現在、アパートやマンションなどの家賃を滞納しながら、多額の借金を抱えてやむを得ず自己破産を考えている方がいるかもしれません。
そうした方の中には、自己破産後も現在の部屋に住み続けることはできるのかと不安もあるかと思います。
そこで今回は、アディーレ法律事務所の弁護士・谷崎翔先生に「もし家賃を滞納している状態で自己破産したら、部屋から強制退去させられるのかどうか」を解説してもらいました。
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そもそも「自己破産」とは
「自己破産」とは、財産や収入が不足して、借金などの債務を返済する見込みがないことを裁判所に認めてもらい、原則として法律上、債務の返済義務が免除される手続きのことです(これを「免責」といいます)。
そのため自己破産が認められれば、債務の返済に追われることなく、収入を生活費に充てることができます。近年では、個人の方が金融機関からの借金を返せなくなり、自己破産することもあります。
今の部屋に住み続けられる?

まず、自己破産をした場合、今の部屋に住み続けることはできるのでしょうか?
結論から言うと、“自己破産したことを理由”として部屋を退去させられることはありません。その理由については、ここから詳しく解説します。
個人の自己破産手続は2種類…裁判所がどちらかを選択
個人の自己破産手続には、“同時廃止事件”と“管財事件”の2種類があり、裁判所がどちらの手続きで進めるのかを選択します。
何も問題がない場合には同時廃止事件が選択され、借金の原因が浪費だったり、高価な財産があったりする場合には管財事件が選択されます。
管財事件の場合は弁護士が管理
同時廃止事件の場合には、何も問題なく部屋を借り続けることができます。一方、管財事件が選択された場合、裁判所により、「破産管財人」という破産手続を監督する中立の立場の弁護士が選任されます。
それ以降、破産手続が終わるまでの間、破産者の財産関係や法律関係はこの破産管財人の指導監督のもとで管理されることになります。
そして、破産法53条1項では、以下のように定められています。
双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
少し難しいですが、“双務契約”とは「お互いに義務を負っている契約」のことであり、“共にまだその履行を完了していないとき”とは「契約の当事者にお互いまだやらなければいけない義務が残っていること」を指します。

部屋に住み続けられるかどうかは破産管財人の判断次第?
部屋を借りる契約は、法律上“賃貸借契約”といいます。
賃貸借契約は、大家さん(賃貸人)が部屋を借りた人(賃借人)に「部屋を貸して住まわせる」という義務を負い、部屋を借りた人は大家さんに「借りている間は家賃を払い続ける」という義務を負っているため、お互いに義務を負っている双務契約に該当します。
また契約期間中は、大家さんは部屋を貸し続け、部屋を借りた人は家賃を払い続けなければいけないので、「共にまだその履行を完了していない」ことになります。そのため賃貸借契約は、破産法53条1項の要件を満たすことになります。
その結果、賃貸借契約を解除して部屋を退去しなければいけないのか、それとも家賃を払い続けて部屋に住み続けられるのかは、破産管財人の判断によって決まることになります。
自己破産をしても家賃を払いながら住み続けられるのが一般的
しかし、現代社会において部屋を借りるというのは生活の拠点を持つことに等しく、仮に自己破産したら部屋を解約して退去しなければならないとするのはあまりに酷です。
また、部屋の退去に伴い、勤務先を退職する必要が生じたり転居費用が発生したりすると、自己破産をした人が経済的に立ち直る妨げとなります。
そのため現在の実務上は、自己破産をした場合でも、家賃を払いながら住み続けられるのが一般的です。
破産管財人が部屋の解約を選択するのは、何件も部屋を借りて別荘のように利用していたり、自営業を営んでいる人が物置代わりに部屋を借りていたりと例外的な場合に限られます。
かつての法律では大家さんは賃貸借契約を解除できた
なお、以前の民法では、部屋を借りた人が破産した場合には、大家さんは賃貸借契約を解除できるという条文がありました(改正前民法621条)。
しかし、平成16年の民法改正でこの条文は削除されており、現在はこのような大家さんの権利を認める法律はありません。
このように、自己破産したことを理由として部屋を退去させられるのは、非常にレアなケースと言えるでしょう。
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もっとも、自己破産前に家賃を滞納していた場合には、少し状況が異なります。
先ほど説明したとおり、賃貸借契約では大家さんは部屋を貸す義務を負い、部屋を借りた人は家賃を払う義務を負います。どちらか一方がその義務を守らないときには、相手方は損害賠償請求や契約の解除をすることができる、と定められています(民法415条、民法541条)。
家賃を滞納しているということは、部屋を借りた人が自分の義務を果たしていないことになるため、大家さんは損害賠償請求や契約の解除が可能です。
1~2ヶ月の家賃滞納では契約解除が認められないことが多い
もっとも、賃貸借契約は契約期間中にわたって賃貸人と賃借人のお付き合いが続く継続的な契約である点で、1回限りの関係である売買契約などとはその性質が大きく異なります。
イメージとして、コンビニで買い物をするときの店員とお客のように、その場限りのドライな関係ではなく、落語に出てくる江戸時代の長屋の大家さんと店子さんのように長い付き合いの親密な関係を思い浮かべてもらうと分かりやすいと思います。
このように賃貸借契約が継続的な契約であることを重視して、最高裁判所の判例では、賃貸借契約を解約するには、双方の信頼関係を破壊するような重要な契約不履行が必要であるとしています(最高裁・昭和39年7月28日判決)。
この考え方は「信頼関係破壊理論」と呼ばれており、学者からも広く支持される通説となっています。
この考え方に従うと、1ヶ月や2ヶ月ほど家賃を滞納しただけでは契約解除は認められないケースが多く、数ヶ月から1年程度の家賃滞納で契約解除が認められるケースが多いようです。
家賃以外の事情も考慮…契約解除の明確な線引きは難しい
ただし、家賃滞納以外にもペット不可の物件なのに無断で動物を飼っていたり、近隣住人から騒音被害のクレームが多発したりといった家賃滞納以外の事情も解除の可否を判断する際の考慮要素になります。
そのため、「何ヶ月以内の家賃滞納であれば解除されない」とは一概に言えず、明確な線引きをすることは困難です。
自己破産前に長期間にわたり家賃滞納している人は要注意
「家賃を滞納している状態で自己破産した場合に今の部屋に住み続けられるか」については、自己破産したことを理由として部屋を退去しなければならない可能性は非常に低いでしょう。
ただし、自己破産前に長期間にわたり家賃を滞納していると、家賃滞納を理由として契約解除のうえ、強制退去になる可能性が強くなるため注意が必要です。
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