「スピード」「高頻度運送」「ドア・ツー・ドア性」の3つが鍵
経営難にあえぐローカル鉄道は、どうすれば利用者を増やし、収益を向上できるのか。交通関連のコンサルティングを幅広く手がけ、Webマガジン『現代ビジネス』で「住みたい街2015【沿線革命】」を好評連載中の、株式会社ライトレール代表取締役社長・阿部等氏はこう語る。
http://light-rail.blog.jp/archives/1014464871.html
「鉄道会社が実行すべきことは、速達性をよくすること、待たずに乗れる高頻度運行、ドア・ツー・ドア性を高めることの3つだけです。極論すると、これ以外はすべて“余計なこと”です。たとえば、超低床車両にすることや、バッテリー駆動にすること、イベント開催や”乗って残そう運動”などは、すべて鉄道の利便性向上とは関わりがないことです。余計なことをすればするほどゴールが遠のく、といっても過言ではありません」
たとえば、超低床車両にするとコストがかさみ、車両の保守もしにくくなる。それよりも、駅のホームを車両の床と同じ高さにし、道路との間にスロープを設けたほうが、低コストでバリアフリー化を実現できる。また、電車をバッテリー駆動にして架線をなくせば、景観はよくなり、架線の保守も不要となる。だが、電池が高価であることや、急速充電の設備が必要となることを考え合わせると、トータルのコストはかえって増加するという。
運行本数を増やさないかぎり、乗客は永遠に増えない
さらに、”乗って残そう運動”によりローカル線を守ろうという動きもあるが、これも本末転倒のそしりを免れない。”乗って残そう運動”を展開して、できるだけ車を使わず鉄道を利用するよう住民に協力を求めても、わざわざ不便な鉄道を使おうとする人は少ない。このため、あまり成果の上がらないケースが多い。
「人件費の高い公務員を動員し、クルマより移動時間のかかる鉄道に無理やり乗せるより、住民が待たなくても乗れるように運行本数を増やした方が、よほど効果的です」と、阿部氏は語る。
「富山ライトレールが証明したように、沿線人口が相応にあれば、本数さえ増やせば利用者は増えます。にもかかわらず、『ガラガラだから余計な経費をかけられない』と、本数を減らした結果、住民はますます列車を使わなくなり、鉄道会社は『利用者がいないから本数を増やす必要はない』と現状を正当化する、こうした発想がまかり通っているのが地方の鉄道の実態です」
前回の本稿では運転士免許制度の問題について採り上げたが、人件費をはじめとする鉄道経営の高コスト構造にメスを入れないまま、サービスレベルを犠牲にして必要なコストを削減し、鉄道の利便性が一層低下してクルマやバスに客を奪われる――こうした負のサイクルに陥っていることが、ローカル鉄道における最大の課題、と阿部氏は指摘する。
ローカル鉄道の救世主として期待されるDMV
沿線人口の減少と高齢化が進む中、地方の鉄道が住民のニーズに応えるのは容易ではない。そのためには、新しい技術を採り入れたイノベーションが不可欠だ。では、どうすれば、ローカル鉄道は真に住民に役立つ存在として生まれ変わることができるのか。そのための有望な解決策として、阿部氏はDMV(Dual Mode Vehicle デュアル・モード・ビークル)を挙げる。
DMVとは、線路と道路の両方を走ることができる車両のこと。JR北海道の元副社長・柿沼博彦氏が発案し、2005年に第1号試作車が完成した。
「鉄道のメリットは、専用路を持っているので市街地でも渋滞せず、運転士1人で高速・大量輸送ができることです。一方、バスのメリットは、ドア・ツー・ドアに近い状態で、きめ細かく乗客を輸送できることです。DMVを使えば、鉄道とバスとの“いいとこ取り”ができます。このため、地方鉄道はDMVを活用すべきだと、私はずっと言い続けてきました」
ターミナルを出発したDMVは、複数の車両を連結して線路上を走行。各駅で1両ずつ切り離し、道路を走ってそれぞれの目的地に向かう。帰りは1両ずつ駅に戻り、順番に連結して列車となり、線路を走ってターミナルに戻っていく。阿部氏が提案するこの方法であれば、鉄道とバスを乗り継ぐ必要もなくなり、高齢者も気軽に外出できるようになる。
だが、実用化を目指して開発を進めていたJR北海道は、事故が多発した影響で開発を中断。DMV実用化への取り組みは、足踏み状態にある。一方、各地でDMVの導入検討が進められ、今後のローカル鉄道再生の鍵を握る存在として期待がかけられている。
赤字経営は地方の道路や空港、港湾も同様。鉄道だけ黒字にする必要はない
JR九州の『ななつ星』やJR西日本の『トワイライトエクスプレス』など、観光列車による町おこしがマスコミをにぎわせている。だが、観光客頼みだけでは、鉄道に真の再生をもたらすことはできない、と阿部氏は語る。
「鉄道が成長産業となるには、広い視野での時代認識が必要です。自動車交通は限界に来ており、鉄道の利便性を向上させないかぎり、抜本的な問題解決は不可能です。そして、鉄道を成長させるためには、顧客指向とイノベーションに向けた業界の努力が欠かせません」
とはいえ、各地で限界集落化が急速に進み、ローカル鉄道の命運はまさに風前の灯火ともいえる。実際に現場で再生に取り組んでいる方々の中には、「現実離れした提案だ。それだけで黒字経営に転換できるものではない」と感じた人も多いだろう。
阿部氏もまた、地方の鉄道が直面する厳しい現実については、重々承知している。
「鉄道経営の黒字転換が難しいのは当然です。ローカル鉄道と平行している道路や地方の空港、港湾にしても、事業にかかる経費は(売上に相当する)ガソリン税や空港使用料を上回り、赤字となっています。鉄道だけが黒字経営できるわけもないし、する必要もありません。今後もローカル鉄道が存続していくには、国や自治体の施策が不可欠です」
ローカル鉄道が再び輝きを取り戻すために
では、地方の鉄道を維持・再生するために、国や自治体は何をするべきなのか。その解決策として、阿部氏は「交通ユニバーサル税」の創設を提唱し、自治体のなすべきことについて指摘する。
「大都市に古くからある路線は、便利な上に運賃が非常に安いです。一方で、地方では自動車がないと生活が成り立たない。同じ日本で暮らしながら、大都市と地方の格差は不公平といえるほどです。この格差を解消する上で有効なのが、交通ユニバーサル税の創設です。大都市の路線の運賃に交通ユニバーサル税を課し、それを原資として、地方の公共交通を充実させます」
「また、駅の周辺は市街化調整区域から市街化区域へと改め、駅を中心としたまちづくりを進めることも、鉄道の利用者を増やす上で重要です。官は、民が産業としてローカル鉄道の再生に取り組める環境を整え、民は、その中で顧客指向とイノベーションに徹する。これにより、鉄道を成長産業へと変えることは十分に可能です」
観光路線に力を注ぐ前に、やるべきことは山積している。クルマの代わりに便利に使える鉄道を作り、地域の足としての力を磨くことが先決、と阿部氏は力説する。ローカル鉄道が真に住民にとってなくてはならない存在になれば、それは一過性のブームではなく、持続的な地域の活性化につながる。その時、ローカル鉄道が再び輝く日も来るのかもしれない。
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