広がりを見せる「パートナーシップ制度」
セクシャリティの平等が世界規模で大きく叫ばれているが、日本では先進国を称するG7の中で唯一同性婚が認められていない。残念ではあるが現状を見るかぎり、まだまだ同性婚が法的に定められるまでの道のりは遠いようだ。
一方、多様化する生き方に応えるように地方自治体では「パートナーシップ制度」が広がりを見せている。結婚とは異なる、パートナーシップ制度とはどのようなものなのだろうか。
※本記事は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL noteに2021年8月に掲載された内容をアップデートしたものです。
2015年に渋谷区から始まった日本の「パートナーシップ制度」
同性カップルの内縁関係を公的に自治体が認証する「パートナーシップ制度」が実施されている。日本国内では法律的に同性婚が認められないなかで、この制度の認知は近年徐々に広がってきた。
その歴史をたどると、「登録パートナーシップ法」にたどり着く。これはデンマークで施行された、世界初の同性カップルに婚姻とほぼ同等の関係を認めることを定めた法律だ。その施行を機に、後を追うようにノルウェー、スウェーデン、アイスランド、フィンランドといった北欧諸国が法制定を行い、これがモデルとなってヨーロッパを中心に欧米各地へと広がっていった。
2000年代に入り、諸外国では同性婚の法整備が進み始めた。しかし、日本では憲法や法律の同性婚の議論こそ始まったものの、世界的に高まりつつあるLGBTQに対する意識との温度差は広がるばかりだった。
そんな折、都市のダイバーシティを推進していた渋谷区が2015年4月に「渋谷区パートナーシップ証明書」を、同年9月に世田谷区が「世田谷区パートナーシップの宣誓」を発行することを決定した。日本では初めて、区が市民の人権に寄り添う形式で、戸籍上の性別が同じ二者間の社会生活における関係を公的に認めることになったのである。
パートナーシップ制度が施行されているのは530自治体
男女共同参画やダイバーシティを進める上で、渋谷区と世田谷区をモデルケースにしてパートナーシップ制度を導入あるいは検討する自治体は年々増えている。同性パートナーシップ・ネットによると、導入済みの自治体は2021年7月時点で110だったところ、2025年5月31日現在では530と、この4年ほどで5倍近くにまで増加した。人口比でみると、実施自治体人口は総人口の92.5%を占めており、人口の100%をカバーしている都道府県も33と、全都道府県の約7割を占める。
同性カップルを結婚に相当する関係と認められるのはどこまで?
パートナーシップ制度は、結婚のようなものだと思われがちだが、法律で定められた婚姻とは異なっており、自治体が「同性カップルを結婚に相当する関係と認める」という公的な証明がされるだけである。そのため、相続や税金の寡婦控除などの法的制度の適用はされない。
とはいえ認可があることで、自治体が主体となる場面では、配偶者と同様のサービスを受けることが可能になる。
一般的なものでは、UR都市機構や市営区営住宅などの公営住宅に二人で入居ができたり、市立・区立病院での家族としての面会や手術同意が可能になったり、といったことだ。同性パートナーは家族と認められていなかったこれまでと比べると、待遇が大きく変わるといえる。
ほかにも、たとえば渋谷区で住居の賃貸借契約や病院での面会時に、戸籍上の家族ではないことを理由に断った場合には、区が是正勧告をした上で事業者名などを公表することができるのだ。
このように区からの強い働きかけができるのは、渋谷区が条例としてこの制度を採択しているためだ。
また、LGBTQの運動が熱い福岡市では、パートナーシップ宣誓書受領証の都市間連携を締結した。受領証は自治体内でのみ有効なため、多くの自治体では転出する際に受領証の返還が必要となる。しかし福岡市の場合、市を離れても、転入先が連携している自治体であれば、再度申請を行わずともその自治体のパートナーシップ制度に準じたサービスを受けることができる。
地方行政だけでなく、企業でもパートナーシップ制度を活用できるようになってきた。
たとえば、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯電話大手3社とUQコミュニケーションズではパートナーが家族割の対象となっている。生命保険会社では保険金の受取人にパートナーを指定できるようになったものもある。住宅のペアローンも、メガバンクのみならず多くの銀行で受付対象だ。JALやANAをはじめとした航空会社では、マイレージを共有できたりするなど、家族としてサービスを享受できる。
また、福利厚生の一環で従業員がパートナーシップの証明書を提出すると、結婚祝い金の対象とする企業も出てきているそうだ。企業内での意識改革が、少しずつ進んでいる。
所変われば品変わる 一律ではない国内のパートナーシップ制度事情
自治体主体によって広がりを見せるパートナーシップ制度だが、地域差による問題点もある。
その最たるところが、内容が全国一律でないところだろう。現在のパートナーシップ制度は「世田谷区方式」「渋谷区方式」と呼ばれる、先行する2つの区に倣った2種類の方式が主になっている。
世田谷区は要綱を定めたものだ。自治体の内部規定に基づいて関係を認めるという、カップル認定にとどまったものにすぎない。
※世田谷区は2024年11月からパートナーシップ制度を刷新。対象者の拡大やファミリーシップ宣誓の新設など、より利便性の高い制度に変更された。
渋谷区では、条例として制定されている。渋谷区もカップルとして認定を行っているが、そこにプラスして自治体の行政指導が行使される、という強制力を伴っているのが特徴だ。たとえば、パートナーシップ制度を活用した2人が部屋を借りる際に、不動産会社が同性カップルであることを理由に申し込み等を拒否した場合は、当事者からの申し立てにより自治体から事業者へ指導や勧告を求めることができる。
自治体がどちらの形式を採用しているかによって、周囲への働きかけに差が生じているのが現状である。
さらに要綱か条例かの違いは、申請時の費用にも表れる。
たとえば、要綱である世田谷区では戸籍謄本を用意する手数料以外は無料だ。一方、条例化した渋谷区は合意契約公正証書と、任意後見契約公正証書の2種類の公正証書を作成する費用が数万円かかる(ただし、要件によって5万円ないし1万3,000円の助成金が支給)。
また、多くの自治体では申請の条件に「二人ともが同自治体に居住し、かつ住民登録があること」という事柄が定められている。
過去の記事の中でも、同性カップルが賃貸物件を借りる際にはパートナーシップ証明書の提出が求められる、という話題が出た。事情があって現在は市をまたいで離れて暮らしている二人が、新居のためにパートナーシップ制度の申請をしたくても、先の条件に当てはまらないためにそもそも申請ができないという問題に直面するのだ。
パートナーシップ制度の今後の課題
制度開始から10年が経ち、パートナーシップ制度には同性カップルが家族でいられる証明として期待が寄せられている。ただし制度自体は広がりを見せているものの、まだ課題も多い。
手続き面の課題でいうと、男女の婚姻届より手順が多いことだろう。男女間の婚姻の場合、必要書類さえ手元にあれば、自分たちの都合で24時間いつでも婚姻届を提出できる。しかし、パートナーシップ制度の多くは届け出に事前予約が必要になる。また、渋谷区方式の条例の場合だと、男女の婚姻に比べて公正証書を用意する手間がかかる。マイノリティであるがゆえに強いられる不便さは、改善の余地があるのではないだろうか。
そして待たれるのが、法的な効力だ。2023年6月に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(LGBT理解増進法)」が成立したものの、同性婚の法制定までにはまだ時間がかかりそうだ。自治体権限のため限界はあるが、現行のパートナーシップ制度にもう少し後ろ盾の強さがあれば、当事者たちがその人らしく暮らせる方法の選択肢が広がるのではないだろうか。
LGBTQを取り巻く環境がなかなか変わらない一方で、パートナーシップ制度は同性同士の婚姻を求める声を受け止めるように広がっている。改善の余地があるものの、誰もが少しでも自分らしく豊かに生きるためのチョイスが増えたことは、喜ばしいことだろう。市民から地方行政へ、地方行政から国政へと、個を認め合う認識が伝わっていくことを願ってやまない。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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