不動産会社と業界で働く人・働きたい人が助け合える「人だまり」を形成

空き家問題や地方の過疎化、人財不足など、多くの課題を抱える日本。

そんな課題に対し、空き家活用や地域の価値向上など、さまざまな取り組みを進めている、もしくは模索している不動産会社も多い。一方で自分らしい働き方を求める就労希望者も増えており、両者をうまくマッチングできれば、社会課題への解決と個人の幸福感の向上の両立が期待できるのではないだろうか。

LIFULL HOME'S PRESSは2024年11月28日、「地域に価値を生む、不動産会社の新たな取り組み~人財とともに生み出す、地域の持続性と発展性~」というテーマでオンラインセミナーを開催した。

同セミナーの目的は「不動産会社と業界で働く人・働きたい人」が助け合える“人だまり(同志)”を形成すること。

不動産情報サイト「LIFULL HOME’S」運営による全国各地の不動産会社とのつながりを活用して、人だまりを形成し、地域の価値を高める不動産会社を応援する企画だ。

第1回となる今回は、地域に価値を生む取り組みを行い成果を上げている宮城県石巻市の株式会社巻組と香川県三豊市の株式会社喜田建材・不動産部「くらしの不動産」、そしてママの就労支援事業を行うLIFULL FaMが登壇。事例紹介やパネルディスカッションなどが行われたセミナーの内容を紹介する。

LIFULL HOME'S PRESSでは、不動産会社と業界で働く人・働きたい人が助け合える「人だまり」の形成を目的としたオンラインセミナーを開催した。セミナーで登壇した宮城県石巻市や香川県三豊市の会社の事例などを紹介する。LIFULL HOME'S PRESSでは、今後も人だまりを拡大していくことを計画している。どのように発展していくのか楽しみだ(投映資料より)

被災地で空き家を活用した不動産業をスタートした巻組

最初の登壇者は、株式会社巻組・代表取締役の渡邊享子さん。「地域に価値を生む、新たな不動産業とは~巻組の取り組み~」と題した事例発表を行った。

巻組は宮城県石巻市を拠点に、全国各地で資産価値の低い不動産の賃貸運用を通し、地域づくりに貢献するさまざまな事業を行っている。

主力商品は、空き家を活用したシェアハウス「Roopt(ループト)」。Rooptは都心と地方を行き来し自由なライフスタイルを送る人たちに向けたシェアハウスで、1日から入居可能だ。

LIFULL HOME'S PRESSでは、不動産会社と業界で働く人・働きたい人が助け合える「人だまり」の形成を目的としたオンラインセミナーを開催した。セミナーで登壇した宮城県石巻市や香川県三豊市の会社の事例などを紹介する。現在は東北地方や首都圏中心に20軒展開。今後は全国に拡大していく予定だという(渡邊さんの投映資料より)

そもそも渡邊さんがこういった事業をしようと思ったのは、学生時代に起きた東日本大震災がきっかけだそう。ボランティアとして石巻市にやってきた渡邊さんは、その後移住。同市で過ごすうちに、ある課題を感じるようになった。

震災直後の2011年当時は、全壊家屋約2万2,000戸で“家が足りない”状況だった。しかし10年の間に、復興予算を利用して急速に住宅が供給され、その一方で人口は減少。結果、空き家だらけになってしまったのだ。

空き家問題は石巻に限ったことではない。昨年総務省が発表した調査結果によると、全国の空き家の数は約900万戸と過去最多、総住宅数に占める空き家の割合は13.8%と過去最高となった。

巻組には、特に宣伝をしなくとも、毎週のように空き家所有者からの相談があるという。

「遠方に住んでいるので管理が困難という方が目立ちます。相続登記が義務化されたことも相談が増えている要因ではないでしょうか。空き家を相続した(する)けれど、維持できない、管理も難しい、資金調達も容易ではない……と、運用に悩んでいる方が多いです。すでに顕在化している問題ですが、今後ますます増えてくるのではないでしょうか。弊社としてもしっかり進めていきたいと思っています」と渡邊さんは話す。

LIFULL HOME'S PRESSでは、不動産会社と業界で働く人・働きたい人が助け合える「人だまり」の形成を目的としたオンラインセミナーを開催した。セミナーで登壇した宮城県石巻市や香川県三豊市の会社の事例などを紹介する。諸外国では空き家を「AKIYA」とローマ字表記し、日本の文化として流通しているそうだ。日本の地方で古民家を探している外国人も増えているという(渡邊さんの投映資料より)

Web3の仕組みを活用した遠隔で管理できるシェアハウス「Roopt」

先述のとおり巻組では、1日から入居可能なシェアハウス「Roopt」を運営しているのだが、「シェアハウスを“遠隔で管理できる人財”を育てて運用していくことに力を入れています」と渡邊さんは話す。

シェアハウスはWeb3の仕組みを活用して運営され、2年前からDAOを導入。今までは費用や責任などすべてにおいて大家が負担していたものを、住人や支援者、利用者なども関わって運営を盛り上げていこうと試みているそうだ。

LIFULL HOME'S PRESSでは、不動産会社と業界で働く人・働きたい人が助け合える「人だまり」の形成を目的としたオンラインセミナーを開催した。セミナーで登壇した宮城県石巻市や香川県三豊市の会社の事例などを紹介する。Rooptの仕組みは、賃料を支払った方にNFT(暗号資産)を渡し、それを株券や会員券のように扱う。会員券を持っている人たちでシェアハウスの運営組織をつくり、住人にもなり運営もしていく。トークンを持っている人たちで、運営予算の使い道やルールを決定。またDAOに場所を貸すという事業を行っている(渡邊さんの投映資料より)

さまざまな効果があるなかで、「10人ほどのシェアハウスで必要なことを決定する際、400名以上のトークンを持ったメンバーが関わっているのが面白い」と渡邊さんは言う。

新しいシェアハウスができる際には、トークンを持っている人たちが集まり初期設定に積極的に関わってくれることも多いのだとか。また広報や集客もDAOメンバーが実施し、売り上げはDAO導入前の1.7倍に。ほかにも人口減少地への関係人口を創出し、地域貢献活動に積極的に取り組むメンバーも現れている。コミュニティ運営を楽しむ参加者が多いようだ。

このようにDAOの導入で運営の担い手育成も少しずつ進み、オーナーの負担軽減や収益構造改善につながっている。

「これからの時代は、ただ家賃が安いだけでなく、入居者の方がいかに自分の望むライフスタイルを手に入れることができるかが重要だと思います」と渡邊さんは話した。

シェアハウスや一棟貸しゲストハウスに感じる可能性と人財育成

巻組では、シェアハウスだけでなく、一棟貸しゲストハウス(バケーションレンタル)の運営もしている。インバウンドの盛り上がりもあり、渡邊さんはゲストハウスにも大きな可能性を感じているそうだ。

LIFULL HOME'S PRESSでは、不動産会社と業界で働く人・働きたい人が助け合える「人だまり」の形成を目的としたオンラインセミナーを開催した。セミナーで登壇した宮城県石巻市や香川県三豊市の会社の事例などを紹介する。たとえば1ヶ月の家賃が5万円の一戸建て賃貸物件を一棟貸しのゲストハウスとして運営した場合、グループ利用される方も多いため、1泊で5万円の収益が出るというケースも少なくないという。実に効率がいい(渡邊さんの投映資料より)

巻組ではこういったシェアハウスやゲストハウスの運営に関わるマネージャーの育成にも力を入れているそうだ。人財育成が進めば、もっと全国にこの事業を展開していくことが可能になるだろう。

渡邊さんはこう話す。「人財が循環することによって、自己実現できる人が増え、それによってまちが少しずつ盛り上がってくる。幸せな地域づくりに貢献できるこういった取り組みを、全国に展開していきたいと思っています。現地にパートナーやエリアマネージャーとして運営に関わってくださる方々を募集しながらやっていきたいですね」と意気込みを語り、「ご興味のある方はこの機会にぜひつながっていただければと思います」と締めくくった。

まさに「不動産会社と業界で働く人・働きたい人」が助け合える“人だまり(同志)”を形成するいい機会となる事例紹介であった。

くらしの不動産による、地域の関係人口を増やす「つくる・育てる・持続させる」ファンド

続いては渡邊さんに加え、香川県三豊市の建材会社・喜田建材の不動産部署「くらしの不動産」の島田真吾さんをパネラーに向かえ、LIFULL FaMの原田奈実さんがモデレーターを務めてのパネルディスカッションが行われた。

まずはくらしの不動産の島田さんから自己紹介があったのだが、これがまた興味深い内容だったので紹介したい。

喜田建材は、もともとは材木店としてスタートした100年企業だ。現在はさまざまなBtoCビジネスにも挑戦しているという。たとえば島田さんの所属する不動産ビジネスのほか、雑貨販売、泊まれるショールーム運営、空き家を改装したラーメン店も営業しているというから面白い。

地域課題を解決するためのいろいろなコンテンツをつくることによって、地域の住宅需要やまちの魅力向上を目指し、ひいては建材につなげていくという。

空き地や空き家などの地域に眠っている遊休資産を、島田さんはひとつひとつ探してマップにピンをしていった通称「島田ノート」(島田さんの投映資料より)空き地や空き家などの地域に眠っている遊休資産を、島田さんはひとつひとつ探してマップにピンをしていった通称「島田ノート」(島田さんの投映資料より)

さまざまな取り組みを行う同社だが、やはり1社で行うには限界があると島田さんは言う。そこで地域に関わる多くのステークホルダーが参加できる「つくる・育てる・持続させる」3つのファンドをつくった。

空き家などを活用しリノベーション住宅をつくる。しかしつくるだけではいけない。まちに魅力的なコンテンツを増やし、スタートアップを促進する。つまり育てるのだ。つくって育てたあとには、それを持続させなければならない。地域に出資してもらえるような仕組みが必要だろう。このファンドのスキームでは、対象不動産の所有権だけをオフバランスし、そこに出資をしてもらい株主人口を増やす仕組みを整えた。

空き地や空き家などの地域に眠っている遊休資産を、島田さんはひとつひとつ探してマップにピンをしていった通称「島田ノート」(島田さんの投映資料より)地域活性化に必要な3つのフェーズ「つくる=人口を増やす」「育てる=事業を増やす」「持続させる=株主人口を増やす」(島田さんの投映資料より)
空き地や空き家などの地域に眠っている遊休資産を、島田さんはひとつひとつ探してマップにピンをしていった通称「島田ノート」(島田さんの投映資料より)つくって育てて持続させる。これにより人、不動産、お金が地域内で動くのだ(島田さんの投映資料より)

地域課題解決に挑む不動産会社によるパネルディスカッション

ここからはパネルディスカッションで原田さんから投げかけられた3つの質問を要約して紹介する。

LIFULL HOME'S PRESSでは、不動産会社と業界で働く人・働きたい人が助け合える「人だまり」の形成を目的としたオンラインセミナーを開催した。セミナーで登壇した宮城県石巻市や香川県三豊市の会社の事例などを紹介する。登壇者の皆さん。左から、喜田建材・くらしの不動産 島田真吾さん、巻組 渡邊享子さん、LIFULL FaM 原田奈実さん(投映資料より)

Q.不動産会社の課題・地域課題とは?

島田さん:やはりシンプルにお金の問題。特に地方の場合、物件の単価が安いため仲介業は本当に儲かりません。そしてもうひとつの課題は人。いい人財というと語弊があるかもしれないですが、いい視点を持った人財とは、地域では出会いにくいと感じます。

渡邊さん:地方では売買価格や賃貸単価が安すぎるために、事業が組みづらいということがあると思います。建物が古いのでさまざまな費用がかさみ、コストが見合わない。地域内循環させるのは限界を感じるので、バリューを上げないとビジネスは成り立たないでしょうね。

Q.課題に対する解決策とは?

渡邊さん:単価感の高い方々に使っていただけるビジネスを考えていくのは重要だと思っています。今であれば活況なインバウンドも考えていきたい。また、シェアなど複数人で使える仕組みにすることで収益を上げていくこともできるのではないかと思います。

そしてもうひとつは人財育成。高いスキルを持っている地域の人財の隙間時間を、運営に関わる時間にできる仕組みがあれば、今後の不動産運用において大きな可能性を秘めていると思います。

島田さん:地域の課題は不動産だけではないですよね。介護、交通、教育、農業などいろいろあるなかで、何かと掛け合わせる、つまり別のキャッシュポイントを持たせるっていうのも重要なところだと思います。

またファンドやDAOもそうですが、みんなでつくることはすごく大事だなと思っています。誰か一人、どこか一社がやり続けることは困難です。分散や役割分担をすることで、プロジェクトもやりやすくなるのではないかと思いますね。

Q.地域での持続可能な不動産経営、今後の展望は?

島田さん:不動産領域だけの問題ではなく、そのまち自体が魅力的じゃなければ、人も入ってこないし不動産も動かないですよね。大きなテーマにはなってしまいますが、やはり個人の幸せがあるかどうかが大切。それがまちの魅力になっていく。ほかの地域の好事例でもそこは共通しているんじゃないかと思います。不動産業界ってなかなか稼げないですが、めちゃくちゃ楽しい。その楽しさを感じてもらえるような働き方ができれば、明るい不動産業界があるんじゃないかと思います。

渡邊さん:不動産投資の正攻法としては、地方に投資をしない時代になっていると思うのですが、逆に言うと地方は革命的な何かが起こる可能性を秘めている魅力があると思うんです。自分の采配で失敗してもやってみようというチャレンジができるのも、地方の不動産業のあり方かと思います。

Q.パネルディスカッションの最後にひとこと

島田さん:地方だからこそできることがあると思います。不動産の安さから来る挑戦のハードルの低さ、また価値の低いものを自分でバリューアップさせる楽しさは、都会ではできない面白さだなと感じています。今後は、面白い不動産プレイヤーを全国に増やしていきたいと思っていて、不動産屋を育てる不動産屋みたいなコンセプトで、ローカル不動産プロデューサー育成クラスのようなことも考えていますので、ご興味ある方はぜひご連絡ください。

渡邊さん:地方だからこそ失敗してもリカバリーできることが結構あるのではないかと思うんです。今日、話を聞かれて地方の取り組みにジョインしたいと思った方がいらっしゃったなら、求人サイトじゃないところに、実はたくさん魅力的なお仕事があると思います。われわれも多種多様なお仕事がありパートナーさんを探していますので、ぜひ気軽にアクセスいただければなと思います。

ママの力で人財不足を解決する「LIFULL FaM」

パネルディスカッションのあとは、LIFULL FaMの取り組みについて原田さんから説明があった。

国交省からの委託を受け、全国版空き家バンクを運営しているLIFULLでは、空き家情報を載せるだけではなく、空き家の掘り起こしや地域で活躍する人財の育成、人財のマッチングなど幅広く行っているのだが、そのなかでLIFULL FaMは、地域の子育て層の就労支援をサポートしている。

地域で働く場所がないという子育て世帯の方や、出産前はバリバリ働いていたけれど今は時間が限られている方に「パートナー」として登録してもらい、仕事を紹介。スキルアップをしながら地域や全国の企業に貢献できる仕組みづくりをしている。業務内容は、たとえば物件入力代行やWeb記事作成、SNS運用代行など、パートナーそれぞれのスキルに応じて多岐にわたる。

今後もFaMパートナーさんの活躍機会を増やしながら、不動産会社の人財不足も解消できるようマッチングを進めていく。

全国に4ヶ所あるLIFULL FaMのオフィスでは、ワークスペースの横にキッズスペースが設けられ、専門スタッフが見守ってくれる環境も整備。一部のオフィスは空き家を活用しているのも、LIFULLらしい取り組みだろう(投映資料より)全国に4ヶ所あるLIFULL FaMのオフィスでは、ワークスペースの横にキッズスペースが設けられ、専門スタッフが見守ってくれる環境も整備。一部のオフィスは空き家を活用しているのも、LIFULLらしい取り組みだろう(投映資料より)

冒頭でも紹介したように、本セミナー開催の目的は「不動産会社と業界で働く人・働きたい人」が助け合える“人だまり”を形成すること。

登壇した巻組、くらしの不動産、LIFULL FaM、そして視聴している不動産会社や自治体、一般ユーザー、求職者の方々など、それぞれの視点でそれぞれの学びがあったように思う。また登壇者と参加者がつながりを持てるような話題もあった。

これを機に、この“人だまり”がどんどん大きくなっていくことを願っている。

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