メゾネットを改装し、ウエディングの撮影スタジオに

撮影スタジオとして改装したメゾネット上階 (撮影/CHiKA)撮影スタジオとして改装したメゾネット上階 (撮影/CHiKA)

都会では地域の人間関係が希薄化し、近所づきあいは、テレビドラマの中にだけ残る”ファンタジー”となった。そんな中、賃貸住宅に、健全な近所づきあいを取り戻そうという動きも出始めている。その一例が、東京・世田谷区の賃貸マンション『キッカ経堂』だ。
ここでは、どのような暮らしが営まれているのか。3人の入居者に話を聞いてみた。

ウエディング・フォトグラファーのCHiKAさんが『キッカ経堂』に入居したのは、2011年2月。インターネットで物件検索中、まだ工事中だった『キッカ経堂』の完成予想イラストを見たのがきっかけだった。
「ヨーロッパ風で、私が将来住みたいとイメージしていた通りのおうちだったんです。洗濯機の目隠しがあったり、玄関から部屋の中が見えないようになっていたり、住む人の立場に立った細い配慮がされていることにも惹かれました」

オープンと同時にワンルームに入居。その後、オーナーと相談して、事務所兼撮影スタジオとして使うためメゾネットタイプの部屋を借りた。「好きなように改装していいですよ」というオーナー・安藤勝信氏の勧めもあって、壁紙を張替え、窓枠をアンティークに交換。壁と天井の境目にモールディング(木製廻り縁)を巡らし、ウエディングの撮影スタジオにふさわしい空間が完成した。

『キッカ経堂』への入居を機に、仕事運が急上昇

ウエディング・フォトグラファーとして活躍するCHiKAさんウエディング・フォトグラファーとして活躍するCHiKAさん

『キッカ経堂』での暮らしは、CHiKAさんの日常をどう変えたのだろうか。
「一言で言うと、運がよくなりましたね。エントランスのビューローに住人の方がお土産を置いてくださったりするので、ここに帰ってくるだけで幸せな気分になれる。地元の商店街の人たちとも親しくなって、人生が楽しくなり、もっと仕事をがんばろうと思えるようになりました。賃貸マンションで、こんなに豊かな暮らしができるとは思わなかった。住む場所って大切なんだな、とあらためて思います」

入居者や地域との交流を通じて、仕事の幅も広がった。
食事会で知り合ったのが縁で、3階に住む柴田夫妻から、ウエディングの写真撮影を依頼されたことも。CHiKAさんは柴田夫妻の結婚式に密着し、伊勢での神前結婚式から都内でのウエディングパーティーに至るまで、すべての写真撮影を担当した。

ちなみに、ウエディング・フォトグラファーのCHiKAさんにとって、『キッカ経堂』に部屋を借りることには、もう1つの大きな”特典”がある。それは、事務所だけでなく、マンションの共用部分も”撮影スタジオ”として利用できるという点だ。南欧のプチホテル風のエントランスやルーフガーデンを撮影用に無料で使えるので、外部スタジオを借りるコストの節約にもつなげることができる。

「どんな環境でスタートを切るかが、ビジネスを立ち上げる上で大きな分岐点になる。住人の方には、このマンションをうまく利用していただきたい。それが仕事の成功につながるのであれば、願ってもないことです」と、安藤氏は語る。

入居者向けパーティーを機に、友人の輪が一気に広がった

3階に住む柴田夫妻。妻の貴代さんは服飾雑貨デザイナー、夫の隆行さんはPR・人材業・コンサルティングなどを幅広く手がける3階に住む柴田夫妻。妻の貴代さんは服飾雑貨デザイナー、夫の隆行さんはPR・人材業・コンサルティングなどを幅広く手がける

『キッカ経堂』での暮らしが気に入り、結婚してもワンルームに住み続けているカップルもいる。CHiKAさんにウエディング写真を依頼した、柴田夫妻だ。
最初に『キッカ』に住み始めたのは、妻の柴田貴代さん。不動産屋の店頭で“女性が元気になるマンション”という広告を見かけ、『キッカ』の工事現場を見学した。
「賃貸マンションでは、室内の暗さや蛍光灯の白さが気になることが多いのですが、ここは南向きで日当たりがよく、インテリアも細部に至るまでこだわりを感じました。『ここなら元気になれる』と感じて、3階のワンルームに入居したのです」

入居早々、安藤氏が主催する『キッカ経堂』のパーティーに参加。ここで、貴代さんは入居者全員と知り合い、一気に人の輪が広がった。
「特に3階の人たちとは、歳が近かったこともあって、すぐに仲よくなりました。今では、お互いの部屋を行き来する間柄。ルーフガーデンから東京湾の花火を見たり、酒や手作りの料理を持ち寄ってパーティーをしたり……。以前住んでいたマンションでは、隣に誰が住んでいるかもわからない状態だったのですが、今は皆が顔見知りなので安心感がありますね。毎日、楽しく暮らしています」

『キッカ』での暮らしは、自分にとっての誇り

ルーフガーデンが3階住人の憩いの場ルーフガーデンが3階住人の憩いの場

貴代さんが、現在のご主人である隆行さんと同棲を始めたのは、2012年11月。ワンルームでは手狭なため、一時は引っ越すことも考えたが、いつしか『キッカ』での暮らしにすっかり「はまって」しまった、と隆行さんは語る。

「安藤さんに家探しの相談に乗ってもらっているうちに、すっかり居心地がよくなっちゃったんです。田舎育ちの僕にとっては、そんな近所づきあいがとても懐かしく感じられました。大家さん夫婦が、ここを住みやすくするために、細かいところまで手を加えてくださっている。今まで、東京で8回も引越ししていながら、近所の人と声を掛け合うようなことはなかったんですが……ご近所との付き合い方も、以前とは全く変わりましたね」

今ではすっかり、『キッカ』での暮らしに魅せられたという隆行さん。後輩や友達を自宅に呼んで、楽しく過ごすことも増えたという。
「僕にとっては、この家に住んでいることが自慢なんです。心豊かに暮らせていることが、証明できる気がして……。ここから仕事に出かけて、帰ってくるだけで心が満たされるし、その積み重ねが自分の芯になっている。いずれライフステージが変われば、ここを出ていくことになるとは思いますが、安藤さんに指南してもらいながら、じっくり調べてみたいと思います。」

都会の賃貸住宅で、新しい地縁をいかに紡ぎなおすか

「大家といえば親も同然」といわれた時代には、大家と店子が親しく行き来し、向こう三軒両隣のつきあいを楽しんでいた。一方、戦後多くの日本人が、地縁のしがらみを捨てることで、個人の自由を手に入れたのも事実である。現代に生きる私たちは、どうすれば新しい地縁を紡ぎ直すことができるのか。『キッカ経堂』における共生の試みは、多くのヒントを与えてくれる。

『キッカ経堂』の入居者とオーナー安藤氏(右端) (撮影/CHiKA)『キッカ経堂』の入居者とオーナー安藤氏(右端) (撮影/CHiKA)

2014年 02月24日 09時46分