機能性・利便性を高め、市街地の回遊性向上を目指す広島駅南口の再整備・リニューアル工事

広島市の陸の玄関口であるJR広島駅。平和記念公園や宮島などの観光地や、広島の中心市街地である紙屋町・八丁堀エリアへ向かう人など、多くの人々が行き交う。JR在来線4路線に加え山陽新幹線も停車し、路面電車・路線バス・高速バス・タクシーなどの交通機関が乗り入れている一大ターミナルだ。

その広島駅は、2020年より駅ビルと南口広場を中心とした再整備・リニューアル工事に着手した。そして、2025年3月と8月にそれぞれ工事の中核となる部分が順次完成し、供用を開始している。

広島駅南口の再整備・リニューアル(広島駅南口広場の再整備等事業)のおもな内容は、以下のようなもの。

● 駅ビルの建て替えと新商業施設宿泊施設の開業
● JR改札がある駅ビル2階へ路面電車が乗り入れる駅前大橋ルートと停留場の整備
● 上記に伴う、路面電車のルートの変更
南口広場の再整備
ペデストリアンデッキによる駅周辺との連絡

このうち、新しい駅ビルが2025年3月24日に完成し、商業施設「minamoaミナモア)」と宿泊施設「ホテルグランヴィア広島 サウスゲート」が開業した。また、ペデストリアンデッキの一部の通行が可能に。さらに同年8月3日には、路面電車「駅前大橋ルート」、および駅ビル2階の中央アトリウム空間に位置する「広島駅停留場」が完成し、新たなルートでの運行がスタートした。

西側から見た広島駅の新駅ビル西側から見た広島駅の新駅ビル
西側から見た広島駅の新駅ビル新駅ビルの工事中の様子を西側から見たところ(2023年3月撮影)

広島駅南口の再整備・リニューアル計画は、広島市と路面電車を運行する広島電鉄 株式会社、そして西日本旅客鉄道 株式会社JR西日本)の3組織によるもの。おもに南口広場やペデストリアンデッキ等の整備を広島市、駅ビル2階へ路面電車が乗り入れる駅前大橋ルートの整備を広島市・広島電鉄、駅ビルの建て替えをJR西日本が、中心となって進めている。

この計画は、広島市の目指す「コンパクト・シティ」にふさわしい機能性と利便性を備えた施設にするのが目的だ。そして、広島駅周辺の商業地との回遊性を高めるとともに、広島市の中心市街地である紙屋町・八丁堀エリアへのアクセスを向上し、市街地全体での回遊性を高めることによって、さらなるにぎわいを創出していくことが狙いである。

2025年、広島駅南口の再整備・リニューアル工事の中核といえる部分である駅ビルの建て替えと、駅ビル2階へ路面電車が乗り入れる駅前大橋ルート・広島駅停留場が完成した。そこで駅ビルの完成から9ヶ月、路面電車の駅ビル2階への乗り入れ開始から約4ヶ月が経過した同年12月に、JR西日本 大阪工事事務所 広島建築工事所の田原 潤一(たはら じゅんいち)所長に、現状や工事前との変化などの話を聞いた。

※参考記事:
「JR広島駅再開発」JR西日本に聞いたビジョンと全体像 広島・瀬戸内の玄関口が大きく変わる

西側から見た広島駅の新駅ビル広島駅南口 外観完成イメージ(提供:JR西日本)
西側から見た広島駅の新駅ビルJR西日本 大阪工事事務所 広島建築工事所の田原 潤一 所長

路面電車の2階乗り入れで乗換の利便性を向上

広島駅南口の再整備・リニューアル工事で、もっとも注目されたのが、路面電車の駅ビル2階への乗り入れだ。これまで停留場が設置されていたのは、駅1階の南口広場。JRの在来線・新幹線の改札は2階にあるので、階段の乗り降りが必要なのに加え、乗り換えにかかる移動距離もあった。さらに停留場付近は手狭で、不便だという声もあったという。

路面電車の停留場の再整備は、長年にわたり課題になっていた。広島市や広島電鉄・JR西日本などによってさまざまな案の検討がされた結果、駅ビル2階への乗り入れ・新停留場の設置が決まる。また駅ビル「ASSE(アッセ)」は、1965年の開業から50年以上が経過。老朽化により、建て替えの必要が出た。そこで、駅ビルの建て替えのタイミングに合わせて、路面電車停留場や南口の再整備も行う、一大工事に着手することになったのだ。

新しい駅ビルの建設と共に、路面電車の停留場を2階に移転し、路面電車が高架で2階へ乗り入れる。路面電車の高架による駅ビル2階への乗り入れは、全国初となる非常にめずらしい試みだ。

また、これによって広島駅前エリアにおいて、路面電車のルートが大きく変更になった。以前は路面電車は、東方面に迂回するようにして南口に進入していた。それを駅南口に向かって真っ直ぐ進入するよう、新ルートを敷設。さらに2階へ乗り入れるために、路面電車の軌道は4%(水平方向に100m進む間に垂直方向に4m上昇する傾斜)の勾配をつけている。

広島電鉄 路面電車 新ルートと既存ルート図(提供:広島市)広島電鉄 路面電車 新ルートと既存ルート図(提供:広島市)
広島電鉄 路面電車 新ルートと既存ルート図(提供:広島市)2階へ乗り入れる路面電車の新ルート(地上から展望)

田原所長「広島市さん・広電さんが行った工事になりますが、工夫点として、盛り土をする際、中にブロック状の発泡スチロールを詰めている点があります。意外に思われるかもしれませんが、発泡スチロールは強度があるのです。しかも、発泡スチロールなので軽量。盛り土部分の地下には、地下街が広がっています。そのため土やコンクリートをメインとした盛り土だと、重みによって地下街への耐震性の問題が出てくるのです。そこで、発泡スチロールを活用して強度と耐震性を両立させました。営業線の路面電車軌道工事への発泡スチロール活用は、全国初の試みです」

路面電車の新停留場は、今回の再整備・リニューアル工事の象徴的な景観になっている。この部分は南側から軌道が乗り入れ、中央に乗降用ホームが4ヶ所と降車専用ホーム2ヶ所が設置されている。2〜4階が吹抜けになったアトリウム空間になっており、開放的で明るい雰囲気だ。

「白を基調にし、シンプルなデザインで、スッキリとした居心地の良い空間を追求しました。広告や看板、案内版などは必要以上に多くならないように、『サイン部会』を設け、関係機関が話し合いを行い、統一した決まりを設けました。その決まりに沿って広告・案内等を設置し、雰囲気を壊さないようにしています」

なお、路面電車停留場のある中央アトリウム空間は「エキ×デン スクエア」という名称が付けられている。広島駅と駅ビル、そして路面電車が交わる空間という意味だという。

広島電鉄 路面電車 新ルートと既存ルート図(提供:広島市)JR広島駅:2階へ乗り入れる路面電車の新ルート(エキ×デンスクエアから展望)
広島電鉄 路面電車 新ルートと既存ルート図(提供:広島市)北側(JR改札側)から見たエキ×デンスクエアの様子

新駅ビルはデザインに「水面」と「折り鶴」を取り入れて広島らしさを追求

広島駅南口の再整備・リニューアル工事で建て変わった駅ビルには、商業施設と宿泊施設が入る。商業施設は「minamoaミナモア)」と名付けられた。建て変わったのは、かつて商業施設「ASSE」として営業していた駅ビル。広島駅には「ekieエキエ)」という商業施設もあるが、ekieは現在も営業しており、ASSEのみが建て替えられた。なお宿泊施設は、JR西日本グループの「株式会社 ジェイアール西日本ホテル開発」の「ホテルグランヴィア広島 サウスゲート」が入っている。

新しい駅ビルは地下1階から21階まであり、minamoaは地下1階から7階と9階になる。7階には映画館が入居。また7階には、ウッドデッキ広場が設置されている。さらに9階に、屋上広場「ソラモア広場」がある。

「駅ビルのデザインのテーマは、広島らしさ。具体的には、平和を象徴する『折り鶴』と、川の『水面(みなも)』です」

広島市は被爆地であることから、平和記念公園には、平和の祈りを込めた折り鶴が捧げられている。そこで駅ビルの外観には、折り鶴をイメージした「折り」のデザインが取り入れられている。

また、広島市街地では一級河川・太田川が複数の流れに分岐し、瀬戸内海に注いでいる。川も広島を代表する景観であることから、川の水面をイメージしたデザインも取り入れた。

南側から見たエキ×デンスクエアの様子南側から見たエキ×デンスクエアの様子
南側から見たエキ×デンスクエアの様子【左上・右上】水面をイメージしたエキ×デンスクエアの壁【左下】水面をイメージしたエキ×デンスクエアの天井【右下】折り鶴をイメージした駅ビル外壁(写真中央部分)

「注目してほしいポイントは、3階に設置している『雁木(がんぎ)テラス』と7階の『ウッドデッキ広場』です。雁木テラスは、広島を流れる川にある雁木をイメージしています。エキ×デンスクエアを見下ろせる場所で、路面電車が行き交うダイナミックな様子が眺められるのが魅力です」

「ウッドデッキ広場からは、広島市街が一望でき、非常に眺めがいいのが特徴。路面電車が広島駅に乗り入れる様子も見えます。ウッドデッキ広場には『大階段』が設置されているのが大きなポイントです。この大階段も、広島の川の雁木をイメージしたものになります」

雁木テラスは多くの人に利用されており、腰掛けて休憩したり、談笑したりしている。子どもを抱っこして、路面電車の様子を見せている親子連れの光景も見られた。なお、雁木テラスはエキ×デンスクエアの東西2ヶ所に設置されている。

「もうひとつ注目してほしいのが、5階にあるシーティングエリアです。このエリアにあるベンチは、広島駅南口の再整備に伴い伐採された街路樹のクスノキを使用しています。説明板も設置し、街の歴史が後世に継承されるように工夫しました」

雁木テラスや大階段、クスノキを使ったベンチも広島らしさを感じさせるものだろう。

南側から見たエキ×デンスクエアの様子雁木テラスの様子
南側から見たエキ×デンスクエアの様子左右2ヶ所の雁木テラスを結ぶ通路上から見たエキ×デンスクエアの様子

乗換時間や市街地方面の移動時間の短縮が実現し、利用者が増加

2025年3月に駅ビルが完成し、8月から路面電車の2階乗り入れが始まった広島駅。工事前に比べて、どのような変化があったのだろうか。

「一番大きな効果は、JRと路面電車の乗り換えしやすさの向上です。JR改札と路面電車のホームが歩いて78mほどの距離。しかも目の前の分かりやすい場所なので、迷うことがありません。道案内もしやすいです。『分かりやすくなった』『乗り換えにかかる時間が短縮して良い』といった声を聞きます。実際に、JR改札と路面電車ホーム間の移動時間は約70秒短縮しました」

さらに、路面電車に乗車している時間の短縮も大きなメリットだという。駅ビル2階乗り入れのために、新ルートが敷設されたが、旧ルートは東に迂回するルートだったのに対し、新ルートは真っ直ぐ広島駅に向かう。そのため、紙屋町・八丁堀方面〜広島駅間、および比治山下方面〜広島駅間での各所要時間が約4分短縮された。乗り換えにかかる時間が約70秒短縮したことを加えると、合わせて約5分の短縮が実現している。

また、JRと路面電車の乗り換え時、雨天・降雪時に雨・雪に濡れないのも大きなメリットだ。

「広島駅南口の再整備・リニューアル工事は、広島駅周辺エリアと紙屋町・八丁堀エリアの間の回遊性の向上も大きな目的のひとつ。両エリアでの移動時間短縮は、回遊性向上に大きな効果があると期待できます。時間的な短縮だけでなく、心理的にも両エリアが近く感じるようになったという声もあるんです。回遊性向上により、広島市街地全体でのにぎわい創出につながればと思います」

ちなみにバスロータリーやタクシー乗り場は、1階に設置。エキ×デンスクエアのすぐ下に位置しており、エスカレーターや階段、エレベーターで簡単にアクセスできる。

7階ウッドデッキ広場と雁木をイメージした大階段7階ウッドデッキ広場と雁木をイメージした大階段
7階ウッドデッキ広場と雁木をイメージした大階段ウッドデッキ広場の大階段上から見た景色

路面電車の2階乗り入れが始まって1週間の、JR広島駅の利用者数(改札通過人数)は約15万6,000人で、前年の約114%だったという。また、広島電鉄 広報・ブランド戦略室は、8月の乗り入れ開始から1ヶ月間における路面電車利用者数は、前年の同期間に比べ、1日あたり約9,000人増加したと話す。これは、約1割の増加にあたる。

「利用者数の増加は、万博効果などさまざまな要因が考えられますが、再整備・リニューアルも大きな要因だと思われます」と田原所長。

また、再整備・リニューアルの工事中は、さまざまな課題もあったという。

「工事で大変だったのは、臨時通路の案内です。工事の進捗に合わせて通路が変更になったのですが、その都度お客様にご案内する必要があるので大変でしたね。細かい通路切替を含めると、約20回ありました」

苦情への対策として、積極的な情報発信により、工事内容や進捗の周知を試みたという。例えば、工事の囲いに完成イメージ図を掲示した。また、三者でYouTubeの動画を毎月配信。「工事の最前線で活躍する現場の方々に出演を依頼し、密着動画を制作しました」と、田原所長は振り返る。さらに、テレビ等の報道番組へ積極的に出演し、工事の状況を説明するなどもしたそうだ。

これらの対策は、利用者の理解を得るとともに、再整備に期待感を持ってもらえるようにする狙いがあった。「積極的な対策により、次第に苦情は減っていったので、効果はあったと思います」と、田原所長は振り返る。

7階ウッドデッキ広場と雁木をイメージした大階段5階 シーティングエリアのベンチは、広島駅南口の再整備で伐採されたクスノキを使用しており、街の歴史を残している
7階ウッドデッキ広場と雁木をイメージした大階段【左上】1階にあるバスロータリーはエキ×デンスクエアの真下に位置する。今後、南口広場の整備に伴って拡張される予定【右上】タクシー乗り場も1階のエキ×デンスクエアの真下に位置にある【左下】東西のペデストリアンデッキは利用開始されている。写真は東側の「エキシティヒロシマ」へつながるペデストリアンデッキ。なお、西側は「広島JPビルディング」につながる【右下】エキ×デンスクエアと東ペデストリアンデッキを結ぶ通路。ベンチが設置され、くつろげる空間に

地元住民をターゲットにした「minamoa」は約3割が中四国初・広島初のテナント

広島市の玄関口であるJR広島駅の駅ビルに生まれた商業施設・minamoa。minamoaを運営するのは、ASSEと同じくJR西日本グループの中国SC開発 株式会社だ。再整備の前にこの場所にあった商業施設・ASSEとは、どう変わったのだろうか。同社取締役で営業本部長 兼 営業部長を務める、福本 一成(ふくもと かずなり)さんに話を聞いた。

福本取締役の話では、旧駅ビルの解体と新駅ビルの建築は、旧駅ビルの老朽化がおもな要因だったが、新しく駅ビルを建てる以上、中に入る新しい商業施設はASSEの抱えていた課題をクリアしたものにしたいという考えがあったという。

「ASSEは店舗数が約130店、店舗面積は約1万1,000m2で、広島の玄関口である広島駅ビルにある商業施設としては規模が小さかったのです。また駅ビルの形状が東西に長く、南北に短かったため、お客様の回遊性に難があるという構造上の問題もありました。新しく生まれたminamoaは、これらの課題を克服するものになっています」

minamoaは地下1階から9階、店舗数は約220店で、店舗面積は3万2,000m2(うち、映画館が4,500m2)に拡大した。また、同じ広島駅構内にある中国SC開発が運営する商業施設・ekieとの役割やターゲット分けも明確化。ekieが国内外からの観光客・ビジネス客といった「遠方から広島市を訪れた人」をターゲットにするに対し、minamoaは「広島市周辺エリアに住む人」、つまり「地元住民」をターゲットにしている。

「minamoaという施設名は、3つの言葉を掛け合わせて生まれました。新駅ビル2階アトリウム空間のデザインテーマにもなっている、広島を流れる川の"水面"。 「みんなの駅ビル」「私たちの駅ビル」として親しんでほしいという願いから、みんなを意味する"(みな)"。新駅ビルが、"もっと"多くの人が集まる場所になり、"もっと"素敵な場所に進化し、広島を"もっと"好きになれる場所を目指すという意味で、英語の"moa=more(モア)"。これらを合わせたのが、"minamoa"なのです」

ちなみに、minamoreではなく"minamoa"なのは、m・n・aの字面によって水面の揺らぎを表現しているためだ。

東側から見た広島駅の新駅ビル東側から見た広島駅の新駅ビル
東側から見た広島駅の新駅ビル中国SC開発の取締役で営業本部長 兼 営業部長の福本一成さん

minamoaの目的として、広島市中心市街地が抱える課題の克服があったという。その課題が「郊外化・都心部空洞化」「街と駅が離れている」「若年人口の地域外流出」「ネットショッピングの成長とリアル店舗の存在価値」であった。これらの課題をふまえて、以下のようなminamoaのコンセプトが策定された。

● 全館カフェ
● 日常の中の冒険
● 会いに行く
● ギフトの殿堂
● 中四国の玄関口
● 自分使い

「コンセプト策定にあたり、マーケティング調査を徹底しました。ちょうど新型コロナウイルス感染症が流行し、大変だったのを覚えています。マーケティング調査は『エスノグラフィー調査』という手法を採用。マーケティング調査の専門事業者の協力を得ながら、日記調査や密着調査、イノベーターへのインタビュー、グループインタビュー、街歩き調査などをしました。広島の街・人を知り、地元の人が何を求めているかや、どうすれば駅へ足を運んでいただけるかを徹底調査し、コンセプトを導き出したのです」

たとえば「全館カフェ」のコンセプトは、日常の「豊かな時間」の醸成を目指したもの。館内全体がカフェのように一息つけるような心地よさを追求した。

また「日常の中の冒険」は、好奇心の刺激やワクワク感、非日常などを感じられる施設づくりを目指すもの。「会いに行く」というコンセプトは、ネットショッピングが全盛の時代だからこそ、商品だけなく「誰かに会いに行こう」思える施設づくりを目指したという。

コンセプトを体現した代表的なものとして、核テナントとして映画館(シネマコンプレックス)が入居している点や、9階に設けられた屋上広場などが挙げられる。また、中四国初出店や広島市初出店のテナントが3割を占めている

東側から見た広島駅の新駅ビルminamoaの入口。ekieと役割を明確化し、地元住民をターゲットにした
東側から見た広島駅の新駅ビルekieの入口。国内外から広島を訪れた人がekieのターゲット

平日は7〜8万人、土日祝で10万人超がminamoaに来館

minamoaで力を入れた点について、福本取締役は次のように語る。

「お客様・利用者様だけでなく、施設で働く方々に対しても心地良く過ごしていただけるよう力を入れました。館内にテナントスタッフ用の休憩室を、大小合わせて15ヶ所設けています。特に、眺望の良い『スペシャル休憩室』は好評です」

「また、スタッフ専用のコンビニエンスストアも設けました。館内は階数が多いため、買い物の移動だけで貴重な休憩時間を消費する可能性がありましたので、それを解決するために設置しています。スタッフの就労環境が良くなれば、minamoaで働きたいという声も増えるのではないかと考えました」

さらに9階の屋上広場「ソラモア広場」にも、力を入れたという。ソラモア広場はにぎやかな館内とは異なり、静かで開放的な空間で、広島市街が一望できる。広島駅に乗り入れる路面電車の様子も、眺められる。広場の植栽には、サクラやモミジなどのほか、レモン・ライムなどの柑橘類も。「立ち寄るたびに、移りゆく季節を感じていただきたいという思いから植えています。居心地の良さを追求しました」と福本取締役。

ポケットモンスターポケモン)のキャラクター「ギャラドス」をモチーフにした遊具が設置された「ギャラドスひろば by ポケモンセンターヒロシマ」もあり、子供たちに大人気だ。また、ソラモア広場にはイスやテーブルも配置されており、買い物や仕事の合間の休憩に利用する人も多い。

「子育て世帯の来館者の利用しやすさにも、力を入れています。レンタルベビーカーサービスの『ベビカル』と提携。さらに子供を預け、子供だけで楽しめる室内プレイグラウンド『スキッズガーデン』を、テナントとして誘致しました。minamoaを訪れたときは、保護者の方が一時的に育児から離れ、買い物や娯楽に集中して楽しんでいただければと思います」

ほかにも広島市は自動車社会であることから、駅隣接の商業施設であるが、多数の車場を備えている点も特徴だ。ミナモア併設駐車場と提携駐車場を合わせ、広島駅周辺で合計約1,500台分におよぶ。

minamoa フロアマップminamoa フロアマップ
minamoa フロアマップ9階のソラモア広場からの景色。市街地や路面電車の新ルートが一望できる

2025年3月24日にオープンしたminamoa。12月の取材時点で、約8ヶ月が経過している。オープンから現在までの運営状況はどうなっているのだろうか。

「2025年12月時点で、1日あたりの平均で平日は7〜8万人、土・日曜日や祝日で10万人超のお客様にお越しいただいています。特に、8月3日の路面電車の2階乗り入れ開始以降、2階部分を中心に大幅に入館者数が増加しました。想定を上回る数で推移しており、非常に手応えを感じています」

特に、約3割を占める中四国初、広島初出店のテナントが人気を集めているという。例えば、6階のレストランフロアでは、広島初出店になるもんじゃ焼店は12月時点でも連日大盛況。「もんじゃ焼がここまで人気になるとは、想定外で驚きました」と福本取締役。ほかにも話題になった初出店店舗として、北海道発祥の化粧品店や東京に拠点を置くスーパーマーケット、著名な飲食店などがある。

「お客様からは『広島じゃないみたい』という声を聞きました。広島になかったものを提供するのはminamoaの役割の一つなので、とても光栄ですね。テナントオーナー様からは、2階のアトリウム空間に路面電車が乗り入れるという象徴的な空間が生まれ、そこを中心にしたにぎわいが生まれている点に評価をいただいています。また、スタッフ休憩室などの就労環境を向上できる取組に対し、『働きやすい』という声もいただいており、この点もうれしいですね」

minamoa フロアマップ9階にある屋上広場「ソラモア広場」の様子
minamoa フロアマップ【左上】ポケモンのギャラドスをモチーフにした「ギャラドスひろば by ポケモンセンターヒロシマ」【右上】テーブルやイスを設置している【左下】植栽の様子【右下】7階の大階段があるウッドデッキ広場につながる階段が設置されており、中に入らずストレートに7階と9階の広場を行き来できる

広島駅の再整備・リニューアル工事はいよいよ最終局面に

JR西日本の田原所長は、今後の展望や課題について、次のように述べる。

「エキ×デンスクエアが生まれたのに合わせ、駅北側にある『エキキタ広場』とともに、ロゴマークを制作しました。このロゴマークをもっと周知させていきたいですね。二つをドッキングさせた統合ロゴマークも制作しています。広島駅周辺エリアのまちづくり団体『TOUCH MATCH HIROSHIMA(たちまち広島)実行委員会』などと協力し、駅の南北が連携したイベントなども考えたいですね」

また、路面電車の駅ビル2階への乗り入れ開始が大きく報道されたが、広島駅南口の再整備・リニューアルは、それで終了ではない。今後は、1階南口広場に乗り入れていた路面電車の軌道やホームを撤去し、南口広場の再整備が行われる。さらに、路面電車の新ルートに並行する形で、広島駅から南側の施設へ連絡するペデストリアンデッキを設置する。そして、駅の外観面の象徴の一つでもある、「折り」や「反り」をイメージした大屋根の設置が行われる予定だ。まさに、これから再整備・リニューアル工事の大詰め段階を迎える。

「残る工事が完了すれば、広島駅と駅周辺の回遊性、そして広島市街地全体の回遊性がさらに高まると思います。完成して終わりではなく、これからもっと広島の街を盛り上げていかなければいけません。真価を問われるのはこれからだと感じています」と田原所長は意気込む。

エキ×デンスクエアのロゴマーク(左)とエキキタ広場のロゴマーク(右)。このほか、双方を統合したロゴマークもある(提供:JR西日本)エキ×デンスクエアのロゴマーク(左)とエキキタ広場のロゴマーク(右)。このほか、双方を統合したロゴマークもある(提供:JR西日本)
エキ×デンスクエアのロゴマーク(左)とエキキタ広場のロゴマーク(右)。このほか、双方を統合したロゴマークもある(提供:JR西日本)南口広場の工事の様子。広島駅南口の再整備・リニューアルは大詰めに【左上】南口東側の工事の様子【右上】南口西側の工事の様子【左下】路面電車の新ルートに沿うように建設されている南方面へのペデストリアンデッキ【右下】撤去される予定の路面電車旧ルートの軌道

minamoaの今後の展望として、福本取締役は次のように話す。

「紙屋町・八丁堀方面からは、minamoa開業時は一時的にお客様が減少したが、現在は平年並みに戻りつつあると聞いています。紙屋町・八丁堀エリアとminamoaのある広島駅周辺エリアでの、相乗効果が生まれているのではないでしょうか。広島駅の再整備・リニューアル計画の大きな目的の一つである、街の回遊性の向上に一役買えているのではないかと思います」

「クリスマスには、駅周辺施設と連携して装飾を実施しました。minamoaという『点』ではなく、エリアという『面』で盛り上げる取組みができたと思います。駅南側の施設とつながるペデストリアンデッキが完成すると、さらに駅周辺エリアでの回遊性が高まるものと期待しています。その上で、紙屋町・八丁堀エリアとも連携し、地域の魅力や価値を高める取組みによって、広島の街の活性化と『楕円形の都心づくり』の実現を目指したいですね」

広島市役所は「楕円形の都心づくり」を目指し、広島駅周辺エリアと紙屋町・八丁堀エリアの回遊性を高めることで、さらなるにぎわいを創出しようとしている。紙屋町・八丁堀エリアには、まちづくり団体「カミハチキテル」なども活動しており、広島駅周辺エリアと紙屋町・八丁堀エリアが連携した取組みを行うことにより、広島市街地全体の盛り上げにつなげたいと、福本取締役は言う。

広島駅南口の再整備・リニューアル工事の完成によって変わっていく広島の街の姿に注目したい。


※取材協力:
西日本旅客鉄道 株式会社
https://www.westjr.co.jp/
広島電鉄 株式会社
https://www.hiroden.co.jp/
中国SC開発 株式会社
https://www.minamoa-ekie.jp/

エキ×デンスクエアのロゴマーク(左)とエキキタ広場のロゴマーク(右)。このほか、双方を統合したロゴマークもある(提供:JR西日本)エキ×デンスクエアから見た路面電車の新軌道の様子
エキ×デンスクエアのロゴマーク(左)とエキキタ広場のロゴマーク(右)。このほか、双方を統合したロゴマークもある(提供:JR西日本)夜間の広島駅南口 完成イメージ図。夜は中央の屋根を赤くライトアップするなど、照明計画を検討中だ。これは宮島の嚴島神社の大鳥居をモチーフにしたもの(提供:JR西日本)