世田谷らしい空き家等の活用を模索、モデル事業の公募、採択が行われた
都内でも人気の街、世田谷区。しかし、そんな世田谷区でも約3万5000戸の空き家、空室が存在するという。一方で、区内で活動する市民活動団体やNPO等の団体は活動拠点を欲しがっており、大家さんの中には社会貢献する団体にだったら貸したいという人もいる。そのマッチングも含め、新しい空き家、空室、空き部屋(以下「空き家等」という。)の活用法を世田谷から発信したいと行われたのが「世田谷らしい空き家等の地域貢献活用モデル事業」の公募である。
公募は2013年7月1日から始まり、10月27日の公開審査に提案されたプランは5案。あらかじめ世田谷区が指定した物件を対象にした部門の他に、自分たちで空き家等を探し、その物件で地域貢献活用を行う部門があり、準備などを考えると、参加グループの熱意が読み取れる。
審査のポイントは「アイディアの豊かさ、地域・社会への貢献度、実現性・継続性の3点」(審査委員長小林秀樹千葉大学教授)というもの。保坂展人世田谷区長の挨拶から始まった審査会では各チームのプレゼンに審査員からの質問などが行われ、最終的に3案が採択された。以下、採択された案とその特徴などを見ていこう。
その場所の歴史を生かし、空き家を開くことで地域に貢献 シェア奥沢
世田谷区奥沢にはかつて海軍村と呼ばれた一画があった。大正末期から昭和にかけて海軍の将校宅が数多くあったためで、多い時期には30戸ほどが集まっていた。庭の広い、洋風の住宅が多く、玄関先にはお決まりのようにシュロの木が植えられていたそうで、現在もシュロの古木だけが残された区画も少なくないと聞く。
今回、採択されたのは、その海軍村に現存する当時の住宅3戸のうちの1軒で、所有者が3世代に渡って継承してきた住宅の一部を地域に開放したもの。地域の交流団体が活動する場所探しに毎回奔走していることや、公共施設では利用について厳しいルールがあって使い勝手が悪いなどのことを知った所有者が、長年手付かずだった空き家を活用することを思いつき、2013年7月にプレオープン、試験運用をしてきた。
整備については利用者自身が参加して行われ、その報酬は地域通貨で支払われるなど仕組みもユニーク。複数の登録団体がイベントその他で利用するほか、コワーキングスペースとしても使われており、地域に開かれた空間というにふさわしい利用が行われている。地域の歴史、景観を保全するという点でも意味のある試みで、最初のプレゼンテーションの時点から、これは!という印象が審査員、会場全体にあったように感じる。審査員からはこうした、地域の人たちの集まる場所が区内に飛び火するように複数できてきたら面白いとの声もあった。
個人的に感動したのは、提案説明文の中の、所有者のご高齢で介護度の高いお母さんが我が家に人が集まるようになったことを喜んでいるというくだり。自分が外出できなくても、地域の人が集まってくる家。家を地域に開くことが所有者にとって大きな喜びになる可能性があるという考えは、今後の空き家等の活用のヒントになるのではないかと思う。
駅から離れた物件をデイサービス、認知症カフェにリノベーション ANDITO+大蔵プロジェクト推進チーム
世田谷区内には駅から10分、20分近くかかるような地域がかなり多い。そうした立地の古い建物の場合、リノベーションをしても住宅として入居者を獲得できるかどうかは時として微妙である。であれば、違う用途に転用してしまおうというのが大蔵プロジェクト。「ディサービスと認知症カフェを備えた地域の多世代交流拠点づくり」というのがそのテーマである。これによって取り残された木造賃貸アパートと待ち受ける高齢化社会という2つの課題を解決するという。
このプロジェクトの中心になっているのはシェア奥沢同様、所有者。木造アパートで空室となっている1階3室をどう活用するかをこのプロジェクトを担当している建築家と相談していたところに、もう一人のパートナーとなる介護事業者と会い、一気に話がまとまったのだという。空き家等を住宅以外に転用する場合には、そのジャンルの専門家の知恵が必要になってくるが、このプロジェクトではそれぞれの専門家が参画することで審査員も納得する提案となった。
もうひとつ、大きな決め手と思われたのは所有者が農地を所有しており、それをカフェ利用者その他この施設を利用する人に利用してもらうことが可能だという点。ご存じの通り、世田谷区には農地も多い。また、植物を育てること、収穫することは大人にも子どもにも大きな癒し、喜びになる。この物件周辺には高齢者の多い団地などもあり、そうした人たちやカフェを利用する人達が農作業を通じて交流できれば、個人にも地域にも大きな役割を果たすことになる。農地の多い世田谷らしいプランである。
この提案に関しては所有者が農地の第三者利用を厳しく制限する農地法、生産緑地法に触れた点にもヒントがあるように思う。世田谷区以外でも郊外の空き家周辺には耕作放棄された、あるいは耕作放棄に近い農地があることも多い。空き家、農地を別物として考えるのではなく、一緒に解消する方途が考えられれば面白いのではないだろうか。
高齢者施設と同居する、グリーフサポートセンターを グリーフサポートせたがや
死別や離別、紛争や自然災害による被災、いじめや差別その他に起因する悲しみ、辛さ(グリーフ)を考えること、語り合うこと、学ぶことなどを通じてケアしていこうというのがグリーフサポートせたがやの活動。世田谷区の指定した物件をそのための拠点にしたいというのが提案である。
この提案については内容、物件の利用法などについてではなく、活動の継続性への不安が審査員から何度も提議された。原状回復は改修以上に費用がかかる。助成で改修をしたものの、活動が続かなかった場合には、団体が負債を背負う可能性もあろう。そうしたことを考えると、リノベーション同様、用途の変換には慎重な態度が望まれるというわけである。
空き家等の活用については法が未整備、あるいは運用しづらい状況にあるなどに加え、地域性が高いという問題点がある。同じ都市部の立地でも、木密地域とビル主体の地域では解決策が異なるだろうし、地域の課題、所有者の望むものなども違うはず。そう考えると、国、都道府県で一律の対応をするよりも、地域に密着した自治体である市区町村がイニシアチブをとり、その地域らしい対処を考えていくのが望ましい。世田谷区には次年度もぜひ、この試みを続けていっていただきたいものである。
また、今回の提案に所有者が多く参加していたのも重要だろうと思う。貸す、売るといった従来の不動産会社的ではない道があることを所有者が知り、主体的に取り組むことにつながれば、問題も解決しやすくなるのではないだろうか。
・一般財団法人世田谷トラスト
まちづくり今回のモデル事業だけでなく、空き家等地域貢献活用相談窓口も常設されており、所有者からの相談を受け付けている。
・シェア奥沢
・グリーフサポートせたがや
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