相互の強みを活用する、UR西日本支社とJR西日本の包括連携
独立行政法人都市再生機構(以下、UR)というと、団地を中心に70万戸を管理する「日本最大の大家」として、また政策的意義の高い都市再生事業の担い手として知られている。前身の日本住宅公団の設立から約70年近くが過ぎ、その間、人々の住宅に対するニーズやライフスタイルも大きく変化しているが、今回UR西日本支社では、西日本旅客鉄道(以下、JR西日本)との包括連携協定に基づき、賃貸住宅と鉄道を組み合わせた新たなライフスタイルの提供に向けた実証実験を行うこととなった。
その第一弾として2023年6月から8月に、URの物件に入居した人に、JR線で利用できる記名式ICOCA通勤定期券(愛称:「きっかけエリアパス」)を渡すという取り組みが行われた。取り組みの経緯やその背景などをUR西日本支社 戦略調整室 主幹の矢崎徹太さんに聞いた。
矢崎さんの所属するチームは、URの日常業務の枠を超えて、対外的な調整窓口を担うことで、積極的な他社との連携やまちづくりに通じる新規事業の検討を進める部署だ。今回なぜURが、住宅の提供にとどまらず、JR西日本と連携した取り組みをするに至ったのだろうか。
2021年10月にUR西日本支社は、「JR三ノ宮新駅ビル及び三ノ宮周辺地区再整備の推進にかかる連携・協力に関する協定」として、神戸市とJR西日本との三者協定を締結しており、さらに同日、UR西日本支社とJR西日本は、沿線での交流促進や経済活動の拡大を協働で推進するため、二者の包括連携協定も締結した。これらは、人口減少や少子高齢化といった社会課題への対応や、まちの魅力の向上を目指すためだ。
この包括連携に基づき、UR西日本支社とJR西日本が神戸市兵庫区にあるUR賃貸住宅「キャナルタウンウェスト」で実施したのが「きっかけエリアパス」の提供だ。2023年6月1日~8月31日の実施期間中に「キャナルタウンウェスト」に入居し専用ホームページから申し込み手続きをした人を対象に、JR明石駅~JR三ノ宮駅の記名式ICOCA通勤定期券を渡す取り組みである。
「キャナルタウンウェスト」は、当該区間の途中にあるJR兵庫駅が最寄り駅のため、キャナルタウンウェストに住んで三ノ宮方面に通勤する場合と明石方面に通勤する場合、いずれの場合でも反対方向への定期券も付いてくることになる。こうして鉄道で沿線を手軽に行き来できるようにすることで、JR西日本沿線エリアの魅力を知ってもらい、入居後の暮らしを楽しんでもらおうというのだ。
キャナルタウンウェストとは?
JR兵庫駅前の広大な敷地にある「キャナルタウンウェスト」は総戸数1,200戸の大型団地だ。「以前は阪神淡路大震災の借り上げ復興住宅としても利用されました」と矢崎さん。
1999年に完成したキャナルタウンは、このウェストの他に中央・イーストからなり、敷地内を運河(キャナル)が流れ、商業施設や公共施設も含めてひとつの街を形成している。山陽本線(JR神戸線)の兵庫駅前というロケーションでありながら、広大な敷地に恵まれているのは兵庫貨物駅の跡地を活用したためだ。下層階をレンガ調とした建物と運河のある風景は、神戸らしい情緒を感じさせ、2002年度にグッドデザイン賞<建築・環境デザイン部門>を、2007年度には土木学会デザイン賞 優秀賞を受賞している。
そんなキャナルタウンウェスト最寄りの兵庫駅からは、神戸の中心地である三ノ宮駅まで5~6分程度で行ける。三ノ宮のひと駅手前のJR元町駅から三ノ宮駅にかけてはまさに神戸の中心市街地で、長く続くアーケードの下は、ショッピングに多くの人が集まる。
また三ノ宮とは反対に西へ向かうと、兵庫駅から明石駅へは約17分で行ける。神戸市の隣である明石市といえば魚の棚商店街が有名で、瀬戸内海の漁場からその日の朝に水揚げされた新鮮な魚が並び、活況を呈する。また商店街には明石焼きの店も多く、買い物ついでに明石のグルメも気軽に楽しめる。
明石までの途中、須摩や舞子といった駅の近くでは、海と親しみ、楽しむことができる。海釣り公園や、明石海峡大橋が望めるプロムナードなど、瀬戸内海を満喫できる施設が多くあるのだ。このように、「キャナルタウンウェスト」を中心に、西に東に、気軽に出かけ楽しめるスポットにはこと欠かない。
気軽に街を楽しむ「きっかけエリアパス」
UR西日本支社とJR西日本がキャナルタウンウェストで行う今回の実証実験は、住まいを選ぶ「きっかけ」とするのはもちろんだが、それだけではないねらいがある。
「キャナルタウンの立地が今回のポイントです。神戸の中心であり、ビジネスや都市生活の拠点といえる三宮と、一方で郊外レジャーや休日の楽しみの拠点となりうる明石との中間点にあることで、それぞれの街の魅力を両方楽しめます。たとえば平日は三宮で仕事や買い物をする夫婦が、休日は明石でおいしいものを食べに出かけるといったように、街を知ることで暮らしそのものを楽しんでもらいたいと思っています。いつもと異なる方向へ気軽に足を伸ばせる「きっかけ」をエリアパスが生んでくれるはず」と矢崎さんは話す。
新しいライフスタイル提案に向けて
賃貸住宅を探す人が、住まい選びにあたって間取りや設備だけではなく、周辺の環境や立地を重視することはいうまでもない。キャナルタウンは駅前にひとつの街を形成しており、その一角にあるキャナルタウンウェストは、徒歩圏内で暮らしに関わる施設がそろう利便性の高い街だ。
しかし、きっかけエリアパスにより「駅前にある便利な賃貸住宅」というだけでなく「沿線を楽しむ暮らし」という「新しいライフスタイルを提案したい」と矢崎さんは言う。
きっかけエリアパスには、そのネーミングの通り、この街のこの物件を選択する「きっかけ」やいつもと異なる方向へ気軽に足を伸ばす「きっかけ」になることで、日々の暮らしの中で沿線の街を楽しむ「きっかけ」となり、住んでよかったと実感してもらえるのではないかとの期待が込められている。
UR西日本が事業を展開する地域は、近畿・中国・四国と広い。矢崎さんは今回の取り組み結果を踏まえて今後の展開を検討するとしつつ、「例えば、JR西日本とUR西日本支社の広い事業展開地域を活かした連携の可能性なども検討したい」と語ってくれた。
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