藁(わら)を使って、家を建てるという驚きべき発想!

建築中の藁(わら)の家建築中の藁(わら)の家

「藁の家」と聞いて“三匹の子ブタ”を思い浮かべるのは私だけだろうか。物語の中では、最初に吹き飛んでしまうのが藁でつくった家だった。その物語とは、似付かない現代の「藁の家」が、環境に優しい住宅として秘かに注目を集めつつある。

「藁の家」は、ストローベイル(straw bale)と呼ばれる圧縮した藁のブロックを積んで壁をつくり、その藁の壁に土を塗るという方法でつくられる建築で、海外では「ストローベイル・ハウス」と呼ばれている。

スローデザイン研究会・代表の大岩剛一氏が、藁の家を知ったのは1999年のこと。20数年経営した自身の建築設計事務所を後進にゆずり、大学で教鞭をとりはじめたころ環境問題に取り組んでいる知人から「ストローベイル・ハウス」のことを聞いた。2000年になり「面白い建築があるから見に行こう」と誘われて、藁の家を見に、オーストラリアとアメリカ・カルフォルニア北部へ出かけた。実際にその家に宿泊し、藁の家の凄さを知ったという。

ストローベイル・ハウスは、19世紀後半に北米で生まれた建築様式で、パンを主食とする国ということもあり使っているのは麦の藁で、中には築100年の建物もあるという。よくよく考えると日本でも、屋根裏に保管して乾燥させた稲の藁で、草履や笠、蓑などを作っていた時代がある。もともと日本にあった藁の生活文化を、20世紀最後の年に海外から教わったと大岩氏はいう。

藁の家は、どうやって建てるの?

壁となる藁のブロックを1つずつ縄で胴縁に縛り、木材に固定していく壁となる藁のブロックを1つずつ縄で胴縁に縛り、木材に固定していく

日本には、建物を建てる際に建築物を安全に維持するために、守るべき技術的基準などを示した建築基準法という法律がある。

藁を使ったこの家は、その基準を満たしているのだろうか?また、大岩氏が見学した藁の家が建っていたのは、高温多湿という日本の気候とは真逆の乾燥地帯。日本で全く同じように作ると藁が湿気って、すぐにボロボロになってしまうのではないか。

長年、建築に携わってきた大岩氏も当然、その点については承知している。海外では、藁と土だけで家を作る例が多いが、それでは日本の法律をクリアできない。そこで、日本の建築基準法に適合する建築工法として「木造在来工法」を採用し、耐震性をもたせた軸組に藁のブロックを固定することにした。大岩氏がこだわるのは、接合部分に金物を使わない、大工職人の伝統技術だけで建てる「木造在来工法」だ。ハウスメーカーの量産システムに押され、この優れた伝統技術をもつ大工職人は減少しつつある。ただ地域ごとにそういった大工職人は必ずいる。地域に眠って埋もれている技術や知恵を結集させて家を造りたいと考えたのだ。

藁のブロックの大きさは、幅60〜90cm、高さ30cm、奥行き40cm、この奥行き寸法が壁の厚みとなる。木材で柱や梁といった家の躯体部分を組み立てたら外周壁に沿って藁のブロックをレンガのように積み上げ、ブロックを1つずつ後ろの胴縁に縄で縛り固定する。また藁壁自体の強度を高めるため、ブロック2段ごとに2つの藁のブロックを竹串で上から突き刺していく。壁一面に藁が積み上がったら、土を手ですり込み、約5cmの厚みになるまで塗りこんでいく。柱と藁、土壁でトータル約60cmの厚みをもつ壁ができあがる。

自然派思考の人々に受け入れられている、自然に還る家の性能とは?

2003年竣工の個人住宅 ストローベイル・ハウス「琵琶湖の家」(写真:斎部 功)2003年竣工の個人住宅 ストローベイル・ハウス「琵琶湖の家」(写真:斎部 功)

オーストラリアで訪れた藁の家では、40度近い外気の中、エアコンをつけなくても室温は25〜26度までしか上がらなかったという。アメリカでの実験によると藁の壁の断熱性能は市販の断熱材とは比較にならないほど高かったそうだ。しかもこの壁は蓄熱性にも優れていて、夏は外気の熱を遮断し、冬は一度暖まった室内の熱を外に逃がしにくくするという。また、藁と土の壁には優れた調湿性があり、乾燥すると湿気を吐き出し、湿度が高いと湿気を吸って湿度コントロールしてくれるため日本の気候にピッタリはまっている。遮音効果も高く、オーストラリアでは録音スタジオとしても利用されていたという。

藁の家の主たる部分は、木と藁と土で出来ているから毒性の強い化学物質を多用するシックハウスとは無縁だ。その昔、日本の農家の家がそうだったように、そのほとんどが自然素材で覆われている。たとえ数十年後に取り壊したとしても、腐って大地に還るものばかりだ。これが自然派思考の人々に支持される要因の一つになっているのだ。

データが示す藁の家の実力

ストローベイル・ハウス「琵琶湖の家」にも、薪ストーブが置かれている(写真:斎部 功)ストローベイル・ハウス「琵琶湖の家」にも、薪ストーブが置かれている(写真:斎部 功)

日本の一般的な住宅において、南側の居室は温かく北側は寒くなりがちで同じ住宅内でも温度差が生じるが、断熱性が高いという藁の家ではどうだろうか。それに、壁に調湿効果があるのは良いが、湿気を吸っているとき壁の中の藁は大丈夫なのだろうか?

その点についても大岩氏は、既に調査済みだという。実際に施工した家の藁壁の中にセンサーを埋め込み、東西南北それぞれの室内壁付近の室温を調べている。その結果、どの部屋もほぼ均一で家中どこにいても、温度差がなかったというのだ。また土壁の中の藁についても、湿気の多い季節でも藁の含水率に変化はなかったというから驚きだ。

その高い断熱性のおかげで、今まで手がけた住宅でエアコンを設置した建物は1つも無いと大岩氏は言う。冬の気温は氷点下、地中60cmくらいまで凍結する標高1000mに建てた八ヶ岳の藁の家には、薪ストーブが1つあるだけだという。小さな小屋ではあるが、部屋中を暖めるのにはそれで充分なのだそうだ。また、雨の多い日本において、土壁を水から守るために軒を深くし、雨ができるだけ当たりにくいように工夫をしている。

「柔能く剛を制す」、藁がコンクリートを超えるとき

スローデザイン研究会 代表 大岩剛一氏スローデザイン研究会 代表 大岩剛一氏

“三匹の子ブタ”では、最初の藁の家はちょっと息を吹きかけただけで、次の木の家はゆすっただけで壊れてしまい、最後に頑丈なレンガの家だけが残った。
レンガの家をコンクリートの家に置き換えてみるとわかりやすい。これは、コンクリートこそ最強の素材で、コンクリートの家にかなう家はないことを暗に伝える寓話だと大岩氏は話す。

「思えば戦後の経済的発展をささえたものは、丈夫で安全なレンガならぬコンクリートに対する全面的な信頼でした。ぼくは“三匹の子ブタ”こそ、日本の住文化を貧しいものにした張本人だと思っているんですよ(笑)。そしてもしかすると、この藁の家が戦後の日本の住宅神話を逆転させるかもしれない。藁は自ら朽ちて大地に還り、次代の命を育む循環型の素材ですね。現代の日本人の暮らしが求めてやまない物質的豊かさに対し、滅び、再生し、循環していくものの“強さと豊かさ”にはコンクリートだってかなわない。全国に共感してくれる人たちの輪が広がり、藁の家の設計依頼も増えているのを見ると、“逆・三匹の子ブタ”の物語は確実に始まっているのかもしれませんね。」とにこやかに語ってくれた。

【ストローベイル・ハウス②】では、他では味わえない「藁の家」のもうひとつの魅力と、実際に住んでいる方の住み心地について紹介する。

取材協力:スローデザイン研究会
http://www.slowdesign.net/index.html