肝に銘じ、情報収集に努めよう。
運管選びのポイントは、商品ラインナップとコスト。これに尽きる。
申込み手続のオンライン化、スタート
情報収集や口座開設資料の申し込みは、各金融機関のコールセンターまたはホームページから行う。口座開設の際は、届いた「加入申出書」に必要事項を記入して金融機関へ郵送。金融機関は、受け取った加入申出書等の書類を国民年金連合会へ郵送するという流れだ。インターネットでの申し込みはおろか、金融機関の窓口ですら申し込みができない。とにかく時間を要する面倒な手続きなのである。
さらに、国民年金第2号被保険者(厚生年金に加入する会社員や公務員)は、勤め先に「事業主証明書」を記入してもらい、申出書と一緒に提出しなければならない。必要なこととはいえ、これも物理的、心理的ハードルを上げる要因だといえる。
だがやっと、2021年1月からオンラインによる加入申し込みが一部の金融機関で可能となった。業界最大の口座数を持つSBI証券や同第2位の楽天証券が先行する。手間や時間の削減のほか、記入漏れや記載ミスなども事前にチェックでき、効率的だ。オンラインに慣れた年齢層にとっても、加入手続きの負担が大きく軽減されるに違いない。
なお、社会保障審議会企業年金・個人年金部会(2019年12月25日)の参考資料によれば、運管が行う各種の手続きは、運管ごとに、①現行の紙による手続きとオンライン手続きの併用、②オンライン手続きのみ対応、③現行どおり紙による手続きのみ、のいずれかを選択できるとある。iDeCoに加入した後の手続きも、オンラン化の範囲が徐々に増える予定だ。期待したい。
では、「iDeCo口座を開く」ステップからみていこう。
加入の申込み(iDeCo口座の開設)/運管選び・コスト編
「加入の申し込み」ステップは、iDeCoの専用口座を開設することであり、それはすなわち「運管選び」ということだ。先に述べたとおり、運管ごとに取り扱う運用商品や手数料が異なるため、運管選びのポイントは、商品ラインナップとコストだと言える。iDeCoは長期運用が前提のため、ランニングコスト(手数料)が非常に重要だ。コストからみていこう。
手数料については、iDeCoに関わる登場人物を知るとわかりやすい。iDeCo劇場の主な登場人物を見てみよう。
●iDeCoのコストに関わる登場人物
【a.申込者(加入を希望する者)=国民年金被保険者(第1号・第2号・第3号)について】
iDeCoは、国民年金保険料を支払っている被保険者でないと、加入できない。国の年金制度の基本となる国民年金に加入し、さらに上乗せで加入するのが確定拠出年金という位置付けだ。
仮に、国民年金の保険料未納の月が発生すると、当該月のiDeCoの掛金は加入者に還付され、運用に回らない。還付されるなら痛手は少ないのだが、その際、還付手数料1,488円が還付金から差し引かれる。せっかくの節税効果が消滅しないよう留意したい。
(参考)
1.「国民年金第1号被保険者」⇒自営業者等
※農業者年金の被保険者、国民年金の保険料免除者を除く。
2.「国民年金第2号被保険者」⇒厚生年金保険の被保険者
※企業型年金加入者においては、企業型年金規約において個人型年金への加入が認められている者に限る。
3.「国民年金第3号被保険者」⇒専業主婦(夫)等
(注)「iDeCoに加入できる人」については、「iDeCo Vol.1」を参照のこと。
iDeCoの登場人物を把握したら、iDeCo劇場をはじめよう。
●iDeCo劇場
iDeCo劇場を3つの場面で確認する。
▶申し込み時
資料請求によって手元に届いた「加入申出書」は、必要事項を記入後、「申込者⇒運管⇒国民年金基金連合会(以下、「連合会」)」と送られる。連合会で加入資格等の確認・手続きが行われ、連合会から各種通知書が加入者へ郵送される。
▶拠出時
加入者の拠出金は、「申込者⇒(運管)⇒連合会⇒事務委託先金融機関(信託銀行等)」と運管を経由して送金され、事務委託先金融機関にて積立金の管理、保全がなされる。
▶運用指示
どの商品にどのような割合で拠出し運用を行うかという運用指示は、「申込者⇒運管⇒事務委託先金融機関」と発信され、指示に基づいて事務委託先金融機関が商品を購入する。
上記のとおり、各登場人物は委託という関係のもと、iDeCo劇場のフローを構成する。他者に業務を委託すれば対価が発生する。これが、iDeCoのコストだ。
iDeCo加入者(拠出者)が負担する手数料等
次に、iDeCo劇場の場面ごとに、加入者が支払う手数料を登場人物ごとに整理する。
▶国民年金基金連合会
加入時に2,829円。拠出時に月額105円(毎月拠出する場合)。
▶運営管理機関
運管によって差が生ずる。iDeCo大手を中心にゼロ円とする運管は少なくないが、200円台や300円台というところも多い。「運管選び・コスト編」の重要チェックポイントだ。
▶事務委託先金融機関
管理手数料として、月額66円。
なお、運用商品に投資信託を選択すると、商品ごとに信託報酬等の諸費用が発生する。信託報酬を除くと、最低コストは「加入時2,829円+運用時2,052円・(105円+66円)×12ヶ月)」。このコストで税制上のメリットを受けられる。手数料を支払っても節税効果でメリットがあるならば、定期預金を選択し、超低金利だが安全に積み立てるという選択もできそうだ。
だが、運用期間を長期で確保できる若年層加入者は、リスク許容度が比較的高いため、「それではもったいなぁ」と筆者などは考えてしまう。年齢を重ねて運用期間が短くなり、リスク許容度が下がってくれば安全資産へのシフトは必然だが、それまでは無理のない拠出額で投資信託にもチャレンジしたい。投資信託は、比較的値動きの少ないタイプもありさまざまだ。自身の運用スタイルに適した運用商品を探してみよう。
●その他の手数料
当コラムでは、掛金を拠出する加入者を主役に述べているが、拠出期間が終了し、掛金の拠出を行わずに資産の運用の指図のみを行う「運用指図者」も、運管への手数料と事務委託先金融機関への管理手数料の支払いが必要だ。さらに、給付金を受け取る際も、送金の都度、事務委託先金融機関の手数料440円が給付金から差し引かれる。
上記のほか、他の確定拠出年金または確定給付企業年金へ移換する際や他の運管へ変更する際も、別途手数料が必要。手数料は資産から控除されるため、拠出中だけでなく拠出終了後もコストを意識したい。
●手数料チェック時の注意点
iDeCoのコストを見てきたが、例えば、運管の手数料が月額300円ならば、年間で3,600円。10年間で3万6,000円。コストが時間の経過によって膨れ上がるのは、節税効果が積み上がるのと同じ理屈だ。
運管選びにおいて手数料の低さは重要ポイント。だが、決して安さだけではない。下記の点も要チェック。トータルで判断することが、納得の運管選びとなる。
▶手数料ゼロ円の条件vs有料であるゆえんのサービス内容
運管によって、「条件付きで手数料ゼロ円」「期限付きで手数料ゼロ円」というところもあれば、手数料はゼロ円ではないが、「旅行やスポーツクラブ、レジャー・生活・育児・介護などのサービスを会員価格で利用できる特典付き」などのところもある。特典に惹かれて選択するのは本意ではないが、自分にとってのメリットを考えるのもよいだろう。
・自分に適したサポート体制であるか否か
iDeCoは運用開始まで手間暇がかかる。めげそうになったときに頼りになるのが、コールセンターやホームページだ。疑問や不安が生じるのは、運用後も同じ。コールセンターやホームページ上のQ&A、チャットやチャットボット機能など、いつでも気軽に質問や疑問を解消できる体制の有無を確認しておきたい。自分にとっての使いやすさが重要だ。
この項では手数料について見てきたが、手数料は登場人物の業務の対価として生じるものだ。感謝して支払いたい。ゼロ円だと言われると、どこで賄っているのだろうかとつい気になってしまう。次項は、「運用商品」について。「運管選び・商品ラインナップ編」と「運用商品の選択」を見ていこう。
運用商品の選択
●運管選び・商品ラインナップ編
運管によって、取扱商品が異なるため、運用商品にこだわりや希望がある場合は、事前確認が必要だ。iDeCoの申し込みが完了してから運管の商品ラインナップを確認することは、何としても避けたい。
iDeCoの運用商品は、「元本確保型」と「それ以外(投資信託)」に大別される。運管が選定・提示する運用商品は、「リスクやリターンの性質が異なるものを3つ以上とし、運用商品数の抑制のため35以下」と定められている。ただし、2018年5月1日時点において商品数が35を上回っている場合は、同時点の商品数が5年間、認められている。将来に除外予定のものは、その旨が表示されているので注意しよう。
・運用スタイルや優先事項を明確に
「性質が異なるものを3つ以上」とはいえ、例えば、「個人年金を積み立てたい」「不動産投資信託を選びたい」「低コストで世界分散を図りたい」となると運管を選ぶ必要がある。iDeCoをどう活用したいのか、希望を明確にしておこう。
●商品選びの前に、資産運用の学びを
iDeCoの運用商品のうち「元本確保型」には、定期預金や積立年金などが提示される。これらは比較的なじみのある商品ではなかろうか。では、「元本確保型以外」に分類される「投資信託」はどうだろう。
▶投資信託とは
前項の手数料の箇所でも言及した「投資信託」は、元本保証のない金融商品だ。投資家から資金を集めて1つの基金(ファンド)を構成し、運用の専門家が運用方針に基づいて株式や債券などに投資し、運用する。その運用成果が投資額に応じて投資家へ分配される仕組みだ。
▶自己責任
投資信託の運用がうまくいかなければ、拠出額を下回る可能性もある。運用結果は、自分で引き受けなければならない。それが、「自己責任」だ。肝に銘じておこう。
▶リスクと長期分散投資
だが、怖がってはいけない。投資は博打ではないのだ。
投資信託の運用成績は、市場環境や経済情勢などさまざまな要因によって変動する。想定外のこともあるだろう。この「増えるかもしれないし、減るかもしれない」という運用結果のブレ幅を「リスク」と言う。リスクは時間をかけることによって、ブレ幅を縮小できる可能性が高まる。一定額を長期に積み立てながら運用するiDeCoは、時間分散によるリスク低減において理にかなっている。
加えて、iDeCoは市場動向を見ながら運用商品を変更したり、分散したりすることも可能だ。iDeCoを検討中のあなたの投資スタイルはおそらく、今日、明日に結果を求めるものではないはずだ。ゴールは60歳以降、あなたの投資期間は何年になるだろうか。時間や対象を分散させ、運用期間を最大限に生かしたい。
価格の変動要因とリスク許容度
投資信託の運用成績に影響を与えるものは、何だろう。
投資信託は、投資対象である株式や債券等の値動きにより基準価額が変動する。基準価額とは、日々算出される投資信託の値段のことで、投資信託1口当たりの資産価値のことだ。
基準価額に影響を与える事柄を「リスク要因」と言うが、「金利リスク」「為替リスク」「信用リスク」「価格変動リスク」「インフレリスク」「地政学リスク」「気候変動リスク」などがあって、互いに影響し合うため厄介だ。
個別に見てみると、例えば、日本円で運用される投資信託は、外貨建てのものよりも為替リスクの影響は小さかろうと想像できる。一方、トルコリラで運用される投資信託は、世界の基軸通貨である米ドルのものより為替リスクは高そうだ。勘違いしたくないのは、ハイリスクを許容したからといって、必ず大きな利益が得られるとは限らないという点である。
損失は自分の資産に反映される。想定外のことが起っても、日々の暮らしに影響がなく、時間をかけて挽回ができる、そのような範囲がリスク許容度の目安だといえる。
▶運管選びや商品選びを他人任せにしない
まずは、iDeCoの仕組みを理解し、資産運用に関する基礎知識や商品知識を身につけよう。金融機関選びや商品選びは、他人任せにせず取り組みたい。加入者の中には、iDeCoを元本保証型でスタートし、資産運用を学びながら投資信託へシフトしていく、そのようなケースもある。目標を持つことが大切だ。
規約では、連合会や業務を委託された運管に対し、加入者への資産運用の基礎知識や金融商品の情報提供を求めている。下記にその主な項目を列挙した。金融商品選びのチェックポイントとしても参考になる。
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【加入者への情報提供項目(一部)】
▶金融商品について
仕組み・特徴・種類・期待リターン・想定リスク・価格変動要因・過去10年間の利益と損失の実績・手数料、など
▶資産運用について
リスクとリターンの関係・長期運用の考え方とその効果・分散投資の考え方とその効果・長寿化を踏まえた老後の資産形成や運用目標の考え方、など
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