「住む」に焦点をあてた、建築家たちの戦後日本の建築

展示内は天井高を利用した写真タペストリーや11の大学と協力をしたという模型も展示されている。写真は毛綱毅曠の反住器の展示展示内は天井高を利用した写真タペストリーや11の大学と協力をしたという模型も展示されている。写真は毛綱毅曠の反住器の展示

2014年8月17日、埼玉県立近代美術館で開催されている「戦後日本住宅伝説~挑発する家・内省する家」を取材してきた。
この展覧会は、戦後の都市化が急速に進み、生活スタイルや工法・建築素材も変化していく中、とくに「住む」に視点をあて、プライベートである住空間に個々の建築家がどう取り組み解答を出そうとしたのかを共に探ろうとするもの。

一般的に美術館に足を運ぶのは絵画など「本物の作品」に出会えるからであるが、建築という分野の展示は難しい。実物をそこに再現できればよいのであろうが、複数の展示であればそうはいかない。模型と部屋の写真、図面だけの展示であることも多く、建築に詳しい人間であれば想像力を駆使して疑似体験することが可能なのかもしれないが、なかなか一般の私たちには高度である。ただ、今回の企画展は展示にたいへん工夫がされており、建築ファンならずとも興味深く見ることができた。
時代に沿って建築家が何を視点にしたのかがわかりやすい作品の説明文、ギャラリーの天井高いっぱいの写真タペストリー、一部床をつかった実物大の図面、建築家本人が語るビデオや当時の住宅映像、そして11の大学が協力してくれたという模型と思索の跡の見える図面…作品ごとに区切られた空間で、疑似的ではあるが身体的に"体験"に近い感覚で作品を味わうことができる。

50年代から70年代までを紹介するこの展示会の紹介作品は、16名16作品で以下の通り。

住居/丹下健三、コアのあるH氏の住まい/増沢洵、私の家/清家清、新宿ホワイトハウス/磯崎新、スカイハウス/菊竹清訓、塔の家/東孝光、白の家/篠原一男、水無瀬の町屋/坂本一成、虚白庵/白井晟一、松川ボックス/宮脇壇、反住器/毛綱毅曠、中銀カプセルタワービル/黒川紀章、原邸/原広司、幻庵/石山修武、中野本町の家/伊東豊雄、住吉の長屋/安藤忠雄

有名作品含め、いずれも一見の価値のある作品群であった。

16人の建築家たちの、挑戦する家・内省する家

黒川紀章のカプセルが、埼玉県立近代美術館の敷地内に置かれており、中をのぞけるようになっている黒川紀章のカプセルが、埼玉県立近代美術館の敷地内に置かれており、中をのぞけるようになっている

展示は、1953年の丹下健三の自宅<住居>に始まる。住宅を設計することがほぼなかった丹下の自邸である。高床式の建物のようにピロティによって持ち上げられた空間は日本古来の神殿をおもわせる佇まいで「美しいもののみ機能的である」と唱えたその思想を具現化しているようである。すでに現存はしていないが、その部屋の様子を写した写真にある同じ椅子が展示されており、あたかもその空間が蘇ったように演出されていた。

増沢洵、清家清の日本的な空間の再解釈の建築展示を経て、時代を背景にさらに色濃くそれぞれの建築家の考えが住宅に投影される。東孝光の<塔の家>は、たった6坪でも郊外より都市に住むことを選んだ住居である。展示では、床に原寸大のキッチンの図面が敷かれ、その小ささを体感できる。展示物唯一の集合住宅である黒川紀章の<中銀カプセルタワービル>は72年の作品であるが、今でも近未来的な外観であり、その中は宇宙船のように機能のみ残した奇妙な清潔さが漂う空間であった。この住居ユニットのひとつのカプセルが、埼玉県立近代美術館の敷地内に置かれており、中をのぞけるようになっている。

「住居に都市を埋蔵した」住宅である原広司の<原邸>、石の壁に遮断され音さえ聞こえない空間に沈んだ光と静けさが見える白井晟一の<虚白庵>、どこかしら昆虫をおもわせる石山修武の<幻庵>、外からの隔絶と内なる光の演出が印象的な伊東豊雄の<中野本町の家>、安藤忠雄の原点といわれる<住吉の長屋>…。

すべての展示物をここでは紹介できないが、16人の建築家たちが住み手と都市を視野に入れながらも「住まいとは何か」に向かい合いながら奮闘した熱のようなものを感じることができる。
何故、この展示会のサブタイトルが「挑戦する家・内省する家」なのかがよく伝わる展示となっている。

原広司 × 西沢立衛、両氏による時代の空気も感じる貴重な対談

原広司氏と西沢立衛氏の対談の様子原広司氏と西沢立衛氏の対談の様子

今回(2014年8月17日)、展示会の一企画として、展示作品にも取り上げられている原広司氏と、妹島和世との建築ユニットSANAAで知られ、自身でも多くの建築賞を受賞している西沢立衛氏の対談があった。
対談は、原氏の丹下氏との交流や学生時代の貴重な話を交えながらざっくばらんに始まった。その後、今回の展示会の作品群の建築家たちに話がおよび「日本の建築はいったいなんであるか」に向かってそれぞれの道を模索してきた話でエピソードを交えながら話され、大変興味深かった。

また、最後には原氏が世界中で撮りだめてきた集落の写真を見ながら、「世界中の集落が永続的に様々なことを解決してきていることを考えると、日本の住宅(建築)が忘れてきた問題や課題について、今後を考えるきっかけになる」というような話もあった。

原氏からは、「今回の展覧会は、本当に体験ができるように工夫されている。出品者としてお礼を申し上げたい」という言葉もあり、まさに充実した展覧会であることわかる。

埼玉県立近代美術館ほか、広島・松本・八王子でも開催予定

埼玉県立美術館専門員兼学芸員の伊豆井秀一氏。今後は70年代以降の建築に焦点をあてた企画展も検討していきたい、と抱負を語られた埼玉県立美術館専門員兼学芸員の伊豆井秀一氏。今後は70年代以降の建築に焦点をあてた企画展も検討していきたい、と抱負を語られた

今回の企画展について、埼玉県立美術館の学芸員である伊豆井秀一氏にお話を伺った。

「埼玉県立近代美術館は"建築専門"の美術館ではありませんが、以前『都市を創る建築への挑戦』という企画展を開催しています。都市の景観をつくりだすものとして大規模建築を取り上げた企画展でしたが多くの方々から反響を得て、協力も得られたことから、今回は"住宅"それも戸建てを中心に展示を考えました。一番苦心した点は、いかに見る方々に疑似体験をしていただけるかということでしたね。天井までの写真タペストリーや各大学に協力をいただいて再現した模型など展示の仕方を工夫しました」

なぜ、50年~70年代の作品を取り上げたのかという質問に対しては
「戦後、時代・世相が変化する中、建築家の都市と人・住まいの考え方が変化した一区切りでもある、と考えたからです。サブタイトルの通り、建築家たちが挑戦し、内省し、住まいに対して考え続け変化し続けた軌跡が見て取れると思います。今は、CADや簡単なソフトで描けてしまうのですが、何度も修正を加えた建築家たちの苦悩や思索の跡がにじんでくる図面も見どころですよ」と語ってくれた。

今回の展覧会は、埼玉をはじめ4つの美術館で開催される。スケジュールは以下の通り。

埼玉県立近代美術館 2014年7月5日(土)~8月31日(日)
広島市現代美術館  2014年10月4日(土)~12月7日(日)
松本市美術館    2015年4月18日(土)~6月7日(日)
八王子市夢美術館  2015年6月中旬~7月中旬(予定)

戦後日本の建築家が、時代と住まいと都市に向かい合い、挑戦をした軌跡…あまり難しく考えず、贅沢に「住まう側の目線」から体験してみてもおもしろいと思う。ぜひ、足を運んでほしい。

2014年 08月22日 11時03分