「大家さんに断られた」「保証会社の審査が通らない」不動産賃貸借契約のハードルとその背景を語る

都内某所にて編集者と著者を囲み、依頼当時のことから各分野の今後など話が弾んだ都内某所にて編集者と著者を囲み、依頼当時のことから各分野の今後など話が弾んだ

「住まい」と「人権」は、人の営みにおいて重視されるべきものだ。国連が定める国際人権規約でも、適切な生活水準の一部として住居への権利が明記されている。しかし、社会的弱者であることで住まいの確保が難しい現状は、1979年に日本がこれを批准して以降も変わらない。

2025年12月、さまざまな分野における居住支援を綴った『住む権利とマイノリティ』が青弓社より発売された。
居住支援の現場で今、何が起きているのか。今回は刊行を記念して、共著者である横浜市男女共同参画推進協会経営企画室長 植野ルナ氏、福島学院大学福祉学部福祉心理学科講師 志村敬親氏、株式会社LIFULL 龔 軼群(キョウ・イグン)氏、青弓社『住む権利とマイノリティ』担当編集中島 遥氏の四者が集まり座談会を開催した。

不動産、福祉、研究の垣根を越えた談話から、誰もが「自分らしく住み続ける」ためのヒントを探る。

不動産会社の「悪気のない一言」から生まれた企画

株式会社青弓社 編集・中島 遥氏。本著が初の企画担当となる株式会社青弓社 編集・中島 遥氏。本著が初の企画担当となる

『住む権利とマイノリティ』は、LGBTQ、DV被害女性、外国籍、精神障害者、離家を余儀なくされる若者、中高年単身女性、ホームレスの7分野のNPOと、マイノリティの住宅確保を事業として行う企業1社が、それぞれの立場から住宅確保の問題を綴った内容が編纂されている。
各背景における住まいをめぐる現状や、実例を挙げた困難や成功事例の紹介、住まいの平等に対する取り組みが取り上げられている。本書を通して“どうしたらすべての人が住む権利を普遍的に持てるのか”という「住む権利/住まいの権利」をマイノリティの視点から考える入門書となっている。

本書企画のきっかけを編集者・中島氏に尋ねたところ、自身の部屋探しの中で受けた“衝撃”が元となったそうだ。

中島氏「不動産会社を訪問した際、ある物件で『外国の方には貸さないんだよ』と営業の方から言われたのです。そんな物件があるのか、しかもそれを言ってしまうのかと衝撃を受けました。また、ホームレス、外国籍など個別の属性を扱った既刊はありますが、それらを“住む権利”として横断的にまとめた本はなかったため、1冊にまとめようと思った次第です」

企画発案時は、各マイノリティ当事者や各分野に興味関心のある層を読者想定にしていたそうだ。しかし、編集を進める中で、それぞれの支援者側について知らないことに気づき、本ができてあらためて、不動産業や支援者など住まいに関わる仕事の方にも手に取ってほしいという思いも強く抱くようになったという。出版後の反響を聞いた。

中島氏「期待以上の反響をいただいています。研究者だけでなく、各背景の支援する実務者からも『体系立っていて分かりやすい』と評価を頂戴していてうれしいです。編集をしていて私も非常に勉強になりました」

依頼を受けた執筆陣にも、上梓された本書の感想をお願いした。

志村氏「2025年10月に改正法が施行されたことにより、住宅セーフティネット制度が全面に出てしまい、昨今では“住宅確保要配慮者”とひとくくりにされがちです。ですが、ジェンダーの問題、経済的な問題が住まいに直結していってしまうこの国の構造自体についても、改めて確認することになりました。居住支援に取り組んでいる人間でも、分かっているつもりのことを改めて思い出させてくれる本だなと思いました」

龔氏「とても勉強になりました。本書ではカテゴリーで分けられてはいますが、高齢で障害を持っているとか、外国籍でセクシャルマイノリティであるとか、若者でかつ精神疾患を抱えているなど、さまざまな要素が重なり合っていることもあります。マイノリティと住まいの問題は複雑だと感じました」

植野氏「中高年のシングル女性は社会的マイノリティに属するかといわれると判断に迷うところではあります。ですが、自己責任論に回収されがちで、理解されづらい問題ではあります。この課題に光を当ててくださってありがたいと思っています」

自己責任論に埋もれる「中高年単身女性」と住宅問題の可視化

公益財団法人横浜市男女共同参画推進協会経営企画室長・植野ルナ氏。女性の就労支援事業、中・高年単身女性の社会的ニーズ調査・事業開発に携わる公益財団法人横浜市男女共同参画推進協会経営企画室長・植野ルナ氏。女性の就労支援事業、中・高年単身女性の社会的ニーズ調査・事業開発に携わる

バブル崩壊とともに就職氷河期を生き延びた世代は今や中高年層となった。未婚化が進む中、植野氏は中高年単身女性と住まいの問題に着目し、実態・解決策の調査を進めている。
その中で気づいたのが、住宅にまつわる社会構造が“男性稼ぎ主モデル”を基本に成り立っていることだ。
日本の高度成長期に主流となった、夫が主に外で働いて賃金を得て家族を養い、妻が家庭内で家事・育児・ケア労働を無償で担う、性別分業を前提とした家族モデルは、ライフスタイルが多様化する現代にひずみを生んでいる。モデルの真反対にいる中高年単身女性はその影響を大いに受けているというのだ。

植野氏「“非正規”“低賃金”。男性稼ぎ主モデルの住宅政策からこぼれ落ちたシングル女性たちは、40歳を過ぎると賃貸市場で途端に弱者になるのです」

龔氏「直近でご一緒した和田靜香さん(※)の事例も衝撃的でした。著名なライターであっても、中高年シングル女性、非正規雇用の掛け合わせで家探しが困難を極める。これはもう社会構造の問題だと感じています」

中高年単身・非正規雇用の女性が弱者となる要因には、女性特有の物件への安全の担保も背景にある。

植野氏「単身女性が“安全性”を重視すると、防音性の高さや駅からの近さなど、男性より家賃相場が上がりやすい。家賃負担が収入の30%を超えてしまう現実があります」

社会的構造の変革の難しさ、公的支援の乏しさとニーズについて本書では触れられているが、解決策のひとつとして、当事者同士の自助について住宅購入やURによる友人同居などに希望を見出している。

植野氏「ただ、住宅購入も大金や蓄えのある人に限られてしまいます。昨今はシェアハウスを実践する方も出てきて、大阪の『大人の女子寮プロジェクト』など、単身女性の孤立を防ぐ新しい居住モデルが各所で動き始めています」

併せて植野氏は、非正規雇用の中高年単身女性の住宅問題を解決することは、低所得の中高年単身男性にもよい影響があると指摘する。ジェンダー差を理由にして攻撃的になるのではなく、ともに手を取り合い住まいの問題を解決していくことに期待を寄せた。
※和田靜香……フリーライター。音楽系媒体への執筆のほか、著書に『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』『中高年シングル女性―ひとりで暮らすわたしたちのこと』などがある。

「精神障害」と不動産業界の深い溝をどう埋めるか

福島学院大学福祉学部福祉心理学科講師 志村敬親氏。ソーシャルワーカーとして都内で主に精神障害のある人の地域生活支援に従事し、現在は福島学院大学にて、ソーシャルワーク・精神保健福祉・居住福祉を専攻する福島学院大学福祉学部福祉心理学科講師 志村敬親氏。ソーシャルワーカーとして都内で主に精神障害のある人の地域生活支援に従事し、現在は福島学院大学にて、ソーシャルワーク・精神保健福祉・居住福祉を専攻する

日本では、戦前の私宅監置(いわゆる座敷牢)や、戦後の長期入院を中心とした体制など、精神障害のある人を社会から隔てる仕組みが長く続いてきた。転機となったのは、2004年以降だ。「入院医療中心から地域生活中心へ」との方針が示され、地域生活を前提とする政策への転換が進められてきた。地域移行が本格化しつつあった時期に、志村氏はソーシャルワーカーとして精神障害のある人の地域生活支援に携わり、病院から地域への退院支援に取り組んだ。

志村氏「20年、30年入院されている方のなかには、帰る家がない方や、家族とのつながりが切れている方も数多くいらっしゃいます。不動産会社には片っ端から問合せて回りましたが、『火事を起こすのでは?』『トラブルになるのでは?』という根強い思考バイアスに直面しました。まるで自分に言われているようで、憤りを感じることもありました…」

龔氏「日本の賃貸業界は非常に硬い印象です。精神障害のある方の話をすると、『いや…』という言葉が最初に出てきてしまう事業者は多いです。けれど、理解ある不動産店(Dさん)との出会いが、志村さんを変えたんですよね」

本書の中では、不動産会社の社員“Dさん”と出会い、志村氏と協働して精神障害のある方と住まいの課題に取り組んだ事例が紹介されている。

志村氏「彼は精神障害という言葉すらよく理解できていないようでした。逆に何も知らないからこそ興味を持ってくれて、そこから一緒に組んで部屋を貸し、協力的な不動産屋さんを広げていく取り組みを小さいながらもやってこられました」

協働の中では、不動産会社側から指摘されて支援の在り方について考えるシーンもあったという。

志村氏「『住まいを得る権利が保証されていることは確かに重要。あなたの言ってることは正義だが、支援者側は不動産会社のことをちゃんと見てるのか』と指摘されたこともありました。一緒に組むというのは、相手を知るということと、その上で相手を尊重するということです。Dさんとの出会いを通じてそれを知れたのはとても貴重な経験だったのかなと思っています」

さらに志村氏は、「精神障害に対して理解をしてもらう、普及啓発をするっていう視点はすごく重要だが、こと不動産会社との関わりにおいては、精神障害がある方を支援している専門職は一体何をやっているか、その役割を丁寧に伝えていくことが有効だと感じた」とも振り返って語った。

「貸せない理由」の正体―審査というブラックボックス

株式会社LIFULL龔軼群氏。上海で生まれ、5歳で来日。大学卒業後にLIFULLの前身である株式会社ネクストに入社、2019年にLIFULLのSDGs事業「ACTION FOR ALL」を立ち上げ、住宅弱者問題に取り組む「FRIENDLY DOOR」の事業責任者を務める株式会社LIFULL龔軼群氏。上海で生まれ、5歳で来日。大学卒業後にLIFULLの前身である株式会社ネクストに入社、2019年にLIFULLのSDGs事業「ACTION FOR ALL」を立ち上げ、住宅弱者問題に取り組む「FRIENDLY DOOR」の事業責任者を務める

座談会の中で、”中高年単身女性”精神障害のある方”という、それぞれ異なる分野から、共通して出てきた話題が“審査”のことだ。

志村氏「保証会社の審査が本当に通らない。精神障害というワードが出た瞬間に弾かれる印象です。これは現場の不動産会社の方も困っているのです」

龔氏「保証会社側も、保証する高齢入居者等が増えていくと、病や障害などによる入居中のトラブル、滞納、孤独死や残置物処分への対応補填が増える可能性(=デフォルトリスク)が高まるので、保証会社が背負いきれずに倒産してしまう危機感も少なからずあります。そこに『支援者の有無』などの定性的な情報が反映されていないのが課題だと思います」

植野氏「中高年単身女性の場合、与信が厳しくて保証会社の利用が難しいところに、大家からNGが出た、と断られるといったことも伺いました。非正規雇用で女性という点や、保証人になってくれる親も高齢化しているのがネガティブな要因なのでしょう。公的保証のような“公”の裏付けが不可欠だと感じています」

また会話の中で、中島氏が情報の煩雑化について触れる。

中島氏「一つ気になっているのは、本書で書いていただいているような、いろんな居住サポートのシステムの情報が手に入れにくいなという点です。最近耳にする“申請主義”という言葉にも表れていますが、情報を手に入れて、支援にリーチするハードルが低くなるといいですよね」

龔氏「FRIENDLY DOORサポートデスクを運営するなかでも、個人の方の相談に合わせて居住支援法人を探すにも一苦労なのです。行政資料がPDF化されていていちいち開かないといけない。難しいものをいかに分かりやすく伝えるかとか、まとめて調べられるとか、そこは非常に大事ですし、私たちポータルサイトもその一端を担っていきたいですね」

さまざまな立場の“住む権利”を知り、より良い社会へ

龔氏からは「この人選が素晴らしい」とのコメントや、共著の他分野への興味関心や関連性について話が及ぶシーンがあった龔氏からは「この人選が素晴らしい」とのコメントや、共著の他分野への興味関心や関連性について話が及ぶシーンがあった

談話の最後に、読者へのメッセージをお願いした。

植野氏「住まいは経済の話と思われることが多いですが、“住む権利、住まいの権利”への理解が広がるといいなと思っています。また、中高年単身女性に限らず、問題に直面した際の道筋やヒントが書かれているので、次の一歩を踏み出すきっかけにしてもらえたらうれしいです」

志村氏「多様な人がいる街は、それだけで街が彩られ、そこに住む人の生活が豊かになります。本を通じて少しでも理解してくれる人が増え、今までつながってなかった人たちとつながるような機会がもっと増えればいいなと思います」

龔氏「マイノリティの当事者は、落ち込んだりつらい想いをされていたりする方が多いです。この本を通じて、その大変さを問題だと捉えてアクションを起こしている人がいることを知って、希望にしてもらえたらと思います。また実践者として、問題に一緒に取り組みたいって思える人が増えると、社会は変わっていくと信じています。社会を変えたいと思える人が一人でも増えたらうれしいです」

「将来当事者になるかもしれない」「当事者になったらその苦しみはいかばかりか」という想像力が、社会を変える一歩になる。『住む権利とマイノリティ』は、住まいは人権であることを改めて身近に感じられる一冊となっている。住む権利について、さまざまな立場で読み解けるはずだ。

今回お話を伺った方

今回お話を伺った方

(左から)株式会社青弓社 中島 遥氏、福島学院大学福祉学部福祉心理学科 志村敬親氏、公益財団法人横浜市男女共同参画推進協会経営企画室長 植野ルナ氏、株式会社LIFULL 龔軼群氏

■青弓社刊 『住む権利とマイノリティ』
https://www.seikyusha.co.jp/bd/isbn/9784787235664/
■「障害者」の表記について
FRIENDLY DOORでは、障害者の方からのヒアリングを行う中で、「自身が持つ障害により社会参加の制限等を受けているので、『障がい者』とにごすのでなく、『障害者』と表記してほしい」という要望をいただきました。当事者の方々の思いに寄り添うとともに、当事者の方の社会参加を阻むさまざまな障害に真摯に向き合い、解決していくことを目指して、「障害者」という表記を使用しています。

※ LGBTQ=セクシュアルマイノリティの総称の一つ。L(レズビアン:女性同性愛者)・G(ゲイ:男性同性愛者)・B(バイセクシュアル:両性愛者)・T(トランスジェンダー:体の性と心の性が一致しない人)・Q(クエスチョニング:性自認や性的指向が定まっていない人、その他のセクシュアルマイノリティ)を表す。本記事では、あらゆるセクシュアルマイノリティの方が含まれる総称を「LGBTQ」とし、便宜上表記を統一している。