2014年時点のリノベーションは「中古の注文住宅」的な存在だった
LIFULL HOME'S総研 『STOCK&RENOVATION 2024』の発表会は2014年のレポートを振り返るところから始まった。LIFULL HOME'S総研所長の島原万丈氏によると10年前は戸建て・マンションともに「取得後のリノベーション」が市場を牽引する状況だったという。
「持ち家購入市場の22.1%、中古流通の80%にリノベーションが関与していました。リノベーションユーザーは個性や時間の経過とともに進化する住まいを志向する傾向があり、手軽さ、こだわりを縦軸に、経年嗜好、完成品志向を横軸に住まい選びの考え方を分析すると注文住宅に近い人達であることも分かりました。中古の注文住宅というような位置づけです。また、今後3年以内に住宅を購入する意向のある人達のリノベーションの認知状況は全国的に9割。ただし、内容まで知っている人は全体の55%。言葉だけ知っている人が33%でした。
その購入意向者のうちの戸建て、マンションを合わせた全体では30%がリノベーションを検討、リノベ済を購入するのではなく、購入してリノベーションを支持していました。23区で見ると中古マンションを買ってリノベーションが21%、中古戸建を買ってリノベーションが18%という状況でした」
つまり、リノベーションの内容までは知らない人がいたものの、中古を購入しようとする人のうちの3割ほどがリノベーションを意識、買ったらリノベーションをしようと考えていたということになる。
その状況が10年後の2024年にどう変わったかが、新しい調査研究の中心になっている。
住宅購入者は高所得化、高年齢化、非ファミリー化
2024年の調査は2014年同様に47都道府県の県庁所在地(東京は23区)、政令指定都市に居住する学生を除いた20歳以上の男女で、5年以内の住宅取得者、3年以内に住宅取得を検討している人を対象とした。実際の市場では新築物件取得者が中古物件取得者よりも多いため、自然回収に任せるとターゲットとなるリノベーション実施者のサンプル数が少なくなってしまうため、それを是正するために回収数を多くする他の調整を行っている。
調査ではこの10年間でさまざまな変化が起きていたことが判明した。ひとつめは住宅購入者のプロフィールの変化。ご存じのようにこの10年間で住宅価格は急上昇、現在も高値が続いている。こうした市場環境の変化に加え、この10年間で生活環境も変化した。
「不動産価格は上がっているのに、国民の実質賃金は上がらず、住宅購入は年々難しくなってきています。また、2014年に40%ほどだったスマホの普及率はほぼ100%になり、それに伴ってSNSが普及、コロナ禍に伴ってテレワーク、リモートワークが身近になってきました。一方でコロナ禍、激甚災害の増加もあり、社会の在り方、働き方などには大きな変化があった10年でした」
そうした環境の変化を反映して、住宅購入費用は大きく上昇した。平均で530万円上昇、全体の平均価格はおよそ4000万円に。なかでも東京23区では1400万円以上、それ以外の100万人都市では455万円以上の価格高騰が見られている。
当然、住宅購入世帯の年収、年齢構成も大きく上がっている。年収でみると700万円未満の割合が減少、1000万円以上の世帯が10年前に比べて10ポイント増えて24%に。全体の4分の1は1000万円以上世帯というわけだ。年代では50代以上世帯の購入が増えている。
もうひとつ、注目すべきは夫婦+子どもという、かつて標準世帯と呼ばれた世帯が51.3%から35.3%と大幅に減っていること。一方で単身世帯は9.5%から14.0%、夫婦のみ世帯は22.1%から30.1%、その他世帯は15.5%から19.3%といずれも増えている。ちなみにその他世帯は親と子の世帯が中心になっているとのこと。
住宅へのこだわりは希薄化、コスパ、タイパよく無難な正解を求めたい
続いては住宅購入者の価値観の変化について。ここでも大きな変化が見られた。非常にざっくり言うと住宅、衣食住、住まい方に関しての興味関心が薄れており、その一方で住宅にさまざまなものを求める人が増えているのである。
たとえばどのような分野に興味、関心があるかという問いに対しては食、住、健康・美容、育児・教育といった部分での関心が薄くなっており、高くなっているのは投資・貯蓄を筆頭に政治・経済、医療・介護、環境問題、芸術・エンターテイメント、芸術・アート、地域コミュニティなど。
「そのうちでも伸びたのが投資・貯蓄で5.3%の増。衣食住では衣への関心がマイナス8.8%になっています。自分にとって住宅とはどのようなものかという問いに対しても「家は仕事の疲れをいやす休息場所である」(マイナス10.2%)、「家は仕事や遊びのための活動拠点である」(マイナス10.0%)などとほとんどの項目で回答が減少。増えたのは「家は災害や犯罪から身を守る避難場所である」(プラス3.9%)、「家は投資の対象となる資産である」(1.6%)だけ。住宅に対する信念が希薄化し、激甚災害などを受けてか、命と金を守るものとしてリスク回避意識が強くなっていると思われます」
同様に希望する住まい方に関しても理想像が希薄化。増えたのは「みんなが買っているような普通の家が一番住みやすい」「家を買う費用は節約して家具や雑貨にお金を使って住まいを楽しみたい」「大きなメーカーや業者が作った家なら間違いがない」など。
島原さんは「コスパ、タイパよく無難な正解を求める意識が強まっているといえるのではないか」と分析する。
進む住まいのファスト化、”みんな”のブランド化
ある意味、住まいにこだわりがなくなっているともいえるわけだが、その一方で条件は厳しい。「通勤・通学の利便性」を重視する人が減った以外はほとんどの条件で重視する人の割合が増えた。
「リスク回避という意味で災害に強い地域、資産価値の高い地域を求め、ブランドという観点では地域のブランドイメージ、分譲会社や施工会社の信頼度が気になり、品質では耐震・省エネ性能、内外装のデザインや外観、間取り、設備仕様にもこだわりたいというわけで、あれもこれも気になっていることが分かります」
こうした項目を概観して島原さんは「住まいのファスト化が進んでいる」という。この言葉は消費者の変化を非常にコンパクト、端的に捉えているものと思われる。
個人的には「SNS時代に登場した”みんな”という新しい正解」という言葉に既視感を覚えた。子ども達は自分の要求を通すために「みんなが持っている、だから自分も欲しい」という言い方をしがちだが、今は大人も含めた誰もみんながみんなを意識する時代なのだということだろう。
では、リノベーションはどう変わったか。まずはリノベーション住宅の浸透度について。全体としては新築(72.5%から69.0%)から中古(27.5%から31.0%)への流れがあり、持家購入市場におけるリノベーションは22.2%から25.0%へと増加している。そのうち、伸びているのはリノベ済物件で29.1%から34.8%に増加、逆に取得後のリノベーションは51.6%から46.1%に減少している。
市場も変化している。住宅購入者全般の傾向と同様、住宅購入費用はリノベ済マンションの購入金額で900万円以上のアップなどマンション価格高騰の影響を強く受けており、ユーザーのシニア化も同様。50代以上の中高年が増加している。世帯構成では全体と同様に非標準世帯が増え、世帯年収もアップ。特に都市部の物件が多く、その分値上がりが顕著だったリノベ済マンションでは1000万円以上層が目立つようになっている。エリアでは価格高騰の影響が大きい東京23区の割合が低下、郊外に広がった。
幸福度が高いのは注文住宅、取得後リノベーション
住宅購入者全体で住宅に対する関心、意識が薄れていることは前述の通りだが、その変化はリノベーションユーザーにも見られる。10年前のリノベーションユーザーは自分らしい住まいや経年で魅力を増す住まいに反応したが、今回の調査では住まい方への理想像が希薄化。悩みたくないし、完璧を求めたい、みんなが買っている普通の家が一番と考えるようになっているのである。特に伸びが大きかったのは中古マンションの取得後リノベ層の「大きなメーカーや事業者が作った家なら間違いない」という項目で5.3%増となっている。
その結果、住まいに対する価値観マップにも変化が起きている。どのような住宅を買ったか、買おうとしているかに関わらず、全体が「完璧を求める完成品志向」「タイパよく無難に」を志向するようになっているのである。10年前の建売住宅を求める人の志向に近づいているわけで、建売化が進行しているという言い方ができるかもしれない。
「すべての住宅タイプ購入者の考え方がかつての建売戸建て購入者に近くなっており、価値観と住宅タイプの相関が不明瞭になっています。唯一、あまり変化しなかったのは高額をかけてリノベーションする層で、この層だけがかつて注文住宅を選ぶ層に見られた個性志向、経年を楽しむという考え方をしています」
では、そうした考えで住まいを買った人達は住まいを得て幸福になったか。LIFULL HOME'S総研の調査報告では常に幸福度がテーマになっているが、ここでも同様である。
住宅を買った人全体の満足度は、マンション、戸建てそれぞれのリノベ済みを買った人、買ってからリノベーションした人を比べてみると明らかに違いが出ている。どの項目においてももっとも幸福度が高いのはマンションを買ってリノベした人で、それ以外は全体よりも低い項目があることも。特に幸福度が低いのはリノベ済マンションを購入した人となっている。
続く住宅タイプが家の幸福度に与える影響についての分析では注文住宅がどの項目においても幸福度が高くなっており、自分の好きなように家を建てられることの幸せが伺える。次いで幸福を感じているのは取得後にリノベーションをした人達。特に自己実現という点では非常に高い幸福度を感じていることが分かる。
リノベ済マンション躍進、オーダーメイドリノベ停滞の背景
この10年の変化ではリノベ済マンションの増加、購入後のオーダーメイドリノベーションの停滞も大きなポイント。調査報告では変化の背景、要因などについても分析している。
まず、リノベ済物件の購入理由として購入者全体の57.5%が挙げているのが「価格が手頃だったから」。以下、「希望する地域で買えた」「すぐに入居できた」などが続き、戸建てでは「新築で買うより広い家が買えた」という理由も23.3%の人が挙げている。全体としてコスパ、タイパよく、自分の目で完成品を見て間違いないものが選べる点が支持されている。
評価の高いリノベ済物件だがネガティブ評価もある。大きな項目は価格の妥当性。リノベーション物件検討者、購入者ともに4割以上が妥当かどうか悩ましいとしており、島原さんはその背景には「何をどこまで交換、改修したかが曖昧」という点があるとみている。不透明さが課題ということだろう。
一方、中古を買ってリノベーションという選択をした人の変化では依頼先選定条件が挙げられる。2014年と比較して大手や有名な会社を選ぼうという意識が強まったのである。
では、中古を買ってリノベーションをするつもりだったものの、検討を中止した人は何が問題だったのか。もっとも大きな検討中止の理由は「資金に余裕がない」。戸建て、マンション購入者ともに増えており、戸建てで35.5%、マンションで31.3%。昨今の不動産価格高騰を考えると、購入までで予算の多くが必要になり、リノベーションまで予算が回らなかったという状況が容易に推察できる。
それ以外の中止理由では「どのくらい費用がかかるか分からなかった」「検討・判断することが多くて面倒に思えた」「中古物件の価格が妥当なのか分からなかった」などが多く挙げられている。
では、それでもリノベーションをした人はどのようなイメージで見られているか。調査結果からはリノベーションをする人は「モノ作りが好き」「センスに自信がある」人でかつ「住まいづくりにお金をかけられる」「住まい選びに時間をかけられる」人と見られているという結果だった。
ファスト化と多様性、これからのリノベーション
こうした調査結果をまとめ、島原さんはリノベ済マンションの躍進、リノベ済マンションの課題、オーダーメイドリノベの停滞と価値という3つの考察を掲げた。これについては同レポートの終章「2024年、リノベーション住宅の現在地と今後に向けて」(232ページ~)に詳しいので、ぜひ、参考にしていただきたい。PDFとしてWeb上で読めるほか、申し込めば送付してももらえる(送料のみ負担)。
最後に今後のリノベーション市場について。10年前に比べて明らかに広く、深く認知されるようになっており、一般化したのは確か。加えて希望の住宅タイプでは新築の減少を受けて中古を選択する人が増えており、特に中古住戸建てのリノベーションへのニーズは大きい。これについては会場からの質問に答える形で島原さんが現状を解説している。
「首都圏にいるとマンションが多いように思えるものの、全国マーケットで見ると住まいの中心は戸建て。しかしながら、その戸建てではリノベにニーズはあるものの供給は現状、ほとんどない状態。今後の市場としては意識すべき分野ではないかと考えています」
発表後の会場からの質問で印象的だったものをひとつご紹介しよう。質問はファスト化という言葉にはネガティブな印象があるが、中古住宅の流通を妨げる要因のひとつに住宅の個別性の高さがあるとすると、リノベ済物件の増加は機能の収斂、パターン化とも考えられる。個別性が薄れ、平準化されるわけで、それによって中古不動産が流通しやすくなるとしたら、それはポジティブに考えるべきではないか。要旨はそんなところである。
これについて島原さんの見解は現在行われているリノベ済物件による平準化が住む人の多様化に対しての共通解になるとは考えにくいというもの。市場に出回るマンションは新築、リノベ済に関わらず、標準世帯を意識しているものが少なくないことを考えると、今後のリノベ済物件の進化に期待というところだろう。再流通のしやすさについては今後、さらに検討がされても良いのかもしれない。
以上、発表会の様子をご紹介した。調査報告書では今回ご紹介したアンケート調査以外にリノベーション専門誌、事業者、インスペクター、業界のパイオニアとさまざまな人達が異なる立場からリノベーションの10年とこれからについて語っている。調査と合わせてお読みいただければ幸いである。
■参考資料
LIFULL HOME'S総研
『STOCK&RENOVATION 2024 それでも、もっと住むことの自由』
https://www.homes.co.jp/souken/report/202409/
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