再開発が進む札幌都心の偕楽園跡地を活用
195万人都市の札幌市で、札幌駅を中心にした都心エリアの再開発が活況を呈している。駅の周辺を歩くと、高層マンションやホテル建設の槌音が響く。2003年のJRタワー開業を機に駅周辺の求心力が高まり、北海道新幹線の延伸開業を11年後に控えることもあって注目を集めている。その札幌駅から徒歩8分の木々に囲まれた好立地に2019年2月、高級賃貸マンションが竣工した。持続可能でコンパクトなまちを目指し、進化し続ける札幌のポテンシャルに着目した住友不動産株式会社の「ラ・トゥール札幌伊藤ガーデン」だ。
「ラ・トゥール」シリーズは東京の都心の利便性の高い立地を中心に進出し、平均専有面積が100m2以上、平均賃料は約60万円で、ゆとりある暮らしを提案している。コンシェルジュサービスが人気を呼び、ホテルのようなハイクオリティブランドとして都内で23棟、京都で1棟を展開している。北海道への進出は初となる。
札幌伊藤ガーデンの敷地面積は、約14,000m2。日本で最初の都市公園とされる「偕楽園」の跡地を活用した。明治期に民間に払い下げられた後、100年にわたって個人邸宅の敷地として管理されてきた区域で、原生林が多く残っている。駅近くという都心の利便性と、豊かな緑が残っている環境を兼ね備えていることから選ばれた。
持続可能でコンパクトなまちづくりを目指す札幌市
札幌市は人口の増加とともに市街地を拡大させてきた歴史があるが、人口増の鈍化を受けて、2004年の都市計画マスタープランから方向転換を図った。より上位の総合計画に当たる「まちづくり戦略ビジョン」(2013年)では、少子高齢化を見据えて、公共交通を基軸とした「高い利便性と豊かな自然環境が享受できる札幌らしいライフスタイル」などを可能にする「持続可能な札幌型の集約連携都市への再構築」を基本目標に置いた。コンパクトなまちづくりを行うための「立地適正化計画」(2016年)では、札幌伊藤ガーデンの一帯は「集合型居住誘導区域」になっており、「土地の高度利用を基本とした集合型の居住機能が集中することを目指す」とされている。住友不動産は、今回のプロジェクトが「都心におけるコンパクトシティ化を後押しする」ととらえている。
職住近接、都心回帰に加えて顕在化した、二拠点生活のニーズ
2019年3月4日にあった内覧会で同社賃貸住宅事業部長の堀慎一さんは「当社の新規開業の中でも順調な滑り出しで、関心が極めて高い」と胸を張った。賃貸物件は竣工後に入居が決まることが一般的だが、札幌伊藤ガーデンは既に2,200件の問合せがあり、契約は全330戸の3分の1を超えるという。入居希望者は道内が7割、道外が3割で、ニーズが広域にまたがるのが特徴という。家族構成としては、主に共働きで子どものいない夫婦(DINKS)やシニアの夫婦が5割、単身が4割。全体の半数を会社経営者、4分の1を医師や弁護士、個人事業主が占めている。
堀さんは、これらのデータから入居者のニーズとして3タイプを示した。「大都市札幌の中心部という利便性と豊かな緑があるので、職住近接や都心回帰のニーズがある。札幌市内や近郊の戸建てからの住み替えがあるのが特徴的です。次に道内主要都市・札幌市内・札幌近郊と札幌中心部、または東京と札幌などと、双方にビジネスや生活の拠点を置きたいセカンドハウスニーズがある。3つ目に観光を目的とした別荘としてのニーズもあり、移住を見据えた住み替えを検討している方もいる。幅広い地域からのニーズがあるのは北海道、札幌ならではです」と説明した。堀さんによると、一般的に賃貸マンションは勤務先や生活圏内でのニーズに限られやすい。ただ札幌伊藤ガーデンの場合は「セカンドハウスや別荘という二拠点生活を求めるお客様に興味を持っていただいている。新しい顧客層になると思っている」と分析した。
高い利便性と豊かな自然を生かした高級賃貸というスタイル
内覧会で、札幌伊藤ガーデンを見学させてもらった。ハイクラスホテルをイメージしたという風格ある車寄せを通り、天井面までガラスカーテンウオールがあるエントランスホールに入る。高さ5.3m、広さ400m2という規模で、豊かな木々がそばにそびえる。コンシェルジュが24時間常駐するフロントを右手に進むと、専有部につながるエレベーターホールに出る。各部屋はスタイリッシュな落ち着いたデザインで、間取りや広さ、賃料はさまざまだ。29階以下は2LDKが16~23万円、3LDKが21~46万円、最上階の30階は156m2で85万円(いずれも駐車場代別、管理費込み)。高層階の視界は遮るものがなく、市内の街並みや山並み、遠くは石狩湾まで見渡せる。低層階では木々に囲まれた落ち着いた雰囲気が感じられる。
見学後の報道陣のインタビューで堀さんは「札幌は北海道の中心でもあり、新幹線の延伸予定もあってポテンシャルが高い。ここは、その札幌の中でも極めて希少性が高い土地です。あえて分譲するのではなく、高級賃貸マンションシリーズの一つとして運営していきたいと考えました」と話した。住友不動産北海道支店長の松田昭さんは「札幌では、再開発で新しいまちをつくるケースは分譲が中心になります。ただ、ここは得難い土地。二度とこういう環境は出てこないだろうということで賃貸にしました」と説明した。分譲マンションや別荘を購入するのと比べて初期費用を抑えられる、必要な期間だけ入居できるなど、賃貸の利点を生かすことで二拠点生活を叶えやすいとみている。
道都として強い求心力があり、にぎわいを見せる札幌の中心部だからこその、多様なライフスタイルの可能性を垣間見た。
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