自治体担当者の視点から防災を考える

リモートで基調講演を行う大西一史熊本市長リモートで基調講演を行う大西一史熊本市長

震度7の揺れに2回も襲われた2016年の熊本地震。球磨川などが氾濫し、人吉市や球磨村を中心に多くの犠牲者を出した2020年の「令和2年7月豪雨」。近年、大きな災害に見舞われた熊本では、どのように対応し、何を教訓として学び、今後に備えているのか。

主に行政担当者の視点から防災を考えるセミナーが、「熊本市長が語る『Withコロナ時代の防災対策』 令和2年7月九州豪雨災害の教訓」として行われた。

何から手をつけていいかわからなかった熊本地震の発生時

基調講演をリモートで行った熊本市長の大西一史氏は、熊本地震の発生当時について、市の災害対策本部で指揮を執っていたが、大混乱の中で何から手をつけていいかわからず、各自治体が用意している「地域防災計画」なども読む時間がなかったと振り返った。復旧に向けた活動を行ううえで参考になったのが、阪神・淡路大震災や東日本大震災などの過去の災害の記録だった。神戸市や仙台市など被災した自治体が作成したものだ。大西氏は、こうした被災の記録や地域防災計画は平時に読んでおくべきと言い、被災の状況や復旧に向けた活動などは詳細に記録し、伝承することが重要としている。

熊本地震で受けた支援から大西氏が気づいたのは、「自助、共助、公助はどれもが大切で、それぞれが支え合うようにすること」だった。災害の発生時には、自分で自分の身を守る自助が大切だ。水道やガスなどライフラインの復旧には、共助のネットワークが活躍。各地のガスや水道関係の団体や企業が参加した。そして、自衛隊や災害派遣医療チームのDMATなどの公助も充実していた。「さまざまな災害を経験する中で、日本の災害対応力は向上しています」と、大西氏は評価している。

「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント 国土交通省 住宅局資料「建築物の被害の状況」より<br>2016年4月14日と16日に発生した熊本地震では、甚大な被害が発生した「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント 国土交通省 住宅局資料「建築物の被害の状況」より
2016年4月14日と16日に発生した熊本地震では、甚大な被害が発生した

支援される側から支援する側に熊本市がなった「令和2年7月豪雨」

一方、「令和2年7月豪雨」では熊本市は、支援を受ける側から支援する側になった。災害発生直後に、2018年に創設された「被災市区町村応援職員確保システム」に基づいて、災害マネジメント総括支援員などからなる「総括支援チーム」を、人吉市に派遣。災害対応に関して、市長にアドバイスしたり、幹部職員と活動の調整を行ったりしたほか、現地のニーズの把握などにもあたった。なお、災害マネジメント支援員には、災害対応に関する知見を備えていることが求められている。総括支援チームに続いて、避難所の運営や罹災証明の発行、家屋の被害調査など、多様な業務を支援する職員を派遣。その数は10月末までに延べ5,000人に達している。

被災した人吉市などの熊本県南部地域には、熊本県をはじめ、自衛隊や気象台など、さまざまな関係団体が集まることになる。その中で円滑な活動が行われるポイントとして、大西氏は「支援活動の中心となる都道府県と市区町村との連携」を上げ、「重要なのは首長同士が普段から関係づくりをすることで、それによって職員も動きます」と強調した。

令和2年7月豪雨による土砂災害発生状況 国土交通省資料より<br>令和2年7月豪雨では、熊本県内で225件の土砂災害被害が発生した令和2年7月豪雨による土砂災害発生状況 国土交通省資料より
令和2年7月豪雨では、熊本県内で225件の土砂災害被害が発生した

災害とコロナ禍に対するそれぞれの自治体の取り組みとは

上/静岡会場の鈴木・田辺両市長<br>下/リモートで参加の濱口和久拓大教授上/静岡会場の鈴木・田辺両市長
下/リモートで参加の濱口和久拓大教授

今回のセミナーは「先進地方議員Webセミナー&静岡大会」を兼ねていることから、後半では、静岡会場の静岡市長の田辺信宏氏、浜松市長の鈴木康友氏と、大西氏、拓殖大学大学院特任教授・防災教育研究センター長の濱口和久氏をリモートで結んで、パネルディスカッションが行われた。

大西氏の基調講演を踏まえて、田辺氏は、災害に立ち向かうにはサッカーと同様に、個の力と組織の力を合わせることが必要で、連携やネットワークが重要とした。鈴木氏は、浜松市でも土砂災害が頻発していることから、公助で対応するだけでなく、共助の仕組みづくりが必要と話した。濱口氏は「想定外」の被害をなくすためには、地域防災計画を自治体のすべての職員が読む必要があるとし、大西氏も、地域防災計画には地震や風水害などへの対応が詳細に記載されていて、想定外はほとんどないと思われるので、平時に読んでおくことが大切になると改めて訴えた。

また、コロナ禍における避難所のあり方について、鈴木氏は3密を避けるために、避難所の数を増やすことに今から取り組んでいると紹介した。田辺氏は、どの避難所も一律に同じ物資を備蓄するのではなく、それぞれの避難所に必要なものを配備する分散備蓄を進めていると説明。限られた財源を効率よく使う工夫が求められているとした。大西氏は、2020年の台風10号に備えて、濃厚接触者などが入る保健避難所を設けたと説明。プライバシーの問題もあるので、非公開にしていると話した。濱口氏は、防災、減災に、災害を知る「知災」、災害に備える「備災」の4つの取り組みで対応することを勧めた。

自治体間の連携と人間関係の構築が、最も大切な災害対策

静岡会場静岡会場

パネルディスカッションの締めくくりとして、大西氏は、災害や支援活動などに関する情報を正しく受発信するために、自治体や議員のメディアリテラシーを高めることを提案。また、大西氏と鈴木氏は、民間の知恵を活用することや、官民協働の体制づくりがこれからは重要と展望した。田辺氏と濱口氏は、コロナ禍で避難所を運営した熊本市の経験を全国の自治体で共有することを呼びかけた。コーディネーターを務めた前新潟市長の篠田昭氏は、災害対策においては、自治体間の連携、ネットワークづくりが重要で、そのためにも、普段から人間関係をつくることが、最も大切とわかったと総括した。

防災のポイントが、新しい技術や設備の導入などではなく、極めて基本的な人間関係の構築にあることに、意外な印象を受けると同時に、災害時の混乱した状況の中で、さまざまな支援の要望に応え、関係機関と調整する難しさが想像できるセミナーだった。一端とはいえ、自治体の首長の本音がうかがえる貴重な機会にもなった。
また、一般社団法人災害時電源等派遣互助協会の代表理事でもある篠田氏から、同協会が進めている電気自動車などによる被災地の電源支援、「Pawer Aid Japan」の解説も行われた。

公開日: