ドイツ視察を終えてからの活動

ドイツ視察を終わり、僕は興奮冷めやらぬまま「何か行動をしなくては!」と活動を開始した。
特にフライブルク市の街並み…とりわけヴォーバン住宅地のような街を人生をかけて日本に実現したい、という目標をもった。そこで、まず村上敦氏と共同で「クラブ・ヴォーバン(http://www.club-vauban.net/)」という団体を設立する。「クラブ・ヴォーバン」は、2009年には一般社団法人化することになるが、いまの僕の活動のすべての原点はここにある。

「クラブヴォーバン」という団体についてもう少し説明すると、環境先進都市ドイツ・フライブルク市において最も優れた事例であると世界中から評価されている『ヴォーバン住宅地』の先行事例に学び、さまざまな分野の方々との交流・情報交換などを通じて、持続可能な環境共生・低炭素型のまちづくりに取り組むプロジェクトである。

僕はこの団体設立のきっかけとなるフライブルク市に最初に訪れた時「なんて賑やかで美しい街なんだ!」と非常に感動した。なにより22万人の都市とは思えない、市内中心部の歩行者天国の賑やかな様子に驚いた。

平日の15時頃のフライブルク中心部 土曜日は人で埋め尽くし賑わいをみせる平日の15時頃のフライブルク中心部 土曜日は人で埋め尽くし賑わいをみせる

人口22万人ながらも…フライブルクの衝撃

銀座の歩行者天国の様子…昔はもっと活気があったような…銀座の歩行者天国の様子…昔はもっと活気があったような…

それにしても“1000万人以上の大都市東京”と“22万人都市のコンパクトシティ、フライブルク”…日本で20万人くらいの都市だと中心部であっても「賑わっているなあ」と思える場所は少ない。この差は何なんだろう?それが最初の印象だった。

フライブルク市は、路面電車が市内中心部から放射状に通っている。更にバスも接続しており、本当にアクセスが良く、車は必要なときにレンタルで十分だな、と感じる。「これなら車が無くても生活ができる」と確信できるのだ。
しかも、なんと公共交通は乗り放題。路面電車は7分に1本運行。路面電車の終点からは、更にバスで人々の足をカバーしているが、そのバスの本数も15分に1本の割合で走っている。本当になんて便利がいい街なのだろうか。
このフライブルクを中心とした都市圏では、路面電車もバスも乗り放題で、1ヶ月の交通費は日本円で大人6〜7000円程度。この利便性と交通費であれば、かなり生活はしやすいであろう。

僕は路面電車に揺れられて、目的地であるヴォーバン住宅地に向かった。市内中心部から15分ほどの場所である。ドイツらしいカラフルな色使いのソーラー住宅地が入り口でパッと目に入る。「いよいよヴォーバン住宅地、写真で見た場所だ!」

フライブルクの中でもさらに「環境先進地域」ヴォーバン住宅地

ドイツらしいカラフルな色使いのソーラー住宅地ドイツらしいカラフルな色使いのソーラー住宅地

ヴォーバン住宅地の名前は、フランス軍人ヴォーバン大将の名前がついたNATO軍基地に由来している。それが冷戦終結で基地の役目を終え、フライブルク市に払い下げになり、そこに住宅地を建設するというプランが持ち上がった事から、この名前がそのまま住宅地の名前になった。

この住宅地の一番大きな特徴といえば、住民が多数のNPOなどを通じて街開発のコンセプト作りに参加したところだ。採用されたソーシャル・エコロジーコンセプトの特徴を10か条でまとめてみる。

【ヴォーバン住宅地で採用されたソーシャル・エコロジーコンセプト 10か条】
※(一社)クラブ・ヴォーバン 村上敦氏 まとめ

1)適度な人口密度による住宅地の実現
2)既存の樹木や植生、地形、既存建物を最大限生かす
3)中心部に商業施設と雇用を呼び込み、住宅地のアイデンティティ(独自性)の確保
4)カーフリー(カーポートフリー)での住宅地設計
5)近自然工法による住宅地内の緑地(公園など)の確保
6)屋上緑化などの対策を盛り込んだ雨水コンセプト
7)コンポスト(堆肥)を主軸とした住宅地内での廃棄物処理
8)省エネ建築様式(高断熱・高気密)による住居設置の義務化
9)地域暖房の導入とコージェネレーションでの発熱・発電
10)コーポラティブを主体とした集合住宅の実現

10か条の内容と街の様子を見てみると、とにかく住みやすそう、そして何より住民が幸せそう。
どうして日本とこうも違うのか?この疑問が僕のいまの仕事の原点である。

ここがすごい!「ヴォーバン住宅地」

ヴォーバン:街の中心部を走る路面電車と芝のコントラストが美しいヴォーバン:街の中心部を走る路面電車と芝のコントラストが美しい

上記の10か条のコンセプト…文字にすると解りにくい。おそらく、ちゃんと伝わらないと思う。ところが、この場所を訪れ、1日でも2日でも実際に体験するとその意味を肌身に感じる。僕は今まで400名以上の人とここを訪れたが、皆さん一様に言われる。「なんて幸せそうな街なんだ!ここに暮らしたい!!」

特徴を簡単にまとめるとこのようになる。
38ヘクタールの土地に約5500人の住民。しかし戸建て住宅は少なく、集合住宅、もしくはコーポラティブハウスが中心で建築されている。コーポラティブハウスとは、同じような趣味やライフスタイルの方々が、それぞれ個別に住宅を建築するとコストが掛かるが、共同で土地購入、建築家に発注、完成後の維持管理費まで相談して納得行くものを建築し、生活していく形のことを言う。

購入するまで住民同士が納得するまで話し合うので 最初は大変でも完成後は相互の意思疎通ができて納得感がある。デベロッパーが作り上げたものに、趣味嗜好が合う人が集まるようなものではなく、土地の契約から家を作り上げるまでみんなで一緒に考えながら造り上げる…根気はいるが、住み始めると実際は心地良いものなのだ。

また中心部の住宅の1階部分には、生活必需品の商店建築が必須になっている。商店建築を必須にしていることが、雇用をも生みだしているのだ(約600名)。
建物の周りには大きな樹木がたくさんあるが、これは幹周り40センチ以上になると“公共の財産”となる。そのため、最初の土地計画の段階からその樹木の位置確定をし、かつ樹木を活かしたファサードにしていくことで、共生できる街区設計になっている。

もちろん、住宅そのもの建築は省エネ政令よりも厳しく、パッシブハウス基準で建築されているものも少なくない。
しかも地域暖房と言われる熱(お湯、暖房)を造り出すとき、同時に電気を造りだすのだが、このそんなに大きくない(※6戸1棟のアパート程度の大きさ)建造物の中で5500人が1年間で使うなんと2倍の電気が発電されているのだ。もちろん住居のお湯、熱もすべてこの中でまかなっている。

何と言っても特徴的なのは、80%以上の住宅は宅地内に“駐車場”が無い事。住宅地に2カ所、共同の大きな駐車場をつくり、そこに各住居の自家用車が格納されている。つまり、このことで各々の宅地を大きく販売する必要も無いし、駐車場までの導線が限られるため必要以上に車が住宅地を走らないので、子供も道路で安心して遊べる。

路面電車の停留所が住宅地内だけでも3カ所あり、7分に1本は市内中心部に向かっているので車を利用するよりも便利。また、カーシェアリングも充実しており、中心にはシェアリングのための車が何十台もあるので自由に活用できる。
本当に良く考えられている仕組みなのだ。

「ヴォーバン住宅地」を見て…そして、その後の活動へ

この10年間で光熱費の価格が1.5倍以上になっているドイツの中にあり、この住宅地は良い性能構造や再生可能エネルギー、地域暖房なども積極的に活用しているので、住民の負担が少なく、むしろ住居の価値はどんどん向上している。
2000年ごろの住宅地の分譲価格よりも、いま販売するほうが遥かに高い金額で取引されているという資産価値の高い住宅地だ。

そんな便利なヴォーバン住宅地の賃料は…といえば2007年ごろは70m2で8ユーロから9ユーロ。月に直すと600ユーロから700ユーロ。1ユーロ140円換算でも日本円にして8万から9万円くらいの賃料であった。それだけでなく、年間の光熱費は2万から4万円しかかからないという。
しかも2007年から2012年のこの5年間で、不動産取引価格が確実に30%前後上昇しているとのこと。リーマンショックで世界も日本も土地も不動産価格も下がっていた中で、ドイツは右肩上がりであった。住宅を購入しても、30年後には購入価格よりも確実に利息がついて、売却もできるわけである。

現在ではフライブルクもこのヴォーバン住宅地も人気なので、10ユーロから12ユーロという賃料になってきているとか…それでも人口は増加し、宅地面積が不足気味という。うーん…これは日本と全く逆の現象である。
「日本の住宅、マンションを購入しているのと比べたら、あまりにも不幸せだ...日本国民。」残念ながら、そう思ったわけである。

冬も暖か、夏も冷房なんかいらないくらいの快適な生活で、居住面積も大きくゆったり暮らしているのに、日本よりも全然電気を使用していない。原発も止める方向で向かっている?!2008年のこのときの僕は本当にこんなことができるのか?と悩むだけだった。

僕は、この「ヴォーバン住宅地」を日本で再現したいという気持ちに傾き、人生の舵を大きく切ったのである。

2014年 04月30日 16時12分