森林について学ぶ専修学校内に誕生した施設

岐阜県岐阜市に木育施設「ぎふ木遊館」が2020年7月にオープンしたことを先の記事(「森林率全国2位の岐阜県に木育施設『ぎふ木遊館』がオープン」)でご紹介したが、その兄弟施設ともいえる「森林総合教育センター:愛称morinos(モリノス)」も同月に誕生した。

morinosは岐阜市から北東へ向かった美濃市にある。美濃市は、ユネスコ無形文化遺産の「美濃和紙」や、国重要伝統的建造物保存地区となっている「うだつの上がる町並み」などでも知られるまちだ。

ぎふ木遊館と同じく岐阜県の施設であるmorinosは、森林や木材に関わる人材を育成する専修学校の岐阜県立森林文化アカデミー内にある。morinosは、”森“の中にある”巣“を意味する。

「子どもが遊べる、そして大人も森と近づけて楽しめる場所です」と教えてくださったのは、同所のスタッフである技術主査の鈴木知之さん。

県土の8割が森林という岐阜県。「自然が多い岐阜で育った人が、岐阜っていい場所だよと言ってくれるような大人になってもらいたいんです。もし仮に名古屋や、東京、大阪に出たときにも岐阜のことを好きでいてもらいたい。そのためには、日常の中で山や川など全国に自慢できる自然で楽しんだ経験があるというのが何より大事だろうなと思います。それが結果として森林を守っていくことや、山から出された県産材の木を使おうという発想になったり、また次につながる子どもたちに伝える人を育てようとなったり。morinosは、そんな良いローテーションを生むための最初のひと押し、ブースターのような存在。そういう意味でも、ぎふ木遊館とmorinosが一緒にできたという意義はすごく大きいと思います」

もちろん県外からの来訪もウェルカムではあるが、県の「木と共生する文化」を将来へつなぐ木育の拠点のひとつとして期待される。

morinosの外観。岐阜県立森林文化アカデミーが保有する33ヘクタールの演習林が周囲に広がり、木々に囲まれた空間となる</BR>(写真提供:morinos)morinosの外観。岐阜県立森林文化アカデミーが保有する33ヘクタールの演習林が周囲に広がり、木々に囲まれた空間となる
(写真提供:morinos)

ドイツの森林教育施設をモデルに

左/今回取材にご対応してくださった鈴木知之さん。右/morinos誕生までをつづった冊子「morinosがうまれるまで」左/今回取材にご対応してくださった鈴木知之さん。右/morinos誕生までをつづった冊子「morinosがうまれるまで」

設立のきっかけは2013年にさかのぼる。森林文化アカデミーに新しく涌井史郎さんが学長として就任した際、アカデミーの改革に着手した。

森林文化アカデミーでは、学生を教育する専修教育部門、専門的な技術者をより教育していく専門技術者教育部門、そして一般の人たちに森林文化について知ってもらう活動をする生涯教育部門がある。そのうち、生涯教育部門を拡充することを、森林文化アカデミー准教授の萩原・ナバ・裕作さんが提案した。

「専修教育、専門技術教育と比べて、生涯教育は一生懸命にやってはいるがまだ足りないのではないかという思いがあったそうです」と鈴木さん。

そんななか、2014年に同アカデミーが連携協定を結んだドイツのヴァーデン・ビュルテンベルク州にあるロッテンブルク林業大学を訪れた萩原さんは、同大学のハウス・デス・ヴァルデス(森の家)という施設を知った。そこは、森林教育施設で、指導者育成のトレーニング施設もあれば、週末には近隣に住む人たちが食事に来たりという場所でもあった。萩原さんの思い描いていたイメージにぴったりで、さまざまな関係者が現地を見学し、学内で何度も検討して2017年に正式にmorinosの設立が決まった。

鈴木さんにハウス・デス・ヴァルデスを訪れた際の印象を伺った。「建物はガラス張りで、ガラス越しに森との距離が“ゼロ”なんです。森の中を目の不自由なの方も歩けるような道が整備されていたり、森林について知ってもらうプログラムが発達していたり。州内のすべての学校が一度は訪れる仕組みにもなっています。すごく魅力的で、先進的でした。こんなふうになるにはどうしたらいいのかと館長さんに聞いたのですが、『うちは30年かかってようやくこうなったんだから、急に頑張ろうとしてもダメ。やれることをやって急ぐな』と言われました(笑)」

建物デザインには建築家・隈研吾氏のアドバイス

morinosの建物は、森林文化アカデミーで木造建築を専攻する学生5人が基本設計や構造計算を任された。1週間のデザインワークショップが開催され、学生たちは泊まり込みで計画を練り、2案が完成。最終日に涌井学長と、世界的な建築家であり、同アカデミー特別招へい教授でもある隈研吾氏の前でプレゼンを行った。

そこで隈氏が講評しながら、学生たちと共に第3案を作り上げた。その時に隈氏がささっと描き上げたのが、morinos外観の最大の特徴であるV字の柱。最初にご紹介した写真でその存在感に目を奪われた方もいるかもしれない。

それから5ヶ月。隈氏の設計事務所ともやり取りをしながら計画を詰め、学生2人が基本設計案をまとめて、再び隈氏と学長にプレゼン。その出来栄えに、学生たちは隈氏からお褒めの言葉をもらったそうだ。

建物を象徴するV字の柱には、森林文化アカデミーが保有する演習林にあった樹齢106年の木を学生が伐り出したものが使われている。

「隈先生は、公共の施設を建てるときに、使う人の意見と建物を設計する人の意見が交わり、また設計も意匠設計と構造設計などを一緒にするのは珍しいと。さらに材料調達もアカデミーという学校の中でやれてしまうということも、建築の世界では非常に珍しいと言われ、価値があるから何か残したほうがいいということで、『morinosがうまれるまで』という冊子を作りました」

冊子はホームページでも公開されているのでぜひご覧いただきたい。

ドイツの施設のように建物の三方はガラス張りになっている。夜になると、光の加減もあって、壁がないように見えてとても美しいという。

建物に使われた木材はすべて県産材となるが、圧密加工したものや集成材、皮付きリブなど、さまざまな木材加工技術が施されたものが採用されている。

またもう一つ注目したいのが、岐阜県高山市出身で、日本を代表する左官技能士である挾土秀平さんが手がけ、学生も一部で参加したという壁だ。挾土さんは森林文化アカデミーの客員教授でもある。土壁の一部には、演習林の土も使われている。何層も重ねて出来上がった土壁は実に美しい。

①建築家・隈研吾氏が学生たちの案を基にアドバイス。V字柱の案は隈氏が書き込んだもの。morinosの設計データには、意匠原案として隈氏の名前が刻まれている②morinos内部からV字柱のある正面を見た様子。ガラス張りで屋外と屋内のつながりを感じられる③夜のmorinos外観。V字の柱は、“W”にも見え、ドイツ語では森のことをWald(ヴァルド)と綴られる④建物内部には飲食可能なスペースもあり、お弁当持参でくつろいでもOKとのこと。正面右側に見えるのが、挾土氏が手がけた土壁⑤土壁は合計12回も塗り重ねられているという。演習林の山土やヒノキの樹皮などを加えたものなどで作られ、すべて自然の色というから驚きだ(すべて写真提供:morinos)①建築家・隈研吾氏が学生たちの案を基にアドバイス。V字柱の案は隈氏が書き込んだもの。morinosの設計データには、意匠原案として隈氏の名前が刻まれている②morinos内部からV字柱のある正面を見た様子。ガラス張りで屋外と屋内のつながりを感じられる③夜のmorinos外観。V字の柱は、“W”にも見え、ドイツ語では森のことをWald(ヴァルド)と綴られる④建物内部には飲食可能なスペースもあり、お弁当持参でくつろいでもOKとのこと。正面右側に見えるのが、挾土氏が手がけた土壁⑤土壁は合計12回も塗り重ねられているという。演習林の山土やヒノキの樹皮などを加えたものなどで作られ、すべて自然の色というから驚きだ(すべて写真提供:morinos)

大人も子どもも夢中になれる多彩なプログラムを実施

morinosでは、これからさまざまな体験プログラムが開催されるが、施設ができる1年前から40以上のプログラムを試行した。

「もともと生涯教育という部門がありましたし、オープンと同時に始めてもうまくいかないのではないかと。保育士を目指す学生さんに森林体験をしてもらったり、星空ピアノといって、廃校になった小学校から譲り受けたピアノでプロの作曲家が即興演奏をし、それを寝袋に入りながら星空の下で聴いたり。星空ピアノには40人の募集のところ、120人も応募があるほど人気で、下呂市のキャンプ場の方から自分のところでもやりたいというお話をいただきました。1年かけて助走期間というような感じで、建物の建設と共に進めてきたのです」

プログラムには参加せずに、ただ遊びに来たっていい。周囲の森を散策したり、広場にはテントがあるし、焚き火をしたり、土を掘ってもいいとスコップなども用意されている。バードウォッチングセットや、昆虫捕獲&観察セットといった森を楽しむレンタルセット(無料)もある。

専門的な知識を得られるプログラムから、自分だけの楽しみを見つけることまで、岐阜の自然を満喫することができるというわけだ。

①オープン前に行ったお試しプログラムのひとつで人気を博した星空ピアノ②プログラムを通して自然と向き合う子どもたち③広場では雨水をためて、手押しポンプを体験できる場所も(以上、写真提供:morinos)④広場の様子。鈴木さんのお気に入りは奥に見える白いテント。中では焚き火などの体験ができる①オープン前に行ったお試しプログラムのひとつで人気を博した星空ピアノ②プログラムを通して自然と向き合う子どもたち③広場では雨水をためて、手押しポンプを体験できる場所も(以上、写真提供:morinos)④広場の様子。鈴木さんのお気に入りは奥に見える白いテント。中では焚き火などの体験ができる

“森の入り口”として大切にしていること

まちの人に木や森に興味を持ってもらい、実際に森に触れてもらう場所として、“森の入り口”と銘打っているmorinos。ここで大切にしていることは5つある。

●「学ぶ」ではなく「感じる」
●「部分」ではなく「全体を」
●トンガリわくわく実験場
●みんなで一緒につくる
●臨機応変・柔軟に変化しつづける

「“『学ぶ』ではなく『感じる』”を最初に位置付けているのは、この施設は楽しいところということから。例えば小学校に行き、森の仕組みを教えても、みんな真面目に聞いてくれるのですが、忘れてしまうことも多いんです。そんなとき、僕らがなぜこの仕事をしているのかと振り返ると、子どものころに山の中を駆け回って遊び、秘密基地を作ったりしたことが本当に楽しかったと。それが根っこになって、その場所を守りたいという発想から、こういう森に関係するような仕事に就いたんだよねという話になるんです。“楽しい”を中心に置いて、プログラムもそのように作られていて、まずは楽しさを感じることが学びの原動力になると考えています」と鈴木さん。

実験場ということも、面白く、新しいことをどんどん行うフロンティアでありたいという願いが込められる。

実は広場は完全に整備はされていない。土がこんもりと盛られた山があり、その下には雨が降ると水がたまり、どろどろになる場所も。「あそこに泥がたまることによって、子どもたちが泥だらけになって遊ぶんです。そういう未完成なところをわざと残しておいて、子どもたちの様子を見ながら、一緒につくり替えていく。自分たちでつくり替えれば、きっと自分たちで直せるし、つくり替えるのをスタッフだけでなく、参加する人みんながすると、じゃあうちの地域でもつくれるねと持ち帰って広がっていくことを期待しています。変化を恐れず、変化することが当たり前という感じでやっていこうと思っています」

今後については「プログラムもそうですし、ここの取り組みを県内、県外、いろいろな方に知ってもらい、まずは一度体験していただきたいです。これから、とがったプログラムも用意していますし、まずは参加してもらって、いずれでいいのですが、自分たちの場所で同じようなことをやろうというようになってもらいたいなと思います」と語った。

morinosでは、You-Tubeチャンネルで配信を行っている。morinos設立について関係者が思いを語っているもののほか、ワークショップなどの様子も。そこに参加している子どもも大人も実に楽しそうな笑顔を浮かべ、自然を感じているように見える。

建築、自然、そして体験プログラムと、大人も子どももワクワクできる施設が未来につながっていくことを思い、明るい希望を感じた。

morinosのYou-TubeチャンネルmorinosのYou-Tubeチャンネル

公開日: