リアルには行けない海外へ、オンラインで修学旅行
千葉県流山市では5月の時点で小中学校の修学旅行中止が決まった。子どもたちが楽しみしていたイベントである。残念だという声が上がった。加えてリアルの修学旅行ができないのであれば、何かそれに代わる、子どもたちの思い出に残ることができないか、という声も上がった。そこで中止決定後すぐに企画が立ち上がり、準備されてきたのがオンラインを利用した小学6年生の修学旅行。しかも、リアルにはできない、海外への修学旅行である。
中心となったのは流山市南流山で2つのシェアサテライトオフィスを経営する尾崎えり子氏。子どもたちの気持ちを踏まえた企画にするため、鰭ケ崎小学校6年生の菊井響君がスタッフとして参加。当日は冒頭で企画主旨を説明するなど活躍した。それ以外の地元のスタッフ6人は手弁当で参加。さらに空港や飛行機内の雰囲気を再現するためにANAホールディングス、全員の机に置くパソコンの手配に日本マイクロソフトと企業にも協力を要請、賛同を得ている。
当日の舞台はシェアオフィス「Trist Airport」。流山市内には1,800人以上の小学6年生がいるそうだが、この日集まったのは22人。全員、きれいにデザインされた搭乗チケットを手に、ざわざわと楽しそうである。コロナ禍で子どもたちも含め、私たちの生活から失われてしまったものは数多いが、そのうちのひとつが友達と一緒になって行うわくわくする体験だろう。授業のような実用的な時間はなんらかの形で補われるだろうが、そうではない、でももっとも記憶に残る時間はおそらく補充されることはない。このイベントに寄せる子どもたちの期待の高さは当然だろう。
しかも、おそらく日本初というイベントのため、テレビ、新聞などメディアも多数集まっており、それも子どもたちのわくわくを大きく盛り上げていたようである。
地図帳と辞書を片手にグループでわいわい
当日のプログラムは前半、後半で別れており、前半は旅行先がどこかを3~4人のグループで紙に書かれたヒントなどから推理してあてるというもの。そのために全員が地図帳と英和辞書を持参しており、机の下に貼られた封筒に収められた10枚のヒントを翻訳することからスタート。さらに地図を見て「ここでもない、あそこか?」などと議論が始まった。
面白かったのは入室時と着席時に空港や、飛行機搭乗の雰囲気を出すため、英語、日本語でリアルな搭乗案内、安全のための注意事項が流されたのだが、子どもたちはそこにもヒントがあると考え、しばらくの間、行き先を勘違いしていたらしいという点。だが、それは同時に子どもたちが細かい点も意識しながら参加していたということでもあり、その集中力にびっくり。ヒントの翻訳も含め、臆することなく英語に取り組む姿に、良い意味で今どきの子どもはすごいと思ったものである。
与えられたヒントは「その国の面積は日本の1.4倍」「Facebook利用者数は首都の中で世界一」「仏教国である」「4年前の交通混雑度は世界一だった」などといったもので、ひとつだけでは分からないが、複数のヒントを組み合わせると分かるようになっている。だが、なかなか正解が出ず、主催者は日本語でヒントをアナウンス。2つ目のヒントである「国の形が象に似ている」にようやく、正解が出始めた。行き先は象のいる国でもある、タイだった。
タイの家庭を訪問、タイ語で自分の名まえを書く
後半はオンラインでタイと日本を結んでタイについて学ぶ時間。まずはタイ郊外にあるお宅にお邪魔したのだが、これは取材で参加していた大人にとっても楽しい時間だった。案内をしてくれた小学生の女の子とその兄、ご両親という4人家族のお宅なのだが、住宅は日本とは比較にならないほど大きい。中庭にジェットバスなど日本の住宅にはあまり見られないスペースもあり、見ていた子どもたちには驚きもあったはず。さらに暑い国なので風呂はあまり使わず、シャワーが中心、キッチンの説明では箸はそれほど使わないなど、日本との違いは多数あり、その説明を頷きながら聞いている子どもも多かった。
日本では自宅を見せたがらない人が少なくないが、タイも同様だそうで、その中にあってトイレから寝室までくまなく見せてくれた協力ぶりには感謝である。
続いてはタイ語の紹介と自分の名まえをタイ語で書くという、ある種の実習タイム。タイ語と日本語のあいうえお対照表を参考に書くのだが、この日、子どもたちが一番集中していたのがこれ。ご存じのようにタイ語は日本語とはかなり異なり、文字というより図のようにも思える。大人だったら難しそう!と躊躇しそうだが、子どもたちには逆にゲームのようで面白かったのかもしれない。
自分の名まえを書いた上にあいうえおを順に書いたり、好きなアニメ作品のタイトルの書き方を聞いて書いてみたりと課題が終わっても何かを書いている子どもが多かったのである。もし、ここに親がいたら、宿題もこんな風に熱中してやってくれればと思うのではなかろうかと妄想しつつ、だとしたら、その差はなんだろう。
オンラインならではの学びを考えよう
というよりも、このやり方で授業が行われたら、どんなに楽しいだろうか。リアルには行けない国でもオンラインでなら行けるし、教科書で見るよりも生活や自然、街の様子をリアルに感じることができるだろう。その国に関心が向けば言葉を学びたいと思うだろうし、比較のために日本を知ろうと興味がどんどん深まり、広がることもあろう。その上、この内容ならオンラインでのアクセス先を確保し、協力していただく必要はあるものの、それ以外は普通の学校の教室内で、学校にある設備を使うことで十分できるのではなかろうか。
そう考えると、オンラインはリアルの代替ではなく、違う学びがあるスタイル。子どもたちの集中ぶりを考えると、仕方ないからオンラインではなく、オンラインだからできることをもっと考え、使いこなすようにしていくことが大人の務めかもしれない。今回の空飛ぶ教室を参考にあちこちでオンライン修学旅行あるいはそれ以外の無くなってしまった学校行事のオンライン開催などが広まっていくことを期待したい。もちろん、授業でも。
もうひとつ、これらの旅行の最後にタイでのコーディネートをしたアジアンアイデンティティ・中村勝裕氏の子どもたちへの言葉が良かった。
「タイ語は日本人の多くからしたら難しいように思えるが、実は海外から見れば漢字はもっと不思議で難しい。日本で当たり前は海外でも当たり前ではない。そんな中で日本の文化に関心を持ってくれる世界の人たちがいることを知ってほしい。その上で、言葉を習うことを勧めたい。それが世界に出て行く時の可能性を高める。また、このイベントが多くの人の協力で成り立っていることに感謝、自分の将来にチャレンジしてみてほしい」
普通の学校生活では会わない人と会い、異文化を知った半日。タイ語を書く経験、中村氏の言葉など従来の修学旅行とは違う意味で長く忘れられない時間になったのではなかろうか。
■空飛ぶ教室
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