企業理念の「生活者発想」がもたらす意味
株式会社博報堂といえば、商品やサービス、企業など幅広いものの広告を手がけることで知られる、大手広告会社だ。同社が企業理念として掲げるのは、「生活者発想」。つまり、人を「消費者」としてだけではなく、さまざまな生活の側面を持つ「暮らしの作り手」として深く理解することで、企業と生活者、社会を繋げることができるとしている。様々な広告戦略は、この理念をベースに考えられていると言って良い。
この「生活者発想」をまちづくりに活かした専門組織が、2014年8月に開設された。「博報堂ブランドデザイン スマート×都市デザイン研究所」である。
同社では、人々のライフスタイルの変化やテクノロジーの発展など、社会の変化に応じたビジネスのプラニング・研究を行う専門組織が設けられている。「博報堂ブランドデザイン スマート×都市デザイン研究所」は、博報堂内のブランディング専門ユニット「博報堂ブランドデザイン」内に設置された「まちづくり、都市デザイン」領域に特化した専門組織である。
“ひとと動くをデザインすると、まちは変えられる”をテーマに掲げる「博報堂ブランドデザイン スマート×都市デザイン研究所」。広告戦略で培われたノウハウ、そして「生活者発想」の視点を活かすまちづくりとは、どのように進められるのだろうか、今回、同研究所の所長 深谷信介氏と、川口真輝氏にお話を聞いた。
都市やまちを“ブランディングする”とは?
各地で地域活性化の取り組みが行われているが、観光資源を活かしたり“ゆるキャラ”をつくったりと、その方法は様々だ。しかし、観光資源や“ゆるキャラ”を作れば必ずうまくいくわけでもない。
その地域をうまく活性化させるには、その地域本来の強みを際立たせたまちづくりを行うことが必要となるだろう。そうした課題を博報堂ブランドデザイン スマート×都市デザイン研究所では「ブランディングで解決する」というが、どういうことだろう。
まず、「ブランディング」の意味を改めて調べてみた。
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【ブランディング】経営・販売上の戦略として、ブランドの構築や管理を行うこと。会社・商品・サービスなどについて、他と明確に差別化できる個性(イメージ・信頼感・高級感など)をつくりあげる。(出典:三省堂 大辞林 第三版)
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つまり、ものやサービスの価値を作り上げ、高める行動によって、その物の価値を向上させることと言い換えられる。
「ブランディングは”らしさ”という言葉に置き換えられます。その地域“らしい”魅力を見つけ、それを活かしたまちづくりを行うために、私たちがこれまで培ってきた調査や分析のノウハウを役立てられるのではないかと考えています」(深谷氏)
その地域の素晴らしい魅力となるものが、地元の人にとっては「当たり前」となっているために、魅力として気付かれず活かされていない場合もあるだろう。そこに外からの目線とノウハウが入ることで、そのまち”らしい”魅力を際立たせたまちづくりを行うということだ。地域活性化のために何かを加えるだけではなく、そのまちが本来持つ魅力を活かすことで、中長期的に持続可能なまちを実現させる。
また、まちづくりに関わる住民や行政など、時には議論が分かれる立場の人たちが同じ方向を向くためにも外からの視点は有効だろう。「ステークホルダーが一体となり同じ方向を向いて行われてこそ、本当の意味で持続可能な社会づくりに向かえると考えています」と深谷氏は話す。
つまりは、そのまち”らしさ”と”一体感”が、まちづくりにおいて重要なキーワードであり、それに博報堂の”生活者視点”のブランディング戦略ノウハウを活かすことができるということだ。
スマート化する技術をどうまちに取り入れる?
それでは、それをどのように実現していくのだろうか?そのキーワードのひとつが”スマート化”である。
スマートフォン、スマートハウスなど、様々なものの“スマート化”は、暮らしの質が向上するものとして期待されている。しかし一方では、技術に頼ったものになりかねない。そうした進化する技術も、「生活者発想」でまちに取り入れようというのが博報堂ブランドデザイン スマート×都市デザイン研究所の考えだ。
「技術主導で”これが良いから使うべき”と取り入れるのではなく、そこの住人がどう使いこなしたら良いかを先に考えるべきだと思います。それが結果的に、まちや技術への愛着へとつながるのでは」と、博報堂ブランドデザイン スマート×都市デザイン研究所の川口真輝氏。技術の良いところを取り入れつつ、それに住民や行政の思いをつないでいくということだ。
川口氏が視察に訪問し、博報堂ブランドデザイン スマート×都市デザイン研究所のホームページでも紹介されている、フランスのストラスブールのまちづくりがその思想に近い。
ストラスブールでは、もともと渋滞の多かったまちを、LRT(次世代型路面電車システム)の導入によって解決した。それにより、歩く人、自転車、LRTが区別なく道を行き交うことが実現された。古い町並みと近代的なデザインのLRTが融合するにはどうするか、また、車のヘビーユーザーにはどう対応して解決するかなどが留意点だったという。それによって誰かが我慢をするのではなく、様々な立場の人がお互いにwin-winになるよう、制度も含めた仕組みをデザインしたということだ。
ハコありきではなく、人やエネルギーなど「動くもの」がうまく行きかう仕組みを考えてこそ、街のにぎわいや既にあるものを有効に活用できるのではないか。そんな考えが、この研究所の「人と動くをデザインするとまちは変えられる」というコンセプトに込められている。
「生活者発想」のまちづくり、地方創生にどう活きるか
博報堂の「生活者発想」を活かし、そのまちに関わる生活者への提供価値を主体に考えたまちづくり。2014年8月の研究所開設以降、多くの問い合わせや依頼が集まっているようだ。今後の展望を川口氏、深谷氏に聞いた。
「住民が愛着を持ち続けられるまちづくりの事例を、みんなで作っていきたいですね」(川口氏)
「“人の気持ちに訴えて、行動に移す”という部分に長けた広告のノウハウを都市に置き換えると、法律づくりやPRまで多岐に渡ります。そうした大きな仕事だと受け止めて、誠実に取り組んでいきたいと考えています。実際にまちづくりに関わると、知られていない魅力的な場所がたくさんあると実感しますが、たぶん実はそういうケースがそこら中にあるのだと思います。それらがサステナブルに続くよう、構想化していきたいですね」(深谷氏)
2015年3月、内閣府から「地方創生人材支援制度」の創設が発表された。地方創生に積極的に取り組む市町村に対して、意欲と能力のある国家公務員や研究者、民間人材が派遣されるもので、このメンバーに「博報堂ブランドデザイン スマート×都市デザイン研究所」から深谷氏を含む2名が選出され、茨城県桜川市、北海道檜山郡江差町のまちづくりに携わるという。
広告を見て行動する人、まちに関わる人、いずれも「生活者」だ。博報堂の「生活者に訴え、行動させる」ノウハウと、「生活者発想」の理念は、まちづくりにも大いに活かされるべき要素だと感じた。そこに住む人や、もともとある地域の魅力が技術と調和して活性化する地域が今後増えていくことに注目していきたい。




