「冬は暖かく、夏は涼しく」今や断熱は住まいのスタンダードに
春夏秋冬、気分良く過ごしたいもの。しかし、私たちが暮らす日本の住宅の3分の2は、きちんと断熱ができてないといわれている。もちろん先進国の中では最低レベルだ。そんななか、断熱等級の見直しと建築物省エネ法の改正が行われ、2025年度以降に新築するすべての建築物では「次世代省エネ基準(等級4)」への適合が、さらに2030年には「ZEH(ゼッチ)基準(等級5)」が義務化される予定だ。やっと世界のスタンダードに並んだといえるかもしれない。
しかしこれは新築住宅に限った話。住宅ストックの大半を占める既存住宅の多くで、断熱性能は低いままだ。
2025年4月以降は、木造二階建てや200m2以上の平屋をリフォームする際に、これまで不要だった建築確認申請が必須になる。この改正は、国が目指す2050年カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロとする)の達成に向けて、省エネ基準の住宅を増やしていくことを目的としており、大きな意味のある改正だが、リフォーム・リノベーションでは10m2以上の増改築を実施する場合を除き、省エネ基準への適合義務はない。しかし、新築住宅の省エネ基準適合義務化を機に、住まいに求められる省エネ性能は今後ますます上がるだろう。既存住宅においても断熱リノベーションの需要が高まることが予想される。
今回は、「断熱」という考え方がまだなかった90年以上前に建てられた、福井県今庄宿の古民家における断熱リノベーションの事例を紹介したい。
重要伝統的建造物群保存地区の古民家を守りたい
越前屈指の宿場町として栄えた福井県南越前町の今庄宿。幾重にも山が連なる今庄は、北陸随一の難所を背に、江戸時代には多くの旅人が疲れを癒した場所だ。2021年に文化庁により「重要伝統的建造物群保存地区(伝建地区)」に指定されたが、地域には空き家が増え続けている。
往時の面影が残る静かな町を拠点に活動する、株式会社みつぐはうす工房は、地元に根ざした家づくりを続ける会社である。維持管理が難しくなっていた昭和初期の2軒の空き家を預かったことがきっかけで、今庄宿での古民家再生プロジェクトが立ち上がった。
「物件所有者は、建物を残したいという想いがあり、さまざまな活用方法が挙げられるなかでも、なるべく多くの方に建物を使ってもらいたいという希望をお持ちでした。では2棟をどう改修しようかと考えた時に、地域の人に見てもらえる場所にするのがいいのではと考えました。空き家をカフェと宿泊施設として再生することにしましたが、伝建地区なので、意匠にかかわる外壁は工事しにくい状態でした」とみつぐはうす工房 代表取締役の貢繁幸さん。
難解な条件でありながらも、自分が生まれ育った故郷の町並みや文化を残したいという想いが強かったと当時を振り返る。
古民家の断熱リノベーションが実現
建物外観の景観改修には、文化庁の伝統的建造物群保存地区補助金を活用した。
建築当時の姿を復元するために、新しく建具を製作する箇所は、町に承認を得ながら進められた。また滞在時の過ごしやすさを考えて、古民家の意匠を守りつつ快適性を確保するため、断熱性の向上も図った。例えばサッシ戸に変わった玄関や窓は、建築当時の意匠を復元しつつ高断熱の内窓や真空ガラスを使用。断熱リノベーションには、株式会社LIXILの「まるごと断熱リフォーム」を採用したが、通常は外壁の外側から断熱パネルを張るところを、今回は意匠を変えないよう土壁の内側から断熱パネルを張るという特別仕様がとられた。
リノベーションによって壁は、無断熱状態から、熱貫流率0.58W/(m2・K)にまで断熱性能が向上。これにより、冬場の寒さを防ぎ、宿泊者が快適に過ごせる環境が整えられた。貢さんは「今回の取り組みが、今後の空き家再生や地域活性化に役立つことを期待している」と話す。
プロジェクトを一緒に進めてきたLIXILの担当者である、ZEH推進事業部の宇埜泰孝さんは「先駆けとして古民家再生に取り組んでいただけたのは嬉しいこと。意匠だけではなく、断熱も含め良質なストック住宅の再生を広めていきたい」と話す。株式会社LIXILで製作している冊子「断熱リノベの匠」でも、今回の事例を取り上げて広報に努めている。
断熱リノベの進化は、空き家問題の解決策にも
日本には、土壁の家屋もまだまだ多く残っている。夏の暑さや湿気を避けるため、断熱性や吸湿性に優れた「わらぶき」「かやぶき」の屋根が発達し、太陽熱を遮るすだれなども利用されてきた。大きな窓や土壁、欄間を活用した通気性に優れた建築は日本家屋ならではだろう。
逆を言えば、冬の寒さを凌ぐためには局地的な暖がとられてきた。こたつや囲炉裏などがそれだ。しかし古い木造住宅であっても、必要に応じて断熱を施し、快適に暮らすことが可能なのだ。今回適用した、住まい全体を高性能に改修するLIXILの工法「まるごと断熱リフォーム」も、今回の事例を活かして、対応できる住宅の幅を広げることができれば、古い空き家の再生に役立つのではないかと貢さんは話す。このような古民家の断熱リノベーションが広がることで、魅力のある古民家やその地域らしい町並みを次の世代に引き継いでいくことに貢献できるに違いない。
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