小田急沿線を中心とした空き家を「DIY賃貸」で活用

現在、日本では少子高齢化、人口減少の傾向にあり、それとともに住まい手のいない空き家が全国で増加している。空き家を放置していると、倒壊、景観悪化、不法侵入など地域にとって悪影響を及ぼす原因になりかねない。政府も、2023年に空家法を改正するなど、空き家の除却(解体)や活用、適切な管理を推進しようと努めている。

こうした背景の中、小田急不動産株式会社とomusubi不動産(運営会社:有限会社トノコーポレーション)が取り組んでいるのが、空き家サブリース事業「小田急ありのまま賃貸 ~空き家活用DIY賃貸~」だ。「DIY型賃貸」とは、国土交通省が賃貸住宅の流通促進の一貫として推進しているもので、借主(入居者)の意向を反映して住宅の改修を行うことができる賃貸物件のこと。

従来、空き家オーナーは、賃貸に出すにしても内外装や設備機器を新しくする必要があり、初期投資の負担が大きかった。またリフォームしても入居者がつくかどうかはわからない。いわば「賭け」のような面があり、活用できないまま「塩漬け」状態になってしまっている例が多く存在していた。

小田急沿線に顧客基盤を持つ小田急不動産にとっても、そのような状況の打開は急務だった。そこで、DIY賃貸というスタイルで豊富な実績とノウハウのあるomusubi不動産と力を合わせて空き家対策に乗り出したというわけだ。

オーナーと入居者の双方にメリットがある仕組み

「小田急ありのまま賃貸 ~空き家活用DIY賃貸~」のスキームはこうだ。

1. 小田急不動産が物件オーナーから空き家を借り上げる
2. omusubi不動産がDIY可能賃貸として入居者を募集
3. 入居者がomusubi不動産と協議して改装届を提出し、オーナー承諾後にDIYで改装して入居する
4. 入居者が退出するときには、改装届の範囲内は現状回復しないでよい

物件オーナーとしては
・最低限の改装工事費負担で賃貸に出せる
・空き家の維持管理がなくなる
・小田急不動産が借り上げるので、入居者の有無関係なく、毎月、一定額の収入が得られる
・初期投資が最低限の改装工事費負担なので、短期で黒字化できる
・入居者が改装するので物件の価値が上がる可能性がある
・空き家を有効活用できる
といったメリットがある。

また、入居者の側でも、自由にDIYでき、自分で工事する分、賃料が安くなる。退出時の原状回復は不要で、店舗やアトリエなどさまざまな用途に利用できるというメリットも大きい。

小田急不動産が期待するのは、この仕組みによる小田急沿線の地域の活性化だ。

「空き家のオーナー様が、物件を賃貸に出すハードルを下げたい。休眠状態の空き家を1軒でも多く活用することで、街に新たな賑わいを生み出すことを目指しています」(小田急不動産 仲介営業部賃貸管理グループサブリーダーの田中壮伶さん)

第1号物件では、大正時代の木造連棟長屋を和装スタジオに利用

「小田急ありのまま賃貸 ~空き家活用DIY賃貸~」の第1号物件が入居者の募集を開始したのは、2023年4月のこと。対象となったのは東京都中央区月島の木造連棟長屋だ。

この物件はオーナーの実家。何代にもわたり受け継いできた建物で、大正時代に建築されたものではないかと推定されている。昔ながらの下町の長屋の風情が魅力的だ。すでに耐震補強も施されている。

この物件に対し、omusubi不動産がマッチングした入居者は、同年9月に古民家スタジオをオープン。物件の魅力を生かすため、昔ながらのトタンの外壁や味わいある色味の建具は残しながら、襖や壁紙は張り替えるなどのリフォームを実施した。現在は、着付けや写真・動画撮影、侍体験や観光案内などを通じて、主に外国人観光客向けに日本の情緒を体験してもらうサービスなどを展開している。

入居者のマッチング、物件運営のコンサルティングに携わったomusubi不動産のセールスディレクター 日比野亮二さんは、第1号物件について大きな手応えを感じているという。「理想的な方に入居いただけてありがたく思っています。築年数を経たことで大正レトロとも言うべき味わいが生まれているこの状態を生かしたい、ということでした」

賃貸スタッフが入居者と面談し、物件オーナーの意向を尊重しながら、改装プランの相談に乗った。

「入居者の方にも『すべてを変えられるわけではない』ということをスタッフを通じて理解いただきながら、どのような活用の仕方がいいのか、お話をしながらまとめていきました」(日比野さん)

大正時代の木造連棟長屋を和装スタジオ「studio ICHI」として活用大正時代の木造連棟長屋を和装スタジオ「studio ICHI」として活用
大正時代の木造連棟長屋を和装スタジオ「studio ICHI」として活用古い長屋の風情をそのまま生かした

時代を経て役割を全うした建物に新たな命を吹き込む

omusubi不動産では、こうしたDIY賃貸の事業を約10年前から手がけている。一戸建てのほか、集合住宅の空き室管理でもDIY賃貸の手法を取り入れているという。

「物件のオーナー様としては、どこまでリフォームされるのか、またどんな人が使うのか、といったところを不安に思われています。私たちは、そんなオーナー様のお気持ちやお考えをしっかり受け止めることを大切にしています」(日比野さん)

DIY賃貸で多くの実績のあるomusubi不動産だが、一般的にはまだこのような事業は知られていないのが現実だ。「沿線にたくさんのお客様とのお付き合いのある小田急不動産様とこうして提携できたので、DIY賃貸による空き家解消をもっと広げていきたいですね」。日比野さんはこのように意気込む。

長らく空き家となっていた建物に新たな入居者が入り、新たな灯火をつけてくれれば、周囲の住民も喜ぶことだろう。その灯火が地域に配慮したものであれば、新たなにぎわいを生み出していくかもしれない。

時代を経て役割を全うした建物に新たな命を吹き込もうとする「小田急ありのまま賃貸 ~空き家活用DIY賃貸~」。時代の転換期に直面している日本の住宅・不動産業界に、未来を打開するためのひとつの道を示しているといえそうだ。

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