“不動産業界初”という新サービス「INOVE+(イノベプラス)」とは?

2022年7月、株式会社第一住建ホールディングス(本社:大阪市中央区)は新サービスをスタートさせた。その名は、「INOVE+(イノベプラス)」。同社の管理物件の入居者であれば、美容室、ネイルサロン、セルフホワイトニング、セルフ脱毛サービスが月1回利用でき、カレーが週に1度食べられるというもの。なんともユニークなサービスである。

サービスを提供する施設は、近鉄大阪線「長瀬」駅徒歩3分、ちょうど近畿大学への通学路になっている所にある。もともと店舗として使われていた建物をリノベ―ションしたもので、運営管理は同社が行っている。

ここで受けられるサービスは、①最新美容機器が使える美容室、②ネイリスト常駐のネイルサロンとセルフネイル、③セルフ脱毛、④セルフホワイトニング、⑤俳優・松尾貴史さん監修のオリジナル健康カレー「ダイチキ咖哩(カレー)」の5つ。
営業時間は10時~19時、定休日は火・水曜日。施設利用料は家賃に含まれているので、自分の都合のいい時に気軽に利用することができるのだ。

*サービス内容は2023年1月末時点のもの

INOVE+(イノベプラス)の外観。4つの小部屋に分かれており、完全個室で利用できるINOVE+(イノベプラス)の外観。4つの小部屋に分かれており、完全個室で利用できる
最寄り駅の近鉄大阪線「長瀬」駅。多くの近畿大学生でにぎわう駅である最寄り駅の近鉄大阪線「長瀬」駅。多くの近畿大学生でにぎわう駅である

建物は各サービスごとに4つの部屋に分けられ、それぞれのドアに予約システムと連動したスマートロックが設置されている。利用者はあらかじめダウンロードしたアプリで事前予約し、予約時間になればスマートフォンで解錠して入室するシステムである。このサービスのポイントは、完全個室の単独使用が基本になっているので、人の目を気にしないでいいところだ。全店舗に防犯カメラ、エアコン、トイレが完備されているので、安全で快適に利用することができる。

しかし、なぜこのユニークなサービスを始めたのか、どうして美と健康がコンセプトなのか、とても気になるところである。
そこで、サービス開始から半年経過した2022年12月、マーケティング部 の宅島れいさん、名取一秀さんに、今回の新サービスについていろいろ話を伺ってきた。

INOVE+(イノベプラス)の外観。4つの小部屋に分かれており、完全個室で利用できる株式会社第一住建ホールディングス マーケティング部 宅島れいさん(左)、名取一秀さん(右)

サービス誕生のきっかけは、新型コロナの影響を受けた学生の声から

INOVE+のロゴとともに、二次元コードで認知を上げる工夫もしているINOVE+のロゴとともに、二次元コードで認知を上げる工夫もしている

今回のサービスを始めるきっかけは、新型コロナによって日常生活が大きく変わってしまった大学生へのアンケートだという。
2020年12月に、東大阪の自社物件に入居している大学生に対して、「日常生活で、何か困っていることはないですか?」というアンケートをとったところ、「人とのコミュニケーションが減って寂しい」「リモート授業で、顔がずっと画面に出るので美容が気になっている」「自炊をしたいが、キッチンが狭いので料理がしにくい」という声が上がってきた。

「大学の授業がリモートになり、リアルでコミュニケーションをとる機会が減っていること。アルバイトがなくなり収入が減少していること。また、美と健康に関心が高いことなど、さまざまな不安や不満を抱いていることがわかりました」(宅島さん)

そこで、困っている大学生に、何か応援できることがないだろうかということで、社長を筆頭にプロジェクトチームが結成され、具体的な形にしていったのが、美と健康をコンセプトにした「INOVE+」なのである。5つのサービスなのは、「ちょうど、2022年の5月に50周年を迎えることもあり、最初から5つのサービスにしようと決めていた」(宅島さん)からだそうだ。

INOVE+のロゴとともに、二次元コードで認知を上げる工夫もしている長瀬駅から近畿大学への通学路にあるこの建物内で5つのサービスが受けられる

自社管理物件に入居する大学生への支援が目的であるが、今回のサービスがよくできていると感じたのは、賃貸物件のオーナーにもメリットを持たせたことである。一般的に、賃貸住宅で差別化を図るためには、設備投資やリフォームなどお金が必要になることが多い。しかし今回のサービスでは、同社に管理を委託し「INOVE+」の対象物件にした場合、サービスの運営費は家賃に含まれているため、オーナーには一切の出費がなく、入居者の満足度が高くなり、入居率を上げることにもつながる。つまり、「INOVE+」は、入居者満足度アップと、オーナーへの管理委託の提案としての2つの側面があるというわけだ。

「第一住建ホールデイングスに任せれば家賃を上げてくれるということで、管理受託につながっています」(宅島さん)

今回の取組みが成功すれば、さらに入居者や管理物件が増えるので、「入居者、オーナー、会社」のまさに、三方よしのサービスになるだろう。

では、もう少し具体的に5つのサービスを見てみよう。

最新美容機器が使える美容室とネイリスト常駐のネイルサロン

美容室の前には、入居すれば利用できるというINOVE+の告知がある美容室の前には、入居すれば利用できるというINOVE+の告知がある

1. 美容室:月1回 60分枠

美容室には専属の美容師が常駐しているので、カットだけだが月1回利用することができる。ちょっと前髪をそろえたいとか、軽く整えたいというときでも、気軽に利用できるのでとてもうれしいサービスだろう。
水圧が選べる本格的なオートシャンプーも設置されている。また、セルフブロースペースでは、低周波モバイル美容機器の電気ブラシやマイナスイオンを放出するヘアドライヤー、ストレートアイロンなど、最新の美容機器が自由に使える。

「就活の面接の前など、空き時間を利用して身だしなみを整える使い方もおすすめです」(宅島さん)というように、まさに気軽に通える美容室になっている。

美容室の前には、入居すれば利用できるというINOVE+の告知があるこの美容室の空間を一人でゆったりと利用できる
ネイルサロンの入り口にも、INOVE+の告知があるネイルサロンの入り口にも、INOVE+の告知がある

2. ネイルサロン:月1回 120分枠

ネイルは大学生になってから本格的に始める人が多いそうだが、ここでは専属ネイリストがいるので、いろいろ相談しながらネイルが試せる。気軽に始めるにはちょうどいいだろう。
また、セルフネイルでは、イギリス発のヴイーガンネイルカラーコレクションやネイルプリンターなどが自由に使えるので、自分で道具をそろえる必要がなく、ネイルを試したり、お直しすることができる。最近は、男性も身だしなみとしてネイルを整える人もいるという。

美容室の前には、入居すれば利用できるというINOVE+の告知があるネイルサロンの室内。完全予約制で専属のネイリストが対応してくれる

セルフ脱毛&セルフホワイトニング

セルフ脱毛とセルフホワイトニングは同じ部屋になっているが、内部でそれぞれ完全個室になっているセルフ脱毛とセルフホワイトニングは同じ部屋になっているが、内部でそれぞれ完全個室になっている

3. セルフ脱毛:月1回 50分枠

セルフ脱毛用の個室には、Super Nano Lightという業務用の機械が設置されている。使い方については動画や貼り紙、マニュアルが用意されているので、それを見ながら自分で操作して照射をするというもの。それでも利用の仕方がわからなければ常駐しているスタッフが対応してくれる。なにより、完全個室のため誰にも見られることがないので、安心して利用できるのがうれしい。新開発FHR方式の脱毛法を導入しており、痛みや皮膚へのダメージを軽減するそうだ。
手と足の脱毛ということなので女性だけかと思えば、「利用者は男女半々くらいですね」(名取さん)とのこと。昭和生まれの筆者は、このあたりに時代の違いを感じてしまった。

セルフ脱毛とセルフホワイトニングは同じ部屋になっているが、内部でそれぞれ完全個室になっている完全個室になっているので、人の目を気にせずセルフ脱毛ができる
ホワイトニング液を塗布した歯にLEDライトを照射するホワイトニング液を塗布した歯にLEDライトを照射する

4. セルフホワイトニング:月1回 50分枠

セルフホワイトニングに使うのは、アメリカの医療機器メーカーで、ヨーロッパや世界の多くの国で使われている機械。自分でホワイトニング剤を塗り、歯に照射する。ここも完全個室なので人に見られることはなく、安心して利用できる。ホワイトニングができるお店はなかなか身近にないので、学校の行き帰りに利用できるのはとても便利だろう。また、ホワイトニングは口臭予防にもなるそうだ。

セルフ脱毛とセルフホワイトニングは同じ部屋になっているが、内部でそれぞれ完全個室になっている個室でリラックスした状態でセルフホワイトニングできる

完全オリジナルの健康カレー「ダイチキ咖哩(カレー)」

ダイチキ咖哩(カレー)は基本的にテイクアウトではあるが、ここで出会った人同士が友達になったり、コミュニケーションを図る場所にもなっているダイチキ咖哩(カレー)は基本的にテイクアウトではあるが、ここで出会った人同士が友達になったり、コミュニケーションを図る場所にもなっている

5. ダイチキ咖哩(カレー):週1回利用

健康な食事として選ばれたのがカレー。カレーは嫌いな人がいないだろうという理由からだ。自らもカレー専門店を経営する、俳優の松尾貴史さんに監修を依頼した完全オリジナルの健康カレーである。ビタミンCが豊富な大根と、良質なタンパク質を含む鶏もも肉を具材にしているので、「ダイチキ咖哩(カレー)」というネーミングになのだそうだ。事前予約で、週に1回、テイクアウトで食べることができる。ただし、使い捨ての容器はSDGsの観点からもよくないということで、最初にカレー専用の容器が配られ、毎回それにダイチキ咖哩(カレー)を入れてもらうのだ。一人暮らしの学生の親御さんにとっても心強いだろう。

ダイチキ咖哩(カレー)は基本的にテイクアウトではあるが、ここで出会った人同士が友達になったり、コミュニケーションを図る場所にもなっている学生の間でおいしいと評判のダイチキ咖哩(カレー)

INOVE+の利用状況と今後の課題

セルフブローなど、美容に気をつけることで気持ちが上がる人が多いそうだセルフブローなど、美容に気をつけることで気持ちが上がる人が多いそうだ

現在このサービスが利用できるのは、この施設に通えるエリアの単身向け住宅約300室(300人対象)の入居者。大学生に限定しているわけではないので、利用者には社会人もいるそうだ。

サービスを開始してまだ半年なので、利用者にアンケートをとったり、直接話を聞いたりしながら、現状把握と分析をしているところだというが、利用者の声はおおむね好評である。ネイルをしたり、ヘアカットをすることで、気持ちが上がったり、カレーをとりに来たときに、他の人とコミュニケーションをとれるのが楽しいという人もいる。
「ここで知り合って友達になった人もいますよ」(名取さん)ということで、まさに、学生にコミュニケーションの場を提供するという目論見がうまくいっているようである。

カレーの店舗では、専属スタッフが対応しているので、入居者と日頃から気軽に話せる関係が構築されている。
「現在の学生の悩みとか、考えていること、部屋の使い心地など直接聞ける機会はとても貴重です。もちろん、部屋のクレームなどもありますが、すぐに現場にフィードバックして対応しています」(名取さん)

ユーザーの生の声が聞けるのは、今後のマーケティングにも大いに役に立つことだろう。

セルフブローなど、美容に気をつけることで気持ちが上がる人が多いそうだカレー部屋は、学生同士のコミュニケーションの場にもなっている
「近大をすすらんか。×INOVE+」のコラボイベント「近大をすすらんか。×INOVE+」のコラボイベント

順調な滑り出しだが、もちろん課題もある。
入居するすべての人が施設を利用しているわけではないので、利用率を上げることもそのひとつ。例えば、全般的に女性が利用しやすいサービスが多いので、がっつり食べたい男性向けにカレーのメニューを増やすことなどを検討中だ。また、サービスによる利用率に差があるので、内容や利用の仕方などを、現状分析をしながら、より利用してもらえるように改善していく予定になっている。

そして、現状の優先的な課題は、「INOVE+」の認知度を上げることである。サービス開始から半年がたつが、建物の前を毎日通っている人でも、「INOVE+」について知っている人はまだ少ない。まずは近畿大学の学生の間で知名度を上げていきたいということで、2022年9月に「近大をすすらんか。×INOVE+」のコラボイベントを行っている。
「近大をすすらんか。」は、近畿大学の学生が経営するラーメン、まぜそばのお店。従業員もすべて学生で運営しているので、学生の間では知名度がとても高いのだ。当日は、近畿大学内でダイチキ咖哩(カレー)とコラボしたカレーラーメン300食を無料で提供し、好評のうちに完売したそうである。「イベント後サイトへの流入が3~4倍になりました」(宅島さん)ということなので、イベントの成果は出ているようだ。
現在、インスタグラムなどで情報を発信しているが、今後、他のメディアも利用してさらに認知度を上げていく予定になっている。

セルフブローなど、美容に気をつけることで気持ちが上がる人が多いそうだコラボイベントに並ぶ学生たち

INOVE+の今後の展開

夜間でも「INOVE+」のロゴと二次元コードがライトアップされている夜間でも「INOVE+」のロゴと二次元コードがライトアップされている

今回の取材を通して、「INOVE+」は、あらためてユニークで思い切った取り組みだと感じた。さまざまなアイデアや企画を思いついても、なかなか実行に移せないことが多い中、業界初のサービスを手間をかけてつくり上げたことは素晴らしいことだ。

「社長が、どんどん新しいことをやってみようというスタンスなので、実現することができました」(名取さん)

学生のニーズに応えた、より新しく、より豊かなライフスタイルを提供したいという想いから生まれた新サービスなので、ぜひ大事に育てていってもらいたい。

また、「第一住建は一生涯のパートナーをモットーにしているので、今回の取組みを通していい会社だなと思っていただき、将来家を買うとき、借りるとき、投資をするときに第一住建のお客さまになっていただけるとうれしいと考えています」(宅島さん)ということなので、入居していない大学生にも取組みを理解してもらうことが重要なミッションになるだろう。

今後の展開として、「INOVE+」のサービスを他のエリアで実施することも考えられている。今回は自社物件が多い東大阪エリアで行ったため、近畿大学生向けのサービスになったが、サービス内容や時間帯はそのエリアに合わせて考えていくとのこと。どこで新しく展開するのか楽しみである。

すでに2023年の新入生の部屋探しはスタートしているが、2月、3月とこれから本格化していく。新入生に対して「INOVE+」を告知していく最初の年であり、このサービスが一人でも多くの入居者を獲得するとともに、管理を委託してくれるオーナーを増やすことを実証する、重要な年になるだろう。

今回の取組みは、賃貸住宅そのものに付加価値をつけるハード面での施策ではなく、入居者だけが使える生活のバックアップというソフト面での新しい取組みだ。サービスが始まったばかりで、まだまだ試行錯誤は続くと思うが、今後の動向に注目していきたい。

夜間でも「INOVE+」のロゴと二次元コードがライトアップされているINOVE+の全体図。サービス毎に部屋が分けられている

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