全国の商店街関係者が羨望の眼差しをおくる活性化の成功例『七日町商店街』
中小企業庁が3年に1度実施している『商店街実態調査』によると、現在、全国の商店街が抱える問題の1位は『経営者の高齢化による後継者不足( 64.6% )』、2位は『集客力・話題性のある店舗・業種が少ないまたは無い(40.7% )』、3位が『店舗等の老朽化(31.6% )』という結果になった(平成27年度調査結果)。しかし、こうした数々の問題を自分たちで乗り越え、全国の商店街関係者が「あそこをお手本にしたい」と羨望の眼差しをおくるまちが山形市にある。
これまで『がんばる商店街(中小企業庁)』『訪ねてみたい商店街(NIKKEI プラス1)』『はばたく商店街(中小企業庁)』などに選出され、そのまちづくりが注目を集めている『七日町商店街振興組合(以下、七日町商店街)』だ。七日町(なぬかまち)は山形市の中心街エリアに位置してはいるものの、JR『山形』駅から徒歩15分と、決して集客優位性の高い“駅前立地”にあるわけではない。
まちづくりを成功に導くことができたのは何故なのか?他の商店街とは何が違うのか?『七日町商店街』の事務局長である下田孝志さんにお話を聞いた。
まちづくりは「外に答えはない」、成功例から見本を選ぼうとしても失敗する
▲事務局長の下田孝志さん(44)は、岩手県の出身だが大学進学をきっかけに山形市に在住。経済学や都市計画を学んでいたわけではなく、もともとは教師を目指していたものの、学生時代に携わったイベント企画で商店街の店主らと出会い、“まちの賑わいづくり”の面白さに目覚めたという。現在は、商店街が100%出資して3年前に立ち上げたまちづくり会社『山形七日町まちづくり株式会社』の取締役も務めている。“商店街活性化のスタープレイヤー”として関係各所ではその名を知らぬ人がいないという有名人だ「活性化のモデルケースとしてうちの商店街のことを注目していただくのは大変ありがたいのですが、うちへ視察に訪れる皆さんの様子を見ていると、成功例の中から“見本を選ぼう”としている方が多いようですね。僕はそれはあまり良いこととは思いません」(以下「」は下田さん談)
ひとこと会話を交わしただけで、下田さんのエネルギッシュさが内側から溢れ出てくる。これは“まちづくりの成功例”といわれるどこのまちを取材しても、共通して存在する熱いリーダーのオーラだ。
ここ『七日町商店街』は平成のバブル崩壊以降、企業の撤退や郊外型大型店の進出などの影響を受け、危機的状況を迎えた時期があった。そこからの起死回生ストーリーが“成功例”として評価を集め、多くの商店街関係者が七日町商店街の中に何か新しいヒントを見つけようと視察に訪れる。
「実は、うちの商店街ではヒントにした見本は何もありません。そこがポイントなんです。自分たちのまちをみて、現状どうなっているか?いま何ができるのか?を考えなくてはいけないのであって、外に何かを求めようとしても答えは無いんです。七日町商店街の“マインド”を参考にしていただくのは良いのですが、“どんなイベントをやっているか?”とか“どんな設備があるか?”とか、表面的なものをそのまま取り入れようとしても、おそらく失敗しますよね」
「自分のまちは自分たちで守る」江戸時代から培われた山形商人のマインド
▲2017年3月にオープンした『N-GATE』は地上5階建ての複合ビル。1階は商店街事務所やテナント。2階から上は202台収容できる24時間営業の駐車場になっている。近年、山形を訪れる仙台からのドライブ観光客が増えているため、今後の観光ニーズの増加を視野に入れた新規設備投資だ。「この駐車場も、県から土地を買って自分たちで借金をして建てました。なぜなら“いま七日町商店街に必要なもの”だからです」と下田さん現在83店舗が加盟する『七日町商店街』だが、下田さんが語る“商店街の店主たちのマインド”は実にユニークだ。「まずは自分たちでリスクを取る」こと。古くは江戸時代から受け継がれた“山形商人のプライドの高さ”が、その他の商店街のケースとの決定的な違いになっているという。
「そもそも七日町は山形城下の商人のまちとして栄えてきた歴史があります。ただ、山形城の殿様はどんどん変わってきたので、“殿様が変わるたびにまちが変えられてしまう”ということに商人たちはずっと辟易していたんです。そのため、商人たちの間で“自分たちのまちは自分たちで守っていく”というマインドが培われたようですね。
平成の今でも“上(行政)が動くのを待つのではなく、まずは自分たちでやる”という風に、自らリスクを取る行動が脈々と受け継がれているのです。全国には、自分たちでは何も行動を起こさず、ただ行政に対して要望を出しているだけの商店街が多い中で、“七日町は他に例がない”と言われる理由はそこにあります」
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七日町商店街の「自分たちでリスクを取る」という行動が大きく注目されるようになったのは、全国各地で“商店街の空洞化”が叫ばれはじめた平成5年のこと。ここ七日町でも、商店街の中にあった大型商業施設が撤退。ぽっかりとできてしまった空き地を何とか活用できないか?と所有企業からスペースを借り受け、賑わいを創出するための広場づくりを行った。
しかし、単純に“賑わいづくり”だけを行っていたわけではない。その広場を10年間借り続けながら、周辺にある老朽化した建物の再開発事業計画を民間企業と連携して積極的に仕掛け、再開発の機運が高まったところでようやく行政側へ支援を要請。山形市が商店街の広場を都市公園として整備し、運営管理を行ってくれることになった。
他にも、山形市街でいち早く『無電柱化工事』を実施して、インターロッキング舗装の美しい歩道を整備。雪国には不可欠な『無散水消雪設備』や、観光客に欠かせない『Wi-Fi』、ドライブ客のニーズに合わせた『大型駐車場』もすべて、商店街で“借金をして”自分たちで設置したものだというのだから、「リスクを取ること」への店主らの覚悟が窺える。
「行政がやれること、民間でやれること、それぞれ限られていますから、うちの商店街は行政に対して無謀な要望は出しません。自分たちでやるか、やらないか、その様子を見て“商店街がここまで頑張ってくれるなら”と行政側もバックアップしてくれるわけで、あくまでも関係は対等です。“何もやらずして支援だけしてくれ”っていうのは、やっぱりダメ(笑)。自助・共助・公助に例えるなら“自助”が一番大切なマインドなんです」
他から「七日町はいいね」と言われれば言われるほど、危機感を持つ
こうして『七日町ブランド』を創り上げたことにより、「七日町商店街に店を持ちたい」というチャレンジ精神を持った若い店主たちが流入してくるようになった。いま七日町ではリノベーションがブームで、あちこちの古いビルに洒落たカフェやショップが続々と登場している。
「商店街の店主の平均年齢としては40代・50代が中心ですが、もう決して“若手”ではありません。ただ“考え方が若い人”は多いですね。だから、新しくチャレンジしたいという人がいたら“まずは飛び込んでおいで。イベントにも参加して、やる気を見せて”というスタンスで受け入れています。若手とか、よそ者とかは関係なく、これから一緒に商店街をつくっていく人たちの柔軟性が“まちののびしろ”につながると考えています」
いかにも順風満帆に見える『七日町商店街』だが、「“七日町はいいね”と言われれば言われるほど、何か次の問題が起こるのではないか?といつも危機感を持っています」と下田さん。
新しく設備投資をおこなったら、必ず何年後かにその修繕が必要になる。店主たちは次なるリスクに備えて貯えに励むなど、常に慢心しない習慣が身についているそうだ。
商店街づくりはマーケットづくり、そのためには住宅整備が欠かせない
最後に「まちづくりにヒントや見本は要らない」と語る下田さんに、あえて商店街活性化のヒントとなりそうな言葉をもらった。
「商店街というのは大企業ではなくて、小規模店主の集まりですから、何事もコツコツと積み上げるしかありません。まずは2~3年ごとの小さな展望を持ち、その小さな点が連なってどんどん増えていくような計画を立てなくてはいけないと思います。ちなみに、七日町商店街が3年後の展望に掲げているのは『住宅整備』ですね。商店街の空洞化はマーケットを失ったことが原因で起こりましたが、マーケットというのは“そこに住んでいる人たち、働いている人たち”そのものを意味します。つまり“人”がいなければ、商店は成り立たないわけですから、“住んでくれる人を呼べるまち”にするために様々な計画を練っています」
七日町商店街の“小さな展望”は功を奏し、昨年周辺地域の中で唯一、七日町の地価だけが上昇に転じた。商店街の活動が注目され、その取り組みによって再開発が進み、住みたいまちと称されるようになって、民間企業の投資による“外貨”も獲得することができた…理想的な好循環だ。
「地価が上がるということは、当然ながら資産評価も上がるということですから、各店舗の借入れも楽になりますし、それが新規の設備投資につながります。店主の方はつい店の売り上げばかりを気にしがちですが、実は、商店街全体の“不動産価値をどう高めていくか?”という点を意識することも基本なのです」
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七日町商店街では、毎年10月第2土曜日に地域最大のイベントとなる『街なか賑わいフェスティバル』を開催する。大通りを歩行者天国にして商店街全体がイベント会場となり、盛大な賑わいを見せるという。もし会場を訪れたら、イベントの賑わいだけでなく、その奥に秘められた商店街店主たちの“熱いマインド”を探ってみてほしい。
■取材協力/七日町商店街振興組合
http://www.nanokamachi.com/
■街なか賑わいフェスティバル2018/2018年10月13日土曜日開催
http://www.y-machinaka.jp/_news/wn_247.html
▲いま七日町商店街で人気の観光スポットとなっている『水の町屋 七日町 御殿堰(ごてんぜき)』と『gura(ぐら)』は、いずれも民間主導の再開発で誕生した。「(行政の方針や世の中のニーズも含めて)情報を集めること・覚悟を決めること・慢心しないこと」これが下田さんが教えてくれたまちづくりに欠かせない“3つのヒント”だ。下田さん自身も毎日商店街の各店舗をまわり、店主たちとのコミュニケーションを欠かさず新しい情報のキャッチに努めている。「“のびしろのあるまち”というのは、結局は“人”によるところが大きい。柔軟性のある人たちが暮らしているまちかどうか?そこが活性化のバロメーターですから、どのまちにだってチャンスはあるはずです」と下田さん




