官民連携が街に新しい魅力をつくる
「官」と「民」が積極的に手を取り合うことで公共施設のあり方が少しずつ変わってきている。
近年、国や地方自治体では、民間企業が有する資本や技術を公的不動産に活用する官民連携の取り組みを積極的に進めている。しかしながら、なぜ自治体では、積極的に官民連携の仕組みを取り入れているのか。加えて、官民連携の取り組みを実施しているかどうかを知ることは、住まい探しの際の有力な情報にもなるということもお伝えしたい。
例えば、トイレのみ設置されている一般的な公園と、休憩施設として飲食店が併設されている公園とでは後者のほうが集客能力や滞在時間などで魅力的になることがある。もちろん公共施設の本来の役割によっては、公共サービス提供への民間企業の参入が一概に正しいというわけではないし、公共性が求められる都市空間でのビジネス臭に違和感を抱く方もいるかもしれない。
しかしながら、分野によってはこれまで公共施設にはなかった新しい価値が付与されることで、地価の上昇や若い世代の移住などに加えて、公共施設の維持コストの低減など、総じて街の魅力アップにつながっている。
ひと昔の公共事業といえば、行政が企画・計画から設計・施工・維持管理までを分割して発注する方式が取られていた。現在も一部の自治体や事業内容によっては、従来型の発注が行われている。
ところが、昨今の財政難や、高度経済成長期に多く建設された公共施設の更新時期が迫るなか、官民が連携して役割分担した公共サービスが行われる例が増えてきている(下図:PFI事業の実施状況参照)。官民連携の手法によっては、企画・計画のみに行政が関わり、その他の資金調達や設計・建設、運営まで民間事業者が担う場合もある。
本稿では、2024年2月に国が開催した「PPP/PFI推進施策説明会(令和5年度)」などから、PPP(官民連携)の最新の動向や、PPPがどうして住まい探しにとって有力な情報となるのかを解説していく。なお、このPPP/PFI推進施策説明会は国が毎年開催しているもので、関係省庁の他、政府系投資銀行なども参加し延べ2日間にわたって行われ、毎年多くの自治体が参加している。
PPP・PFIとは
冒頭でもお伝えしたように、この官民連携を行うことができる仕組みが登場したことによって、普段の暮らしに好影響をもたらしている事例が増えてきている。
都内にお住まいの方であれば渋谷の「MIYASHITA PARK(宮下公園)」を利用したことがあるか、または知っている人が多いと思う。
従来型の公園とは異なり「利用してみたい」と思う気持ちにさせる仕組みが整っている。宮下公園は、立体都市公園制度という立体的に都市公園の区域を定めることができる都市計画を活用し、商業施設と一体的に屋上公園として再整備されている。再整備の際に、民間企業と連携しており、それを実現しているのがPPP(官民連携)という仕組みである。
PPP(Public Private Partnership)およびPFI(Private Finance Initiative)は、公共施設やサービスの提供において、民間の資金・技術を活用することで限られた公的資源の有効活用を図る仕組みのこと。
PPPは、官民連携事業の総称でありPFIを包含する。PFIについては、PPPの手法の一つで、日本同様に財政状況が危機に陥った英国で1992年に導入されたシステムとなっており、日本では、英国由来のPFIをモデルとしたPFI法が1999年に制定された。
PFI法はその後、2011年に民間企業に対し公共施設の運営権を委ねるコンセッション方式が導入され、2023年改正ではPFI事業の対象にスポーツ施設や集会施設が追加されている。
また、国では2022~2031年度の10年間の事業規模の目標を30兆円(民間の契約期間中の総収入)とし、各自治体に対し積極的にPPP/PFIの活用を促している。これから伸びていく市場規模拡大中の国の施策の一つだ。
官民連携が注目されている理由
なぜ、今、官民連携がなぜ注目されているのか。その背景には、生産年齢の減少、少子高齢化による社会保障費の増大に伴う財政状況の悪化、昭和に多く建設された公共施設の老朽化などの自治体を取り巻く厳しい税財政状況がある。なかでも大都市よりも少子高齢化を含む人口減少が進んでいる地方の自治体では持続可能な財政運営が急務となっている。
こちらのデータをご覧いただきたい。今後、高度経済成長期以降に整備された社会資本ストックが一斉に更新時期を迎える(もしくはすでに迎えている)。その額は2020年から2039年まで約450兆円に及ぶ。
これに対して、地方自治体では依然として人口集中が進む一部の都市を除き急速な人口減少下にあり、今後、公共施設を維持・管理するだけの人材・財政が不足することから、民間企業の資金やノウハウを活用してこの難局を乗り越えたいと考えている。
PPP/PFIなどの官民連携手法は自治体の財政難の対処療法としての側面があるが、それ以外にも従来型では提供できなかったサービスを民間が実施することで、公共施設利用者の満足度を高めることも可能となった。
実際、PPP手法の一つであるPark-PFIは、全国の都市公園に普及し始めており、行政の維持管理コストの低減や老朽化した施設のリニューアルコスト軽減を実現し、民間企業がサービスを提供することで、公園の魅力向上につながっているケースが増えている。
官民連携のメリットと課題
PPP/PFIのメリットとしては、大きく「資金調達、経営・技術導入、リスク分担」がある。
自治体および民間企業双方にメリットがあり、それぞれが建設・財務・運営のリスクを分担できる。
現在、愛知県で整備が進められている県立体育館のリニューアルの例では、愛知県の負担額は、設計および建設費約400億円から運営権対価約200億円を差し引き約199億円と、初期投資額を従来手法の半分に抑えている。
開発プロジェクトで活用される官民連携として、民間が運営することで公共には不得意なマーケティングなどの市場調査が行われることで、従来には難しかった公共施設を中心としたエリア一体の魅力・不動産価値の向上といった副次的な効果をもたらす可能性もある。このため、住まい探しの際に市町村を絞り込む必要がある場合には、PPPを積極的に取り入れているかどうかを参考にしてみるという考えができる。また、不動産投資という側面で見ても参考になる。
一方で、PPPには複雑な契約関係や手続きなどの契約予定者を決定するための適切な評価、長期にわたるプロジェクト管理などが必要となるなどの実施上の課題も存在する。例えば、PPPに関する入札・契約制度ならびにインフラ施設の技術的知識を有する職員がいない、または不足している自治体では、導入が難しい。こちら(下図)のデータは、人口規模別のPFI事業の実施状況の最新データだが、人口10万人未満の市町村の実施率は11%にとどまっており、人口10万人以上の市町村と比べて著しく低いことが分かる。
これらに加えて、民間企業の収益性の確保と公共の利益・公平性のバランスを欠かない制度設計が重要となる。特に、すでに人材不足に陥っている人口規模の小さな自治体では、導入前調査の段階から偏った制度設計とならないよう第三者によるチェック機能を入れるなど、慎重な判断が求められる。
官民連携の将来性
将来的には、PPPはさらに多様な分野での展開が期待されている。
現在でも、教育、文化、スポーツ、公園、道路、水道、下水道、港湾、空港などの分野で導入が進んでおり、今年2月に開催された国のPPP/PFI推進施策説明会でもこれらを含むあらゆる分野での施策について発表があった。
また、国では、PPPの導入が進んでいない人口規模の小さな自治体への支援強化に乗り出している。政府としての目標値である事業規模30兆円の達成を目指して今後もあらゆる支援を展開することとしており、今後も注目されていく国・自治体の取り組みとなる。一方で、前項でもあるようにPPP導入時には制度設計が重要であり、本来、公共財には「非競合性」と「非排除性」の2つの性質を有していることを踏まえ、慎重な判断が求められる場合もある。
最後に、おそらく今後のPPP導入の一つに一部の自治体で実証が進められている「スマートシティ・スーパーシティ」が挙げられる。
この理由は、以前、私自身が地方都市にてスマートシティプロジェクトの立ち上げに関わっていたことで実感したことだが、スマートシティでは、公的不動産を活用し、AIや5Gをはじめとした最新の情報通信技術を活用して、エネルギー管理、交通システム、行政サービスなど多岐にわたる分野で民間の技術や資本の活用が行われる。
スマートシティは、行政単独では達成・実現できない事業であり、一方で民間企業のみでも事業化できない事業であり、官民連携(PPP/PFI)の導入なしでは進められない取り組みとなっている。現在、全国の自治体で進められているスマートシティでの実証から技術革新が起き、住生活の質を上げる変化が起きることで、今後の住まい探しのあり方も変わっていくと考えている。
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