日本人の総人口に近づく難民・避難民の数に日本ができることとは

迫害、紛争、暴力、人権侵害、自然災害などが発端となり、問題が複雑に絡み合っていることも多く、グローバルな取り組みが必要とされている迫害、紛争、暴力、人権侵害、自然災害などが発端となり、問題が複雑に絡み合っていることも多く、グローバルな取り組みが必要とされている

世界中でさまざまな社会問題がある中、とりわけ解決が難しく年々深刻さが増している“難民問題”。迫害、紛争、暴力、人権侵害、自然災害などにより、2024年5月現在、世界全体で強制移動を強いられた人の数は1億2000万人を超え、日本の総人口に肩を並べる。そしてその数は12年連続増加の一途をたどっている。
日本にも難民認定を希望して来日する難民・避難民は年々増えているが、認定率は諸外国と比べて低く、2023年は難民申請者数のうち、認定されたのは303人、率にするとおよそ3.8%となっている。
複雑化し続ける難民問題と比例するように、日本へ第三国定住を希望する人たちも増えているが、長らく状況は改善されていない。それどころか、2023年には改正入管法が公布され、日本国内の難民認定を希望する仮滞在者の処遇が厳罰化される懸念が広がっている。
こうした難民の状況をビジネスの力で解決することを目的に、“難民包摂市場形成”を創造するビジネスリーダー・企業コミュニティ「Welcome Japan CxO Council」が2024年2月に発足した。

ビジネスの力で日本の包摂的難民支援を推進する”アベンジャーズ”「Welcome Japan CxO Council」

長らく難民問題はグローバルな課題として、全世界の政府や公共機関、支援団体、学問研究による解決に向けた取組みは進められている。SDGsにも掲げられたことで、昨今では難民問題をCSRとして取り組む企業も増えつつある。
にもかかわらず、状況は改善しているとは言い難い。そうした現状に、日本国内で難民の多様な包摂の拡充を目指す中間支援組織「一般社団法人 Welcome Japan」が“ビジネス”を鍵に発案。これまでの支援の要素が強い解決法とは異なるアプローチを探るべく、多彩な業界・部門の日本のビジネスリーダーがWelcome Japan CxO Councilで手を取り合うこととなった。
このコミュニティでは、難民包摂を通じた日本らしい共生社会の実現と、日本経済の持続的な成長の両立を実践的に模索することを目指している。

参画する21社は、日本語学校、電子機器リユース業、運送業、IT、人材派遣業、製造業、海運業など、実に多種多彩だ。だが、共通しているのは、各社の事業を通じて難民・避難民支援を実践しているという点だ。

2024年6月17日、世界難民の日に合わせて開かれた第一回CxO会では、参画企業の代表による、自社の難民支援に関わる活動と事業展望の紹介が行われた。

「Welcome Japan CxO Councilは日本の包摂的支援の“アベンジャーズ”です」と、代表の金氏(一列目中央)は語る「Welcome Japan CxO Councilは日本の包摂的支援の“アベンジャーズ”です」と、代表の金氏(一列目中央)は語る

GTN代表取締役後藤氏に聞く 難民支援における住宅仲介・家賃保証

外国人専門の保証、賃貸仲介、生活サポート、携帯電話サービスを展開する株式会社グローバルトラストネットワークス代表取締役 後藤 裕幸氏外国人専門の保証、賃貸仲介、生活サポート、携帯電話サービスを展開する株式会社グローバルトラストネットワークス代表取締役 後藤 裕幸氏

人が生きていくうえで欠かせない“住居”。安息の場所をつくるという意味合いでも、難民・避難民の支援における住居確保は非常に重要だ。しかし、日本では、外国籍であること、安定した収入がないこと、滞在期間が明瞭にならないことなどが原因となり、難民・避難民が一般的な賃貸物件を確保するには非常に難儀する。

外国籍の人たちの日本での暮らしを総合的にバックアップする株式会社グローバルトラストネットワークス(以下、GTN)では、基盤となる家賃等の保証、賃貸仲介、生活上の言語サポート、携帯電話といった、事業を活用した難民支援に取り組んでいる。
直近では、外国人専門の生活サポート部署へ日本在住ウクライナ人を雇用し、ウクライナからの避難民を母国語でサポートする体制を構築。そのほかにも、通信事業GTN MOBILEサービスで展開する「TOP UP(トップアップ)」(海外のプリペイドSIMに通話・通信料のクレジットを送ることができるサービス)を活用し、在日ウクライナ人GTNユーザーに無償提供するなど、短期・中長期の避難生活に対応したサポートを行っている。

GTNの難民支援の中でも特筆すべきは、難民・避難民への家賃保証を行い続けている実績だ。ミャンマーを中心に、これまで難民・避難民への家賃保証を行っている件数は延べ4,000件に上る。「GTNの保証の0.1%を占めている。世界的な難民の全体数から見れば小さな数字かもしれないが」と後藤氏は言うが、日本国内の難民申請者数や難民認定率から換算すると決して少ない数ではない。

“外国籍の人たちの日本での暮らし”を経営基盤とするGTNにとって、日本で行う住まいの支援はどういった課題があるのか。また難民支援はビジネスとなり得るのか。後藤氏はこう語る。

「GTNはこれまで、自分たちを“外国人の住宅支援の最後の砦”と思い、はるばる、しかも海に囲まれて簡単には他国から来られないこの日本を訪れた難民を含む外国人を助けたい一心で、できるかぎり多くの家賃保証などを行ってきました。そしてこれまでの活動を通じて、3つの課題があると感じています。
1つめが、書面上では難民かどうかの判断がつかない点です。中には、難民制度を悪用する人も残念ですが散見します。慎重に判断していますが、見極めは非常に難しいと実感しています。
2つめが、就労制限時の保証をいかに行うかです。難民申請中など、就労制限がかかっていて収入がなくなる場合があります。その期間を短くできればよいのですが、なかなか難しい。
3つめが、支援を続けるのか、続けていけるのか、ということです。ロシアのウクライナ侵攻も、長引く戦火は終わりが見えません。初動も大切ですが、始めた支援を続けていくことの企業側の姿勢も問われていると思います」

企業が支援を続けることの重要性を説く後藤氏。志を同じくする異業種が集うWelcome Japan CxO Councilでの展望を尋ねた。

「難民の方々は今、岐路に立たれていると感じています。Welcome Japan CxO Councilを通じた連携によって難民支援のビジネス化を進め、マーケットを広げていきたいですね。また、議連を作り、国を動かすのも我々ができる良策だと思います。他企業、支援団体、政策など、幅広く力を合わせるスキームを、社会に広めることができればと期待しています」

国内でも貧困などさまざまな問題があるものの、国民の理解を得つつ難民問題に取り組むことで、日本にも利益が還元されることがあるのでは、と後藤氏は語った。

LIFULL取締役山田に聞く 難民支援における不動産ポータルサイト

株式会社LIFULL取締役執行役員 兼 CDO山田 貴士。LIFULL社内における社会貢献活動委員の委員長も務める株式会社LIFULL取締役執行役員 兼 CDO山田 貴士。LIFULL社内における社会貢献活動委員の委員長も務める

Welcome Japan CxO Council参画企業のうち、居住を事業領域とする株式会社LIFULLも、GTNとはまた異なる手法で難民支援の取組みを行ってきた。

JICA運営の「シリア平和の架け橋・人材育成プログラム(JISR/ジスル)」では、プロボノとして参画し社員によるシリア難民の伴走型就労支援を実践。そのほか、社会的弱者の支援団体への寄付活動「えらんでエール」を通じた難民シェルターへの寄付や、難民・避難民の方々の住まい探しや入居支援「LIFULL HOME'S 難民・避難民の住まいの相談窓口」を行っている。

紹介された取組みの中でも、注目を集めたのが、「難民・避難民の住まいの実態調査」だ。難民・避難民の住居課題に関する調査は日本初の試みであり、全国各地に散らばる難民・避難民当事者の現状が数値化され、住まいに関する困りごとの声が集められている。
一部を抜粋すると、部屋探しの第一歩である不動産ポータルサイトでの物件探しや不動産会社への来店時に感じた不便さ・困りごとに、「“外国籍”であることがハードルとなり、候補となる物件が少なかった」と回答した人は4割を超えた。さらに、「“外国籍・難民”であることを理由に、差別を受けた/不平等さを感じた」と全体の25.2%が回答。これは、およそ4人に1人が、避難先の日本で“住宅を確保する”という命を守る行動を取れない事態に陥っている、とも読み取れる。
調査結果からはほかにも、言語対応の必要性、パスポートがないことによる借りづらさといった、難民・避難民特有の難しさが明らかとなった。この結果が、今後の日本における住宅課題解決に向けたアプローチを探るヒントとなり得るはずだ。

【関連リンク】LIFULLが「Welcome Japan CxO Council」に参画、日本における「難民・避難民の住まいの実態調査」も発表

日本国内の難民の住宅問題について、不動産ポータルサイトとして取り組んできたこれまでを、LIFULL山田氏は「難民問題と一口に言っても、非常に複雑なため細分化していく必要がある」と振り返る。

「難民支援を通じて感じたのは、“個別対応が多い”ということです。難民でシングルマザー、難民で病気を患うなど、難民・避難民の方々が、問題を複合的に抱えている状況を知りました。一人一人状況が異なるため、支援の仕組みを汎化しにくい点が、難民の住宅支援においての課題だと感じています。
また、難民に関わる方たちに、日本の不動産情報を持つ方はあまり多くないという印象です。不動産に関する知見とITソリューションを有しているLIFULLが、難民支援団体と不動産会社、あるいは難民支援団体とテクノロジー企業の橋渡し役を担えるのではと考えます」

Welcome Japan CxO Councilへの参画は、他の参画企業の得意領域をお互いに活かした難民問題の足掛かりとなることが期待される。山田氏にLIFULLとしての今後の展望を尋ねた。

「『難民・避難民の住まいの実態調査』では、言語に関する課題が顕著になっています。ただ、接客AIなども進化しており、言葉の壁は今後より低くなるでしょう。他社と共同し、テクノロジーを活かして実用レベルのサービスを提供していけたらと思います。こうしたコラボレーションでこそ、難民という大きな問題へのアプローチになるのではないでしょうか」

幅広い分野に広がる難民支援の輪と多彩な支援の方法

難民問題に取り組む企業が増えるほど、救われる命がある。問題が複雑に絡み合って起きていることも多く、多角的な視点が重要だ難民問題に取り組む企業が増えるほど、救われる命がある。問題が複雑に絡み合って起きていることも多く、多角的な視点が重要だ

Welcome Japan CxO Council参画企業は、人道支援としてだけでなく、人材獲得、ニーズに対する対応という姿勢が印象的だった。
たとえば、難民を雇用する場合でも、“難民であること”が採用理由ではなく、各社のサービス提供に必要な人材であるからというもの。ネイルサロンを経営する企業では、外国語対応可能なネイリストを確保するために、外国語話者である難民をネイリストとして育成する。IT企業では、事業拡大に伴うエンジニアを難民の中から発掘採用する、そういった取り組みがなされている。それが転じて、難民の自立生活にもつながる、という支援の在り方なのだ。

環境や貧困などをテーマとしたソーシャルビジネスが世界的に広がりを見せるなか、日本ではまだ改善の余地のある難民問題は、今後発展と可能性を秘めたビジネスチャンスでもあるといえるだろう。
紛争や戦争など、終わりの見えない事態への支援には、サステナブルであることが欠かせない。そうした支援の骨組みも、事業化によって継続しやすくなる。日本でもそうしたイノベーションの創出と発展の高まりを期待したい。


■Welcome Japan CxO Council
https://welcomejpn.org/cxocouncil

■関連リンク:シリア難民が日本と自国の“架け橋”に 難民支援JISRプロジェクトの就労支援と企業プロボノ
https://note.com/actionforall/n/n76fb5de263ab

■関連リンク:外国人の生活総合支援を行うGTN。中国人不動産スタッフが語る、外国人の賃貸事情
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_01175/

幅広い分野に広がる難民支援の輪と多彩な支援の方法

【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。

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