観光復興が道半ばでコロナ禍、新しい打ち手へ
茨城県大洗町で「関係人口」のプロジェクトが進んでいる。関係人口とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と継続的に多様な形で関わる人々を指す言葉だ。人口減少の日本にあって、地方活性化策のひとつとして国も後押しをしている。
総務省によると、地方圏は人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面しているが、地域によっては若者を中心に変化を生み出す人材が地域に入り始めていて、「関係人口」である地域外の人材が、地域づくりの担い手となることが期待されているという。
茨城県大洗町も、「関係人口」の創出に力を入れている地域のひとつだ。大洗町は、もともとは観光と漁業の町だったが、東日本大震災によって4mの津波が押し寄せ、一番の強みだった海水浴客の入込客数が震災前の30%にまで低迷。やっと客足が戻りつつあったタイミングでコロナ禍となり、海水浴場は閉鎖となった。町内にある水族館の人気は安定しているものの、日帰り需要の増加によって町の観光業界全体の売り上げ低迷からは脱してない。そこで新しい糸口を探るべく、観光協会が関係人口の創出に力を入れることになった。
大洗町では、地域外の若手人材で構成された団体「大洗クエスト(Owarai Quest)」が新しい関係人口プロジェクトをスタートさせている。プロジェクトリーダーを務め、大洗町の地域おこし協力隊でもある萬里小路忠昭(までのこうじただあき)さんに、話を伺った。萬里小路さんは委託型の地域おこし協力隊員でもあり、神奈川県との2拠点生活をしている。
結成のきっかけは観光課題解決プロジェクトへの参加
大洗クエストが結成されたきっかけは、大洗町の観光課題解決を目指す共創型ワークショッププログラムにあった。大洗観光おもてなし推進協議会が主催し、「大洗カオス」が運営を担った「Create Owarai(クリエイト大洗) ~笑顔をつくる遊び創りワークショップ~」のことだ。ちなみに大洗カオスのメンバーも全員が大洗町以外に在住し、茨城県の2019年の関係人口創出プロジェクト「if design project」で偶然同じチームになった7人がプロジェクト終了後に結成した団体だ。
「遊び創り」というお題が与えられたワークショップは、参加者が3つのテーマでチームに分かれて、大洗の魅力を生かしたイベントを企画し、その実施までを行うというもの。全国から12名が参加し、各チームのテーマは「酒造(夜の楽しみ方)」「砂浜(ビーチの楽しみ方)」「キャンプ場(アウトドアの楽しみ方)」の3つだった。
萬里小路さんはSNSでワークショップのことを知り、自身が茨城県牛久市出身ということもあって興味を持ったそうだ。仕事で地域プロジェクトの裏方的な関わりを経験したことがあったが、一人の地域プレイヤーとして何かに取り組んでみたいと思っていたことから参加を決めた。
キャンプ場でのイベントが成功。次の挑戦へ
2022年1月から3月にかけて、Create Owaraiのワークショップが開催された。萬里小路さんはキャンプ場チームとして参加。チームのメンバーは、神奈川県在住の男性2人と兵庫県在住の女性1人の合計3人だった。プログラム初日は現地でフィールドワークを実施。大洗町の現状と理想を掘り下げて議論し、活動方針などを言語化していった。チーム名は「大洗クエスト」に決まった。イベントの企画に際しては、自分たちも楽しめる体験とすることを意識。企画名は「〜さあ アウトドアをはじめるぞ、集え〜 松ぼっくりでつくる! あそぶ!! 焚火を囲んだクラフト体験」とした。
2022年3月20日、大洗キャンプ場で、7つの体験を用意したイベントを実施。体験の1つ目は拠点づくりとしてのテント設営、2つ目は拠点散策としての松ぼっくり集め、3つ目はアウトドア体験として薪割り・焚き火体験、4つ目が焚き火調理(昼食編)、5つ目が松ぼっくりアート体験、6つ目が焚き火調理(おやつ編)、そして7つ目が撮影会だった。30数人が参加して自然空間で焚き火を囲み、高い満足度を得られたそうだ。
チームのメンバーはイベント終了後に振り返りを行い、自然と今後の話になった。今回のイベントで満足したというより、もっと大洗に関わりたいとメンバー全員が思ったそうだ。その後、他のチームだった2名も仲間に加わり、5名で大洗クエストを継続することに。メンバー全員が大洗町以外の地域に住み、「関係人口」として大洗町の地域づくりに本格的に参画することになった。
地域おこし協力隊になって、チームの活動継続を後押し
大洗クエストの継続には、萬里小路さんが地域おこし協力隊に着任したことも大きく作用した。Create Owaraiに参加中の2022年2月、大洗町のまちづくり推進課の職員から地域おこし協力隊の公募があることを聞いた。委託型なので2拠点生活をしながら関わることもできるという。完全移住は難しいが、それならチャレンジしたいと萬里小路さんは応募することに。自身が地域おこし協力隊になることで、大洗クエストの活動を継続して進められると考えたのだ。萬里小路さんは現在、大洗町に部屋を借りて、神奈川県との2拠点生活をしている。
萬里小路さんは大洗クエストのメンバーと議論して、活動ミッションを当初の「海を中心とした“レジャースポット“」から「まち全体を“冒険の拠点“にする」とし、大洗町の魅力の発掘・発信を行うことで地域活性化や関係人口の創出に関わる活動を目指すことに。5名になった大洗クエストの活動はより「まちづくり」を意識し始めた。
また、大洗クエストの活動範囲は大洗だけではない。全国の「地方創生」や「地域活性化」などの事例をインプットするため、地域課題に対して知恵を絞って試行錯誤をしながら活動する地域プレイヤーをゲストに迎え、活動の背景・過程・成果・挑戦を、月に1回インタビュー形式で見える化している。そこで得た実践知を大洗に還元したいと考えての活動だそうだ。
地域のキーパーソンと関係人口をつなぎ、化学変化を目指す
大洗クエストでは、町を知ってもらうだけでなく、町に関わる機会も提供している。町の魅力を発掘するイベントを2022年夏から秋にかけて開催。町を探索するフィールドワークで、参加者と一緒に町の魅力を発掘し、見える化した。
同年12月には2泊3日でのワーケーションプログラムも企画。一般的なワーク(仕事)とバケーション(休暇)だけではなく、地域と関わるプログラムとした。仕事終わりに町内のヨガスタジオで空中ヨガ体験。朝は海沿いを散歩しながらビーチクリーンをしたほか、海を見ながらの読書や星空観察をした。
一方で9時から18時は、各自しっかり仕事の時間をとって集中してもらった。というのも、ワーケーションに初めて参加する人も多く、仕事環境が変わっても普段と同じ仕事が安心してできるんだと感じてもらいたかったからだ。参加者は、思った以上に仕事がはかどったと喜んだ。参加者の一人からは、「また何か一緒に取り組める機会があれば挑戦したい」というコメントも。今後、このようなプログラム参加をきっかけに何か新しい地域プロジェクトが生まれるかもしれない。
萬里小路さんは、自身が大洗に関わるきっかけになったCreate Owaraiプロジェクトを、今度は自身が企画プロデュースすることに。2023年1月~3月に「地域共創型まちづくりプログラム」として開催したプログラムの課題は「特産品」「暮らし」「場づくり」の3つ。これは萬里小路さんが地域おこし協力隊として活動する中で重要課題と感じているテーマだという。今回も12名の町外に住む人々が参加し、成果発表イベントに向け地域内事業者と連携協力をしながら未来のまちづくりアイデアを考えた。
このように大洗町では、関係人口が関係人口を呼んでいる。地域活性化の新しいスタイルが生み出されているといえそうだ。今後の展開が楽しみである。
公開日:
















