用途地域の重要性

物件選びをする際、一度は「第一種住居地域」や「第一種中高住居専用地域」などの文言に目がとまっているはず。ところが、ほぼスルーされ、実際の物件選びでは、立地や周辺環境、賃料などが選ぶ基準の上位に位置し、用途地域の重要性はあまり認識されていない。その理由は、用途地域が生活にどう影響するのかイメージし難い点にある。

仮に、あなたが生活にも慣れた数年後に、隣地で生活に影響が出そうな騒音・振動を発生させる工場が建設されたらどうだろうか?

おそらく、「工場が建てられるなんて聞いてない」と不動産会社にクレームを入れたくなるだろう。しかしながら、不動産会社からすれば、契約前の重要事項説明時に「『工業地域』である旨を説明している」と説明するだろう。実際、あなたが工場地域であることを理解した上で契約した事実は変わらない。

結果として、法定で制限される騒音や振動、これらに加えて臭気などにも耐えることができなければ引越しを余儀なくされることもあるだろう。この他にも商業地域で隣地に深夜営業を行う店舗などが立地できたことで次第に治安が悪化し、引越しを選択せざるを得なくなった例もあるだろう。

ここで言いたいのは、決して工業地域や商業地域だから悪いということではなく、物件周辺を含む用途地域の指定状況を調べないで、将来のリスクを把握していなかったことに原因がある。

物件選びでは、どうしても立地や周辺環境、賃料などの優先度が高くなりがちだ。ただ、このように居住後の環境が変化したのは、周辺環境を形成している「用途地域」を確認していなかったことで起こる。

特に賃貸物件選びでは住宅購入時とは異なり土地利用の制限に関して確認をおろそかにしがちだと思うので、まずはこの記事で「用途地域」を知ってみて欲しい。

*都市計画制度の概要(出典:国土交通省作成資料を一部編集)*都市計画制度の概要(出典:国土交通省作成資料を一部編集)

用途地域の役割とは?

用途地域は、市街地において建築できる建物用途(住宅や飲食店などの建物の使い方のこと。)や建物規模を地域ごとに区分するための手法の一つ。人口10万人以上の市などであれば必ず指定される都市計画の基本となっている。用途地域は主に住居系、商業系及び工業系の3種類に分けられ、それらは13種類に細分化されている。

この13種類の用途地域は、すべての都市で適用しているわけではなく、この13種類の中から地域ごとの歴史や市街地形成の成り立ち、将来のまちづくり計画に適した用途地域が指定されている。

用途地域は、大正期に制定された旧都市計画法では3種類、その後、新都市計画法が制定され1970年には8種類に、1992年に12種類に細分化、2018年に新たに「田園住居地域」が追加され、現在は13種類で運用が行われている。

用途地域があることで、市街地内での好き勝手な建物用途の建築を防止することができる。例えば、環境悪化をもたらす恐れのある化学工場と住宅、病院などが地域内で混在していたらどうだろう。おそらく、住環境としては望ましくない。

用途地域は、そうした同一立地が望ましくない用途の混在を防ぎ、医療・商業・学校・工業等の適正配置を促すことで計画的な都市開発を誘導できる。結果として、道路や公園、下水道などのインフラ施設の最適かつ効率的な運用につながる。

*用途地域の概要(出典:国土交通省作成資料を一部編集)*用途地域の概要(出典:国土交通省作成資料を一部編集)
*用途地域の概要(出典:国土交通省作成資料を一部編集)*用途地域の概要(出典:国土交通省作成資料を一部編集)
*用途地域の概要(出典:国土交通省作成資料を一部編集)*用途地域の概要(出典:国土交通省作成資料を一部編集)
*用途地域の概要(出典:国土交通省作成資料を一部編集)*用途地域の概要(出典:国土交通省作成資料を一部編集)

用途地域の種類とそれぞれの特徴

下図をご覧いただきたい。現在、用途地域は13種類があるが、それぞれを大きく分けると次の4つに区分される。

1つ目の区分は、特に住環境の保護に特化した地域として、「第一種低層住居専用地域」や「第一種中高層住居専用地域」などが該当する。これら地域では大型の商業施設や工場、倉庫などの建築は制限される。

2つ目の区分は、住宅やオフィス、店舗などが混在する地域として、「第二種中高層住居専用地域」や「第一種住居地域」などがあげられる。これら地域では、危険な工場の立地や一部の風俗営業に関連する用途の建物の立地は制限されるものの、それら以外の建物は建てられる地域である。このため、比較的利便性は高い傾向にあるが騒音や振動、交通渋滞などが懸念される地域となっている。

3つ目の区分は、商業系の用途地域として「近隣商業地域」と「商業地域」がある。商業とあるように物販店舗や飲食、風営系施設のための地域として駅前の繁華街や商業ビル群に指定されている。利便性が著しく高い傾向にあり、商業用途や高層マンションとしてはメリットが高い一方で騒音・混雑の他、日照が確保されない傾向にある。

最後の4つ目の区分は、文字どおり工業系の用途を誘導するための地域である。ただし、準工業地域は、最も建築制限が緩い地域で環境悪化の影響が大きい工場が制限される一方でどのような建物でも建築ができる特徴を持つ。また、工業専用地域では、住環境に適さないため住宅の建築が制限されているが工業地域では住宅建築が制限されていない。

用途地域の種類とそれぞれの特徴

用途地域を考慮した物件選びのコツ

用途地域を理解する際に注意しなければならないのが、用途地域の名称から用途制限内容を把握しにくい点にある。ただし、ここさえ理解しておけば周辺環境が著しく変わって引っ越しせざるを得ない状況も避けることができる。

はじめに、用途地域では「住居系」と呼ばれる用途地域が8つある。それらのうち、特に住保護が目的なのは先ほど説明した4地域(一種低層、二種低層、田園住居、一種中高層)のみだ。これらの4地域は騒音規制法においても騒音の規制基準も厳しく設定されている。

ところが、その他の住居系の用途地域では、中大規模のオフィスや店舗、飲食店、ホテル、パチンコ店などに加えて小規模な自動車修理工場が可能なため、日常生活上の必要な施設や娯楽施設などの建設も許容している。例えば、住居系で最も指定面積が大きい「第一種住居地域」では、一種という文字から住環境が良さそうなイメージを抱きやすいが、実際はホテルや旅館、オフィス、規模の大きなスーパー、ボーリング場、小規模な工場などの建築が可能となっている。

特に二種住居と準住居は、住居という文言が入っているが実態の建物用途制限は、床面積が1万平米以下の大規模店舗が立地できるなど、ほぼ商業地域といっていいくらいだ。居住環境で快適な静音性を求める方は注意してほしい。一方でこれらの地域は、商業地域に準じて利便性が高い地域でもあるものの、比較的日照や通風などは確保されやすく、多少の騒音などは気にしない方には快適に感じる人もいる。

最後に要注意地域としては準工業地域だ。危険性が大きい工場等を除けば規模や用途に関係なくほぼすべての建造物が建築可能だ。住環境に影響を及ぼしかねない超大規模な倉庫や工場、ショッピングモール、パチンコ店などの建設の可能性が高い。

これに加えて「工業地域」では工業という名称が入っているため住宅には適さないと判断しやすいが、工場や物流施設などの建築を誘導するために指定されているので、住宅の周辺環境が一変する可能性があるので注意してほしい。

用途制限の概要(出典:国土交通省資料を一部編集)用途制限の概要(出典:国土交通省資料を一部編集)

用途地域が見直されることはあるの?

用途地域の見直しは、都市によって対応が異なるものの定期的に行われている。最近の例としては、一昨年から横浜市が全市的な用途地域の見直しを進めている。

都市ごとに作成している「まちづくり計画(都市計画区域マスタープランなど)」の更新に合わせて用途地域が見直される。

見直しの際は、将来像と現状の土地利用との不整合を解消するために変更することがある。例えば、当初は工場系を誘導するために工業地域としていたが実際には住宅地が開発され、地域全体の大半が住居系となった場合、そのまま放置しておくと大規模な工場が立地し、既存の住環境に影響する可能性があるために住居系の用途地域に見直されることがある。

見直しの基準やタイミングは自治体ごとの計画によって異なるが、基本的にはまちづくり計画に整合して見直しが行われる。このため、賃貸物件選びをする際には少しでも時間を確保し、自治体の「都市計画マスタープラン」をダウンロードして確認してほしい。

このプランを読み、住もうとしているエリアがどのようなまちづくりを行おうとしているかを知ることが将来リスクの回避にもつながる。

横浜市用途地域等の全面的な見直し(出典:横浜市https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kenchiku/toshikeikaku/tetsuduki/youto/youtominaoshi.html)横浜市用途地域等の全面的な見直し(出典:横浜市https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kenchiku/toshikeikaku/tetsuduki/youto/youtominaoshi.html)

用途地域を確認する方法

用途地域は、都市計画区域(複数の市町村で構成)ごとに市町村が指定している。このため、用途地域は市町村の都市計画部署のサイトから閲覧することが可能となっている。

市町村によっては、都市計画情報を閲覧できるサイト上から住所を入力するのみで用途地域をはじめ都市計画に関する制限を一目で判断できるようにしているところもある。

なお、調べる際の注意点として住もうとしている場所(点)の用途地域のみでなく、周辺の用途地域を調べておくと周辺環境の変化予測を立てることができる。

用途地域の確認方法の例(世田谷区:https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/010/001/d00125457.html)用途地域の確認方法の例(世田谷区:https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/010/001/d00125457.html)

用途地域以外にも注意が必要

用途地域を補完する都市計画などもあることに注意してほしい。

例えば、特別用途地区や地区計画などがある。これらは用途地域の建物用途の制限のうち、一部の用途を制限したり誘導するために用いられることがある。ほぼ制限強化用として用いられることが多いのが特徴となる。また、住宅団地の自治会で策定していることが多い建築協定では、建築可能な用途を更に住宅や兼用住宅に限定しているケースもあるため利便性を求めている人は注意が必要となる。

いずれの制限内容も仲介時に賃借人に説明しなければならない項目ではあるが、現在の賃貸契約までの慣習上、重要事項の説明時にはほぼ契約が決定している段階となっているケースが多い。

居住後に後悔しないよう、こうした都市計画などが運用されている場合には用途制限はより住環境保護に比重が大きく設定されているため、自身のライフスタイルに合っているのかを確認するのが望ましい。検討の際、悩んでしまった場合には専門家である建築士や宅建士などに相談すると早期解決につながりやすい。

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