住宅の確保が困難な若者を支援する取組み
18歳になると児童福祉法による支援の枠から外れてしまうため、公的な支援にたどり着きづらい。さらに住居の確保にも困難があるという、家族を頼れない若者たちがいる。今回の企画では、そうした若者たちの支援に取り組む特定非営利活動法人サンカクシャ代表の荒井佑介さんに住まいをテーマにしたお話を伺っている。
前編では、サンカクシャが運営する、家族を頼れない若者が自立した生活を送るための足掛かりとなるシェアハウスについて話を聞いた。(参照:「一人暮らしをしたい。でも親は頼れない…」居場所のない若者の住まい支援 現状と課題・前編)
後編では、支援を行う側が感じる彼らをめぐる住まいの課題と、それに対するサンカクシャの取組みについて伝える。
既存の住宅支援制度と助けを必要とする若者とのミスマッチ
――家族に頼れない若者の居住支援を通じて、直面する課題にはどんなものがあるのでしょうか?
一番は、若者に対する公的支援が少ないことです。住むところがないが、サンカクシャのシェアハウスは満室。生活保護を利用してもいいと考えている子が、いざ役所へ生活保護申請をしようとすると、たいてい「無料低額宿泊所」へ案内されます。
そこは高齢者が多かったり、ルールや制約も多かったりするので、若者が利用する施設として適していないことが多いです。生活保護受給の可否が出るまでの2週間、さらに引越し先が決まるまでの1ヶ月、そこでの生活に耐えられる子はほとんどいませんでした。つまり、生活保護を利用することができなくなるのです。
そうなると、民間の支援団体が住む場所を用意することになります。サンカクシャも含めた若い人たちの生活をフォローしている民間団体で行う支援は、ビジネスホテルや団体が運営するシェルターに身を置いて生活保護を申請してもらい、その後アパートなどに引越してもらう、という流れで進められるのが一般的です。
基金の補助や助成があるとはいえ、住まいのサポートについて、民間団体が担う部分が多すぎると感じています。
――生活保護利用者は引越しやお部屋探しの制約が厳しいとも聞きますが、若者の場合でも同様でしょうか。
生活保護を利用できる限られた賃料に合った物件を探すことが大変だと感じています。東京都の場合は、5万3,700円の家賃補助額内の物件が少なく、探すのにも一苦労です。幸いにもサンカクシャでは活動に共感してくださる不動産会社さんがいつも何とか仲介してくださっているので、助かっています。
こうした事態が起こっているのも、居住に関する既存の制度が若者向けにつくられてはいないためで、制度と現実のニーズのミスマッチを痛感していますね。
サンカクシャでは、不動産会社からの提案でシェアハウスの本格スタートと同時期に、マンションの清掃を条件に空き室を格安で借りられることになり、サブリース的に若者に部屋を貸すことも始めました。
共同生活が難しい子もいること、生活保護申請のために当座の住所を確保しないといけない、といった要因があるにもかかわらず、シェアハウスだけに頼りすぎていたという反省があったからです。今後サブリースを増やしていきたいと考えて物件を探しているところです。
若者の住まいを支援していく社会的なムーブメントが起きてほしい
――今後の若者の住まいをめぐる問題に、社会ができることや期待することはあるでしょうか。
一つは、先ほどもお話しした民間団体の持ち出しが多い点に関して、団体だけが負担するのではなく、皆で若者の住まいを支援していこうというムーブメントをつくっていきたいですね。
寄付で応援する、物件オーナーが数部屋を若者向けに貸し出す、といったアクションもありがたいですが、まずは「住まいすら確保できない若者が多い」「住まいを確保できない若者に対する支援がない」ことを認知してもらいたいです。
二つめは不動産業界に特化して話すと、親を頼れず住まい探しに難を抱える若者に対して理解ある大家さんとのネットワークを築けたらいいなと思っています。
サンカクシャも、これまでもそうしたネットワークに支えてもらってきた実績があります。不動産会社の方々にも「この大家さんは協力的だよ」というように、団体と大家さんをつないでもらえたらうれしいですね。
三つめは、空き家や空き室を貸してくれる方が増えてほしいと期待しています。昨今では空き家が問題になっていますが、オーナーさんが空き家とは自覚せず持て余している状態の住宅が多いのではと、個人的に感じています。
そうした住宅を、大変な状況に置かれている若者が増えている現状に活用してもらえるようにお願いしたいところです。
――サンカクシャのこれからの展望を聞かせてください。
住まいの支援に関しては、「シェアハウスを増やせるだけ増やす」「短期間の個室シェルターをつくる」「自立援助ホームをつくる」を三本柱に、今後取り組んでいきたいと考えています。
また、地方拠点を置くことも視野に入れています。相談の中には、「東京へ行けば何とかなる」と思い描いて地方から都心に出てきたものの、生活が立ち行かなくなる子が多いです。
池袋にあるサンカクシャから1時間半圏内に新たな拠点を置き、その周辺で生活コストを安く抑えながら新拠点を居場所にして孤立することなく、仕事を介して地域住民ともつながることができる。そんな地方の盛り上げ方もできたらと構想を練っています。
それから、現在は運営の8割を助成金でまかなっているため、寄付を増やして運営を安定させて基盤を築いていくことも目標ですね。
既存の制度を使って安定していくよりどんどん新しい課題に着手していち早く事業化し、それを社会に還元していきたいというのが、サンカクシャの理念です。
そのためには自主財源をしっかり持って新規事業を次々と立ち上げ、追随する人や課題の認知を増やして引っ張っていく役回りを担いたいと思っています。
インタビューの中で、荒井さんは支援をしてきた若者のことを「子」と呼んでいた。まるで友達のように、伴走支援を行う様子が伝わってくる話だった。
一方、“ハウジングファースト”という言葉があるほど、安心して暮らせる住まいの確保は重要にもかかわらず、家族を頼れない若者の多くは「“住まい探し”の概念がない」といわれるほど、課題の深刻さを感じる。
人は孤独の中でもホッと落ち着けるものがあると、心が楽になるという。見守る大人の存在が落ち着けるものになれば、彼らの生きづらさも解けていくのではないだろうか。
お話を聞いた方
荒井佑介(あらい・ゆうすけ)
1989年12月生まれ、埼玉県出身。2008年から路上支援に携わり、貧困問題の背景を考え始めたことを契機に2010年頃から小中学生対象の学習支援に参加する。支援現場で、高校進学後に、中退、妊娠・出産、進路就職でつまずく子どもたちを多く見たことから、15~25歳の若者を対象とした支援を行うNPO法人サンカクシャを2019年立ち上げ、居場所のない若者の自立のため団体運営と現場支援の双方に尽力する。
【参考リンク】
▼サンカクシャ
https://www.sankakusha.or.jp/
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2023年4月掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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