東日本大震災を機につくった外国人向け防災マニュアルを改訂
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
避難所は 災害(※)で 家にいると
あぶないときに いくところです。
ねることが できます。
お金は いりません。
外国人も つかうことが できます。
※地震・津波(大きい波)・台風・つよい雨など
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
上記は、名古屋国際センターが「やさしい日本語」で作成した、地域の外国人向け防災マニュアルの一部だ。
公益財団法人名古屋国際センター(略してNIC)は、1984年に名古屋市の外郭団体として設立された。現在は公の施設である名古屋国際センターの指定管理者として、地域の国際化や多文化共生の意識向上を目的としたさまざまな活動を展開している。
地域の外国人に向けた広報物の一つとして、同センターでは2013年にボランティアが中心となり防災マニュアル[やさしい日本語版]を制作。このマニュアルでは、日本語に不慣れな外国人にもわかりやすい簡単な単語や表現で、災害に対する備えの必要性や災害時にどのように行動すればよいかなどを記した。
噛み砕いた日本語によるわかりやすい防災マニュアルではあったものの、初版は東日本大震災を機に作られたこともあり地震災害時における防災を主とした内容だ。
そこで、多様化している今日の災害状況に合わせるとともに、より伝わりやすくわかりやすい日本語にブラッシュアップしようと2021年夏にマニュアルの改訂を検討することになり、同年11月頃から「やさしい日本語ボランティア」らの手によって制作が進められ、2023年1月に【改訂版 NICやさしい日本語防災マニュアル】が完成する運びとなった。
近年の状況に合わせ、地震だけでなく風水害などの内容を加筆
どのように改訂されたかというと、地震災害を対象にした防災情報がほとんどだった初版のマニュアルに、近年多発している「風水害」と「火事」に関する内容を加筆。さらに「避難」をテーマにした内容も加え、大きく4つのテーマにジャンル分けをした。
その4テーマそれぞれで、防災用語をはじめ災害時によく使われる日本語を織り交ぜつつ、「どんな時にどんな日本語で表現されるのか」などを説明。震度の階級や避難指示のレベルなど昨今の変更を反映した内容が盛り込まれるほか、初版ではURLで示されていたサイトへの誘導は二次元コードに替わり、手にとりやすいサイズにするためマニュアル自体もA4からA5サイズに変更されている。
どのような「やさしい日本語」で防災が紹介されているのか?
では、完成した【改訂版 NICやさしい日本語防災マニュアル】ではどのような「やさしい日本語」で防災を紹介しているのだろうか?
そもそも「やさしい日本語」とは、日本語が堪能ではない外国人だけでなく、子どもたちや高齢者、障がいのある方にもわかりやすい簡単な単語や表現の日本語をいう。
例えば、「注意してください」。
火のまわりに燃えやすいものを置かないよう注意してくださいーーーと言われた場合、「やってはいけない」ことを言っているのか「気をつければいい」のかが分かりにくい。
それゆえに「きけんです!やってはいけません!」とした。
また、日本での防災には欠かせないと言っても過言ではない「非常持ち出し袋」についても、外国人には馴染みがなく分かりづらいもの。防災用語として挙げるとともに、それがどんなもので、どこに置いて、どのように使えばよいのかを理解できるように、大きさの目安なども記しつつ中に入れるものをリスト化。「いつも のむ薬も いれます」と加筆するなどして、普段の暮らしにも配慮した内容にしている。
このような「わかりやすい日本語」で説明することに加えて、冒頭で紹介した「避難所」であったり「余震」「洪水」「消火器」など、”知っておいた方がよい言葉”についてはあえてそのままの言葉を使い、わかりやすい説明を加えるなども工夫した。
できるだけ余分な情報を削除して必要な情報や伝えたいことを文のはじめに置き、主語と述語を明確にしながら一行でおさめることを意識。漢字・カタカナにはルビを振ることはもちろん、必要に応じてイラストを添えてイメージをしやすくしたほか「分かち書き(※)」にして読みやすくすることも心がけたそうだ。
※単語ごと・文節ごとに分けるなど言葉の区切りに空白を入れる書き方
名古屋国際センター交流協力課の松田レイナさんに訊いたところ、改訂版防災マニュアルは、同センターで活動する「やさしい日本語ボランティア」の中の4人が中心となって制作。
どんな言葉や表現で記せばよいのか「正解がない」ことが難しさであり、同センターで多文化共生やSDGsについて教えている外国人講師などとの意見交換も重ねてカタチにしていったのだとか。
「やさしい日本語は、ある意味ユニバーサルデザインとも言えます。有事の際には母国語で対応できることが理想ではありますが、名古屋市は英語圏以外の外国人も多く、なかなかそれが難しいのが現状です。このたび改訂した外国人向け防災マニュアルはあくまで『予防用』にはなりますが、有事の際に備えて、地域や職場などさまざまなところで活用してほしいですね」(松田さん)
全国から問合せが多い「やさしい日本語防災カルタ」も
「実は、外国人の方よりも日本人からの反響が大きい」と松田さん。
外国人に防災情報の提供と防災意識の向上を働きかけてきた名古屋国際センターでは、防災マニュアルのほかにも【NICやさしい日本語防災カルタ】も制作している。
2017年に完成したこの防災カルタでは、66の防災用語と、それをわかりやすく伝えるための「やさしい日本語」を学ぶことができる。カルタとしてだけでなく、フラッシュカードなどの使い方ができることも特徴で、全国に無料貸出(送料は依頼者負担)も行っており、外国ルーツの方と関わる支援者や関係者、学校の教員や災害ボランティアなどからの問合せを多く受けているという。
防災マニュアルにしても防災カルタにしても、同センターがこのような制作物を世に出す目的は、日本語を学ぶ外国人に防災用語などを覚えてもらうことだけではない。
日本人には「やさしい日本語」での伝え方を知ってもらい、子どもたちにも楽しみながら防災を学べるものとなるように、日本の子どもも・大人も・外国人も、遊びながら楽しく「やさしい日本語」に触れてほしいとの想いが込められているのだろう。
外国人には「日本での防災」を知るきっかけに。
日本人には「外国人と防災」を意識してほしいと松田さん。
万が一の災害時に、言葉や勝手がわからないために本来受けられるはずの支援を適正に受けられない外国人は少なくないだろう。
これらの制作物は、やさしい日本の言葉とともに、やさしい気持ちが添えられた内容になっていると感じた。
■名古屋国際センターhttps://nic-nagoya.or.jp/
公開日:










