- 業界注目の宮島訪問税を1期目に実現、廿日市市長・松本太郎氏の二十歳のころとは
- 二十歳の頃は日々、どのように過ごしておられましたか?-「ドライブが好きでした。バブルで皆が背伸びして生きている時代でした」
- 若いうちにやっておくべきことは?-「社会経験、実体験が大事です」
- 学生時代に力を入れて学んだことはありますか?-「地理情報システムの研究、特にリモートセンシングに没頭していました」
- 市長の取組みで力を入れてきたことは?-「やはり、宮島を守るための宮島訪問税です」
- 廿日市全体の産業振興についても教えてください-「70年後には我が国の人口が3分の1近くになる、という事実を見据えて新たなまちづくりに取り組んでいます」
- 市長として心がけていることは?-「議会との信頼関係を大切にしています」
業界注目の宮島訪問税を1期目に実現、廿日市市長・松本太郎氏の二十歳のころとは
国土交通省の豪雪指定自治体一覧を見ると、廿日市の名がある。世界遺産の厳島神社を擁する宮島や地御前カキ、大野アサリなどで知られる瀬戸内のまちで、合併によって実に多様な顔を持つ自治体となった。その市域は495平方キロに及び日本の縮図である廿日市市は、9年連続転入超過を記録する元気な自治体である。
コロナ禍で半減していた宮島の観光客数は2023年、465万2千人と過去最高だった2019年に次ぐ水準に回復。そして、同じ2023年、宮島観光は大きな転機を迎えた。
それは同年10月から始まった宮島訪問税の導入である。宮島訪問税は、地方独自課税であり、いわゆる法定外税である。総務省はホームページでも「地方団体の自主性」を説明し、地方自治、団体自治に理解があるように読めるが、実際に独自課税をしようとするとそのハードルは高い。公平性などの観点から、協議においては細かいチェックがあり、徹底的な理論武装と根気強いやり取りが必要不可欠である。
多数の観光客が来訪する宮島は日帰り客が多く、一人当たりの消費額は低く、税収増につながっていない。一方で、施設整備などの自治体の負担は大きく、オーバーツーリズムが叫ばれるようになった。そこで、懸念されてきたのが対策財源の捻出なのである。
歴代市長の懸案を1期目でクリアし、地方自治業界が注目したのが松本太郎廿日市市長である。
地域の活性化を研究する2023年度・松本武洋ゼミのメンバーは、宮島訪問税について学ぶとともに、松本市長のインタビューを行った。本文は、松本市長の活動をインターンシップで身近に見つめた吉岡志奈が担当した。
二十歳の頃は日々、どのように過ごしておられましたか?-「ドライブが好きでした。バブルで皆が背伸びして生きている時代でした」
松本太郎(まつもと・たろう) /1969年廿日市市生まれ。広島工業大学大学院修了(1994年3月)株式会社マツモト入社(1994年4月-2005年3月)廿日市市議会議員当選(2005年3月。以後3期連続当選)廿日市市長選挙落選(2015年10月)廿日市市議会議員当選(2017年3月、4期目)廿日市市長当選(2019年10月。現在2期目)「友達とよくドライブに行ってました。今の若者たちとは価値観が違って、お金もないのに高校を卒業していきなりクラウンという車に乗ったりね。僕も高校を卒業してすぐにセリカという車を買いました。
今の皆さんとは真逆の価値観ですよ。背伸びをして生きていたような気がしますね。今は情報が溢れていて社会全体の流れがすぐ分かるけど、当時はそうでもないから判断基準は自分の狭い価値観の中にしかなくて…。社会全体が見えていない中で、なんとかなるという勢いだけで誰もが生きていた。そういう時代でした」
若いうちにやっておくべきことは?-「社会経験、実体験が大事です」
「やはり社会経験を積むこと。実体験をすることです。生成AIとか新しい情報で得たものを、答えとみるのか、新たな問いと捉えるのかというのは皆さん次第です。これまでなかったようなものを突き付けられた時に、自分の中でいかに実体験を踏まえた軸を持っておくかということが大事になってくるんじゃないかなと思います。
幅広い実体験があれば、たとえば生成AIがアウトプットしたものを鵜呑みにはしないですよね。何が正しいのか、間違いなのかというのを判断するための基準をしっかりと持っておくために実体験が大事だと思うので、たくさん経験をしてほしいですね」
学生時代に力を入れて学んだことはありますか?-「地理情報システムの研究、特にリモートセンシングに没頭していました」
「当時、地理情報システム、GISと呼ばれていますが、この地理情報システムの先駆者の先生の研究室でGISとともにリモートセンシングを研究していました。デジタルデータ利活用のはしりです。あれは面白かったですね。当時、地図は当然アナログでしたが、GISはとんでもなく便利なもので、これは世に出てくるぞと思っていました。データを自分たちで作るところからやっていましたね。
まちづくりをする上で、常に頭の中に地図を浮かべながら、街のリアルな状況を俯瞰する癖がついているのは、当時、そういうことをやっていたからでしょう。今に活きているとつくづく思います。あれはいい経験をさせてもらいました」
市長の取組みで力を入れてきたことは?-「やはり、宮島を守るための宮島訪問税です」
「16年前から入島税として検討されていたものを、宮島訪問税として4年でやったのは大きな成果だと思います。総務省は「入島税は、宮島に住む人、通勤通学で宮島を訪れる人、観光に来た人など、宮島に来る人全員から税をとらないと、公平性に欠けますよね」という立場でした。
でもそれはおかしい。『島民が生活で行き来するために税金を払うことの正当性はあるの?』と言われたらどう返しますか?ないですよね。
それで「宮島を致し方なく利用する人をなんとか税の対象から外せないか」と検討したけれど、今度は前例がない。不公平だ、という話が協議で出てくる。
私は、島に住む人を課税対象にしている限りは先に進まないなと思って、学識者とも議論をしながら“原因者課税”という考え方に行きつきました。要は、多くの人が来ることによって、道路も傷むし、ゴミも増えるし、渋滞もする。そうすると、新しい施設も作らなければならない。そのために税金が必要なのであって、その原因者は島民ではないよね。という考え方です。
入島税にすると島民を含めた全員が課税対象になるけど、訪問税なら彼らが入らないですから。
でも、めちゃくちゃ反発がありましたよ。なぜ同じ市民なのに対岸の人は税金を払わなきゃいけなのかという意見もありました。でも今では『あの宮島を守るためなら100円は安い』と皆さん、気持ちよく払っていただけています。
G7サミットがあり、インバウンドが増えていて、コロナ禍前の過去最高2019年の456万人に迫る観光客が戻ってきている。非常にありがたいことです。これからは観光客の皆さんんに、どうやって気持ちよく税金を払ってもらえるのかを考えながら、分かりやすい使い方をしなければならない。ゴミ箱の設置や新たなトイレはもちろんですけど、宮島の景観を良くするために電柱や電線を地中に埋める工事とか、アスファルトを石畳にするだとか。宮島訪問税をどう活用するかがこれからの課題です」
廿日市全体の産業振興についても教えてください-「70年後には我が国の人口が3分の1近くになる、という事実を見据えて新たなまちづくりに取り組んでいます」
「バイパス付近の広大な山を、半分は工場団地、もう半分は観光交流施設に開発します。造成工事が完了したら、市の中心部で操業している企業がそこに移転します。そうすると、市中心部に大きなまとまった敷地が3つくらいできる。ここを種地に再開発を行います。これまでは規制で高い建物が建てられなかった地域ですが、一部規制を緩めて、高いビルだったり商業施設を誘致したり、あと図書館や美術館とかを併設して若い人たちが住みやすいような街をつくります。
観光交流施設における年間の消費額は200億円を見込んでいます。ちなみにこの金額は定住人口で約1.5万人分の消費に相当します。これから人が減っていくと当然のことながら地域経済が縮小していくわけで、それを十分カバーしてくれます。
日本の人口は、70年後には3分の1 近くになると推計されています。今のことだけではなく、先のことを見据えて、想像しながら、まちづくりをやっていかなければなりません。その際、肝になるのが沿岸部への人口やインフラの集積です。これを言うと、沿岸部以外の人以外の人が反発するのですが、持続可能性の高いまちにするには、沿岸部に人の受け皿を整備しておくことが重要です。一方で、中山間地域など沿岸部以外の地域に住んでいる人には、いかに不便が無いように暮らしてもらうかが行政の責任になってきます。そして将来を見据えたとき、若い人たちにいかに住んでもらうか、そのためになにが必要で、どういうインフラ、サービスを創っていくかというイメージで常に取り組んでいます」
市長として心がけていることは?-「議会との信頼関係を大切にしています」
「議会との信頼関係を大切にしています。市長と議会は対等なので対立してはいけない。
議論が大事。お互いが高め合って議論できているから、この人ならやるだろうな。任せてもいいかな。という信頼関係が築ける。だからいつも心を込めて説明する努力をしています。議員の皆さんの理解のおかげで色々なことをスピード感をもってできています。
あと、非常に大変なことだけれども、トップは叩かれるもの。叩かれる勇気のない人はトップになっちゃいけないと思っています。市長だから100%の人に受け入れられているかというとそうではない。そんななかでも勇気をもってやっていく、ということに尽きるのかなと思います。
2期目は、子どもに関する政策を最優先させたいと思っています。これから先、人口減少の影響を最も受けるのは20代より下の世代や、これから生まれてくる世代で、産む方も生まれる方も様々な不安がある。だからこそ、いま政治に携わっている者の責任として、子どもをいかに大事にできるかが問われていると思います。将来、子育て世代になる人たちの負担をできるだけ減らしたいと考えています。「廿日市モデル」と言われるように。子育て以外にも、教育とかまちづくりとかの面でも若い人にとって安心感があったり色々な選択肢があると思える居心地のいい街にして結果を出していきたいですね」
【インタビューを終えて】
インターンシップでは市長はとにかく多忙である、ということはわかったものの、あらためてじっくりとお話をうかがい、廿日市を次の世代に繋ぐための政策にとても力を入れておられると感じた。特に、宮島訪問税の話題を通じて、まちの遠い未来や将来世代の方々までを視野に入れたまちづくりに取り組んでおられるということが分かった。(吉岡志奈)
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