空き家の所有者は適切に管理する責務がある

空き家問題に直面している人は多いはずだ。都心、地方を問わず住宅地を歩いていると、必ずといっていいほどジャングルのように草木が繁茂した空き家を見かける。実際に空き家は増加しており、総務省「令和5年住宅・土地統計調査」によると全国に900万戸もある。これは5年前の前回調査と比べて51万戸増で過去最多だ。また、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.8%で、こちらも過去最高となっている。空き家を放置していると、庭木の枝が伸びて隣家に枯葉や果実を落とす、害虫や害獣の発生源になる、建物が劣化して外壁材などが隣家や道路に落下する、といったさまざまな問題を引き起こす。

そのため国は「空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)」にて、所有者の責務を規定している。周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう適切な管理に努めるとともに、国や自治体が実施する施策に協力することを求めているのだ。また、2023年12月に施行された改正空家法によって、所有者は悪影響を及ぼす前段階から空き家を適切に管理することを求められるようになった。ところが空き家所有者の状況を見ると、空き家を取得した理由の約6割が相続であり、現在の住まいから空き家までの所要時間が1時間を超える人が約3割を占める。さらに所有者世帯の家計を支える人の6割超が65歳以上といったことから、自ら空き家を管理することが困難なケースが多いことが分かる。

空き家の数、空き家率は共に過去最高になっている(出典:総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果」)空き家の数、空き家率は共に過去最高になっている(出典:総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果」)

「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」とは

そこで近年、注目され始めているのが民間事業者の空き家管理サービスだ。月額数百円から数千円程度の費用で、空き家に対する以下のようなサービスを提供している。

・目視での建物点検
・クレームの一時対応
・報告書のメール送付
・近隣挨拶
・敷地内ゴミ処理
・敷地内庭木確認
・換気
・雨漏り点検
・通水
・ポスト掃除
・冬季の雪庇除去や排雪

空き家管理サービスについて詳しくは下記記事を確認してほしい。

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「選択肢が広がる空き家管理サービス。行政による補助制度も」

しかしながら、今のところ空き家管理サービスは、玉石混淆の状態だ。業務の適正化を図る制度も存在しない。そのため国土交通省は2024年6月に「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」を作成した。同ガイドラインは、空き家管理サービスを行う不動産事業者を対象とし、空き家の所有者が安心して管理を委託できるための標準的なルールを示したものだ。したがって所有者としては、このガイドラインに沿って業務を行っている事業者を選べば比較的安心できるといえる。そこで主な内容を紹介しよう。

さまざまな空き家管理サービスがある(画像はイメージ)さまざまな空き家管理サービスがある(画像はイメージ)

対象とする空き家所有者像

「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」では、主に次のようなケースの空き家所有者にサービスを提供することを想定している。

① 空き家の管理をどうすればいいのか相談したい

相続などにより空き家を取得したが、何から始めてよいのか分からないので相談に乗ってほしい、といったケース。

② 建物内に立ち入らない範囲内で管理をしてほしい

建物内の家財や荷物の整理ができておらず、第三者には入ってほしくない。なので庭木の越境などのチェックを定期的にしてほしい、といったケース。

③ 建物内にも入って管理をしてほしい

遠隔地に住んでいるので空き家の管理ができない。しかし将来、売却や利活用を考えているので建物自体もきれいな状態で管理してほしい、といったケース。


なお、ガイドラインでは空家法に規定する「管理不全空家等」「特定空家等」となっているような、すでに周辺の生活環境に悪影響を及ぼしている空き家は対象としていない。このような物件は、サービス事業者の安全な作業の遂行が困難といったことが考えられるためだ。

空き家管理サービスの標準となるルール

ガイドラインでは、次のように管理委託契約の前から管理中までの標準となるルールを示している。

空き家管理の相談をするとき

・所有者と事業者が一緒に物件の状況を確認する

雨漏りの有無や庭木の状態など物件状況について一緒に確認をしていないと、管理委託契約後に所有者は期待したサービスをしてくれていないと感じ、事業者は想定外の作業が増える可能性が高まる。なお、国土交通省は物件確認時のチェックシート(空き家管理作業 受託前現況確認表)も用意している。

国土交通省が提供している物件確認時のチェックシート例国土交通省が提供している物件確認時のチェックシート例

・所有者でない人が契約を締結する際は委任状などを用意する

空き家の管理作業は、民法上、原則として所有権を持つ人ができるとされている。しかし所有者が入院や高齢者施設に入所するなどで管理が困難になり、子どもなど所有者ではない人が管理せざるを得ないケースも少なくない。このような場合は、委任状などによって代理権を有することを証明しておくと、後々のトラブル防止につながる。

「言った・言わない」などのトラブルを防ぐために

管理委託契約を締結するとき

・契約内容を記載した管理委託契約書を受け取る

「言った・言わない」などのトラブルを防ぐため、契約内容や条件を確認できる管理委託契約書を受け取る。国土交通省はこの契約書のひな形(空き家管理受託における管理委託契約書の例)も用意している。

・事業者の責任発生要件と責任の範囲を契約書に記載する

たとえば災害で発生した損害について事業者は責任を負わない、など責任発生要件と責任の範囲を契約書に記載する。

・電気・水道・ガスの契約状況を確認し、必要事項を契約書に記載する

通電、通水しておくと漏電や漏水のリスクが生じる。この場合の責任の所在を契約書に記載しておく。また寒冷地の場合は、凍結による水道管の破損もあり得るので、契約書に記載する作業内容に「冬季のみ閉栓して水抜き処置をしておく」と記載することも考えられる。ガスについては、通常空き家では使用しないので閉栓し、プロパンガスであればガスボンベを取り外しておくことが一般的だ。

・作業の回数や頻度を契約書に記載する

物件の状況をよく検討したうえで、作業の回数や頻度を契約書に記載する。災害発生後については、二次災害を防ぐために「目視点検による状況報告を行う」といった記載が考えられる。

貴重品・家財の扱いや再依頼先について

空き家管理の作業を実施するとき

・基本的に貴重品や家財は搬出しておく

空き家に貴重品や家財が残っていると、盗難・紛失・毀損のリスクが生じる。そのため、基本的に貴重品や家財は搬出しておく。移動困難な家具などがあれば管理委託契約の対象外と契約書に明記しておくとトラブル防止につながる。

空き家にある貴重品や家財は、盗難といったトラブルのもと。できれば搬出しておきたい空き家にある貴重品や家財は、盗難といったトラブルのもと。できれば搬出しておきたい

・管理作業を実施した後は完了報告をする

管理サービスを使用する人の多くは、遠隔地に居住しているので、管理作業が行われたことを現地で確認することは難しい。そのため、管理作業の完了報告の方法を決め、契約書に記載しておく。

・再依頼先がある場合はその情報を確認し、可能ならば契約書に明記する

専門的な作業を実施するケースなどでは再依頼先を活用する場面もあり得る。その場合、再依頼先が反社会的勢力でないことや住所など必要なことを確認し、可能ならば契約書に明記する。


空き家を適正な状態で管理し続けることは、周辺の生活環境に悪影響を与えることを防止するだけでなく、将来の売却や利活用もしやすくなる。そのための手段として、「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」に沿って管理サービスを行っている事業者を利用することは有用な選択肢になるはずだ。

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