おもてなしの心は大切、その上で必要となる作法とは?

お歳暮のこの時期、訪ねていらっしゃるお客様を迎える家もあるだろうお歳暮のこの時期、訪ねていらっしゃるお客様を迎える家もあるだろう

年末年始になると自宅にお客様を迎える人も多いだろう。
“とても気を遣う”訪問客を迎える機会はそうそうないかもしれないが、気の置けない相手であっても、恥ずかしくない程度の作法は知っておきたいものだ。

五輪招致のためのIOC総会において「おもてなしの心」がアピールされたのは記憶に新しいが、日本には「おもてなし文化」がある。おもてなしとは、心のこもった歓待やサービスのことで、たとえば江戸時代には、伊勢や熊野につながる街道に面した家で、通りがかるお遍路に対してお茶や軽食などを接待する習慣があった。これは、お腹を空かせた旅人に、家を荒らされないための予防の意味もあり、伊勢や熊野に参詣する人に施しをすることで功徳を積む意味もあったそうだが、疲れた旅人を癒そうという日本人古来の助け合い精神が基本だろう。

本来おもてなしにきまった型があるわけではない。それに、たとえば和菓子が苦手な客に和菓子を出しても、おもてなしになるはずがないし、いくら桜の花が好きな人を歓迎したくても、真冬に桜を用意するのは難しい。季節により、ゲストにより、状況により、おもてなしの心遣いは違うのだ。つまり、おもてなしの基本とは、相手を思いやる気持ちなのだ。現代においても、訪問客に気持ちよく過ごしてもらうのが、「おもてなし」といえる。

もちろん、お客様を迎える際に基本となる作法はある。そこで、来客時の基本的なマナーを紹介したい。

訪問客を迎える家での事前準備

玄関に打ち水をすると「歓迎」の意味がある玄関に打ち水をすると「歓迎」の意味がある

大切なお客様を迎える場合、家での事前の準備はどうしたらよいのか?
床の間があるなら、訪問客は家の中でもっとも格式の高い床の間に通す。掛け軸や飾る花は、豪華でなくてもよいが、季節を感じさせるものがあれば、心遣いの細やかさがあらわれる。庭があるなら、庭木を一枝切って活けるなど、おもてなしを感じられるものがよいだろう。
客間はもちろん、玄関やお手洗い、廊下の掃除はいつもより丁寧にしたい。玄関やお手洗いなどにも、床の間と同様、花を飾るとよいだろう。座布団や椅子は人数分用意する。ここで注意したいのは、和室で座布団を使う場合、あらたまった相手に対してはカバーをつけないのが礼儀なこと。カバーは汚れよけの意味があるので、失礼にあたるのだ。また、裏表にも注意しよう。座布団の中央部分に房がついている方が表だ。また、縫い目のない辺を前にする。
お菓子は、和菓子を出す場合、やはり季節を感じさせられるものを出すと風流だ。人数分より少し多めに用意し、到着してすぐに出せるよう、準備をしておくとよいだろう。

また、玄関に打ち水をすると「歓迎」の意味になる。これはまだ道路が舗装されていなかった時代、水を打てば歩いても埃がたたず、訪問客の着物を汚さずにすんだためだ。現代では舗装された道路がほとんどだが、古いしきたりを知っている人なら、打ち水から歓迎の気持ちをくみ取るので、覚えておくとよいだろう。
季節によっては、客間の温度や換気も忘れずにした。雨の日は、お客様に出せるタオルや足を拭くものを用意しておこう。

客間でもてなす際の基本的なマナー

もし、訪問客が持参したお菓子を出す場合は、「おもたせで失礼ですが」と一言そえるとよいもし、訪問客が持参したお菓子を出す場合は、「おもたせで失礼ですが」と一言そえるとよい

訪問客が玄関に到着したら、挨拶の後にコートや傘、手荷物などを預かり、スリッパをすすめる。そして、何か預かりの荷物を必要な場合や、急いで帰ることになった場合にも訪問客が困らないように、預かったものをどこに置いたか説明しておこう。

客間が和室の場合、ふすまはなるべく正座をして開ける。客間では、上座に客を通すが、床の間がある部屋なら床の間の前、床の間のない部屋なら、入り口からもっとも遠い席が上座だ。しかし、たとえば窓から景色を楽しめるなど、上座よりも良い席がある場合は、説明をして薦めてもよいだろう。

和室で客が座布団から下りて挨拶をした場合は、「座布団をおあてください」と薦める。お歳暮など、訪問客が手土産を持参した場合は、お礼を言って両手で受け取り、いったん自分より上座に置き、お茶などを出すために部屋をでるときには、もう一度お礼を言うと丁寧だ。客間にいる間は、なるべく訪問客にお尻を向けないように。そして客を部屋に通した後、玄関に戻って靴を中央にそろえておこう。

その後、なるべく早くお菓子と飲み物を出すが、飲み物の種類や熱さの好みを聞くと親切だ。すでに用意をしてある場合は聞かなくてもよいが、冬の一杯目は温かい飲み物。暖房で体が温まった後の二杯目は冷たいものといったように、状況に合わせて用意しよう。お茶とお菓子を出す際は、まずお菓子からテーブルに置く。相手から見て左側にお菓子、そして茶托に乗せたお茶、おしぼりは一番右に置こう。お盆で運ぶときは、茶碗を茶托に乗せないように。万が一こぼれた場合でも、茶托を濡らさないためだ。テーブルに出す前に、茶托に茶碗を一つずつ乗せ、出すようにしよう。

石田三成は鷹狩途中に立ち寄った秀吉に、まずは咽喉の乾きを癒すようにとぬるめのお茶を大きな茶碗で出し、次に少し熱めのものを、最後にゆっくり味わえるようにと濃く熱いお茶を小さな茶碗出したため、秀吉に気に入られ、重用されたという。現代でも、暑い道を歩いた後の冷たい麦茶はごちそうだし、寒い日に温かいお茶を飲むとホッとするだろう。たかがお茶だが、されどお茶。おもてなしにはとても重要なポイントなのだ。

もし、訪問客が持参したお菓子を出す場合は、「おもたせで失礼ですが」と一言そえるとよいだろう。

お客様のお見送りまで気を抜かない

お客様を見送るときは、預かったコートや荷物を渡すが、訪問客が家の中で上着を着ない場合は、「どうぞこちらでお召しになってください」と薦めるとよいだろう。手に荷物を持ったままコートを着るのはひと手間だし、寒い季節は一歩外にでただけでも寒気が身にしみるものだからだ。

松下幸之助氏は相手が見えなくなるまで見送ったそうだが、いつまでも見られていると気詰まりな場合もある。訪問客が一度振り返ったらお辞儀をして、あるいはある程度家から離れた時点で軽くお辞儀をして家に入るとよいだろう。

おもてなしのマナーは、臨機応変さが求められるが、相手の気持ちを思いやるのが基本。来客が増える年始年末は、訪れる側も迎える側も気持ちよく過ごせるよう、お客様を迎える基本マナーを覚えておこう。

来客が増える年始年末は、訪れる側も迎える側も気持ちよく過ごせるよう、基本マナーを知っておきたい来客が増える年始年末は、訪れる側も迎える側も気持ちよく過ごせるよう、基本マナーを知っておきたい

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