構想から67年。大阪東部の鉄道空白地帯に新線が誕生

全国的にローカル線の廃線ラッシュが続き、日本の鉄道インフラは大きな曲がり角を迎えている。だが、三大都市圏の一角をなす大阪では、対極的ともいえる状況が出来している。北陸新幹線やリニア新幹線の大阪延伸、なにわ筋線の敷設――大阪は、まさに新線計画ラッシュといってもいいほどの活況を呈しているのだ。

その先陣を切って、2019年3月16日、浪速の地に新たな幹線鉄道が誕生した。
その名も「おおさか東線」。“鉄道空白地帯”といわれた大阪東部を南北に結ぶ、JR西日本の鉄道新線である。
このおおさか東線、2008年に放出(はなてん)駅―久宝寺駅の南区間が先行開業していたが、今回、新たに新大阪駅-久宝寺駅間の北区間が開業。新大阪駅-久宝寺駅間の20.3kmが全線開業した。

とはいえ、ここに至るまでの道のりは平坦ではなかったようだ。
おおさか東線の前身は城東貨物線。沿線では1950年代から、旅客化を求める機運が高まっていた。その後、1963年に都市交通審議会で「新設すべき路線」と位置付けられたが、計画は先送りされ、1987年に発足したJR西日本に引き継がれた。第三セクターの大阪外環状鉄道が1996年に設立され、ようやく着工されたのは1999年のことだ。
その後も、用地取得などの問題が浮上し、工事は難航。全線開通に向けて、粘り強く交渉が続けられた。こうして、半世紀を超える難産の末、おおさか東線はついに完成の日を迎えることとなる。地元住民の悲願は、ようやくここに結実したのである。

開業当日に城北公園通駅で行われた記念式典で、JR西日本・近畿統括本部大阪支社副支社長の宮本芳明氏は、こう挨拶した。
「おおさか東線の開業には2つの効果があります。1つは、南北を結ぶこの路線が東西の鉄道ネットワークと結ばれ、この地域がさらに住みやすくなること。もう1つは、この地域が新大阪とつながり、ビジネスや旅行が便利になることです。ぜひ皆さまにもこの駅をご利用いただき、地域の発展に貢献できればと思います」

JRおおさか東線の車両JRおおさか東線の車両

新大阪と直結し、ビジネスや旅行の利便性が格段にアップ

今回新たに開業したのは、南吹田駅、JR淡路駅、城北公園通駅、JR野江駅の4駅。開業後を見越して、沿線ではマンションや商業施設の建設も進んでいる。

では、おおさか東線の開業は、地域をどう変えるのか。
冒頭でもふれたように、大阪東部は長らく“鉄道空白地帯”であった。都心に出るにはバスを乗り継がなければならず、都心に直結する鉄道の敷設は住民の宿願だった。
今回の全線開業により、新大阪駅-久宝寺駅間の9駅でJR・地下鉄・私鉄合わせて13路線への接続が可能となり、通勤・通学の便は大幅に改善された。また、新幹線ターミナル駅の新大阪と直結したことで、遠方への出張や旅行も格段に便利になった。おおさか東線プロジェクトの事務局担当として中心的な役割を果たした、JR西日本・近畿統括本部の秋本浩孝氏はこう語る。

「新線にかける地元の皆さんの期待の大きさは、当初の想像をはるかに超えていました。開業前のイベントでも、『待ってたよ』『電車が通ったら、すぐ新大阪まで行けるね』『大阪駅も近くなるね』という声が大変多く、地元の期待を肌で感じることができました。我々としても『開業して終わり』ではなく、沿線の町をいかに育てていくか、しっかり勉強していきたいと思います」

全線開業のメリットを実感しているのは、新たに開業した北区間の町だけではない。2008年に開業した南区間でも、新大阪への延伸を歓迎する声は多い。町工場が集積するものづくりの町、高井田中央駅付近に勤める男性は、こう話してくれた。
「新大阪駅と直結したので、これからは出張に行きやすくなりますね。それに、ここには奈良市内から通勤してくる人も大勢いる。奈良から直通電車で通勤できるようになれば、ずいぶん便利になると思います」

(左上)新たに開業した城北公園通駅。(右上)城北公園通駅の近くの都島区・蕪村通り商店街。(左下)開業日、城北公園通駅の構内で新駅付近の模型が展示された。地元の専門学校生による卒業制作だ。(右下)おおさか東線南区間の高井田中央駅周辺には町工場が集積する(左上)新たに開業した城北公園通駅。(右上)城北公園通駅の近くの都島区・蕪村通り商店街。(左下)開業日、城北公園通駅の構内で新駅付近の模型が展示された。地元の専門学校生による卒業制作だ。(右下)おおさか東線南区間の高井田中央駅周辺には町工場が集積する

「直通快速」の運行で、奈良へのインバウンド誘客効果も

今回の全線開業の最大の目玉ともいえるのが、「直通快速」だ。
直通快速とは、おおさか東線とJR大和路線の直通運転により、新大阪駅―奈良駅間を約1時間で結ぶ快速電車。平日は新大阪発が夕方以降、奈良発が朝の通勤時間帯の各4本ずつ、土曜・休日は新大阪発、奈良発ともに午前2本、午後2本の各4本が運行される。平日と土曜・休日のダイヤが異なるのは、平日は「奈良から新大阪方面に向かう通勤・通学客」、土曜・休日は「奈良エリアの住民の外出と、奈良に向かう観光客」の利用を想定しているためだ。

なかでも大きな期待が寄せられているのが、インバウンドの誘客効果である。
昨今、訪日リピーターの間では、大阪・京都のゴールデンルートに加えて、奈良観光の人気がじわじわと高まっている。とはいえ、その大半は日帰り客。奈良公園で鹿と戯れた後は、大阪や京都で宿泊する訪日客が圧倒的に多く、必ずしも奈良の観光振興にはつながっていないのが実情だ。

こうした中、JR西日本では、奈良が持つ観光ポテンシャルに注目。地元の南都銀行と地方創生の連携協定を締結し、奈良活性化のための取組みを行っている。地場産品の発掘やネット通販、駅構内を利用したマルシェなど、さまざまな取組みを行うかたわら、明治42年創業の奈良ホテルを完全子会社化。奈良市内の古民家再生スタートアップにも出資するなど、あの手この手で観光振興を図っている。地域と一体となってインバウンドの誘客を進めることで、JR路線の旅客増につなげたい考えだ。

JR西日本は奈良の観光資産の発掘に取り組んでいる。(上)多くの寺社や古墳が点在する「山辺の道」。(左下)奈良公園の鹿。(右下)大神神社の摂社、狭井神社。「神の山」として知られる三輪山への登拝口があるJR西日本は奈良の観光資産の発掘に取り組んでいる。(上)多くの寺社や古墳が点在する「山辺の道」。(左下)奈良公園の鹿。(右下)大神神社の摂社、狭井神社。「神の山」として知られる三輪山への登拝口がある

インバウンド誘客の成否を左右する「直通快速」の増便計画

「奈良は魅力的なエリアであるにもかかわらず、これまでは我々もPRが十分にできているとは言いがたかった。しかし、おおさか東線が全線開業したことで、新大阪からのアクセスは大幅に改善されました。これを好機ととらえ、今後は地元の方々と協力しながら、奈良のPRと活性化に取り組んでいきたいと考えています」

そう宮本氏も語るように、直通快速の登場は、奈良への新たな誘客ルートが誕生したことを意味する。
これまで、新大阪から奈良に行こうと思えば、大阪駅か天王寺駅でJRの大和路快速に乗り換えるか、なんば駅で近鉄奈良線に乗り換える必要があった。だが、土地勘のない観光客にとって、重い荷物を引きずって階段やエレベーターを上り下りし、駅構内を右往左往するのは“苦行”以外の何ものでもない。新幹線のターミナル駅から奈良まで乗り換えなしで行けるなら、観光客にとっては朗報といえるだろう。
とはいえ、今のところ直通快速は1日4往復のみ。「増便するかどうかは、利用状況を見て決める」(宮本氏)というのがJR西日本の方針だ。観光客が、おおさか東線を使って奈良観光をすることにメリットを感じられるかどうかは、今後の増便次第といえそうだ。

ようやく完成の運びとなったおおさか東線、さて、その使い勝手のほどは。
直通快速の運行時間は過ぎていたので、とりあえず普通列車で、新大阪駅から法隆寺駅まで乗ってみることにした。おおさか東線から大和路線へは久宝寺駅で乗り換えることになるが、同じホームでの乗り換えとなるので、直通快速でなくともさほど苦にならない。ともあれ、新幹線のターミナル駅から、電車1本で世界遺産・法隆寺まで行けるなら、やはり観光客にとっての魅力は大きいのではないか。

また、JR西日本も奈良活性化の一環として、隠れた観光資産の発掘に取り組んでいくという。
「奈良駅でJR万葉まほろば線に乗り換えれば、日本最古の古道として知られる『山辺の道』まで足を延ばすこともできます。沿線の三輪には、パワースポットとして有名な大神神社がありますし、『山辺の道』の始点となる天理には、奈良県国際芸術村をつくる計画もあります。また、2021年には聖徳太子没後1400年を迎えることもあり、具体的な検討はこれからですが、奈良県では大々的に観光キャンペーンを打ちたいと考えています。そのエンジン役を、おおさか東線が務めることができればと考えています」(宮本氏)

JR西日本 近畿統括本部 大阪支社 副支社長・宮本芳明氏(右)と、同企画課・秋本浩孝氏
JR西日本 近畿統括本部 大阪支社 副支社長・宮本芳明氏(右)と、同企画課・秋本浩孝氏

なにわ筋線との接続で、「関西空港-新大阪-奈良」をつなぐ鉄道ネットワークが完成

現在、大阪駅北口では「うめきた」の再開発プロジェクトが進められ、2023年にはうめきた新駅、2031年には大阪都心を南北に縦断する「なにわ筋線」の開業も予定される(「なにわ筋線」は大阪グローバル化を牽引するか。関空-新大阪間のスピードアップで、アクセス向上を狙う)。いずれ、おおさか東線のうめきた新駅乗り入れが実現すれば、なにわ筋線との直通運行が実現する可能性もある。そうなれば、関西空港-新大阪-奈良をつなぐ新たな鉄道ネットワークが完成することになる。

「おおさか東線の開通は、奈良活性化の起爆剤となるだけでなく、新大阪駅を中心とした鉄道ネットワークを一層充実させるという点でも大きな意義を持つ。今後、北陸新幹線やリニア新幹線が延伸されれば、新大阪のまち自体が大きく変わっていくでしょう。今回のおおさか東線の開業は、大きなターニングポイントになると考えています」(宮本氏)

地域の期待を一身に背負って完成したおおさか東線は、関西圏の新たな交通インフラとして、どのような役割を果たしていくのか。今後の展開に注目したい。

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