「炎の力」をコミュニケーションツールに採り入れたミーティング施設

▲有限会社きたもっく TAKIVIVA事業部部長の玉井宏和さん。「キャンプ場・北軽井沢スウィートグラスでマネージャーを務めた後、この『 TAKIVIVA』の立ち上げを担当しました。新型コロナの影響がどうなるかと思いましたが、想像以上に良い反響をいただいているのでホッとしています」と玉井さん▲有限会社きたもっく TAKIVIVA事業部部長の玉井宏和さん。「キャンプ場・北軽井沢スウィートグラスでマネージャーを務めた後、この『 TAKIVIVA』の立ち上げを担当しました。新型コロナの影響がどうなるかと思いましたが、想像以上に良い反響をいただいているのでホッとしています」と玉井さん

日々の暮らしが便利になるにつれて、人々は“炎”から遠ざかるようになった。電気炊飯器の登場で竈が無くなり、IHコンロや電気給湯器が普及して家庭の中で炎に触れる機会が減ったため、今どきの子どもたちの2人に1人はマッチの点け方を知らないと言われている。

しかし“炎”は、文字が発明される前の太古の昔から人々の生活の中にあったものだ。最近ではソロキャンプがブームとなり、ただ焚火を映すだけの動画が驚異的な再生回数を記録するなど、再び人々は身近な場所に“炎”を求めつつある。

そんな“炎の力”をコミュニケーションツールとして採り入れたユニークな宿泊型ミーティング施設が、2020年9月、群馬県・北軽井沢にオープンしたと聞いて訪れてみた。

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JR軽井沢駅から車で約40分。白糸の滝を通り過ぎ群馬県境を超えると浅間山の麓に「TAKIVIVA」がある。もともとは大手企業の保養所だった場所をリノベーションし、“焚火を囲む研修施設”として開業したという。館内を案内してくれた玉井宏和さんにその経緯を聞いた(以下「」内は玉井さん談)。

キャンプ場運営でヒントを得た、ビジネスシーンで焚火を囲む価値

▲2020年9月にオープンした『TAKIVIVA』。焚火を囲むことで“本音で語り合うコミュニケーション”を育むことができると好評だ▲2020年9月にオープンした『TAKIVIVA』。焚火を囲むことで“本音で語り合うコミュニケーション”を育むことができると好評だ

「きたもっくでは年間10万人が訪れるキャンプ場の運営を行っており、キャンプファイヤーや焚火を囲みながらお客様たちがどんどん打ち解けていく様子を長年見てきました。

それで焚火によるコミュニケーションの良化を実感し、“焚火に集う宿泊型ミーティング施設をつくろう”という計画が立ち上がりました。

よくソロキャンプのブームに乗ったの?と聞かれるんですが(笑)、実はそうではなくて、長年キャンプ場の運営をやっていたからこそ気付くことができた“焚火の価値や効果”をビジネスシーンにも活かしたいという構想が今年ようやく形になったんです」

TAKIVIVAがメインとして狙いを定めているのはMICEマーケットだ。MICEとは、ミーティング(企業の会議)・インセンティブ旅行(研修旅行)・コンベンション(国際会議)、イベント(展示会)等ビジネスイベントの総称で、東京・大阪では都心型MICE施設の開発が活況となっている。しかしTAKIVIVAでは「地域の資源を使ったその場所でしかできない“リアルな場”としてのMICE施設」を提案し、都市型との差別化を図っている。

「日本国内ではまだMICEマーケットは発展途上。“ノウハウは無いけれど、とりあえず場所が空いているからやってみる”とか、逆に“MICEのコンサルはできても提供する場所を持ってない”という状態で参入する企業が多いように感じています。そのため、研修の場に満足感を与え、研修プログラムも用意することで“ここでしかできないMICE”を目指して事業構築を行っています。

北軽井沢で焚火を囲む研修施設を作ったのは、冬場にマイナス15度になるこの地域の暮らしの中でごく当たり前に必要なものが“炎”だから。むやみやたらに“焚火を囲めば良い”というものではなく、地域の自然な風景だからこそ場がリアルになるんです。もしこれが沖縄の施設だったとしたら、きっと囲むべきものは変わってくるでしょうね」

火を熾し、かまどで料理を作る。火を使った協働作業を研修プログラムに

TAKIVIVAには内と外のスペースがある。内にはシェルターと呼ばれる研修棟とReGo(りごう)と名付けられた2階宿泊スペースが。外には大きな焚火を囲む炎舞台(えんぶたい)や、小さな焚火を囲む火野間(ほのま)、竈で食事を作ってみんなで食べる炊火食房(たきびしょくぼう)があり、これらすべてが研修の場となる。

「研修プログラムとしては、13:00にチェックインして翌日の正午にチェックアウトするまでのプランを複数用意しています。例えば、到着してすぐに火熾しをして焚火を囲みながら研修を行い、その後、かまど炊飯で食事の準備をするというのが基本的なメニューですね。他にも、周辺施設の事業見学ツアーに出かけたり、対話のプロによるビジネス合宿のサポートプランなども用意していますから、研修目的に合わせてフリーなアレンジが可能です」

食事は旅館のような上げ膳据え膳ではなく「竈で一緒に食事を作る協働作業」を行うことに研修の意義があると玉井さん。米を炊くのもカレーや豚汁を作るのもすべて竈で行う。

「僕らスタッフは後方支援で使い方や作り方のアドバイスをするぐらいです。本当は朝ごはんも皆さんに作ってもらう予定だったんですが、夜中の2時ぐらいまで話し込んでしまう人が多く“朝は作って欲しい”という声があり、こちらで用意することが多くなりました。メニューは、地の野菜をたっぷり使ったうどんや、炭で炙ったソーセージをはさんだホットドッグなど、地域の素材が感じられて美味しいと好評なんですよ」

▲浅間山の活火山にちなみ、厳しい自然に対峙する場所というイメージで名付けたという『シェルター』。「夏はクーラー要らず、冬はマイナス15度ぐらいになりますから、いくら焚火があるといっても、寒さに不慣れな都会の人たちがずっと外で過ごすのはつらいですよね?そういう人たちが待機できる場所であり、精神的にも落ち着ける場所が『シェルター』です」▲浅間山の活火山にちなみ、厳しい自然に対峙する場所というイメージで名付けたという『シェルター』。「夏はクーラー要らず、冬はマイナス15度ぐらいになりますから、いくら焚火があるといっても、寒さに不慣れな都会の人たちがずっと外で過ごすのはつらいですよね?そういう人たちが待機できる場所であり、精神的にも落ち着ける場所が『シェルター』です」

焚火を中心に一定の距離を保ちながら集う、がコロナの時代にマッチした

オープン当初は新型コロナの影響が懸念されたが、玉井さんたちの心配をよそに多くの予約や問合せが寄せられている。

「コロナの時代だからこそ、毎日テレワークをしていて会社の仲間たちとのリアルなやりとりがない。だから、月1回ぐらい対面で集まりたい。普通の研修施設とは違って、焚火を中心に一定の距離を保ちながら集うことができるから安心……という点がちょうど時代にハマったのかな?と思いますね。

実際にお客様に宿泊していただいて僕たちも驚いたんですが、皆さん時間を忘れて夜中まで語り合っているんです。『シェルター』の中では薪ストーブをつけていますから、焚火タイムが終わった後も、ストーブの炎を眺めながら“ここが良い雰囲気だからもっと中で話したい”と。お互いが不思議と本音で語れるようになる“炎のコミュニケーション効果”を痛感しました」

▲参加人数に合わせて焚火の大きさも大・中・小のサイズが用意されている。見事な竈スペースはスタッフが手づくりで造りあげたもの。「ブロックを重ねてモルタルで固め、8つの竈を作りました。竈にくべる薪は『きたもっく』の別事業で林業と薪製造を行っているため自社から調達しています。自社の事業ネットワークを活かしながら地域資源を活用する場にもなっているんです」▲参加人数に合わせて焚火の大きさも大・中・小のサイズが用意されている。見事な竈スペースはスタッフが手づくりで造りあげたもの。「ブロックを重ねてモルタルで固め、8つの竈を作りました。竈にくべる薪は『きたもっく』の別事業で林業と薪製造を行っているため自社から調達しています。自社の事業ネットワークを活かしながら地域資源を活用する場にもなっているんです」

“地域のリアルな場”を体験できるMICE施設を全国で展開したい

TAKIVIVAの収容人数は最大45人まで。1泊2食付きでおおよそひとり2~3万円の設定だが、初年度は1回の予算が20万円~であれば少人数での利用も可能。今後は結婚式や、隣接するキャンプ場を併用した80人程度の大規模研修など、顧客の要望に合わせて柔軟に対応してく予定だという。

「今はまだ事業がスタートしたばかりですから、皆さんに体験して頂いている状態。利用してくださった人たちを通じて“良かった”というクチコミが広がっていくのが理想ですね。

僕個人的におすすめのシーズンは新緑が美しい5月の中~下旬です。ほとんどの方はマイカーでいらっしゃいますが、雪深い真冬のシーズンは地元バス会社と提携してマイクロバスをチャーターすることも可能です。オープンしたばかりの今を完成形とするのではなく、お客様のニーズに合わせてどんどんアップデートしていきたいと考えています」

今後はこのTAKIVIVAをモデルケースとして「地域のリアルな場を体験できるMICE施設を全国に広げていきたい」と語ってくれた玉井さん。今後の展開を楽しみにしたい。

■取材協力/TAKIVIVA
https://takiviva.net/

▲シャワー・洗面・トイレは共同のスペース。ハンディライトを持って入室する『ReGo』は、相部屋ながら各寝室がしっかりと独立するよう間仕切りされているのでプライバシーを保ちやすい。「宿泊フロアはわざと天井を低くして、灯りもつけず、籠っていく感じを演出しています。ここは内省をするための場所。焚火で盛り上がった後はひとりひとりが自分にかえれる場所を設けています」。相部屋の他にも和室やダブルベッドルームなどの個室が用意されている▲シャワー・洗面・トイレは共同のスペース。ハンディライトを持って入室する『ReGo』は、相部屋ながら各寝室がしっかりと独立するよう間仕切りされているのでプライバシーを保ちやすい。「宿泊フロアはわざと天井を低くして、灯りもつけず、籠っていく感じを演出しています。ここは内省をするための場所。焚火で盛り上がった後はひとりひとりが自分にかえれる場所を設けています」。相部屋の他にも和室やダブルベッドルームなどの個室が用意されている

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