ほぼ以前の状態に戻った日常

約3年間に渡って私たちを不安に陥れたコロナウイルス感染症。現在も病院などに行けばマスクの装着を求められるし、電車に乗ればマスクをしている人も見かける。とはいえ、2023年5月8日に感染症法上の位置づけが5類に移行してからは、日常生活は、ほぼ以前の状態に戻ったといえるのではないだろうか。

それは鉄道の混雑状況を見てもわかる。鉄道の混雑状況は鉄道利用が戻ってきたコロナ後に、快適に通勤通学する区間を選ぶ際にも役に立つ。そこで、東京圏の鉄道混雑率がコロナ禍と比べてどう変わったのかを確認してみよう。

上昇傾向だがコロナ禍前には戻っていない混雑率

混雑率とは、ピーク時1時間の平均混雑度の割合だ。測定方法は各鉄道会社によって異なり、自動改札機や車両の重量センサーを利用する、目視するといったやり方がある。東京圏においては主要31区間、大阪圏においては主要20区間、名古屋圏においては主要8区間の平均混雑率を公表している。混雑率の目安は以下のようになっている。

100%:定員乗車(座席に着くか、吊革につかまるか、ドア付近の柱につかまることができる)
150%:新聞を広げて楽に読める
180%:折りたたむなど無理をすれば新聞を読める
200%:体が触れ合い相当圧迫感があるが、週刊誌程度なら何とか読める
250%:電車が揺れるたびに体が斜めになって身動きできず、手も動かせない

混雑率の目安(出典:国土交通省資料)混雑率の目安(出典:国土交通省資料)

国土交通省は毎年、通勤通学時間帯の鉄道の混雑状況を把握するため「都市鉄道の混雑率調査」を行っている。コロナ禍前後の東京圏における平均混雑率の推移は、2019年度は163%であったのが、2020年度には107%と大幅に減少している。しかし、コロナ禍が収束を見せ始めた2022年度には123%まで急上昇しており、2023年度では136%と、まだコロナ禍前ほどには戻っていないものの、上昇傾向にあるといえる。

混雑率の目安(出典:国土交通省資料)コロナ禍前後の東京圏の平均混雑率の推移

混雑率が高いトップ5区間

最新の2023年実績で混雑率が高い上位5区間は以下の通り。なお、ここでは輸送力にも注目してほしい。輸送力とは一定の時間・区間内で何人の旅客を輸送できるかを示す能力のことだ。したがって、住んでいる人や働いている人が多いエリアが必ずしも混雑するというわけではなく、乗車人員と輸送力のバランスで混雑率は変化する。

1. 東京メトロ日比谷線 三ノ輪駅→入谷駅 混雑率162%(輸送力2万7,945人)
2. JR中央線快速 中野駅→新宿駅 混雑率158%(輸送力4万1,440人)
3. JR東海道線 川崎駅→品川駅 混雑率151%(輸送力3万1,348人)
4. 東京メトロ千代田線 町屋駅→西日暮里駅 混雑率150%(輸送力4万4,022人)
4. JR京浜東北線 川口駅→赤羽駅 混雑率150%(輸送力3万4,040人)

東京メトロ日比谷線東京メトロ日比谷線

混雑率が低いトップ5区間

混雑率が低い上位5区間は以下になる。

1. JR中央緩行線 代々木駅→千駄ヶ谷駅 混雑率92%(輸送力2万6,640人)
2. 東京メトロ銀座線 赤坂見附駅→溜池山王駅 混雑率98%(輸送力1万5,860人)
3. 京成本線 大神宮下駅→京成船橋駅 混雑率104%(輸送力1万4,520人)
4. 東京メトロ半蔵門線 渋谷駅→表参道駅 混雑率109%(輸送力3万8,448人)
5. 京急電鉄本線 戸部駅→横浜駅 混雑率116%(輸送力2万7,000人)

上記のように赤坂見附駅や渋谷駅といった東京都の中心部でも、意外に混雑率が低い区間がある。

JR中央緩行線JR中央緩行線

コロナ禍と比べて混雑率が上がったのはどの区間?

では、どの区間がコロナ禍後に混雑率が上がったのか、上位6区間(5位)を見てみよう。
(2021年度→2023年度)
1. 京成押上線 京成曳舟駅→押上駅 
混雑率93%→149%(56ポイント増) 輸送力2万2,264人→2万2,264人(±0人)
2. JR東海道線 川崎駅→品川駅
混雑率104%→151%(47ポイント増) 輸送力3万5,036人→3万1,348人(-3,688人)
3. 東京メトロ有楽町線 東池袋駅→護国寺駅
混雑率102%→148%(46ポイント増) 輸送力3万4,176人→3万4,914人(+738人)
4.JR総武線快速 新小岩駅→錦糸町駅
  混雑率105%→148%(43ポイント増) 輸送力3万5,416人→3万3,624人(-1,792人)
5.JR常磐線快速 三河島駅→日暮里駅
混雑率96%→137%(41ポイント増) 輸送力3万8,852人→3万804人(-8,048人)
5.JR常磐緩行線 亀有駅→綾瀬駅
混雑率92%→133%(41ポイント増) 輸送力3万2,200人→2万8,000人(-4,200人)

京成押上線京成押上線

コロナ禍と比べて混雑率が上がっていないのはどの区間?

続いて、コロナ禍と比べて混雑率がそれほど上がっていない区間を確認する。
(2021年度→2023年度)
1.東急東横線 祐天寺駅→中目黒駅 
混雑率116%→120%(4ポイント増) 輸送力3万1,650人→3万2,568人(+918人)
2.京成本線 大神宮下駅→京成船橋駅
混雑率98%→104%(6ポイント増) 輸送力1万4,520人→1万4,520人(±0人)
2.東京メトロ銀座線 赤坂見附駅→溜池山王駅
混雑率92%→98%(6ポイント増) 輸送力1万8,300人→1万5,860人(-2,440人)
3. 都営三田線 西巣鴨駅→巣鴨駅
  混雑率131%→140%(9ポイント増) 輸送力1万5,960人→1万9,600人(+3,640人)
4.東京メトロ半蔵門線 渋谷駅→表参道駅
混雑率99%→109%(10ポイント増) 輸送力3万8,448人→3万8,448人(±0人)

東急東横線東急東横線

注目するべきは輸送力の増減

コロナ禍中と比べて混雑率が上がった区間と上がっていない区間を見比べると、都心からの距離はあまり関係ないようだ。注目するべきは輸送力の増減だろう。混雑率が上がった路線の多くは、輸送力を削減している。一方で上がっていない区間では、輸送力を増強しているところも少なくないのだ。たとえば「西巣鴨駅→巣鴨駅」がある都営三田線は、以前は6両編成だった。それがコロナ禍中の2022年5月に8両編成の新型車両6500形を導入した。これによって輸送力が大幅に増強されたのだ。人口減が進む日本では、鉄道の輸送力削減が目立つようになってきた。より便利に、より快適に鉄道を利用したいなら、路線ごとの輸送力の増減傾向にも注視したい。

都営三田線の新型車両6500形都営三田線の新型車両6500形

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