拡充された報酬規定の概要①

国土交通省は、不動産市場で流通しづらい空き家・空き地の流通を促すため、2024年7月1日から仲介報酬の特例規定の拡充を実施した。具体的には、売買の媒介(仲介)取引において、物件価格800万円以下を対象に、売主および買主の双方から最大で33万円(税込)の報酬の受領が可能となる。

従来は、2018年に創設された特例規定により、物件価格400万円以下を対象として、売主から通常の料率4.4%を超えて最大で18万円(税抜)の報酬を受領することが可能であった。

今回の制度拡充により、例えば、土地・建物の物件価格400万円の両手仲介(売買のケース)を行う場合、原則の料率は4.4%となり、手数料は400万円×4.4%×2=35.2万円が最大得られる報酬となるが、この原則が、33万円×2=66万円まで報酬を得ることができるようになる。

ただし、原則の料率を超える報酬を得る場合には、媒介契約の締結に際して予め特例に定める上限の範囲内で、報酬額について依頼者に対し説明し合意する必要があることに注意が必要である。合意せずに通常の料率を超えた報酬を得ることはできない。

仲介報酬規定の見直しの概要(国土交通省作成資料をもとに作成)仲介報酬規定の見直しの概要(国土交通省作成資料をもとに作成)

特例の対象は、「低廉な空家等」と定義付けられた物件で、定義としては、「売買に係る代金の額又は交換に係る宅地又は建物の価額が800万円以下の金額の宅地又は建物をいい、当該宅地又は建物の使用の状態を問わない。」とされている。空き家や空き地を問わず、居住中の家屋、宅地、更地を含めて物件価格が800万円以下であれば特段の行政機関の認定等を経ずに特例の対象となる。

拡充された報酬規定の概要②

今回の報酬規定の見直しでは、新たに空き家・空き地の賃貸借の流通についても後押しする改正が行われた。

具体的には、「長期の空家等」に該当する物件の仲介においては、原則値である月額賃料の1.1倍を超えて報酬を受領(上限は賃料の2.2倍以内)することができる。

例えば、賃料月5万円の一戸建ての空き家の場合、借主・貸主双方から得られる報酬の合計は5.5万円以内とされ、一般的に借主から5.5万円を受領するのが慣例だが、特例物件に該当する場合には、借主・貸主双方から合計で11万円(借主からは5.5万円以内)を報酬として受領することが可能となった。

仲介報酬規定の見直しの概要(国土交通省作成資料をもとに作成)仲介報酬規定の見直しの概要(国土交通省作成資料をもとに作成)

新たに設けられた「長期の空家等」の定義とは、1年超で居住者が不在となっている空き家や、相続により今後も所有者の利用が見込まれにくいものなどとされ、媒介契約に際し予め特例に定める上限の範囲内で、報酬額について依頼者に対し説明し合意する必要があることに注意が必要である。

なお、現に入居者の募集を行っている賃貸住宅の空き室については、事業用として「長期の空家等」には該当しないことに留意する必要がある。

1970年以来の大幅改正

不動産取引における報酬制限(告示)が定められたのが1970年となる。1970年以来、消費税の導入や税率の改定による一部改正はあったものの報酬額を根本から変更する改正は行われていなかった。

しかしながら、増え続ける空き家等に対処し、空き家の流通市場を活性化させるため2018年1月に「低廉な空家等(400万円以下)」を対象とした報酬告示の改正が行われた。このときは、告示に定める原則値を超えて最大で18万円の報酬受領が可能となった。ただし、この改正では400万円以下というより限定的な価格帯が対象な上に、原則の報酬を超えて請求できるのは売主に対してのみであった。

今回の改正までにも空き家・空き地の流通を促す取り組みとして、国では、低未利用地の譲渡における長期譲渡所得控除(100万円)の創設や、「空き家・空き地バンク」への取り組みへの支援、昨年5月には、空家等の所有者の責務強化や、活用拡大に向けた建築基準法等の緩和などを盛り込んだ空家等対策特別措置法の改正を実施している。

しかしながら、人口減少等を背景として、空き家の数は一貫して上昇を続けており、最新の「2023年住宅土地統計調査」の速報集計によると、前回約349万戸であった「居住目的のない空き家」は、2023年では385万戸と、5年間で約36万戸増加しており、今後も増える続ける空き家・空き地への対策が急がれている状況は現在も継続している。

不動産市場で流通しづらい空き家・空き地の流通を促すため、2024年7月1日から仲介報酬の特例規定の拡充を実施した。その概要や影響について解説をする。2023年住宅土地統計調査における空家数の速報集計(出典:総務省統計局)

空き家問題の現状

今回の見直しに踏み切った背景の一つとして、空き家の不動産市場での流通量が少ないことも挙げられる。国によると「全国版空き家・空き地バンク」に掲載されている物件数(土地を含む)は、約1.3万戸であり、「居住目的のない空き家」(2018年:349万戸)の数と比較してわずか0.4%にとどまっている。1981(昭和56)年の新耐震基準以上と推定される約62万戸に限ってみても、わずか2%となる。

第41回「社会資本整備審議会産業分科会不動産部会」資料の抜粋第41回「社会資本整備審議会産業分科会不動産部会」資料の抜粋

また、国が2022年度に宅地建物取引業者へ行ったアンケートによると、約6割の事業者が、「業務の負担に対して、収益性が低いこと」を課題として感じている結果となった。以前から空き家の取引に対しては、長年の劣化状況等から物件の状況等によって過度に負担が大きくなる傾向にあることが指摘されており、調査等の業務負担が大きい一方で、取引価格が低廉のため報酬が低いという実態があった。

実際、私自身も地方自治体勤務を経て独立し、空き家の利活用に係るコンサルティングに携わった経験があるから言えることとして、長年放置された空き家・空き地は、売却にあたっての課題が多く、総じて建物が古いこともあり建築基準法をはじめとする様々な法制限の調査や、使い続けるための対策や利活用の方針の策定などは、通常の物件と比べて負担になると感じた経験がある。

第41回「社会資本整備審議会産業分科会不動産部会」資料の抜粋第41回「社会資本整備審議会産業分科会不動産部会」資料の抜粋

空き家・空き地の流通への影響

今回の制度改正により物件価格の低いものであっても、予め媒介契約にて合意することで依頼者の一方から最大で33万円の報酬を受けることが可能となることから、これまで敬遠していた不動産事業者の参入機会が増えることで、空き家等の不動産市場への流通量が増加することが期待される。

また、空き家ビジネスが活性化することで、取引量の増加や、管理不全となり周辺へ悪影響を及ぼすような空き家数の減少によるまちづくりへの貢献も期待される。

すでに多くの自治体では、「空家等対策計画」を策定し、空き家・空き地バンクの運営をはじめ、放置空家等による生活環境の悪化を防止するための様々な対策に乗り出しているが、今回の報酬規定の見直しが不動産市場へ良い影響を及ぼす可能性は高い。

一方で、媒介契約時には合意が前提となるため、合意を得ずに特例規定の報酬を請求するようなトラブルに発展するようなことがないよう不動産業界内でのルールの徹底や、依頼者側の認知度の向上も望まれる。

不動産コンサルティング業務は媒介業務とは別に報酬の受領が可能に

今回の報酬規定の見直しでは、もう一つ不動産取引事業者にとって朗報といえる見直しがあった。

それは、国が定めているガイドライン(宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方)において、不動産コンサルティング業務における報酬については宅地建物取引業法における報酬規制の対象とならない(=媒介報酬とは別に報酬の受領が可能)とするルールが明確に記載された。これにより、不動産コンサルティング業務や空き家・空き地管理業務などは、宅地建物取引業法第46条第2項の報酬規制に違反しないことになる。

空き家・空き地の取引にあたっては、個々の事情の応じた課題整理や利活用方針の作成、さらには、助言・総合調整、建物の管理業務など、一般的な媒介業務とは別に依頼者から求められることがあるが、これらが報酬制限の対象とならないことで新たに空き家ビジネスに参入する取引事業者が増える可能性がある。

「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(通達)の改正の概要(出典:国土交通省作成資料を一部編集)「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(通達)の改正の概要(出典:国土交通省作成資料を一部編集)

今後の展望

古民家の住宅リフォーム(画像素材:PIXTA)古民家の住宅リフォーム(画像素材:PIXTA)

今回の媒介報酬規制の特例により宅地建物取引業者による空き家・空き地ビジネスへの参入が増えることで、同時に不動産市場に流通する物件量が増えることが期待される。これまでに不動産市場に流通してこなかった空家等が利活用される機会の増加は、地域経済にポジティブな影響を与えると考えられる。

また、空き家や空き地を活用して新たなビジネスにチャレンジする方も増える可能性もあることから、不動産業界全体の成長が促進されることが期待される。

空き家への対策に追われている地方自治体としてもメリットは大きい。ランダム的に発生する空き家が市場に流通しやすくなることで、将来的に管理不全となり市街地の環境へ影響を及ぼすようなケースを減らすことができる。

このため、効果の一つとして、逼迫している管理不全空家への対処などの業務負担が減り、利活用策に重点を置いた施策へ展開できるようになる可能性もある。

一方で、今後は、地方都市でも世帯数が減少することが想定されているため、必然的に郊外を中心に空き家等への需要が減っていくことから、一律に空き家を活用することが正しいとは言い難いケースも出てくるだろう。

コンパクトシティとの連動によるグリーンインフラへの利用転換や、郊外でのオフグリッド生活を求める方々による活用なども想定される。地方自治体にとっては、今後益々、空き家等の需給バランスを見極めながら全体全体の土地利用を適切に誘導していく舵取りが求められそうだ。

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