利便性が今一歩だった七隈線

七隈線は、六本松から天神南までかつての路面電車のルートに沿っている(画像:PIXTA)七隈線は、六本松から天神南までかつての路面電車のルートに沿っている(画像:PIXTA)

福岡市地下鉄は、長らく福岡空港駅・博多駅から姪浜駅へとつながり、さらにJR筑肥線に直通する「空港線」と、空港線の中洲川端駅から貝塚駅に至り、西鉄貝塚線と接続する「箱崎線」の2路線だった。だが、2005年に市の西南部の鉄道空白地帯と中心部の「天神南」駅を結ぶ「七隈線」が開業。同路線の沿線には、中村学園大学や福岡大学といった大きな教育施設があり、通学利用者などで混雑している。

しかし、山陽・九州新幹線が発着するターミナルで、近年は商業地としての成長も著しい博多駅に行くには、終点の天神南駅から天神地下街を約600m歩いて空港線に乗り換える必要があり、沿線から博多へのアクセスは決してよいとはいえない状況だった。

そこで、七隈線が天神南駅から博多駅まで延伸されることになり、今年(2023年)3月27日に開業を迎える。この延伸でどのようなメリットがあるのか、また、沿線の居住ニーズが高まることも想定されることから、直近1年の七隈線沿線の賃貸物件の家賃相場、中古マンション・一戸建ての価格相場の変化を調査した。

七隈線は、六本松から天神南までかつての路面電車のルートに沿っている(画像:PIXTA)天神南駅と天神駅の乗り換えルートとなっている天神地下街は人通りも多い(画像:PIXTA)

福岡市西南部から博多駅への移動時間が最大14分短縮

七隈線の延伸事業は、天神南駅と博多駅の間(約1.4㎞)を結ぶものだ。利用者数は1日約8.2万人を想定し、そのうちマイカーなどからの乗り換えによる新規利用者は約2.3万人を見込んでいる。 

この事業の主なメリットは、市西南部から博多駅への移動時間の短縮だろう。最大で14分短くなる。通勤・通学時間の平均が35分の福岡圏域(※1)において、沿線に新たな博多通勤圏が生まれるほか、中心部内の移動も薬院駅⇔博多駅が7分、渡辺通駅⇔博多駅が5分と格段に便利になる。

※1:令和3年「社会生活基本調査結果」より、平日の福岡県の平均通勤時間

赤い線が今回延伸される天神南駅⇔博多駅ルート(出所:福岡市交通局『高速鉄道3号線の計画等について』)赤い線が今回延伸される天神南駅⇔博多駅ルート(出所:福岡市交通局『高速鉄道3号線の計画等について』)

また、七隈線が博多駅へ直結することで、空港線やJR線への乗り換えも便利になる。博多駅での空港線への乗り換えは改札を通らずに行えるため、大きな荷物を持って福岡空港へ行く際も、以前より楽に乗り換えができるだろう。JR線への乗り換えは、七隈線の改札口から地下街を経由して直線的に上がる経路となる。

赤い線が今回延伸される天神南駅⇔博多駅ルート(出所:福岡市交通局『高速鉄道3号線の計画等について』)乗り換えのイメージ。空港線とはホームが通路でつながる(約150m)。JR線とは地下街を経由してつながる(約180m)(出所:福岡市地下鉄HP)

新たに設置される「櫛田神社前」駅

櫛田神社。飾り山笠が6月を除き一年中展示されており、博多っ子からは「お櫛田さん」の愛称で親しまれている(画像:PIXTA)櫛田神社。飾り山笠が6月を除き一年中展示されており、博多っ子からは「お櫛田さん」の愛称で親しまれている(画像:PIXTA)

天神南駅から博多駅の間には、新たに「櫛田神社前」駅が設置される。同駅は、夏の風物詩となっている博多祇園山笠が奉納される櫛田神社の南側に位置する(徒歩約2分)。また、すぐ近くには、約4万3,500m2という広大な敷地をもつ大規模複合施設「キャナルシティ博多」もある。櫛田神社前駅からキャナルシティ博多までは徒歩で約2分。まさに目と鼻の先だ。さらにすぐ脇を流れる博多川を渡れば、九州一の繁華街といわれる中洲がある。つまり、九州でもトップクラスの好立地に設置される駅となる。

七隈線と空港線の不動産相場を比較

博多駅までの所要時間が最大14分短くなることで、例えば七隈線の七隈駅は、従来博多駅まで33分かかっていたのが、延伸開業後は19分となる(※2)。これは、空港線の姪浜駅(博多駅まで19分)と同等の所要時間だ。そこで気になるのが、七隈線沿線にある不動産の相場だろう。今のうちなら割安で借りられる、または購入できるかもしれない。延伸開業後に博多駅までの所要時間が同等となる各路線の駅と、賃貸物件の家賃相場(※3)、中古マンションの価格相場(※4)、中古一戸建ての価格相場(※5)を比較してみた。

※2:七隈線、空港線の所要時間は、福岡市交通局HP「各駅間標準所要時間」による(2023年3月27日の延伸開業後)。JR筑肥線の所要時間は、平日の最速所要時間(2023年3月18日改正のダイヤに基づく)
※3:築10年、専有面積20m2の場合の参考賃料(2023年3月13日時点)
※4:築10年、専有面積70m2の場合の中古マンション参考価格(2023年3月13日時点)
※5:築10年、建物面積100m2の場合の中古一戸建て参考価格(2023年3月13日時点)

七隈線と空港線の主な駅の不動産相場の比較七隈線と空港線の主な駅の不動産相場の比較
七隈線と空港線の主な駅の不動産相場の比較路線別 賃貸物件家賃相場の比較
七隈線と空港線の主な駅の不動産相場の比較路線別 中古マンション価格相場の比較
七隈線と空港線の主な駅の不動産相場の比較路線別 中古一戸建て価格相場の比較

七隈線沿線の家賃水準は空港線沿線より低い

上記のとおり、七隈線沿線の家賃相場は、空港線の各駅よりおおむね安価な水準となっている。一方でJR筑肥線との比較では、中古マンションを中心に七隈線の物件価格が上回るエリアもあったが、七隈線はJR線よりも運行頻度が高い(延伸開業後の平日朝の最小運行間隔は3分30秒)ため、利便性を重視し高額な物件でも魅力を感じる人も少なくないはずだ。

なお、上記で紹介した駅以外の家賃相場・価格相場の比較は下表を参照いただきたい。

七隈線と空港線の不動産相場の比較(全駅)2023年3月13日時点七隈線と空港線の不動産相場の比較(全駅)2023年3月13日時点

ここ1年、新たな博多通勤圏で高い価格上昇率に

また、交通アクセスが便利になると家賃や価格が上昇しやすい。七隈線沿線の直近1年の不動産相場はどのように変化しているだろうか。

中古一戸建て価格相場の直近1年の上昇率は、福岡県全域が5.82%であるのに対し、特に賀茂駅(12.51%)や梅林駅(10.69%)など従来博多駅まで30分以上を要していた駅で上昇率が高く、延伸開業により20分台でアクセスできる新たな通勤圏として需要が高まっていると考えられる。

中古マンションの価格相場は、薬院駅(7.96%)や薬院大通駅(6.56%)など、これまで博多へはバス利用が主流だった薬院エリアの2駅のほか、橋本駅(6.48%)や福大前駅(6.34%)などで上昇率が高くなっている。薬院駅は、「2023年LIFULL HOME'Sみんなが探した!買って住みたい街ランキング」でも前年から6ランクアップし7位に入っているほか、渡辺通駅(24位→13位)や別府駅(53位→17位)も順位を上げている。

一方、賃貸物件では福岡県全域が3.30%の上昇であるのに対し、七隈線で最も上昇率が高かったのは4.79%の薬院大通駅であり、中古一戸建てや中古マンションと比較すると、七隈線沿線に限って家賃相場が大幅に上昇しているということはなさそうだ。

七隈線と空港線の不動産相場上昇率の比較(全駅)2023年3月13日時点七隈線と空港線の不動産相場上昇率の比較(全駅)2023年3月13日時点

福岡市は今、「天神ビッグバン」などによる再開発ラッシュで、全国でも高い地価の上昇率となっている。天神ビッグバンとは、2024年までに30棟のビルを建て替えるという事業。年間8,500億円の経済波及効果が期待されている。地下鉄七隈線の延伸は、この勢いをさらに加速させるはずだ。大いに期待したい。

七隈線と空港線の不動産相場上昇率の比較(全駅)2023年3月13日時点天神ビッグバン工事現場 (旧大名小学校跡地)。福岡市は今、大きく生まれ変わろうとしている(画像:PIXTA)

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ホームズ君

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