施設ではなく「まち」を舞台に。コミュニティナースは住民の強みを引き出す新しい共助の仕組み
地域の人々の強みを引き出す新しいアプローチとして注目されている「コミュニティナース」。施設や組織ではなく「まち」を舞台に、コミュニティナースたちは住民と関係を築きながら暮らしを支えている。暮らしのすぐそばで小さな変化や願いに気づき、その人の役割や持ち味を引き出すことで、地域全体の健康と活力を高める新しい共助のアプローチを、北九州市門司区での実践例を通じて紹介したい。
ウェルビーイングを作っていく「コミュニティナース」とは
コミュニティナースとは、「コミュニティナーシング」という看護の実践からヒントを得て、株式会社CNCが独自に提唱・普及してきたコンセプトだ。ナースという名称が含まれているが、「コミュニティナース」は医療に特化した存在ではない。
「地域で暮らす人々の得意なことや、幸せにつながることを引き出し、地域社会や個人の日々のウェルビーイングを育んでいく存在、それが『コミュニティナース』だと考えています」と説明するのは、株式会社CNCの竹内祐稀さん。
コミュニティナースは、スーパーマーケットやカフェなど、住民が日常的に立ち寄る場所で住民と会話を重ねている。「普段の生活の場で住民の願いを聞き、ともに考えていくことを大切にしているためです」とのことだ。
課題ではなく「強み」に注目するコミュニケーションのプロフェッショナル
課題に目を向けることよりも、可能性に注目するのがコミュニティナースの活動の特徴だ。例えば、足が不自由で外出が難しい方であっても、「実はこの方は絵を描くのがとても好きで上手」といった強みや可能性を見いだし、それを発揮できるようなコミュニケーションやサポートを行う。
「私たちCNCが最終的に目指すのは、コミュニティナースがいなくても地域の方々が自然に支え合える社会です」と同社は説明する。
地域ごとに異なる課題や資源、文化に合わせて、企業との協業や自治体との連携など、その地域に最適な実施体制を模索しつつ、同社の全国のパートナーと連携した実装拠点で、CNCのコミュニティナース約30人が活動している。
現在、コミュニティナースとして活動している人々には、大きく2つの形があるという。ひとつは、CNCが企業や自治体と協働するプロジェクトの中で活動するコミュニティナースで、もうひとつは、このコンセプトに賛同し、講座の受講などを経て、それぞれの地域で事業に連動させたり、ボランティアとして実践したりしているコミュニティナースだ。 活動のあり方はまさに百人百様。現在、全国で約1,500人が、それぞれの地域で関わりを紡ぎながら、「まちを元気にする」共助の仕組みを広げているという。
北九州市門司区でのコミュニティナースの実践事例
株式会社CNCによる北九州市門司区でのコミュニティナース活動は、2024年8月、門司区で約100年にわたり事業を続けてきた老舗企業「岡野バルブ製造株式会社」が協働パートナーとなり、スタートした。
門司区は市内で最も高齢化率が高い地域。ただ、岡野バルブ製造はそうした地域性を意識してCNCの活動を後押ししているわけではない。あくまで、CNCと法人とのタッグによる「株式会社モデル」の先例を作り、同様の形で後押しする企業が全国に広がることを意識している。
3人のコミュニティナースが描く地域の未来
活動拠点の一つとなっているのが、2024年7月にスーパーマーケット・ゆめマート門司店2階に設置された「こどもまちなかスペース」という世代交流拠点だ。1歳未満の乳児を連れた親から80代まで、さまざまな世代が集まる場所で、CNC所属のコミュニティナース3名が活動している。
3名のコミュニティナースは、それぞれ異なる背景を持ち、地域への関わり方も多様だ。
森澤海渡さんは「門司を、自分の子どもたちが『住んで良かった』と思える場所にするために、子どもたちが身近な大人と出会い、創造性を伸ばせる環境を作りたいですね」と話す。
大庭栄子さんは「子育て世代を応援したいという思いからコミュニティナース活動を始めました。今後は、参加者同士が互いに教え合い、学び合える場を目指したいと思います」と語る。
東真里子さんは「多世代が同じ場所に集まり、互いを見守りながら、好きなことに取り組める空間を作ることが目標です。子どもを見守りながら、ビジネスパーソンが仕事をしたり、おばあちゃんがお茶を飲んだりするような場所をイメージしています」と力を込める。
お茶会から生まれる多世代交流。「家族のような関係」が地域を変える
約1年間のコミュニティナース活動を通じて、住民同士が助け合う関係が新しく作られている。定期的に開催されているお茶会では、参加者が雑談を楽しんでいる。1歳未満の乳児を連れた親から80代まで、ときには10〜20人が参加し、多世代交流が生まれているという。
コミュニティナースは、相談や見守り、交流の場づくりなど、多岐にわたる活動を行っているが、注目したいのは、これらが「サービス」として一方的に提供されるのではなく、住民との関係性の中で自然に生まれている点だ。地域に住むすべての人と、年齢や状況に関かかわらずつながることで、地域全体が元気で豊かなコミュニティになることを目指している。
目指すのは「地域が自立して暮らしを“創造”する仕組みづくり」
株式会社CNCは門司区での取り組みを通し、地域が自立して暮らしを“創造”する仕組みづくりを目指している。竹内さんは「門司という地域で、住民の皆さんが自然とおせっかいをし合える関係性になり、私たちがいなくても同じことができる状態を作ることが目標です」と話す。
今後は、25歳以下をメインターゲットとした新たな拠点の開設も、岡野バルブ製造と協働で計画している。住民同士で教え合い、学び合える仕組みが特徴になる予定だ。「自分が生まれ育った門司のことを、良い地域だと思ってもらえるような原体験を作ることが目的です」と竹内さんは意気込む。
地元で100年続く企業が先陣を切ることで、他の企業による地域貢献モデルの広がりも期待されている。
■株式会社CNC:https://cncinc.jp/
■岡野バルブ製造:https://okano-valve.co.jp/
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