リノベーションブランド「TOMOS(トモス)」誕生秘話

グッドルーム株式会社代表取締役社長の小倉弘之さんグッドルーム株式会社代表取締役社長の小倉弘之さん

「賃貸でも自分らしい家に住みたい」。そう思う人は少なくない。一億総発信者時代の今、DIYでセルフリノベーションする様子をSNSで発信する人も多いが、原状回復義務のある賃貸物件でDIYをしたり設備を変えたりすることはなかなか難しい。

そんななか注目を集めているのが、グッドルーム株式会社が手がけるオリジナルリノベーションブランド「TOMOS(トモス)」。

TOMOSは同社代表の小倉弘之さんが、初めて一人暮らしを始めた際に感じた「一般的な賃貸物件はなんだか味気ない」という思いからスタートした。

「自分が本当にいいと思った部屋で暮らしたいという思いはあるものの、内装の素敵な部屋はどうしても家賃が高い。そこで私は大家さんに交渉し、セルフリフォームさせてもらうことにしたんです。床と照明を変えただけで、味気ないと感じていた部屋もグッと雰囲気が変わり、生活も一変。賃貸住宅でも快適に心地よく、そして自分らしい暮らしを実現できるんだと感じました。当時これをビジネスにしようと考えていたわけではありませんが、起業する際に、その時に感じた『味気なさ』のようなものを払拭するリノベーション物件にはニーズがあるだろうと思い、リノベーションブランド『TOMOS』を立ち上げました」と小倉さんは話す。

暮らしをあかるくあたたかく「灯す」。そんな思いが込められ、2009年グッドルーム株式会社の誕生とともにTOMOSはスタートした。

TOMOSが支持される理由

TOMOSの大きな特徴のひとつが、すべての物件で「無垢床」が採用されていることだ。無垢の質感やオシャレ度の高さは紹介するまでもないだろう。ただ無垢材はコストがかかるため一般的な賃貸物件ではあまり使われることはない。

同社ではいかにコストを抑えることができるかを考え、無垢床をはじめキッチンや洗面台なども基本的にどの物件も同じ仕様としている。まとめて木材などを輸入し、さらに自社に専任大工を置くことでコストダウンしているそうだ。

物件により広さや間取りは違うが、シンプルでナチュラルな内装は基本的に同じ。TOMOSのサイトでは家具の入った写真も閲覧できるのでイメージしやすい物件により広さや間取りは違うが、シンプルでナチュラルな内装は基本的に同じ。TOMOSのサイトでは家具の入った写真も閲覧できるのでイメージしやすい

「手がける物件の多くは1980~1990年代に建てられた物件です。築年数がかさみ空室が増えてくると、リノベーションを考えるオーナーさまもいらっしゃいますが、あまりに高額のリノベーションは現実的ではありません。ある程度の予算内でバリューアップし家賃と稼働率を上げることで物件価値の上昇にもつながり、売却もしやすくなると思います。気に入った内装の部屋に住みたいと考えていた入居者さまも、新築や築浅のデザイナーズ物件は家賃が高く諦めざるを得ないけれど、TOMOSのリノベ物件なら借りられるかもしれません。オーナーさま・入居者さま双方にとって、叶えられる部分は多いと思います」と小倉さん。

続けてこう話す。「新築よりも安いリノベ物件ですが、例えばエレベーターがなく階段で上がるしかない、建付けがちょっと古いけれど内装はきれい……など、すべてが完璧ではありません。TOMOSは『BESTではなく、GOODなお部屋』。そこに魅力を感じてくださるお客さまも一定数いらっしゃると感じています」。今ではTOMOS限定で部屋探しをするファンもいるほどだという。

空間をシェアし狭小住宅のデメリットを解消

ここからは元社員寮を1棟リノベーションした実例を見ていこう。

もともと社員寮として運用されていた同物件を一般賃貸運用するためTOMOSでリノベーション。全50部屋あるなかで、工事中に49部屋の申し込みがあり、もちろん現在は満室という状況だ(2022年4月時点)。

ではどのようにリノベーションされたのか。

社員寮という性質上、以前は談話室とランドリールームが設けられていたのだが、現代のニーズに合っているとは言いがたい。そこで談話室を「コワーキングスペース」に、そしてランドリールームを「トランクルーム」として作り変えた。

同物件は一部屋が18m2という狭小住宅である。リモートワークなど働き方の変化に伴い自宅で仕事をする人も増えたが、一日中狭い自室にこもり作業するのは気がめいってしまう。しかし同物件の入居者は、いつでも建物内のコワーキングスペースを利用可能。もちろん無料でWi-Fiも利用でき、コンセントも各所に設置されている。

オシャレで明るいコワーキングスペース。副産物として住人同士のコミュニケーションが生まれる可能性もあるが、適度な距離感が利用しやすそうだオシャレで明るいコワーキングスペース。副産物として住人同士のコミュニケーションが生まれる可能性もあるが、適度な距離感が利用しやすそうだ
オシャレで明るいコワーキングスペース。副産物として住人同士のコミュニケーションが生まれる可能性もあるが、適度な距離感が利用しやすそうだ集中できる「半個室ブース」や、WEB会議や電話のできる「防音ブース」も設けられている

以前ランドリールームだったスペースには、1畳サイズのトランクルームを10区画用意。例えばアウトドアが趣味の方など荷物が多い人にとって、18m2の専有部だけでは収納に困ることもあるだろう。別の場所にトランクルームを借りることもできるが、移動や荷物の出し入れを考えると建物内のトランクルームは非常にうれしいスペースだ。

専有部の狭さを共用部で補うことができるのが、この物件の大きな特徴といえる。

18m2の居室スペースを大胆にリノベーション

この物件は専有面積18m2、築22年。リノベ前は3点ユニットバスであった。周辺には同じように20m2以下の3点ユニットバスの築深賃貸物件が多く存在しているが、同物件はリノベーション後、周辺の家賃相場より3割ほど高くなったにもかかわらず即満室に。そこには狭くても選ばれるアイデアがつまっていた。

大きな変化は3点ユニットバスからバス・トイレ別の間取りにしたこと。その分居室の面積は狭くなるものの暮らしやすさが増した大きな変化は3点ユニットバスからバス・トイレ別の間取りにしたこと。その分居室の面積は狭くなるものの暮らしやすさが増した

家賃30%アップ! それでもここに住みたいと思う設備

今回の物件は外観にはほとんど手を加えず、エントランスのオートロック化と宅配ボックスの設置を行った。

小倉さんによると、できるだけコストを抑えながら費用対効果の高い部分をリノベーションしているそうだ。機能的に問題のある部分はもちろん修繕しながら、あくまでもユーザー目線で需要の高い部分をリノベーションする。

スマートロックを採用したのも同物件の特徴だ。「スマホさえ持って出かければ、買い物も開錠もできる時代。入居者さまは20代30代の方が多いので、違和感なく使用してくださっています。今後さまざまなIoTを積極的に取り入れていきたいと思っています」と小倉さん。時代のニーズとコストを考えながら、TOMOSは進化している。

TOMOSではインテリアになじみやすいナチュラルなカラーのアクセントクロスを採用。同物件では4色用意され、部屋によって異なるそう。インテリアを考えるのも、この部屋で暮らす楽しみのひとつとなりそうだTOMOSではインテリアになじみやすいナチュラルなカラーのアクセントクロスを採用。同物件では4色用意され、部屋によって異なるそう。インテリアを考えるのも、この部屋で暮らす楽しみのひとつとなりそうだ
TOMOSではインテリアになじみやすいナチュラルなカラーのアクセントクロスを採用。同物件では4色用意され、部屋によって異なるそう。インテリアを考えるのも、この部屋で暮らす楽しみのひとつとなりそうだ独立洗面台とトイレを新設し、狭小賃貸住宅とは思えないほどオシャレで充実した水回りに
TOMOSではインテリアになじみやすいナチュラルなカラーのアクセントクロスを採用。同物件では4色用意され、部屋によって異なるそう。インテリアを考えるのも、この部屋で暮らす楽しみのひとつとなりそうだTOMOSオリジナルのキッチン。2口コンロが採用されているのも、自炊派にはうれしいポイント
TOMOSではインテリアになじみやすいナチュラルなカラーのアクセントクロスを採用。同物件では4色用意され、部屋によって異なるそう。インテリアを考えるのも、この部屋で暮らす楽しみのひとつとなりそうだロフト付きやデスク付きの部屋も。ユーザー目線で考えられた間取りが好評だ

今後は「お困り事の解消」をしていきたい

コワーキングスペースをシェアすることにより、狭小住宅のデメリットを解消した今回の事例。古い物件を生かすために、入居者トレンドを踏まえ、新築とは違ったアプローチをした。

「賃貸だとなかなかないものも、みんなで共有すれば持つことができます。例えば共用の書斎やサウナなども面白いですよね」と小倉さんは話す。

今後のTOMOSの展開についても話を聞いた。「空き家になってしまった実家など、売却ではなく『残していきたい』という思いを解消できる取り組みをしたいと考えています。大切な資産をどう生かすかを提案していきたいですね」。

新たな付加価値により、新築よりも安く自分らしい暮らしを実現できるリノベーション賃貸。深刻化する空室物件や空き家問題にも有効な取り組みとなりそうだ。


取材協力:>グッドルーム株式会社「TOMOS」

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