永山祐子が足立区にショッピングセンターを設計
現在の日本で最も活躍している建築家といえば隈研吾…いやそれは永山祐子である、と私は思っている。
ドバイ万博日本館、歌舞伎町の東急歌舞伎町タワーなどの大規模物件から、百貨店の内装、ブティック、ショッピングセンターまで、活動の幅は広い。
永山と同じ1970年代生まれの建築家が、建築作品そのものよりも、建築と街・地域のつながりを追求したコミュニティ志向の建築を手がけることが多くなっているのに対して、永山は「キラキラ」した建築を設計できる、現在では珍しい存在であると私は考える。
その永山が設計したショッピングセンターが足立区にできるというので取材した。開店は2022年10月14日。開発したのは板橋区で不動産業を営む株式会社リブランである。
リブランは24時間楽器演奏可能なマンション「ミュージション」を手がけるなどユニークな開発で知られている。また、エコロジーを意識したマンション「エコヴィレッジシリーズ」を2001年から2000戸以上供給してきた(2019年現在)。エコロジカルな住宅設計で知られる株式会社チームネットと協働したコーポラティブハウス「松蔭エコヴィレッジ(欅ハウス)」も有名だ。だが商業施設は手がけたことがないはずだ。
大マンション街に変貌した西新井
そのリブランが永山祐子と足立区でどんなショッピングセンターをつくるのか。意外な組み合わせだけに私は非常に興味津々だった。
場所は東武スカイツリーライン西新井駅から徒歩3分のところ。西新井駅は北千住から急行なら5分ほど、各駅でも8分ほどである。有名な真言宗総持寺・西新井大師のある門前町でもある。
駅西口を降りるといきなりドンキホーテがあるので、あれ、ここにできるのかとちょっと不安になったが、歩いていると新しいマンションがずらりと建っており、近年の足立区において都心に通うビジネスパーソンを大量に吸収している地域なのだと実感した。
新しいマンションが並んでいる地域は、日清紡の工場があった街区だそうで、その一部にセブン&アイ・ホールディングスのショッピングモール「Ario(アリオ)」があり、核テナントとしてイトーヨーカドーが入っている(イトーヨーカドーは北千住が発祥の地である)。
駅の反対側、東口にはイオンがあり、駅ビルとして東武のTOSKAがあり、他にもかなり商業集積はある。そこにまた新しいショッピングセンターができて、大丈夫かという気にもなった。
空を感じ、風が通り、体温が伝わり、笑顔になれる
ショッピングセンターの名称は「ソラトカゼト西新井」という。敷地面積893.2m2、建物は二階建てで延床面積1164.2m2と思ったより小さい。こんな小さい店で大規模店が多い西新井でどうやっていくのか。また少し不安がよぎった。
現地に着くと、いわゆるショッピングセンターという感じではない。たしかに1階は生鮮食料品店が入っている。しかし隣は調剤薬局である。その隣は焼きたてパン屋。2階は小児科医、写真スタジオ、美容室、ネイルサロンからなる。かなりコンパクトなショッピングセンターである。
それにしてもショッピングセンターの店名が“空を感じ、風が通る。体温が伝わり、会話が生まれ、笑顔になれる。”というコンセプトから来ているというのは、少し珍しい。だがとても今という時代を表していると言える。
リブランの担当者・宮本隆雄氏によると、目指したのは「居心地のよい商業施設」だという。「ショッピングモールが増えすぎて、消費者も飽きてきたと思う。どこのモールに行ってもツルツルピカピカで同じだし。こういうモールばかりの環境で子どもが育つとどうなるのか不安な気がしました」という。
また、これまでの西新井になかったおしゃれさは欲しかったが、代官山のような気取ったものは似合わない。「もっと音や匂いのする人間くさい店が欲しいと思った。街から遮断されて、客を囲い込むようなモールではなく、街とのつながりを考えた店にしたかった。それに今の時代、何かと規制が多くて、みんな疲れている。だからここでは、もっとおおらかな、風通しがよい、なんとなくつながっているという感じの店にしたかった」とも宮本氏は語る。
そこで宮本氏は、スープストック自由が丘店の店舗デザインが好きだったこともあり、それを設計した永山祐子を設計者に指名した。
おおらかな、風通しがよい、なんとなくつながっているという感じ
以上のようなコンセプトを踏まえ、ソラトカゼト西新井では売り場を壁で囲んで通路を真ん中に持ってくる方式ではなく、細長い敷地を活かして、外の街路から直接店舗に入る路面方式とすることで商店街の風景を創り出したいと考えたという。
街路と売り場の中間領域にも心を配った。1階の中間あたりにかかる勾配屋根は軒が長く伸びており、木サッシのガラス戸を開けた店内も、ガラス戸から1.5mほどは店でもない外でもない中間領域という位置づけになっている。さらに生鮮食品店と調剤薬局とパン屋の仕切りもガラスであり、相互に隣を見通せるようになっており、単なる路面店型では独立しがちの店舗同士がなんとなくつながっている感じが出るのが面白い。
雪国にある雁木のような感じである。私は雁木で有名な新潟県上越市高田の出身なのでそう思ったのだ。
雁木というのは今風に言うとアーケードであるが、木造の店舗が私有地である店先を街路として提供し、軒を伸ばして雨や雪に当たらずに通行できるようにしたものである。それぞれの店が独立しすぎず、気軽に店に入りやすく、風通しがいいのに、どことなく温かみのあるコミュニティを感じられるのが特徴だ。
ショッピングモールには飽きた
前回の立川のグリーンスプリングスでも書いたように、1990年代後半以降日本中を席巻した巨大ショッピングモールの時代がようやく終わろうとしているのではないかと私は感じている。
大量生産大量消費時代の最終段階であり、日本中いや世界中に同じブランドの店を入れる巨大モールはSDGs的観点から見ても今後は時代遅れになるだろう。
これからはもっと地域に根ざした店、チェーン店ではなく個人店、AIやメタバースではないリアルな交流のある店、人と人のマニュアルではないコミュニケーションがある店などが求められるだろうし、ショッピングセンターの場合でもそれらの店が複合しつつ、光と風と緑といった自然とも融合した心地よい居場所であるようなものがますます求められるだろう。
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