「東京ゼロエミ住宅」基準の改正でより高い水準へ
東京都の「ゼロエミッション東京戦略」は、温室効果ガス排出量を、2030年には50%削減(対2000年比)、2050年には排出量実質ゼロを目指すものだ。省エネや再生可能エネルギーの拡大も重要な施策となっており、住宅業界においても、省エネ住宅の拡充・普及が求められている。
省エネ住宅を拡充していくため東京都で定められた「東京ゼロエミ住宅」は、熱貫流率の基準をクリアした窓・ドアや、全室LED照明、高効率エアコン・給湯器といった「必ず適合すべき仕様」を設置したうえで、UA値・省エネルギー基準値の「性能基準」満たすことで認証を得て、助成金の給付を受けられるものだ。
この東京ゼロエミ住宅の性能基準が、2024年10月1日より引き上げられる。現行基準、ZEH基準と比較しても高い水準の性能が求められることとなった。現行基準・新設基準・ZEH基準は以下の通りだ。
【現行】基準最高値「水準3」
・UA値:0.46以下
・省エネルギー基準:40%(集合住宅:35%)以上削減(再生可能エネルギー等を除く)
【新設】基準最高値「水準A」
・UA値:0.35以下
・省エネルギー基準:45%(集合住宅:40%)以上削減(再生可能エネルギー等を除く)
【参考】ZEH基準
・UA値:0.6以下
・省エネルギー基準:20%以上削減(再生可能エネルギー等を除く)
・省エネルギー基準:100%以上削減(再生可能エネルギー等を含む)
・再生可能エネルギーの導入
また、現行基準では、都内住宅の矮小性を考慮して太陽光発電等の再生可能エネルギー設備の設置を基準に置いていないが、今回の変更で設置が不可能でない限りは原則設置とされた。
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国の省エネ基準よりもさらにエネルギー消費量を削減する「東京ゼロエミ住宅」とは?
省エネ住宅の普及は消費者の「認知」が鍵となる
基準が引き上げられ、住宅そのものの性能が上がっても、そうした高性能住宅が消費者に認知され、選択されることが重要だ。
住宅の性能をわかりやすくし消費者の選択を促すひとつとして、国土交通省は「省エネ性能表示制度」を2024年4月より努力義務化している。省エネ性能表示制度では、エネルギー消費性能を6段階で、断熱性能を7段階で評価し、目安光熱費を「省エネ性能ラベル」として表示する。これにより、消費者が高性能住宅を選びやすくなる。
▼省エネ性能表示制度詳細はこちら
建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度が2024年4月にスタート。その内容とメリットとは?
このように、国や都が高性能住宅の拡充、消費者への認知ともに課題としてすでに取り組んでいるものの、省エネ住宅の普及には、まだ消費者の認知の低さが障壁となっている。
パナソニックホームズは「省エネに関する認知調査」を行い、首都圏(1都3県)在住の賃貸住宅への転居意向者520名にアンケートを実施した。
回答結果では、ZEHの認知率は16%、省エネ性能表示制度の認知率は11%にとどまり、省エネ住宅の制度に関する認知の低さが浮き彫りとなった。しかし、断熱性能によるメリットの理解度は高く、また省エネ性能表示制度を理解したうえでは、62%の人が「選びやすいと思う」と回答したことから、省エネ住宅・ラベルへの期待とニーズはあるものの、認知度の低さが普及の壁となっていることが明らかとなった。
また、消費者側だけでなく、供給側にも課題がある。省エネラベル掲載物件数の少なさだ。LIFULL HOME’S掲載の新築賃貸物件のうち、省エネラベルを掲載している物件は、2024年9月時点で約0.5%にとどまっている。
制度は整えられてきているものの、消費者側、供給側ともに活用はこれからとなる。
「省エネ住宅は消費者に優先的に選ばれる」という風潮をつくっていくことが、業界側の意識や行動を変えていくことにつながるだろう。
東京ゼロエミ住宅「水準A」を全戸で満たす、パナソニック ホームズ「NEWビューノ」
省エネ住宅の認知・普及が必要とされる中、パナソニック ホームズは2024年9月より都市型多層階賃貸住宅「NEW ビューノ」を発売開始した。
「ビューノ」は都市賃貸に特化した商品だが、今回の「NEW ビューノ」の大きな特徴は、東京ゼロエミ住宅新設の「水準A」を満たす高性能仕様となっていることだ。従来の「ビューノ」では、プランによっては1階と最上階において新基準の「水準A」を満たすことが難しいケースもあったが、「NEW ビューノ」では全住戸で「水準A」を実現(※)する。省エネ性能を高めたことで、年間4万~5万4,000円の光熱費を軽減できるという。
※建築地やプラン、採用する仕様により、住戸ごとにクリアする水準が異なる場合がある
東京ゼロエミ住宅「水準A」を満たすための工夫は主に3つ。
① 新素材を活用した外壁で高い断熱性能だ。高性能な断熱材フェノールフォームを活用した「ハイグレード断熱」により、外壁の熱貫流率を39%低減。壁の厚みは変えずに、断熱性能を向上。さらに、40%軽量化することで、施工効率の向上を実現。
② 高効率設備による省エネ性能の向上。高効率エアコンや、節水機能を備えたシャワーヘッド、LED照明などを設置することで、効率的にエネルギーを活用する。
③ 太陽光パネルの搭載率が向上。搭載量を約1.5倍にし、傾斜角度を小さくすることで、効率よくエネルギーを創出することが可能。
今回、パナソニック ホームズの「東京ゼロエミ住宅」の実例を見学してきた。私も高性能ではない一戸建てに住んでいるが、部屋間を移動する際の温度差は気になっている。しかし、今回の物件では、外は真夏の酷暑の中、部屋を移動しても温度差を感じなかった。快適性は目にみえないが「何も違和感をもたない」ということが快適なのだということに気づかされた。9月の酷暑の中、人数の多い見学会でも室温が快適に感じられたのが、東京ゼロエミ住宅の実力だろう。
また、パナソニック ホームズでは、賃貸物件のペット需要に着目し「ビューノ WITH PET PREMIUM」(仮)というコンセプト賃貸住宅も開発している。ペットを飼うと室内温度を保つためにエアコンを連続稼働することが多いが、「ビューノ」の省エネ性能で電気代を抑えられるのがポイントだ。
「東京都の『環境性能向上支援事業』の補助金を頂戴しているので、事業拡大させていただいた部分に対して、しっかり販売することでお応えしていこうという覚悟でございます。東京ゼロエミ住宅をはじめ、さまざまな施策に乗っていきながら、東京都の賃貸事業を進めていきたいと思っております」(パナソニック ホームズ 代表取締役社長・藤井孝氏)
こうした高性能賃貸住宅が供給されることで消費者の省エネに対する理解も進み、高性能住宅の普及につながるだろう。
高性能賃貸住宅が変える住宅選択の未来
では、省エネ賃貸住宅にはどのようなメリットがあるのだろうか。
入居者のメリットとしては、①健康の維持、②快適性、③経済性の3点が挙げられる。
①高断熱の住宅では、室内の温度差を軽減することができる。特に冬場は入浴時の温度差が原因で血圧が上下し、心臓機能や血圧に異常を発生させる「ヒートショック」が起こりがちだが、温度差を軽減することで、ヒートショックのリスクを減らすことができる。また、温度差が少ないことで結露やカビが生じにくくなるため、アレルギーの抑制にもつながる。
②外気温の影響を受けにくいため、効率よく快適な室内の温度を保つことができる。夏は涼しく、冬は暖かく過ごせるうえ、天井付近や床付近など、場所による温度差が少ないので、例えば「二段ベッドの上の方が暑い」や、「冬は床から底冷えする」といったような悩みも減らすことができる。
③一番わかりやすいメリットは光熱費の削減だろう。エネルギー高騰が続くことも見込まれている中、快適な室内環境を享受しながらも、月々支払わなければならないランニングコストが下がるのはうれしい。光熱費の目安額は省エネ性能ラベルに記載があるため、住まい探しの際に参考にしていただきたい。
オーナーにとっては、①資産性の担保、②家賃アップ、③住宅状態の維持といったメリットが挙げられる。
①省エネ住宅の普及が進められていく中で、消費者の求める水準は上がっていくと思われる。意識の高い消費者は早いうちから省エネ性を求めるようになるだろう。高性能の賃貸住宅を所有することで、いち早く消費者のニーズに応え、「選ばれる賃貸」としての先行者利益を得られる可能性がある。
②抑えられた光熱費分の家賃をアップすることができると考えられる。先にも触れたパナソニックホームズの調査では、「あなたは『家賃アップ額』が『光熱費削減額』と同等であれば、一般的な賃貸住宅よりも、環境貢献できるZEH賃貸を選びたいと思いますか?」という質問に、約半数近くの人が「選びたいと思う」と回答した。
③高性能住宅では結露やカビが発生しにくいため、住宅の劣化を遅らせることができる。長期的なメンテナンスもしやすくなることが期待できる。
オーナーにとって考えられる負担として、設備投資に初期費用がかかってしまうという側面もあるが、東京ゼロエミ住宅に認証されれば、助成金の給付を受けることができるため、コストを抑えることが可能だ。2024年10月1日からの改正では助成額も引き上げられる予定である。
住宅購入の場合には性能や住み心地までこだわることが多いが、賃貸選びにおいては、駅徒歩分数や間取り、家賃といった条件面のみを重視しがちだ。しかし、今回見てきた「NEW ビューノ」のような高性能賃貸住宅が拡充されることで、性能や住み心地といった快適性を判断基準に賃貸を選ぶことができる。
一度快適な住まい体験をすれば、次の住み替え時も同じかそれ以上の性能を求めるようになると思われる。まずは賃貸物件から高性能住宅が広まることで、遅れていた日本の住宅の性能向上が進むのではないだろうか。
多くの高性能賃貸住宅が供給され、受け入れられていくことで、日本の住宅全体が環境にも健康にも生活費にもやさしい性能住宅となることを期待したい。
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